大人の学び直しは若い頃より不利なのか。年齢と学習の研究でわかったこと

「もう若くないから、覚えが悪い」。資格や語学の勉強を始めた大人の多くが、一度はそう感じます。研究を見ると、年齢で下がりやすいのは「処理の速さ」など一部の力で、語彙(言葉の知識)は60代まで伸びるというデータもあります。全体として不利なのではなく、得意と不得意の形が変わる、と考える方が研究に近い見方です。
3行でわかる
- 頭の力は一斉に衰えるのではない。処理の速さは10代後半、語彙は約50〜65歳が最も高いという分析がある。
- 60〜90歳の人が週15時間ほど新しい技能を14週間学んだ実験では、記憶の成績が伸びた。
- 語学の「ネイティブ並みの文法」は早く始めた方が有利。ただしそれは文法の到達点の話で、大人が学べないという意味ではない。
01「年をとると覚えられない」は半分だけ本当
年齢とともに下がりやすい力は確かにあります。一方で、語彙や知識のように大人になってから伸び続ける力もあります。「全部が落ちる」わけではありません。
心理学では、頭の力をざっくり2種類に分けて考えます。1つは、初めての問題をすばやく処理する力。もう1つは、言葉や知識など、経験でたまっていく力です。
前者は若いうちに最も高くなりやすく、後者は中年以降まで伸びやすいことが、古くから知られてきました。大人の学び直しで「覚えが悪くなった」と感じるのは、主に前者の変化です。ただ、新しいことを学ぶとき、すでに持っている知識を土台に使えるのは大人の強みでもあります。
02科学的にわかっていること
力ごとに「いちばん高い年齢」はばらばらです。速さの衰えは20〜30代から始まる一方、語彙は60代まで伸び、高齢でも新しい技能の習得で記憶が伸びた実験があります。
Hartshorne と Germine(2015)[1]
知能・記憶検査の標準データと、ウェブで集めた4万8537人のデータを分析した。最も成績が高い年齢は、力によって10代後半から40代以降まで大きく分かれた。
対象: 米国の知能・記憶検査の標準化データ(16〜89歳)と、ウェブ上の参加者 / 限界: 別々の年齢の人を比べたデータで、同じ人の変化を追ったものではない。
この研究で示された「最も成績が高い年齢」を表にまとめました。
| 力の種類 | 最も高い年齢のめやす |
|---|---|
| 処理の速さ(記号の書き写し) | 10代後半 |
| 短期記憶(数字の復唱など) | 20代前半〜30歳ごろ |
| 表情から気持ちを読む | 40〜60歳ごろまで安定して高い |
| 語彙(言葉の意味) | 約50歳(検査データ)〜約65歳(ウェブデータ) |
語彙のピークは、より新しいデータほど遅い傾向がありました。著者らは、頭を使う仕事に就く大人が増えたことが関係しているかもしれないと述べています[1]。
Salthouse(2019)[2]
処理の速さは成人早期からほぼ一直線に下がり、記憶と推論は年齢とともに下がり方が大きくなった。一方、語彙の知識は60代まで伸びていた。
対象: 成人5000人以上(年齢の異なる人の比較)と、約1600人(3回の追跡) / 限界: 健康な成人の平均的な傾向で、個人差は大きい。
Salthouse(2009)[3]
同じ人を追跡する調査では衰えが見えにくい。同じテストを繰り返し受けた「慣れ」の効果が、衰えを隠しているためだと分析した。一部の力の衰えは、健康で教育を受けた成人でも20〜30代に始まると結論づけた。
対象: 健康で教育を受けた成人の調査データ / 限界: 「一部の力」の話で、すべての力が20代から下がるという意味ではない。
Parkら(2014) Synapse Project[4]
デジタル写真やキルト作りを初めて学ぶ組は、平均で週16.51時間を3か月続けた。その結果、出来事を覚える記憶(エピソード記憶)が、交流活動だけの組や手軽な課題の組より伸びた。人と交流するだけでは、はっきりした効果は見られなかった。
対象: 米国テキサス州ダラスの60〜90歳(平均71.67歳)、14週間をやりとげた221人 / 限界: 長く続くかは追跡していない。処理の速さなど他の力ではっきりした差は出なかった。
Hartshorneら(2018)[5]
約67万人の英文法クイズの結果から、文法を身につける速さは17.4歳ごろまで保たれ、その後は下がり続けると推定した。一方、20代後半に英語圏で学び始めた人も、長く続けると最年少(7歳前後)のネイティブの子どもの成績を上回った。
対象: ネイティブと英語学習者のオンライン参加者 / 限界: 測ったのは文法の正確さだけ。語彙や会話の力、仕事で使える英語力は対象外。
どれも平均の傾向で、同じ年齢でも個人差は大きいです。また、実験室のテストの成績と、何か月も続く社会人の独学の成果は同じではありません。年齢だけで「自分には無理」と決める根拠にはなりません。
03今日からできる小さな一歩
速さで勝負する勉強より、時間をかけて確かめる勉強に寄せましょう。すでにある知識を土台にし、新しい技能に週単位でまとまった時間をあてるのが、研究と合う進め方です。
新しい内容を、知っていることに結びつける
今日学んだ用語を1つ選び、「仕事のあの場面のことだ」と自分の経験に当てはめて1行書きます。経験でたまった知識は、大人が伸ばし続けられる力です。
所要 5分
時間制限のある練習は、最後に回す
処理の速さは年齢で下がりやすい力です。まず時間を気にせず正確に解き、慣れてから時間を計ります。遅いのは理解が足りないせいとは限りません。
所要 いつもの勉強時間のまま
「週に何時間」で学ぶ時間を確保する
Synapse Projectでは、新しい技能に週15時間ほど取り組みました。同じ量でなくてよいので、まず週の合計時間を決め、カレンダーに入れます。
所要 10分
04続けるためのコツ
若い頃の自分と比べるより、先週の自分と比べましょう。覚え方を研究で効くものに変える方が、年齢を気にするより確実に成果につながります。
- 「覚えが悪い」と感じたら、読み返すより思い出す練習に切り替える。
- 忘れる前提で、間をあけた復習を最初から予定に入れる。
- 仕事や家事で時間が読めない大人ほど、計画は短く見積もりがち。予定に余白を残す。
- 睡眠を削って勉強時間をつくらない。睡眠と記憶の関係は年齢を問わず大切。
05よくある質問
大人になってから勉強しても覚えられますか?
覚えられます。年齢で下がりやすいのは処理の速さなど一部の力で、語彙は60代まで伸び続けるという研究があります。60〜90歳の人が週15時間ほど新しい技能を14週間学んだ実験では、記憶の成績が伸びました。
記憶力は何歳から落ちるのですか?
力によって違います。Hartshorneら(2015)の分析では、処理の速さは10代後半、短期記憶は20代前半〜30歳ごろが最も高く、語彙は約50〜65歳が最も高い結果でした。いずれも別々の年齢の人を比べたデータで、一人ひとりの変化を追ったものではありません。
英語は大人になってから始めると手遅れですか?
手遅れではありません。約67万人の研究では、ネイティブと見分けがつかないほどの文法の正確さを目指すなら早く始めた方が有利でした。ただし対象は文法だけです。20代後半に英語圏で学び始めた人も、長く続けると幼いネイティブの子どもの成績を上回りました。
勉強法の早見表で「大人になってからの学び直しは不利」の判定を見る
ほかの勉強法も22種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Hartshorne, J. K., & Germine, L. T. (2015). When does cognitive functioning peak? The asynchronous rise and fall of different cognitive abilities across the life span. Psychological Science, 26(4), 433–443. https://doi.org/10.1177/0956797614567339
- Salthouse, T. A. (2019). Trajectories of normal cognitive aging. Psychology and Aging, 34(1), 17–24. https://doi.org/10.1037/pag0000288
- Salthouse, T. A. (2009). When does age-related cognitive decline begin? Neurobiology of Aging, 30(4), 507–514. https://doi.org/10.1016/j.neurobiolaging.2008.09.023
- Park, D. C., Lodi-Smith, J., Drew, L., Haber, S., Hebrank, A., Bischof, G. N., & Aamodt, W. (2014). The impact of sustained engagement on cognitive function in older adults: The Synapse Project. Psychological Science, 25(1), 103–112. https://doi.org/10.1177/0956797613499592
- Hartshorne, J. K., Tenenbaum, J. B., & Pinker, S. (2018). A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers. Cognition, 177, 263–277. https://doi.org/10.1016/j.cognition.2018.04.007


