合格しても「たまたま」「実力じゃない」と感じるのはなぜ?インポスター現象(自分はにせものだという感覚)の研究

資格に受かっても「問題が簡単だっただけ」。模試の点が上がっても「まぐれ」。勉強を続けているのに、いつか実力のなさがばれる気がする。こう感じるのはあなただけではありません。研究では「インポスター現象」と呼ばれ、成果を自分の力と受け取れない感じ方として、多くの人に見られることがわかっています。
3行でわかる
- 成果を運やまわりのおかげと考え、「本当はできない自分がばれる」と恐れる感じ方をインポスター現象と呼ぶ。病気の名前ではない。
- 62研究(1万4161人)のレビューでは、男女を問わず、10代から年配の専門職まで見られた。ほかの研究では、失敗への恐れ、自己評価の低さ、人と比べるくせと結びついていた。
- 成功しても「たまたま」と受け取るので、自信が積み上がらない。記録で出来を確かめ、成功の理由を自分のやり方に結びつけることが手がかりになる。
01 悩みの正体インポスター現象とは何?
成果があるのに「自分の力ではない」「いつか見抜かれる」と感じる状態。成功を運や人のおかげにするため、うまくいっても自信が増えにくい。
インポスター現象(インポスター=にせもの)は、まわりの評価や結果が実力を示していても、自分は知的に「にせもの」だと感じることをいいます[8]。「インポスター症候群」とも呼ばれますが、診断のつく病気ではありません[7]。
この感じ方の強い人は、成功を能力ではなく、運や人柄、知り合いのおかげと考えやすいとされます。そのため成果を自分のものとして受け取れず、「次は失敗する」という不安が残ります。こうして、うまくいくほど不安が続く流れは「インポスター・サイクル」と呼ばれてきました[6]。
独学では、点数や合格のような目に見える結果が出ても、「本番は運がよかった」「人より時間をかけただけ」と受け取ってしまう形で現れます。試験前に勉強以外のことをしてしまう「言い訳づくり」とも近い関係があります。
02 科学的にわかっていることなぜ「実力じゃない」と感じてしまうの?
失敗への恐れ、自己評価の低さ、人と比べるくせが強い人ほど感じやすい。ただし多くは一時点の調査で、どれが原因かまでは決まっていない。
Bravataら(2020)[1]
62の研究(計1万4161人)をまとめたレビュー。インポスター現象は男女どちらにもよく見られ、10代から年配の専門職まで幅広い年齢で報告されていた。抑うつや不安と一緒に起きやすく、仕事の成績の低さや燃え尽きとも関連していた。
対象: 1966〜2018年5月に発表された研究 / 限界: 研究ごとに測り方がばらばらで、当時は治療や対策を調べた研究が1つもなかった。
Neureiter・Traut-Mattausch(2016)[3]
大学生212人と社会人110人の2つの調査で、失敗への恐れ、成功への恐れ、自己評価の低さが強い人ほど、インポスターの感じ方が強かった。感じ方が強い人ほど、キャリアの計画を立てる、上を目指す、人を率いるといった意欲が低かった。
対象: 大学生212人(実験室)、社会人110人(オンライン) / 限界: 同じ時点の調査をもとにした分析で、原因と結果の向きは確かめられていない。
Fasslら(2020)[2]
大学生278人のうち、インポスターの感じ方が「少ない」は8.6%だけで、「中くらい」40.3%、「よくある」38.5%、「強い」12.6%だった。人と自分を比べるくせが強い人ほど、感じ方も強かった(相関 r=0.45)。
対象: オーストリアとドイツを中心とする大学生278人(オンライン調査) / 限界: 一時点のアンケートで、比べるくせが原因だとは言えない。
Learyら(2000)[4]
インポスターの感じ方が強い人は、テストの予想を人前で言うときだけ、感じ方の弱い人より低い予想を口にした。匿名のときはこの差が出なかった。「自分はできない」と言うことには、失敗したときのダメージを小さくする「見せ方」の面もあると著者らは考えた。
対象: 3つの研究の参加者 / 限界: 著者らも「本当にそう感じている面」はあるとしており、すべてが演技だという意味ではない。
Leonhardtら(2017)[5]
インポスターの感じ方が強い管理職183人は、2つに分かれた。強いストレスや否定的な自己評価をともなう「本当のインポスター」と、それらが少なく、意図して控えめに見せている面があると考えられる「戦略的インポスター」だった。
対象: インポスターの感じ方が強い管理職183人 / 限界: 統計で分けた型で、同じ人がどちらかに決まっているとは限らない。
Zanchettaら(2020)[6]
若手社員103人を、1対1のコーチング、集団研修、何もしない群に分けた。コーチング(2週間おきに120分×3回)を受けた群は、終了5週間後もインポスターの得点が下がっていた。人からの評価への恐れが減ったことが、その変化を一部説明していた。
対象: 若手社員103人(ランダム割り付け) / 限界: 1つの研究で人数が少ない。勉強の成績への効果は調べていない。
03 今日からできる小さな一歩「たまたま」と感じたら、何をすればいい?
気分ではなく記録で出来を確かめ、うまくいった理由を自分のやり方で書く。比べる相手は過去の自分にする。研究から考えられる工夫で、効果を直接確かめたものではない。
「できた証拠」を記録で残す
小テストの正答数、解けた問題の数、続けた日数を書き残す。「たまたま」と感じたら、その記録を見返す。
所要 1日1分
うまくいった理由を「やったこと」で1行書く
「運がよかった」ではなく「3日あけて解き直した」のように、自分のやり方で書く。上の研究のコーチングも、成功を自分に結びつける考え方を練習していました。
所要 1行・30秒
比べる相手を「先月の自分」にする
SNSの合格報告やほかの人の勉強時間を見る回数を減らし、自分の記録の変化を見る。人との比較の影響はSNSで比べるとつらくなる理由の記事にまとめています。
所要 週1回5分
04 続けるためのコツ感じ方とうまく付き合うには?
インポスターの感じ方は多くの人にあり、すぐに消すより、学びを止めない形で付き合う方が現実的。失敗したときに自分を責めすぎない工夫も役に立つ。
- 「自分だけがにせもの」と思ったら、レビューで男女・年齢を問わず見られたことを思い出す。
- 失敗した日は、全体の評価ではなく「どの問題で、なぜ」に絞って振り返る。失敗した自分へのやさしさ(セルフ・コンパッション)の研究も参考になります。
- 不安で眠れない、気分の落ち込みが2週間以上続くなどのときは、一人で抱えずに相談する(こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556)。
05よくある質問
インポスター症候群は病気ですか?
病気や診断名ではありません。研究ではインポスター現象と呼ばれ、多くの人が程度の差はあれ感じるものとして扱われています。ただし不安や抑うつと一緒に起きやすいので、つらさが続くときは相談してください。
「自分はまだまだ」と思う方が、謙虚で伸びるのではないですか?
慎重さが役に立つ場面はあります。ただ研究では、インポスターの感じ方が強い人ほど失敗への恐れが強く、キャリアの計画を立てる・上を目指すといった意欲が低い傾向がありました(相関の研究です)。
どのくらいの人が感じているのですか?
研究によって9%から82%まで大きく違います。測り方と線の引き方で数字が変わるためで、正確な割合は今のところ出せないという指摘もあります。
出典
- Bravata, D. M., et al. (2020). Prevalence, predictors, and treatment of impostor syndrome: A systematic review. Journal of General Internal Medicine, 35(4), 1252–1275. https://doi.org/10.1007/s11606-019-05364-1
- Fassl, F., Yanagida, T., & Kollmayer, M. (2020). Impostors dare to compare: Associations between the impostor phenomenon, gender typing, and social comparison orientation in university students. Frontiers in Psychology, 11, 1225. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.01225
- Neureiter, M., & Traut-Mattausch, E. (2016). An inner barrier to career development: Preconditions of the impostor phenomenon and consequences for career development. Frontiers in Psychology, 7, 48. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2016.00048
- Leary, M. R., Patton, K. M., Orlando, A. E., & Funk, W. W. (2000). The impostor phenomenon: Self-perceptions, reflected appraisals, and interpersonal strategies. Journal of Personality, 68(4), 725–756. https://doi.org/10.1111/1467-6494.00114
- Leonhardt, M., Bechtoldt, M. N., & Rohrmann, S. (2017). All impostors aren't alike: Differentiating the impostor phenomenon. Frontiers in Psychology, 8, 1505. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.01505
- Zanchetta, M., Junker, S., Wolf, A.-M., & Traut-Mattausch, E. (2020). "Overcoming the fear that haunts your success": The effectiveness of interventions for reducing the impostor phenomenon. Frontiers in Psychology, 11, 405. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.00405
- Mak, K. K. L., Kleitman, S., & Abbott, M. J. (2019). Impostor phenomenon measurement scales: A systematic review. Frontiers in Psychology, 10, 671. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2019.00671
- Brauer, K., & Proyer, R. T. (2026). Matters arising from Salari et al. (2025): Why it is (currently) impossible to estimate accurate prevalence rates of the impostor phenomenon. BMC Psychology. https://doi.org/10.1186/s40359-026-04987-4


