大人になってから新しいことを学ぶと、脳は若返る?外国語・ピアノ・写真を習った実験でわかったこと(効く・効かないの判定)

大人になってから外国語や楽器を習い始めると、頭が若返る。ボケ防止になる。学び直しの理由として、よく聞く話です。研究を調べると、60歳以上が写真の撮り方を3か月学んだ実験では、記憶のテストの成績が伸びました。一方、65〜75歳の160人がイタリア語を11週間学んだ実験では、記憶や知能に差は出ませんでした。判定は「条件しだい」。小さな効果が出ることはあっても、「脳が若返る」は言いすぎです。
3行でわかる
- 判定:新しいことを学ぶと頭の働きが保たれる、は「条件しだい」。写真を週15時間ほど3か月学んだ高齢者は、記憶のテストが伸びた。
- 外国語を11週間学んだ160人の実験では、記憶や知能の伸びは学ばない組とほぼ同じだった。ピアノは、音楽を聴く講座と比べると差が小さかった。
- 学校で長く学んだ人は頭の働きの「高さ」が高いが、年をとって下がる「速さ」はほぼ変わらなかった。学ぶ目的は、身につくこと自体に置く。
01 通説の中身大人が新しいことを学ぶと、脳は若返る?
「頭を使うほど衰えにくい」という考え方から生まれた話です。研究者の間でも期待されてきましたが、実際に学ばせてみた実験の結果は、そろっていません。
年をとると、記憶したり、素早く考えたりする力は平均して下がっていきます。そこで「新しいことを学べば、その衰えを防げるのでは」と考えられてきました。外国語・楽器・写真・手芸など、初めての、少し難しい活動が候補です。
ただし、学んでいる人ほど頭がよく保たれている、という観察だけでは、原因はわかりません。もともと頭の働きがよい人ほど学び続けやすい、という逆の流れもありうるからです。そのため、くじで組を分けて学ばせる実験が行われてきました。
02 科学的にわかっていること外国語や楽器を習った実験の結果は?
写真を学んだ実験では記憶が伸びた一方、外国語の実験では差が出ませんでした。ピアノは、音楽を聴く講座と比べると違いが小さく、効果が続かなかった研究もあります。
Parkら(2014)[1]
60〜90歳の221人が、デジタル写真、キルト(布の縫い合わせ)、またはその両方を初めて学んだ。平均で週16.5時間を3か月続けた。学んだ組は、交流会に参加するだけの組や、手軽な作業を家でする組より、出来事を覚える記憶(エピソード記憶)のテストが伸びた。写真の組の効果量は0.54。キルトの組だけでは、はっきりした差は出なかった。
対象: アメリカ・ダラスの60〜90歳(平均71.67歳) / 限界: 長く続くかは追跡していない。処理の速さなど、ほかの力でははっきりした差は出なかった。
Berggrenら(2020)[2]
65〜75歳の健康な160人を、くじで「イタリア語を11週間学ぶ組」と「リラクセーションの練習をする組」に分けた。イタリア語の組は基本的な知識を身につけたが、言葉の知能・空間の知能・作業記憶・記憶のどれも、伸びは2つの組でほとんど同じだった。
対象: 65〜75歳の160人 / 限界: 学んだのは11週間の初級の内容。著者らは、測り方・講座の量・人数の問題では説明できないとし、「外国語の学習は行動の幅を広げても、考える力そのものはほとんど高めない」と結論している。
Román-Caballeroら(2018)[3]
59歳以上の音楽の練習と頭の働きを調べた13件を効果量でまとめた。短期間の音楽の訓練を調べた4件の実験(126人)では、推論と、図形を組み立てる力で改善が見られた。ただし、練習をやめた後の追跡では消えていた効果があり、別の研究で再現されなかった結果もあった。
対象: 59歳以上の健康な人 / 限界: 13件のうち9件は、長年の音楽家とそうでない人を比べた観察研究。実験は4件と少なく、うち1件は博士論文(査読論文ではない)。
Marieら(2023)[4]
音楽経験のない健康な高齢者132人を、くじで「ピアノを習う組」と「音楽を聴いて学ぶ講座の組」に分けた。6か月後、脳の一部の体積と作業記憶の成績は両方の組で増えたが、2つの組の間に差はなかった。音を聞く部分の体積だけは、聴く講座の組で減り、ピアノの組で保たれていた。
対象: スイスとドイツの高齢者132人 / 限界: 何もしない組がないため、同じテストを繰り返した慣れの影響もありうると著者ら自身が書いている。
Bugos と Wang(2022)[5]
60〜80歳の155人を、ピアノ・パソコンの頭の訓練・何もしない組に分けた。週2回90分を16週間。ピアノの組とパソコンの組は、何もしない組より作業記憶や処理の速さが伸びた。ピアノの組だけがほかの2組より伸びたのは、仲間の言葉を切り替えながら思い浮かべる課題だった。
対象: 60〜80歳の155人 / 限界: 作業記憶と処理の速さは、パソコンの訓練でも同じように伸びた。効果の大きさは要旨では確認できなかった。
Lövdénら(2020)[6]
学校で学んだ年数と、一生の頭の働きを調べた研究をまとめた。長く学んだ人ほど頭の働きの水準は高かった。しかし、年をとって下がる速さとの関係はごくわずかだった。認知症になりにくく見えるのは、出発点が高いからだと考えられる。
対象: 複数の国の長期追跡データとメタ分析 / 限界: 若い頃の学校教育の話で、大人になってからの学び直しを調べたものではない。
ここでの実験は60歳以上の高齢者が中心で、数か月の講座で頭の働きのテストを測ったものです。30〜50代の社会人の学び直しで、何年もかけて確かめた研究はほとんどありません。
| 学んだこと | 比べた相手 | 頭の働きのテスト |
|---|---|---|
| デジタル写真(週16時間・3か月)[1] | 交流会・手軽な作業 | 記憶が伸びた |
| キルト(同じ条件)[1] | 手軽な作業 | はっきりした差なし |
| イタリア語(11週間)[2] | リラクセーション | 差はほぼなし |
| ピアノ(6か月)[4] | 音楽を聴く講座 | 両方とも伸び、差なし |
| ピアノ(16週間)[5] | 何もしない組 | 一部が伸びた |
何もしない組と比べると伸びが見えやすく、別の活動をする組と比べると差が小さくなる傾向があります。頭の訓練用のゲームでも、似た結果が報告されています(脳トレの記事)。
03 今日からできる小さな一歩学び直しを、頭の働きのためにも活かすには?
「脳のため」より「身につけたいこと」を選びます。写真の実験のように、初めてで少し難しく、毎週まとまった時間を使う学び方が、効果が見えた条件に近い形です。
「できるようになりたいこと」を1つ決める
頭の働きへの効果は小さく、そろっていません。外国語なら「旅行先で注文できる」、楽器なら「1曲弾ける」など、身につくこと自体を目標にします。
所要 5分
初めてで、少し難しいことを選ぶ
記憶が伸びた実験では、未経験の人が、覚えることや考えることの多い技術を学びました。慣れた作業のくり返しではなく、毎回少し新しいことに挑む内容にします。
所要 選ぶときに10分
04 続けるためのコツ「年だから覚えられない」と感じたら?
年齢で下がる力もあれば、言葉の知識のように年をとっても伸びる力もあります。効果を期待しすぎず、できるようになったことを数えて続けます。
- 年齢と学びの関係を知っておく。力によって最も高い年齢は違います(年齢と学習の記事)。
- 「覚えられない」という思い込みに気づく。「年のせい」という決めつけを意識すること自体が、成績を下げうることもわかっています(記憶への自信の記事)。
- 人と一緒に学ぶなら、楽しさのために。交流会に参加するだけの組では、頭の働きのはっきりした効果は見られませんでした[1]。続けやすさのために使います。
- 物忘れが急に増えた、日常生活に困る、と感じたら、学び直しで何とかしようとせず、かかりつけ医や地域の相談窓口に相談します。
05よくある質問
大人になってから外国語を学ぶと、ボケ防止になる?
そうとは言えません。65〜75歳の160人をくじで分けた実験では、イタリア語を11週間学んだ組と、リラクセーションの練習をした組で、記憶や知能の伸びはほとんど同じでした。外国語は、話せるようになること自体を目的に学ぶのがよいでしょう。
ピアノを習うと、高齢者の頭の働きはよくなる?
何もしない組と比べると、作業記憶などが伸びた実験があります。ただし、音楽を聴いて学ぶ講座と比べた132人の実験では、6か月後の差はありませんでした。練習をやめた後に効果が消えた研究もあります。
どんな学び方なら、頭の働きに効果が出やすい?
効果が見えた実験では、60歳以上の人が、未経験のデジタル写真を週16時間ほど3か月学びました。初めてで、覚えることや考えることの多い活動を、まとまった時間続けた条件です。ただし長く続く効果かは確かめられていません。
出典
- Park, D. C., Lodi-Smith, J., Drew, L., Haber, S., Hebrank, A., Bischof, G. N., & Aamodt, W. (2014). The impact of sustained engagement on cognitive function in older adults: The Synapse Project. Psychological Science, 25(1), 103–112. https://doi.org/10.1177/0956797613499592
- Berggren, R., Nilsson, J., Brehmer, Y., Schmiedek, F., & Lövdén, M. (2020). Foreign language learning in older age does not improve memory or intelligence: Evidence from a randomized controlled study. Psychology and Aging, 35(2), 212–219. https://doi.org/10.1037/pag0000439
- Román-Caballero, R., Arnedo, M., Triviño, M., & Lupiáñez, J. (2018). Musical practice as an enhancer of cognitive function in healthy aging: A systematic review and meta-analysis. PLoS ONE, 13(11), e0207957. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0207957
- Marie, D., Müller, C. A. H., Altenmüller, E., Van De Ville, D., Jünemann, K., Scholz, D. S., Krüger, T. H. C., Worschech, F., Kliegel, M., Sinke, C., & James, C. E. (2023). Music interventions in 132 healthy older adults enhance cerebellar grey matter and auditory working memory, despite general brain atrophy. NeuroImage: Reports, 3(2), 100166. https://doi.org/10.1016/j.ynirp.2023.100166
- Bugos, J. A., & Wang, Y. (2022). Piano training enhances executive functions and psychosocial outcomes in aging: Results of a randomized controlled trial. The Journals of Gerontology: Series B, 77(9), 1625–1636. https://doi.org/10.1093/geronb/gbac021
- Lövdén, M., Fratiglioni, L., Glymour, M. M., Lindenberger, U., & Tucker-Drob, E. M. (2020). Education and cognitive functioning across the life span. Psychological Science in the Public Interest, 21(1), 6–41. https://doi.org/10.1177/1529100620920576


