「いつ・どこでやるか」を決めると勉強は続くのか。実行意図(if-thenプラン)の研究

「今日こそ勉強しよう」と思っていたのに、気づけば夜。そんな日が続くのは、意志が弱いからではありません。「やる気」と「実際にやる」の間には、誰にでもすき間があります。研究では、「いつ・どこで・何をやるか」を前もって決めておくと、目標を実行できる割合が上がることが、94の検証をまとめた分析などで確かめられています。
3行でわかる
- 「もし〇〇になったら、△△をする」と前もって決めることを「実行意図(if-thenプラン)」と呼ぶ。
- 94の検証をまとめた分析では、実行意図は目標の達成に「中〜大」の効果(d=0.65)があった。
- 勉強でも、高校生が30分の書く練習で計画を立てると、問題集を60%以上多く解いた。ただし効果の大きさは研究ごとに差がある。
01「やる気はあるのに始められない」の正体
やろうという気持ちが強くても、行動につながらないことはよくあります。原因の一つは、「いつ始めるか」が決まっていないため、始めるきっかけを毎回その場で探していることです。
心理学では、やる気と行動のずれを「意図と行動のギャップ」と呼びます。Wieberら(2015)のレビューは、強い意図があっても行動との間には大きなすき間があると整理しています[2]。
「勉強しよう」という目標だけでは、いつ・どこで始めるかが決まっていません。仕事のあとで疲れていると、その判断を毎回やり直すことになります。そこで役立つのが、始める場面と行動をあらかじめセットにしておく方法です。
02科学的にわかっていること
実行意図は、目標を行動に移す方法として研究の蓄積が多いものの一つです。中〜大の効果が報告される一方、別の組み合わせ方法の新しい分析では効果は小〜中でした。
GollwitzerとSheeran(2006)[1]
94の独立した検証をまとめたメタ分析(複数の研究を統合して分析する方法)。実行意図を立てると、目標の達成に「中〜大」の効果(d=0.65)があった。始める、邪魔から守る、うまくいかない方法をやめる、といった場面で効果が見られた。
対象: さまざまな目標を扱った研究 / 限界: 2006年時点の研究のまとめで、効果の大きさは研究ごとにばらつく。
Duckworthら(2011)[3]
翌年に重要な試験(PSAT)を控えた高校2年生66人を、くじで2組に分けた。30分の書く練習で「望む結果・妨げになる壁・if-thenプラン」を書いた組は、目標とは関係のない文章を書いた組より問題集の練習問題を60%以上多く解いた。
対象: 高校2年生66人 / 限界: 人数が少なく、実行意図に「壁を思い浮かべる練習」を組み合わせた方法の結果。
Duckworthら(2013)[4]
小学5年生77人で、同じ組み合わせの方法を学んだ子は、前向きに考えるだけの方法を学んだ子より、通知表の成績・出席・態度がよくなった。
対象: 都市部の学校に通う、経済的に恵まれない家庭の小学5年生77人 / 限界: 子どもの研究で、社会人の独学とは状況が違う。
Wangら(2021)[5]
21の研究・計15,907人をまとめたメタ分析。壁を思い浮かべる練習と実行意図を組み合わせた方法は、目標の達成に「小〜中」の効果(g=0.336)だった。紙で取り組むより、人とやりとりしながら取り組む方が効果が大きかった。
対象: 21の実証研究(24の効果量) / 限界: 著者自身が、発表の偏りで実際の効果はもっと小さい可能性があると述べている。
まとめると、「効く」と言える証拠はありますが、効果の大きさは研究によって差があります。また、勉強で確かめた研究は高校生や小学生が対象です。社会人が何か月も一人で続ける独学で、同じ効果が出るとは限りません。
03今日からできる小さな一歩
「毎日勉強する」ではなく、「もし〇〇したら、△△をする」の形で1文だけ書きます。きっかけは、すでに毎日やっている行動にするのがコツです。
「もし〜したら」の場面を1つ決める
「帰りの電車に座ったら」「夕食の食器を片づけたら」など、毎日ほぼ必ず起きる場面を選びます。
所要 2分
「〜をする」を小さく具体的にする
「単語アプリを開いて10問解く」のように、始めた瞬間にやることを書きます。「勉強する」だけでは曖昧です。
所要 2分
妨げになる壁にも、もう1文用意する
「もし疲れてやる気が出なかったら、1問だけ解く」のように、つまずきそうな場面への対応も決めておきます。
所要 3分
04続けるためのコツ
プランは書いて目に入る所に置き、うまくいかなければ場面を変えて立て直します。続かなかったのは計画の置き場所の問題で、あなたのせいではありません。
- プランは1つか2つに絞る。たくさん立てると、どれも思い出せなくなる。
- 手帳やスマホのロック画面など、その場面で目に入る所に書いておく。
- 3日続かなければ、きっかけの場面を変える(帰りの電車→昼休み、など)。
- 勉強の中身は、思い出す練習や間をあけた復習と組み合わせると、続けた時間が身につきやすい。
小さく始める習慣化の話は、悩みの科学の「2分ルール」の記事でも扱っています。こちらは「どのくらい小さく始めるか」、この記事は「いつ・どこで始めるか」の話です。
05よくある質問
実行意図(if-thenプラン)とは何ですか?
「もし場面Yになったら、行動Zをする」の形で、いつ・どこで・どう行動するかを前もって決めておくことです。GollwitzerとSheeran(2006)の94の検証をまとめた分析では、目標の達成に中〜大の効果(d=0.65)がありました。
勉強の計画を立てるだけで本当に続くの?
必ず続くわけではありません。Wangら(2021)の分析では、壁を思い浮かべる練習と組み合わせた場合の効果は小〜中(g=0.336)で、実際はもっと小さい可能性も指摘されています。効果を上げる助けの一つと考えるのが現実的です。
「毎日1時間勉強する」と決めるのとは何が違うの?
「毎日1時間」は目標で、いつ始めるかの場面が決まっていません。実行意図は「夕食を片づけたら机でテキストを開く」のように、始める場面と最初の行動をセットにする点が違います。
勉強法の早見表で「「いつ・どこでやるか」を決める(if-thenプラン)」の判定を見る
ほかの勉強法も22種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1
- Wieber, F., Thürmer, J. L., & Gollwitzer, P. M. (2015). Promoting the translation of intentions into action by implementation intentions: Behavioral effects and physiological correlates. Frontiers in Human Neuroscience, 9, 395. https://doi.org/10.3389/fnhum.2015.00395
- Duckworth, A. L., Grant, H., Loew, B., Oettingen, G., & Gollwitzer, P. M. (2011). Self-regulation strategies improve self-discipline in adolescents: Benefits of mental contrasting and implementation intentions. Educational Psychology, 31(1), 17–26. https://doi.org/10.1080/01443410.2010.506003
- Duckworth, A. L., Kirby, T. A., Gollwitzer, A., & Oettingen, G. (2013). From fantasy to action: Mental contrasting with implementation intentions (MCII) improves academic performance in children. Social Psychological and Personality Science, 4(6), 745–753. https://doi.org/10.1177/1948550613476307
- Wang, G., Wang, Y., & Gai, X. (2021). A meta-analysis of the effects of mental contrasting with implementation intentions on goal attainment. Frontiers in Psychology, 12, 565202. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.565202


