勉強や試験の前に不安で落ち着かない。息をゆっくり吐く呼吸のやり方(呼吸法のメタ分析と、効果が出なかった実験)

試験が近づくと胸がざわざわして、机に向かっても集中できない。そんなときに手軽に試せるのが、息をゆっくり長く吐く呼吸です。12件の実験をまとめた分析では、呼吸の練習でストレスと不安が小さく下がりました。ただし効果は大きくなく、差が出なかった実験もあります。期待しすぎず、勉強の前と試験の直前に使う道具として紹介します。
3行でわかる
- 呼吸の練習を調べた12件の実験(大人785人)をまとめると、ストレスは練習しない人より小さく下がった(効果量 g=−0.35)。不安でも同じくらいの効果が出た。
- 効果が出やすかったのは、ゆっくりした呼吸。1日5分の実験では、2回吸って長く吐く呼吸で気分がもっとも上向いた。一方、毎日6分の呼吸の練習で、練習しない人と差が出なかった実験もある。
- やり方は、①座って時間を決める ②2回吸って長く吐く ③1分に10回より少ないペースにする ④試験の直前は数回だけ ⑤毎日同じタイミングで続ける、の5つ。
01 悩みの正体不安だと、なぜ勉強に集中できない?
不安なときは、心配ごとに頭の働きを取られ、目の前の問題に使える分が減ると考えられています。体も緊張し、呼吸は浅く速くなりがちです。
試験のストレスで知っているはずの答えが出てこなくなる仕組みは、ストレスと「思い出す力」の記事にまとめました。この記事では、その不安を少し下げるための呼吸のやり方に絞ります。
呼吸は、ふだんは自動で動いていますが、自分で速さを変えることもできます。ゆっくり吐く呼吸は、緊張をゆるめる神経の働きと関係があると考えられ、多くの実験で試されてきました。
02 科学的にわかっていること呼吸で不安は本当に下がる?
呼吸の練習で、ストレスと不安は小さく下がります。効果が出やすいのはゆっくりした呼吸で、速い呼吸では差が出ませんでした。効かなかった実験もあり、効果は「小さめ」と考えるのが妥当です。
Finchamら(2023)[1]
呼吸の練習を調べた12件のランダム化比較試験(くじで群を分けた実験)、大人785人をまとめた。練習した人は、しない人よりストレスが小さく下がった(g=−0.35)。不安(20件)はg=−0.32、気分の落ち込み(18件)はg=−0.40だった。分けて見ると、効果が出たのはゆっくりした呼吸が中心の練習で、速い呼吸の練習(2件)では差が出なかった。
対象: 大人。健康な人、体の病気の人、心の不調のある人を含む / 限界: 多くの研究で偏りの危険が中くらい。練習の合計は80〜5,625分と幅が広い。著者は「期待が先走らないよう慎重に」と書いている。
Zaccaroら(2018)[2]
1分に10回より少ない、ゆっくりした呼吸の研究をまとめた。健康な人で、くつろいだ感じや落ち着きが増え、不安や緊張が減る傾向がみられた。心拍のゆらぎ(体がリラックスしているときに大きくなる)も増えた。
対象: 2,461件の論文から条件に合った15件 / 限界: 研究の数が少なく、方法もばらばら。勉強や試験の成績は調べていない。
Balbanら(2023)[3]
108人を4群に分け、毎日5分、1か月間続けてもらった。2回吸って長く吐く呼吸(サイクリック・サイ)、4秒ずつ吸う・止める・吐く・止める呼吸、速い呼吸と息止めをくり返す方法、そして瞑想の4つ。前向きな気分はサイクリック・サイの群がもっとも上がり、瞑想の群との差は統計的に意味のある大きさだった。不安は4群とも下がり、瞑想(20〜80点の尺度で−3.95点)と呼吸法(3つ合わせて−3.03点)は同じくらいだった。
対象: 多くはアメリカの大学生。2020年にオンラインで実施 / 限界: 事前登録のない探索的な研究。何もしない群がなく、自宅でどう練習したかは確かめきれていない。
Khng(2017)[4]
小学5年生122人の実験。時間を区切った算数のテストの前に深呼吸をした子は、しなかった子より不安が下がり、テストの成績も良かった。深呼吸で、テスト中の考えを落ち着かせやすくなったと分析されている。
対象: 小学5年生122人 / 限界: 子どもの1つの実験。論文の要旨で確認。大人の資格試験で同じ効果が出るかはわからない。
Rudnickiら(2026)[5]
ベルギーの大学で募集した62人を3群に分けた。2つの群は2〜3か月、毎日6分の呼吸の練習(4秒ずつ吸う・止める・吐く・止める)をし、残る1群は何もしなかった。群どうしの比較では、何もしない群と比べて、毎日の気分にもストレスにも差が出なかった。学生45人の試験前のストレスにも、群による差はなかった。
対象: 大学で募集した62人(うち学生45人) / 限界: 人数が少なく、小さな効果を見つけにくい。ストレスの強い学生で練習回数が多い人ほど試験前のストレスが低かったが、追加の分析で、著者も慎重な解釈を求めている。呼吸を導く機器の会社から機器の提供を受けていた(研究の内容には関わっていないと記載)。
まとめると、呼吸は「やれば必ず落ち着く」方法ではありません。それでも、お金も時間もほとんどかからず、多くの実験で不安が小さく下がっています。独学の社会人を対象にした研究は見つからなかったので、下の手順は、わかっていることを当てはめた目安です。
03 今日からできる小さな一歩不安を落ち着ける呼吸は、どうやる?
座って時間を決め、鼻から2回吸って口から長く吐く呼吸を、1分に10回より少ないペースで続けます。勉強の前は5分、試験の直前は数回が目安です。
座って、タイマーを5分にセットする
いすに座るか、横になります。1か月の実験では、毎日5分を目安にしていました[3]。最初は1〜2分でもかまいません。
所要 30秒
鼻からゆっくり吸い、もう一度少し吸い足す
胸がふくらんだところで、短くもう一度吸います。2回目が1回目より短く浅くても大丈夫です。実験の説明でも、そうなるのが普通とされていました[3]。
所要 1回3〜4秒
口から、吸ったときより長く吐ききる
「吐く方を長く」がこの呼吸のポイントです。気分がもっとも上向いたのは、長く吐くこの呼吸でした[3]。鼻だけで吐いてもかまいません。
所要 1回6秒前後
1分に10回より少ないペースを保つ
吸う4秒・吐く6秒なら、1分に6回です。ゆっくりした呼吸は1分に10回未満と定義されています[2]。苦しくなったら、ふつうの呼吸に戻します。
所要 5分
試験の直前は、数回だけ深く吐く
試験会場で5分は長すぎます。小学生の実験では、テストの前の深呼吸で不安が下がりました[4]。問題用紙を開く前に、3〜5回だけゆっくり吐きます。
所要 1分
実験で試された3つの呼吸法を、結果とあわせて並べました。どれを選ぶか迷ったときの目安にしてください。
| 呼吸法 | やり方 | 研究の結果 |
|---|---|---|
| 2回吸って長く吐く | 鼻から吸い、吸い足し、口から長く吐く | 1か月で気分がもっとも上向いた。不安は1回ごとに平均3.85点下がった[3] |
| 4秒ずつ吸う・止める・吐く・止める | 四角を描くように4つの段階をくり返す | 1回ごとに不安が平均3.75点下がった[3]。2〜3か月の実験では、何もしない群と差が出なかった[5] |
| 速い呼吸と息止めのくり返し | 速く深い呼吸を続け、吐ききって止める | 不安の下がり方が3つでもっとも小さかった(1.81点)[3]。速い呼吸の練習は、まとめた分析でも差が出なかった[1] |
表の点数は、20〜80点の不安の尺度で、練習の前と後を比べた1日あたりの平均です。勉強の前に使うなら、ゆっくり長く吐く呼吸から試すのが無難です。
04 続けるためのコツ呼吸の練習を、勉強の習慣に組み込むには?
勉強を始める合図として、毎日同じタイミングで行います。効果は小さめなので、不安を書き出す方法や、緊張のとらえ方を変える方法と組み合わせます。
- 「机に座ったら、タイマーを5分にして呼吸」と決めておく。「もし〜なら〜する」と決める方法が使える。
- 1か月の実験では、2回吸って長く吐く呼吸は、続けた日数が多いほど気分の上がり方が大きかった[3]。数日で判断しない。
- 試験前の不安が強いときは、不安を書き出す研究の記事や、緊張で実力を出せなかった後の立て直し方もあわせて読む。
- 呼吸で落ち着いたら、すぐに勉強を始める。呼吸は勉強の代わりではなく、始めるための準備。
息苦しさやめまい、手足のしびれを感じたら、すぐにふつうの呼吸に戻してください。不安が強くて眠れない・勉強が手につかない状態が続くときは、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談先を頼ってください。
05よくある質問
不安を落ち着ける呼吸は、何分やればいい?
この記事で紹介した実験では、1回5〜6分でした。1か月の実験では、毎日5分の呼吸の練習で気分が上向き、不安も下がりました。試験の直前なら、数回ゆっくり吐くだけでも始められます。
呼吸法と瞑想、不安に効くのはどっち?
1か月の実験では、不安の下がり方は呼吸法と瞑想で同じくらいでした。前向きな気分の上がり方は、長く吐く呼吸法の方が大きくなりました。続けやすい方を選んでかまいません。
呼吸を整えれば、試験の点は上がる?
小学生122人の実験では、算数のテストの前に深呼吸をすると、不安が下がり点も上がりました。ただし大人の試験で点が上がるかは確かめられていません。呼吸は不安を軽くする道具で、勉強の代わりにはなりません。
出典
- Fincham, G. W., Strauss, C., Montero-Marin, J., & Cavanagh, K. (2023). Effect of breathwork on stress and mental health: A meta-analysis of randomised-controlled trials. Scientific Reports, 13, 432. https://doi.org/10.1038/s41598-022-27247-y
- Zaccaro, A., Piarulli, A., Laurino, M., Garbella, E., Menicucci, D., Neri, B., & Gemignani, A. (2018). How breath-control can change your life: A systematic review on psycho-physiological correlates of slow breathing. Frontiers in Human Neuroscience, 12, 353. https://doi.org/10.3389/fnhum.2018.00353
- Balban, M. Y., Neri, E., Kogon, M. M., Weed, L., Nouriani, B., Jo, B., Holl, G., Zeitzer, J. M., Spiegel, D., & Huberman, A. D. (2023). Brief structured respiration practices enhance mood and reduce physiological arousal. Cell Reports Medicine, 4(1), 100895. https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2022.100895
- Khng, K. H. (2017). A better state-of-mind: Deep breathing reduces state anxiety and enhances test performance through regulating test cognitions in children. Cognition and Emotion, 31(7), 1502–1510. https://doi.org/10.1080/02699931.2016.1233095
- Rudnicki, K., Joris, G., Meyvis, F., Verschraegen, M., & Poels, K. (2026). The impact of a technology-assisted, two-month breathing exercise intervention on daily affect, weekly stress and examinational stress. Behavioral Sciences, 16(5), 778. https://doi.org/10.3390/bs16050778


