「頭がいいね」より「工夫したね」とほめるべきか。マインドセット研究とその再現

「能力ではなく努力をほめよう」「自分は伸びると信じれば成績が上がる」。こうした話を聞いたことがある人は多いはずです。結論から言うと、考え方を変える介入の効果は、平均するとかなり小さいことがわかってきました。ただし、成績が伸び悩んでいる生徒など一部には役立つ可能性も残っています。
3行でわかる
- 「頭がいいね」より「努力したね」が良いという話は、1998年の小学5年生の実験が出発点。
- その後の大規模な検証では、考え方を変える介入の成績への効果は平均でごく小さかった(d=0.02〜0.08程度)。
- 成績が低めの生徒などでは小さな効果が出た研究もある。大人の独学では、勉強法と組み合わせて使うのが現実的。
01「努力をほめると伸びる」はどこから来たのか
出発点は、MuellerとDweck(1998)の実験です。能力をほめられた子は失敗後に粘りにくく、努力をほめられた子は粘りやすかったと報告されました。
この研究から「マインドセット」という言葉が広まりました。成長マインドセットは、能力は学び方しだいで伸びるという考え方です。固定マインドセットは、能力は生まれつきで変わらないという考え方です。
「成長マインドセットを持てば成績が上がる」という主張は、学校や企業研修で広く使われてきました。けれども、本当に成績まで変わるのかは、後の研究で何度も検証されています。
02科学的にわかっていること
元の実験は追試で一部しか再現されず、大規模な分析では成績への平均効果はごく小さいという結果でした。一方で、特定の生徒には小さな効果が出た研究もあり、研究者の間でも評価が分かれています。
MuellerとDweck(1998)[1]
6つの実験で、知能をほめられた小学5年生は、努力をほめられた子より、失敗後に課題を粘らず、楽しめず、成績も下がった。知能を「変わらないもの」と答える傾向も強かった。
対象: 小学5年生 / 限界: 短時間の課題を使った実験室の研究で、学校の成績を追ったものではない。
LiとBates(2019)[6]
中国の9〜13歳の子ども624人で、上の実験をほぼそのまま追試した。やる気や失敗の原因の考え方に関する8つの指標では、元の実験と同じ差は出なかった。学期中の成績とマインドセットの関係も確かめられなかった。
対象: 中国の9〜13歳624人 / 限界: 1つの国・年齢層での追試。
Siskら(2018)[2]
2つのメタ分析(複数の研究をまとめて分析する方法)。マインドセットと成績の関係はr=0.10と弱く、考え方を変える介入の効果もd=0.08とごく小さかった。家庭の経済状況が厳しい生徒では、d=0.34と効果が大きめだった。
対象: 関係の分析は36万5,915人、介入の分析は5万7,155人 / 限界: 経済状況が厳しい生徒の結果は7つの効果量だけにもとづく。
Yeagerら(2019)[3]
米国の全国を代表する9年生(日本の中3〜高1ごろ)1万2,490人。約25分のオンライン学習を2回受けると、成績が低めの生徒の主要科目の成績が0.10ポイント(効果量0.11)上がった。成績が高めの生徒では、主要科目の成績に差は出なかった。
対象: 米国の公立校の9年生 / 限界: 効果は、周りの生徒の雰囲気が介入の考え方と合う学校で続きやすかった。マインドセット理論の提唱者らによる研究。
MacnamaraとBurgoyne(2023)[4]
63研究・9万7,672人のメタ分析。全体の効果はd=0.05と小さく、発表の偏りを補正すると統計的に意味のある差ではなくなった。質の高い6研究だけではd=0.02だった。金銭的な利害がある著者の研究ほど、大きな効果を報告していた。
対象: 学生の学業成績を扱った介入研究 / 限界: どの研究を「質が高い」とみなすかには異論もある。
Burnetteら(2023)[5]
53の独立したサンプルをまとめた別のメタ分析。効果が出やすいと考えられる生徒に、手順どおり実施した場合に絞ると、学業成績への効果はd=0.14だった。ただし研究ごとのばらつきが大きく、予測される効果はマイナス0.08から0.35までの幅があった。
対象: 2002〜2020年に発表されたランダム化研究 / 限界: 条件を絞った結果で、全体の平均ではない。
効果の大きさを並べると、次のようになります(dは差の大きさの目安。0.2未満は「小さい」とされることが多い)。
- Siskら(2018): 介入全体 d=0.08 / 経済状況が厳しい生徒 d=0.34
- Yeagerら(2019): 成績が低めの生徒 効果量0.11 / 成績が高めの生徒 差なし
- MacnamaraとBurgoyne(2023): 全体 d=0.05 / 質の高い研究 d=0.02
- Burnetteら(2023): 条件を絞った場合 d=0.14
どの研究も対象は小学生〜大学生です。何か月も一人で学ぶ社会人の独学で、同じ効果が出るかはわかっていません。
03今日からできる小さな一歩
「自分は伸びる」と信じ込むことより、うまくいかなかった勉強のやり方を具体的に振り返ることに時間を使います。考え方ではなく、やり方に目を向けるのがポイントです。
できなかった問題に「やり方」の一言を書く
「頭が悪い」ではなく「読み返しただけだった」「間をあけずに詰め込んだ」のように、方法の言葉で書きます。
所要 2分
自分をほめるときは「工夫」を言葉にする
「今日は答えを見る前に1分考えた」のように、変えたやり方をメモします。ほめ方自体の効果は確定していませんが、次に何を続けるかがはっきりします。
所要 1分
04続けるためのコツ
マインドセットは「やる気の土台」くらいに考え、成績を上げる主役は勉強法に任せます。伸びないのはあなたの才能の問題ではなく、方法を変える余地があるというだけです。
- 「伸びると信じる」だけで終わらせず、必ず具体的な勉強法とセットにする。
- わかったつもりを避けるため、自分を小テストで確かめる習慣をつける。
- 始められない日が続くなら、「いつ・どこでやるか」を先に決める。
- 他人に教えるときも、「頭がいいね」を禁句にする必要はない。ほめ方より、次に試すことを一緒に考える方が役立つ。
05よくある質問
成長マインドセットとは何ですか?
能力は努力や学び方しだいで伸ばせる、という考え方のことです。反対に、能力は生まれつき決まっていて変わらないと考えることを「固定マインドセット」と呼びます。
「頭がいいね」とほめるのは悪いことなの?
MuellerとDweck(1998)の実験では、能力をほめられた小学5年生は失敗後に粘りにくくなりました。ただし中国の子ども624人で行われた追試では、やる気や原因の考え方に関する8つの指標で同じ結果は再現されませんでした。悪いと断定できるほどの証拠はありません。
大人の独学にもマインドセットは効くの?
大人を対象にした学業成績の研究は少なく、はっきりしません。Siskら(2018)のメタ分析では、大人を対象にした介入でも効果は統計的に確かめられませんでした(d=0.08)。考え方を変えるだけで成績が上がると期待するより、具体的な勉強法と組み合わせる方が現実的です。
勉強法の早見表で「努力をほめる・成長マインドセットを持つ」の判定を見る
ほかの勉強法も22種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52. https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.1.33
- Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., & Macnamara, B. N. (2018). To what extent and under which circumstances are growth mind-sets important to academic achievement? Two meta-analyses. Psychological Science, 29(4), 549–571. https://doi.org/10.1177/0956797617739704
- Yeager, D. S., Hanselman, P., Walton, G. M., et al. (2019). A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement. Nature, 573, 364–369. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1466-y
- Macnamara, B. N., & Burgoyne, A. P. (2023). Do growth mindset interventions impact students' academic achievement? A systematic review and meta-analysis with recommendations for best practices. Psychological Bulletin, 149(3-4), 133–173. https://doi.org/10.1037/bul0000352
- Burnette, J. L., Billingsley, J., Banks, G. C., Knouse, L. E., Hoyt, C. L., Pollack, J. M., & Simon, S. (2023). A systematic review and meta-analysis of growth mindset interventions: For whom, how, and why might such interventions work? Psychological Bulletin, 149(3-4), 174–205. https://doi.org/10.1037/bul0000368
- Li, Y., & Bates, T. C. (2019). You can't change your basic ability, but you work at things, and that's how we get hard things done: Testing the role of growth mindset on response to setbacks, educational attainment, and cognitive ability. Journal of Experimental Psychology: General, 148(9), 1640–1655. https://doi.org/10.1037/xge0000669


