記憶・覚え方

試験本番で、知っているはずの答えが出てこないのはなぜ?ストレスと「思い出す力」の研究

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中国・定州の古い試験場の建物
Photo: Siyuwj / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究をAIが調べて整理しました(独自の実験ではありません。出典は末尾)。

家では何度も言えた用語が、試験の本番に限って出てこない。試験が終わった帰り道に、ふっと思い出す。覚えていなかったわけではありません。研究では、思い出す直前や最中に強いストレスがかかると、覚えている記憶を「取り出す」働きが下がることがわかっています。ただし、その下がり方は小さめで、条件しだいです。

3行でわかる

  1. 113の研究をまとめた分析では、思い出す直前や最中のストレスで、記憶の取り出しが下がっていた。効果の大きさは小さめ。
  2. ストレスで出る体の反応(ホルモン)は、記憶を取り出す脳の働きや、落ち着いて考える働きに影響すると考えられている。
  3. 「思い出す練習で覚えた記憶はストレスに強い」という有名な研究は、追試で結果が割れている。練習は1回で終わらせず、くり返すのが無難。

01 悩みの正体覚えたはずの答えが、本番で出ないのはなぜ?

記憶が消えたのではなく、取り出しにくくなっている可能性があります。試験のように評価される場面のストレスは、思い出す働きを一時的に下げることが、実験で繰り返し確かめられています。

記憶には、覚える段階、しまっておく段階、取り出す段階があります。本番で答えが出ないとき、多くの人は「覚え方が足りなかった」と考えます。でも、帰り道に思い出せたなら、記憶はちゃんと残っていたことになります。

このとき起きているのは、取り出す段階のつまずきかもしれません。人前で話す、点数で評価されるといった場面では、体がストレスに反応して、コルチゾール(ストレスで増えるホルモン)などが出ます。2016年の総説は、こうした反応が、記憶を取り出す脳の働き(海馬など)を妨げると整理しました[3]。

さらに同じ総説は、ストレスのもとでは注意が偏り、計画的に考える前頭前野の働きが一時的に弱まる一方、素早く反射的に反応する脳の働きが強まるとしています[3]。手がかりを探して落ち着いて記憶をたどる、という作業がしにくくなるわけです。

02 科学的にわかっていることストレスで、どれくらい思い出せなくなる?

思い出す直前や最中のストレスで記憶の取り出しは下がりますが、効果は小さめです。思い出す練習で覚えた記憶は守られるという報告もある一方、追試では再現されないことがありました。

Shieldsら(2017)[1]

113の研究(6,216人)をまとめたメタ分析(多くの研究を統計でまとめる方法)。思い出す直前や最中にストレスがかかった研究31件(1,410人)では、ストレスで記憶の取り出しが下がっていた(効果量g=−0.215、小さめの効果)。研究ごとのばらつきは小さかった。

対象: 人を対象にした実験室の研究 / 限界: ストレスで増えたコルチゾールの量と、記憶への影響の大きさには関係が見られなかった。感情を動かす内容ほど影響が大きかった。

KlierとBuratto(2020)[2]

記憶を取り出す直前にストレスを与えた13の研究(962人)をまとめた系統的レビュー。多くは人前で話す課題などでストレスを与え、15〜25分後に記憶をテストしていた。テストの最大45分前までのストレスで、思い出す成績が下がる傾向がまとめられた。

対象: 健康な成人 / 限界: 午後の実験と、若い男性を対象にした研究で特にはっきりしていた。女性や年齢の高い人にそのまま当てはまるとは限らない。

タイミングにも特徴があります。2017年の論評は、この思い出しにくさはストレスが始まってから20〜30分後、コルチゾールが上がったころに現れ、2〜3時間続くと説明しています[4]。試験開始前の待ち時間の緊張が、本番中に影響する可能性があるということです。

一方で、ストレスがいつも記憶に悪いわけではありません。同じメタ分析では、学んだ直後のストレスは、むしろ記憶を良くする方向に働いていました[1]。問題になりやすいのは「思い出す場面」のストレスです。

02 研究の続き思い出す練習で、ストレスに強い記憶になる?

2016年の実験では、思い出す練習で覚えた人はストレスの影響を受けませんでした。ただ、その後の追試では、ストレスで成績が下がった例もあり、結論は出ていません。

Smithら(2016)[5]

言葉と絵を、読み直して覚えるグループと、思い出す練習(練習テスト)で覚えるグループに分けた。24時間後に半数にストレスを与えると、読み直したグループでは思い出す成績が下がったが、思い出す練習をしたグループでは下がらなかった。

対象: 実験室で単語や絵のリストを覚えた参加者 / 限界: ストレスの強さをホルモンで確かめていない。練習テストのグループはもともと記憶が強く、そのせいかもしれないとの指摘がある[4]。

この研究は大きく報道されましたが、後の研究では結果が割れています。

  • 同じ研究グループの2018年の実験では、1週間後にテストすると、思い出す練習をした人もストレスで成績が下がった。ただし、それでも読み直した人よりは高かった[6]。
  • スワヒリ語の単語ペアを使った2017年の研究は、7日後のテストで思い出す練習の効果自体は確認したが、ストレスから守る効果は再現できなかったと紹介されている[8]。
  • 男性59人の実験(2023年)では、ストレスは覚えやすい単語の思い出しを下げたが、練習で思い出せた難しい単語ではむしろ上がった[7]。
  • その追試(2026年、男性56人)では、ストレスでホルモンは上がったのに、思い出す成績は下がらず、2023年の結果も再現されなかった[8]。

ここで紹介した研究は、実験室で人前で話す課題や冷水に手を入れる課題でストレスを与え、単語のリストを思い出させたものです。数か月かけて準備する資格試験や、記述や計算を含む本番の試験に、同じ大きさの影響があるとは限りません。

03 今日からできる小さな一歩本番でも思い出せるように、何をする?

思い出す練習を1回で終わらせず、日を変えてくり返します。本番で出てこない問題に出会ったときの動き方も、先に決めておきます。

1

「1回言えたら終わり」にしない

2018年の実験では、1回思い出せた後に読み直しを重ねるより、思い出す練習を重ねた方が、1週間後のストレス下の成績が高くなりました[6]。覚えた用語は、日を変えて合計3回は何も見ずに思い出します。

所要 1回5分

2

出てこない問題は、印をつけて先へ進む

ストレスのもとでは、落ち着いて記憶をたどる働きが弱まると考えられています[3]。1問で固まらず、印をつけて解ける問題から進め、最後に戻ります。これは研究から考えた使い方で、この手順自体を試した研究ではありません。

所要 本番中

3

本番で出なかった語を、試験の直後に書き出す

帰り道に思い出せた語は、記憶にはあったのに取り出せなかった語です。次の試験までの「思い出す練習」の対象にします。

所要 10分

04 続けるためのコツ本番に弱い自分は、勉強が足りないの?

本番で出てこないのは、意志や努力の不足とは限りません。原因を「知識」「取り出し」「緊張」に分けて考えると、次にやることが見えます。

強い不安で眠れない、試験のことを考えると体調が崩れるといったつらさが続くときは、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などに相談してください。

05よくある質問

試験のストレスで、覚えたことは消えてしまう?

消えるのではなく、取り出しにくくなると考えられています。113の研究をまとめた分析では、思い出す直前や最中のストレスで取り出しが下がっていましたが、効果の大きさは小さめでした。試験の後に思い出せるのは、記憶が残っていたからです。

思い出す練習をすれば、本番の緊張に負けない?

2016年の実験ではストレスの影響を受けませんでしたが、その後の追試では、1週間後のテストで成績が下がった例や、守る効果が再現されなかった例があります。思い出す練習そのものは記憶を強くするので、1回で終わらせずにくり返すのが無難です。

試験の直前は、何分前から緊張に気をつければいい?

実験室の研究では、ストレスが始まって20〜30分後に思い出しにくさが現れ、2〜3時間続くと説明されています。ただし実際の試験で何分前の緊張がどれだけ影響するかは、確かめられていません。

出典

  1. Shields, G. S., Sazma, M. A., McCullough, A. M., & Yonelinas, A. P. (2017). The effects of acute stress on episodic memory: A meta-analysis and integrative review. Psychological Bulletin, 143(6), 636–675. https://doi.org/10.1037/bul0000100
  2. Klier, C., & Buratto, L. G. (2020). Stress and long-term memory retrieval: a systematic review. Trends in Psychiatry and Psychotherapy, 42(3), 284–291. https://doi.org/10.1590/2237-6089-2019-0077
  3. Gagnon, S. A., & Wagner, A. D. (2016). Acute stress and episodic memory retrieval: neurobiological mechanisms and behavioral consequences. Annals of the New York Academy of Sciences, 1369(1), 55–75. https://doi.org/10.1111/nyas.12996
  4. Wolf, O. T., & Kluge, A. (2017). Commentary: Retrieval practice protects memory against acute stress. Frontiers in Behavioral Neuroscience, 11, 48. https://doi.org/10.3389/fnbeh.2017.00048
  5. Smith, A. M., Floerke, V. A., & Thomas, A. K. (2016). Retrieval practice protects memory against acute stress. Science, 354(6315), 1046–1048. https://doi.org/10.1126/science.aah5067
  6. Smith, A. M., Davis, F. C., & Thomas, A. K. (2018). Criterial learning is not enough: Retrieval practice is necessary for improving post-stress memory accessibility. Behavioral Neuroscience, 132(3), 161–170. https://doi.org/10.1037/bne0000240
  7. Klier, C., & Buratto, L. G. (2023). The benefit of retrieval practice on cued recall under stress depends on item difficulty. Neuroscience Letters, 797, 137066. https://doi.org/10.1016/j.neulet.2023.137066
  8. Klier, C., & Buratto, L. G. (2026). Does retrieval practice protect memories against the amnesic effects of stress? An evaluation of the role of stimulus difficulty. Frontiers in Cognition, 5, 1838176. https://doi.org/10.3389/fcogn.2026.1838176