勉強や試験が不安なときの「声かけ」言い換え表。「落ち着け」を何に変える?(自分への話しかけ方の研究)

試験の前日、問題集を開いても胸がざわざわする。「落ち着け、大丈夫」と言い聞かせるほど、かえって焦る。そんなときは、自分にかける言葉を少し変えてみてください。研究では、「落ち着け」より「ワクワクしてきた」、「私は」より自分の名前で話しかけるほうが、気持ちを立て直しやすい結果が出ています。この記事では、場面ごとの言い換え表と、1週間の記録表にまとめました。
3行でわかる
- 緊張を「落ち着け」で抑えるより、「ワクワクしてきた」と言い直した人のほうが、気分も成績もよかった実験がある。緊張をとらえ直す方法の44の効果をまとめた分析では、効果は小さいながら確認された(d=0.23)。
- 「私」ではなく自分の名前で問いかけると、気持ちと距離をとりやすい。585人・7つの研究で、スピーチの出来がよく、苦しさも小さかった。
- スポーツの32の研究では、手順を指示する声かけが、細かい作業や慣れない作業で特に効いた。勉強に当てはめるときは「次にやること」を言葉にする。
01 悩みの正体不安なとき「落ち着け」が効きにくいのはなぜ?
不安もワクワクも、胸がドキドキする高ぶった状態です。「落ち着け」は、その高ぶりを下げようとする言葉です。研究では、高ぶりを下げるより、意味のほうを変える言い方が試されてきました。
Brooks(2014)は、高ぶりを静めるより、同じ高ぶりのまま「楽しみ」と読み替えるほうが無理がないと考えました[1]。実験に参加した人の多くは「落ち着こうとするのがいちばん」と考えていましたが、結果は逆でした。
もう1つは、自分を少し離れた所から見る方法です。不安なときは「私はもうだめだ」と、自分の中に入り込みがちです。自分の名前で話しかけると、友だちに声をかけるときのような距離が生まれると考えられています[3]。
02 科学的にわかっていること自分への話しかけ方で、何が変わった?
言い方を変えるだけで、気分と成績に差が出た実験があります。ただし効果は大きくなく、小さな研究ほど効果が大きく出やすい傾向も指摘されています。
Brooks(2014)[1]
カラオケ・人前でのスピーチ・数学の問題という3つの場面で実験した。「落ち着こう」とした人に比べ、「ワクワクしている」と声に出した人や「ワクワクしよう」というメッセージを受けた人は、気分が上向き、「チャンスだ」と受けとめ、成績もよかった。
対象: 歌・スピーチ・数学の課題に取り組んだ複数の実験の参加者 / 限界: 1人の研究者による一連の実験。この「ワクワク」の言い換えだけを独立に再現した大きな研究は、まだ確認できなかった。
BosshardとGomez(2024)[2]
「緊張は体の準備」ととらえ直す方法などの効果を、無作為に分けた試験の44の効果(計5,638人)でまとめた。課題の成績は小さく上がった(d=0.23)。人前で発表する課題(d=0.34)のほうが、筆記の課題(d=0.20)より効果が大きい傾向だった。
種類: メタ分析 / 限界: 小さな研究ほど効果が大きく出ていた。見つかっていない研究を補う計算をすると、効果はd=0.14まで小さくなった。著者らも「特効薬ではない」と書いている。
Krossら(2014)[3]
7つの研究(計585人)で、不安な場面の前に「私は」ではなく自分の名前や「あなた」で自分に問いかけてもらった。初対面の印象づくりとスピーチでは、名前で問いかけた人のほうが、第三者から見た出来がよく、苦しさも小さかった。スピーチの後に失敗をくよくよ考えることも少なかった。人前が特に苦手な人でも、効果は変わらなかった。
対象: 7つの研究の計585人 / 限界: 1回きりの実験室の場面。何週間も続ける勉強で効果が続くかは調べていない。
Moserら(2017)とWebsterら(2022)[4][5]
心の中で「〇〇(自分の名前)は今、何を感じている?」と問いかけると、「私は今、何を感じている?」と問うときより、嫌な画像を見た直後の脳の反応が小さかった。頭を余計に使っている様子は見られなかった。この結果は、67人で行った別の研究で再現された。
対象: Moserらは大学生29人(脳波)と52人(脳画像)、Websterらは67人 / 限界: 測ったのは数秒の脳の反応で、勉強や試験の成績は測っていない。
Hatzigeorgiadisら(2011)[6]
スポーツの32の研究(62の効果)をまとめると、自分への声かけで成績が中くらい上がった(効果量0.48)。細かい作業と、慣れていない作業で効果が大きかった。動きの手順を指示する声かけは、細かい作業で特に効いた。前もって声かけを練習した研究のほうが効果が大きかった。
種類: メタ分析 / 限界: スポーツの研究で、勉強で同じ大きさの効果が出るかはわからない。
03 言い換え表不安な場面で、自分に何と声をかける?
場面ごとに「いつもの言葉」を「言い換え」に置きかえます。気持ちには「ワクワク」か自分の名前、手が止まったときは「次にやること」を言葉にするのが基本です。
| 場面 | いつもの言葉 | 言い換え | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 試験の直前、胸がドキドキする | 落ち着け、落ち着け | ワクワクしてきた。体が準備できている | [1][2] |
| 模試や過去問で時間が足りず焦る | やばい、間に合わない | 〇〇(名前)、次の1問だけ読もう | [3][6] |
| 勉強を始める前から不安でいっぱい | 私には無理だ | 〇〇は、なぜ不安なんだろう? | [3][4] |
| 苦手な単元で手が止まる | 全然わからない | まず見出しと太字を読む。次に例題を1つ | [6] |
| 本番で失敗して、くよくよ考える | なんで私はあんなミスを | 〇〇は、次に何を変えればいい? | [3] |
| 人前で発表・面接がある | 緊張しちゃだめだ | ワクワクしてる。〇〇なら伝えられる | [1][2][3] |
「根拠」の番号は、その言い換えのもとになった研究です。表の文そのものを研究で試したわけではありません。言いにくい言葉は、自分が自然に言える言い方に変えてかまいません。
04 使い方言い換え表は、どう使えば身につく?
本番で初めて使うより、ふだんの勉強で練習しておきます。スポーツの研究でも、前もって練習した声かけのほうが効果が大きい結果でした。
表から、自分に合う場面を2つ選ぶ
よく困る場面を2つだけ選び、言い換えをメモやスマホの待ち受けに書いておきます。全部を一度に覚える必要はありません。
所要 3分
ふだんの勉強の前に、1回声に出す
Brooks(2014)の実験では、「ワクワクしている」と声に出す方法が使われました[1]。周りに人がいるときは、心の中で言うだけでもかまいません。
所要 10秒
模試や過去問を時間を計って解くときに試す
本番に近い緊張のある場面で、言い換えを使う練習をします。時間を計って解くこと自体も、本番の練習になります。
所要 模試1回
下の記録表に1週間つけて、合う言い方を残す
言った後の気分と、勉強に戻れたかを記録します。効かなかった言い方は、別の言い換えに変えます。
所要 1日1分
1週間の記録表(ノートに写して使えます)
| 日付 | 場面 | 使った言い換え | 言った後の気分(1〜5) | 勉強に戻れた? |
|---|---|---|---|---|
| 例: 10/18 | 過去問で焦った | 〇〇、次の1問だけ | 3 | 戻れた |
| / | ||||
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- 試験本番で緊張して実力を出せなかったときは、次の試験までの立て直し方もあわせて読んでください。
- 体のドキドキが強いときは、言葉に加えて息をゆっくり吐く呼吸も試せます。
05よくある質問
緊張しているときは「落ち着け」と言い聞かせるのがいい?
研究では、別の言い方のほうがよい結果でした。Brooks(2014)の実験では、落ち着こうとした人より「ワクワクしている」と口にした人のほうが気分が上向き、歌・スピーチ・数学の成績もよかった。高ぶりを下げるより、意味を変えるほうが無理がないと研究者は考えています。
自分の名前で話しかけるのは、ひとりごとでも効果がある?
心の中で言うだけでも変化が見られています。Moserら(2017)では、声に出さず自分の名前で問いかけたとき、嫌な画像を見た直後の脳の反応が小さくなりました。ただし、測ったのは実験室での短い反応で、勉強の成績まで上がるかは調べられていません。
言い換えをしても不安が消えないときは?
言い換えは、不安を消す方法ではなく、付き合い方を変える小さな工夫です。研究のまとめでも効果は小さめでした。眠れない・食べられない日が続くなど、つらさが強いときは一人で抱えず、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などに相談してください。
出典
- Brooks, A. W. (2014). Get excited: Reappraising pre-performance anxiety as excitement. Journal of Experimental Psychology: General, 143(3), 1144–1158. https://doi.org/10.1037/a0035325
- Bosshard, M., & Gomez, P. (2024). Effectiveness of stress arousal reappraisal and stress-is-enhancing mindset interventions on task performance outcomes: A meta-analysis of randomized controlled trials. Scientific Reports, 14, 7923. https://doi.org/10.1038/s41598-024-58408-w
- Kross, E., Bruehlman-Senecal, E., Park, J., Burson, A., Dougherty, A., Shablack, H., Bremner, R., Moser, J., & Ayduk, O. (2014). Self-talk as a regulatory mechanism: How you do it matters. Journal of Personality and Social Psychology, 106(2), 304–324. https://doi.org/10.1037/a0035173
- Moser, J. S., Dougherty, A., Mattson, W. I., Katz, B., Moran, T. P., Guevarra, D., Shablack, H., Ayduk, O., Jonides, J., Berman, M. G., & Kross, E. (2017). Third-person self-talk facilitates emotion regulation without engaging cognitive control: Converging evidence from ERP and fMRI. Scientific Reports, 7, 4519. https://doi.org/10.1038/s41598-017-04047-3
- Webster, C. T., Berg, M. K., Kross, E., & Moser, J. S. (2022). An event-related potential investigation of distanced self-talk: Replication and comparison to detached reappraisal. International Journal of Psychophysiology, 177, 122–132. https://doi.org/10.1016/j.ijpsycho.2022.05.003
- Hatzigeorgiadis, A., Zourbanos, N., Galanis, E., & Theodorakis, Y. (2011). Self-talk and sports performance: A meta-analysis. Perspectives on Psychological Science, 6(4), 348–356. https://doi.org/10.1177/1745691611413136


