「『自分はできる』と唱えるとやる気が出る」は本当?前向きな自己暗示が裏目に出た実験と、その追試(効く・効かないの判定)

試験の前に「自分はできる、自分はできる」と心の中で唱える。勉強の本や動画でよくすすめられる方法です。研究の判定は「当てにならない」です。自信の低い人がこうした言葉をくり返すと、かえって気分が悪くなったという2009年の実験は有名ですが、2020年の追試では再現されませんでした。そして、唱えるとやる気や自信が上がるという確かな根拠も、見つかっていません。
3行でわかる
- 「私は愛される人間だ」とくり返した実験(Woodら、2009年)では、自信の低い人はかえって気分が悪くなり、自信の高い人は少しだけ気分が上がった。
- この結果は、約225人と約237人で確かめ直した2020年の追試で再現されなかった。唱える組と唱えない組で、気分や自己評価に差が出なかった。
- 研究で支持されているのは、「次に何をするか」を言葉にする声かけ。スポーツの32件の研究のまとめでは、自分への声かけで成績が上がった(効果量0.48)。
01 通説の中身「自分はできる」と唱えると、自信がつくの?
「前向きな言葉をくり返すと、自信がつき、やる気が出る」という考え方です。多くの人が使い、効くと信じていることは、Woodら(2009)のアンケートでも確かめられています[1]。
「自分はできる」「私は合格する」のように、自分についての前向きな言葉をくり返す方法は、アファメーション(肯定的な宣言)とも呼ばれます。手帳に書く、鏡の前で言う、試験の前に心の中で唱える、などのやり方があります。
ただ、Woodらは論文の要旨で、こうした言葉が気分や自己評価を上げるという効果は、それまで確かめられていなかったと書いています[1]。広く信じられていることと、研究で確かめられていることは、別の話です。
なお、似た名前の「自己肯定化」は、自分にとって大切な価値(家族・友情など)について文章を書く方法です。「自分はできる」と唱える方法とは中身が違うので、この記事では分けて扱います。
02 科学的にわかっていること前向きな自己暗示は、本当に効く?
「自分はできる」とくり返すだけで自信ややる気が上がる、という確かな証拠はありません。一方、次の手順を言葉にする声かけや、自分の名前で呼びかける声かけには、効果を示した研究があります。
Wood、Perunovic、Lee(2009)[1]
アンケート1つと実験2つの研究。「私は愛される人間だ(I'm a lovable person)」とくり返した人のうち、自信(自尊心)の低い人は、くり返さなかった人より気分が悪くなった。自信の高い人は気分が上がったが、その差は小さかった。
対象: 2つの実験で、自信の高い人と低い人を比べた / 限界: 測ったのは、言葉をくり返した直後の気分と自己評価だけ。勉強の成績ややる気は測っていない。この記事では論文の要旨で内容を確認した。
FlynnとBordieri(2020)[2]
Woodらの実験を、2つの研究(約225人と約237人)で確かめ直した。前向きな言葉をくり返した組とそうでない組で、気分・その場の自己評価に差は出なかった。自信の低い人で悪化するという結果も再現されなかった。研究2では、目標を達成できたかも調べたが、差はなかった。
対象: 2つの研究の参加者 / 限界: 「害になる」ことは再現されなかったが、「効く」ことも示されなかった。この記事では論文の要旨で内容を確認した。
Hatzigeorgiadisら(2011)[3]
スポーツで自分に声をかける方法を調べた32件の研究(62の効果量)のメタ分析(多くの研究をまとめて分析する方法)。成績を上げる効果は中くらい(効果量0.48)だった。細かい動きの課題や、慣れていない課題で効果が大きかった。細かい動きの課題では、「ひじを伸ばす」のような指示の声かけが、「がんばれ」のような気持ちを上げる声かけより効いた。
対象: スポーツの課題 / 限界: 勉強での効果は直接は調べていない。声かけを練習してから使った研究ほど効果が大きかった。
Krossら(2014)[4]
7つの研究(合計585人)。緊張する場面の前に、「私は」ではなく自分の名前や「あなた」で自分に語りかけた人は、人前で話す課題などで第三者からの評価が高く、不安も小さかった。この結果は、もともと人前が苦手な人でも変わらなかった。
対象: 7つの研究(合計585人) / 限界: 試験や勉強そのものではなく、人前で話すなどの緊張場面での実験。この記事では論文の要旨で内容を確認した。
Hanselmanら(2017)、Serra-Garciaら(2020)[5][6]
自分の大切な価値について書く「自己肯定化」は、学校の成績の差を縮めると期待されてきた。しかし、前に効果が出た学校で同じ手順をくり返した大規模な追試では、効果は見られなかった(効果量0.10より大きい効果は否定できた)[5]。科学の成績の男女差を15分の介入で縮めたとされた2010年の結果も、データを分析し直すと、女子学生の成績はよくなっていなかった[6]。
対象: 学校での大規模な追試と、過去の研究データの分析し直し / 限界: 「自分はできる」と唱える方法とは別の方法。効く場面がある可能性は残る。
| よく言われること | 研究での判定 |
|---|---|
| 「自分はできる」と唱えると、自信がつく | 当てにならない。効くことを示した研究がない[1][2] |
| 自信の低い人が唱えると、逆効果になる | 当てにならない。2009年の結果は追試で再現されなかった[2] |
| 次の手順を言葉にする声かけは効く | 条件しだい。スポーツでは効果あり[3]。勉強では未確認 |
| 自分の名前で語りかけると、緊張に強くなる | 条件しだい。人前で話す場面などで効果あり[4] |
ここで紹介した実験は、大学生が数分間、言葉をくり返したり語りかけたりした直後を測ったものです。社会人が何か月も独学を続けるなかで、毎日唱えることの効果を確かめた研究は見つかりませんでした。
03 今日からできる小さな一歩「できる」と唱える代わりに、何と声をかける?
「できる」と唱えて気分が重くなるなら、次にやる手順を短い言葉にします。緊張するときは、自分の名前や「あなた」で呼びかけて、その手順を言います。
次にやることを、5〜10字の言葉にする
「できる」の代わりに、「まず例題を1問」「線を引いて読む」のように、手の動きがわかる言葉にします。スポーツでは、細かい作業ほど指示の声かけが効いていました[3]。
所要 1分
声かけを、ふだんの勉強で練習しておく
本番だけで使うより、練習で使ってからの方が効果が大きい傾向がありました[3]。問題集を解く前に、毎回同じ言葉を言ってから始めます。
所要 1日10秒
04 続けるためのコツ自信が持てないときは、どうする?
言葉で自信を作ろうとするより、小さく「できた」を積む方が確かです。できたことを記録し、失敗した日は自分を責めずに次の一手を決めます。
- 「できる」と言える根拠を作る。解けた問題の数を記録すると、言葉ではなく事実で自信を確かめられます(勉強の記録の研究)。
- 失敗した日は、責める言葉を思いやりの言葉に置き換える(自分への思いやりの研究)。
- 「才能より努力」と言い聞かせる方法にも、条件しだいの研究結果がある(マインドセットの研究)。
- 合格しても「たまたま」と感じるなら、それは珍しいことではない(インポスター現象の研究)。
不安やつらさが長く続くときは、一人で抱えず、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などに相談してください。
05よくある質問
「自分はできる」と唱えるのは、やめた方がいい?
やめなければいけない根拠はありません。自信の低い人で気分が悪化した実験はありますが、追試では再現されませんでした。ただ、効くという確かな根拠もありません。唱えて気分が重くなるなら、次にやる手順を言葉にする声かけに変える方が、研究に合っています。
アファメーション(肯定的な宣言)を毎朝書くのは効く?
「自分は〜だ」と書き続けて自信や成績が上がるかを、きちんと確かめた研究は見つかりませんでした。似た方法として、自分の大切な価値を書く「自己肯定化」の研究がありますが、学校での効果は確かめ直しで出ないことが多く、はっきりしていません。
試験の直前に緊張したら、何と声をかければいい?
「落ち着け」「できる」より、「〇〇さん、まず1問目の条件に線を引こう」のように、自分の名前や「あなた」で呼びかけ、次の行動を言う方法があります。名前で呼びかける声かけで、人前で話す課題などの緊張が和らいだ実験があります。
勉強法の早見表で「「自分はできる」と唱える自己暗示」の判定を見る
ほかの勉強法も60種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Wood, J. V., Perunovic, W. Q. E., & Lee, J. W. (2009). Positive self-statements: Power for some, peril for others. Psychological Science, 20(7), 860–866. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2009.02370.x
- Flynn, M. K., & Bordieri, M. J. (2020). On the failure to replicate past findings regarding positive affirmations and self-esteem. Journal of Contextual Behavioral Science, 16, 49–61. https://doi.org/10.1016/j.jcbs.2020.03.003
- Hatzigeorgiadis, A., Zourbanos, N., Galanis, E., & Theodorakis, Y. (2011). Self-talk and sports performance: A meta-analysis. Perspectives on Psychological Science, 6(4), 348–356. https://doi.org/10.1177/1745691611413136
- Kross, E., Bruehlman-Senecal, E., Park, J., et al. (2014). Self-talk as a regulatory mechanism: How you do it matters. Journal of Personality and Social Psychology, 106(2), 304–324. https://doi.org/10.1037/a0035173
- Hanselman, P., Rozek, C. S., Grigg, J., & Borman, G. D. (2017). New evidence on self-affirmation effects and theorized sources of heterogeneity from large-scale replications. Journal of Educational Psychology, 109(3), 405–424. https://doi.org/10.1037/edu0000141
- Serra-Garcia, M., Hansen, K. T., & Gneezy, U. (2020). Can short psychological interventions affect educational performance? Revisiting the effect of self-affirmation interventions. Psychological Science, 31(7), 865–872. https://doi.org/10.1177/0956797620923587


