勉強の休憩、何をすれば集中が戻る?緑の中を歩く休憩のやり方(自然と注意の研究とその限界)

問題集を1時間解いたら、頭がぼんやりして文字が入ってこない。休憩にスマホを見ても、戻った後もやはり集中できない。研究の答えは「休憩に緑の多い場所を歩くと、注意の力が少し戻る可能性がある。ただし効果は小さく、再現できなかった実験もある」です。過度に期待せず、自分に合うかを試す手順にまとめました。
3行でわかる
- 自然の中を約50分歩いた後は、数字を逆から言う課題の成績が、街なかを歩いた後より良くなった実験がある(Bermanら 2008)。
- 13の実験・528人分をまとめると、自然の後は平均0.75点、街なかの後は0.29点の伸びで、差は小さい。似た条件で差が出なかった実験もある。
- やり方は「緑の多い道を選ぶ・スマホを見ない・戻る場所をメモしてから出る」。効くかは2週間、記録して自分で比べる。
01 悩みの正体休憩しても集中が戻らないのはなぜ?
集中して勉強するには、気が散るものを抑え続ける注意の力が要ります。休憩の間もスマホや人混みに注意を使い続けると、この力が休まらない可能性があります。
勉強中は、内容に注意を向けながら、ほかのことを考えないように抑えています。心理学では、自分の意思で向ける注意を「方向づけられた注意」と呼びます。
「注意回復理論」という考え方では、この注意は使い続けると疲れるとされます。木や水の流れのように、ほどよく目を引くものに囲まれると、意思で注意を向ける必要が減り、その間に回復すると考えます。
反対に、車や人の多い通りでは、ぶつからないように注意を使い続けます。理論の上では、休憩の中身によって戻り方が変わることになります。この理論がどこまで確かめられているかを、次に見ていきます。
02 科学的にわかっていること自然の中を歩くと、集中する力は戻る?
戻る方向の結果が多いものの、効果は小さめです。13の実験のまとめでは自然の方が伸びが大きく、2つのレビューでも一部の測り方でだけ効果が確認されました。似た条件で差が出なかった実験もあります。
Bermanら(2008)[1]
大学生が、自然の多い場所と街なかを別の日に歩いた。自然の中を歩いた後は、聞いた数字を逆の順に言う課題(逆唱)の成績が上がり、街なかの後は上がらなかった。自然の写真を見るだけの実験でも、注意の課題で同じ向きの結果が出た。
対象: 米国ミシガン大学の学生。散歩の実験は38人、写真の実験は12人 / 限界: 人数が少ない。測ったのは短い課題の成績で、勉強の成果ではない。
Stenforsら(2019)[4]
Bermanらの研究室が行った13の実験(合計528人分)をまとめて分析した。逆唱の成績は、自然の後に平均0.75点、街なかの後に0.29点伸びた。1回目のテストでは「慣れ」による伸びが大きく、自然と街なかの差は小さかった(0.97点と0.73点)。慣れの影響が少ない2回目では、自然の後は0.51点伸び、街なかの後は0.23点下がった。
対象: 米国・カナダの大学などで行われた13の実験 / 限界: すべて同じ研究グループの実験。写真やVRで自然を見せた実験は、実際の散歩や動画より効果が小さかった。前向きな気分の変化は、自然の後の成績の変化の2.2%しか説明しなかった。
Ohlyら(2016)[2]
自然と注意についての31の研究を集めたレビュー。13の測り方ごとにまとめた分析のうち、自然の効果がはっきり出たのは3つ(数字を順に言う課題・逆から言う課題・線をたどる課題の一種)だった。残りの10では、はっきりした効果は見られなかった。
対象: 31の研究のまとめ(メタ分析を含むレビュー) / 限界: 研究ごとの人数が少なく、測り方もばらばら。著者らは、注意のどの面に効くのかはまだはっきりしないとまとめた。
Stevensonら(2018)[3]
2013年7月以降に出た42の論文をまとめた続きのレビュー。自然の後に良くなったのは、作業記憶(一時的に覚えて操作する力)と、考えの切り替え。注意を抑える力も、確実性は低いが良くなった。効果の大きさは小〜中程度だった。
対象: 42の論文のまとめ / 限界: 実際の自然の方がVRなどより効果が大きかったが、実際の自然の方が時間も長いことが多く、どちらが理由かは区別できない。
Koselkaら(2019)[5]
健康な若い大人38人が、森の小道を50分歩く・交通量の多い道を50分歩く・ふだんどおり過ごす、の3つを試した。作業記憶の課題(数字を逆から入力する)は、どの条件でもはっきりした差が出なかった。一方、歩いた日は歩かない日より気分が良く、森の道では不安やストレスの感じ方が下がった。
対象: 米国の若い大人38人(女性20人・男性18人) / 限界: 本格的な研究の前の試験的な研究で、人数が少ない。森の道と比べた道は、Bermanらの実験ほど街なかではなかった。
休憩の中身ごとに、研究でわかったことを比べると次のようになります。
| 休憩の中身 | 研究でわかったこと |
|---|---|
| 緑の多い場所を歩く | 逆唱の成績が街なかより伸びた[1][4]。差が出なかった実験もある[5] |
| 人や車の多い通りを歩く | 慣れの影響を除くと、成績はわずかに下がる傾向(統計的にははっきりしない)[4] |
| 自然の写真・VRを見る | 同じ向きの結果だが、実際の散歩や動画より効果は小さめ[4] |
| 歩くこと自体 | 場所に関係なく、歩かない日より気分が良かった[5] |
ここで紹介した実験は、ほとんどが大学生を対象に、短い課題の成績を測ったものです。社会人が勉強の合間に歩いたとき、勉強の成果が上がるかまでは確かめられていません。
03 今日からできる小さな一歩集中が戻る休憩は、どうとればいい?
勉強で疲れを感じたら、止まった場所をメモしてから、緑の多い道を歩きます。スマホは見ず、戻ったら1問目は軽い問題にします。効くかどうかは、記録して自分で比べます。
出かける前に「戻る場所」を1行メモする
「問題12の途中、公式を当てはめるところ」のように、どこまで進んだかを書いておきます。戻った後に、続きを探す時間と注意を使わずにすみます。中断からの戻り方はスマホで集中が切れた後の記事で詳しく紹介しました。
所要 30秒
歩く道は「木や水が見えて、車や人が少ない」ところを選ぶ
公園、街路樹の多い道、川沿いなどです。実験では、自然の多さと街なかとの違いが小さい道ほど、効果も小さめでした[4]。にぎやかな商店街や大通りは、休憩の道には向きません。
所要 家から歩ける範囲で1か所決めておく
歩いている間はスマホを見ない
理論の上では、強く注意を引くものが多い環境では注意が休まりません[1]。通知やSNSは、まさに注意を引くものです。休憩の散歩の間は、ポケットにしまっておきます。
所要 散歩の間ずっと
長さは使える時間に合わせ、10〜20分から試す
研究で確かめられたのは、主に約50分の散歩です[1][5]。勉強の合間の短い散歩で同じ効果が出るかは、まだわかっていません。まずは10〜20分で試し、合わなければ長さを変えます。
所要 10〜20分
戻ったら、1問目は軽い問題から始める
メモを見て、止まった場所を確かめてから再開します。いきなり難問に取りかかるより、解けそうな問題で勢いをつけます。
所要 5分
2週間、休憩の中身と戻った後の進み具合を記録する
「散歩」「スマホ」「机で目を閉じる」など、休憩の中身ごとに、戻った後の30分で解けた問題数をメモします。研究の効果は平均で小さいため、自分に合うかは自分の記録で確かめるのが確実です。記録の形は勉強する場所と時間帯の記録表が使えます。
所要 1回1分
04 続けるためのコツ外に出られない日は、どう休めばいい?
窓から木や空を見る、自然の動画を見るなど、近いもので代わりにします。ただし効果は実際の散歩より小さいと考え、期待しすぎないことが大切です。
- 写真やVRの自然でも同じ向きの結果は出ているが、実際の散歩や動画より効果は小さめだった[4]。雨の日の代わりと考える。
- 歩くこと自体に、気分を良くする働きがあった[5]。緑の少ない地域でも、静かな道を歩く休憩には意味がある。運動と記憶の研究は運動と勉強の記事にまとめた。
- 休憩をとる間隔は、ポモドーロ・テクニックの記事で紹介した研究も参考にする。
- 散歩のあと気分が良くなっても、集中が戻ったとは限らない。気分の変化は、成績の変化をほとんど説明しなかった[4]。だから、手順6の記録で確かめる。
- 家の中の集中しやすい環境づくりは、勉強する場所の整え方で紹介している。
05よくある質問
勉強の休憩に散歩をすると集中力は戻りますか?
戻る助けになる可能性があります。Bermanら(2008)の実験では、自然の中を歩いた後は、数字を逆から言う課題の成績が街なかを歩いた後より良くなりました。13の実験をまとめた分析(Stenforsら 2019)でも同じ向きの結果でした。ただし効果は小さく、同じ条件で差が出なかった実験もあります(Koselkaら 2019)。
自然の写真や動画を見るだけでも効果はありますか?
効果はあっても小さいと考えられます。Stenforsら(2019)がまとめた実験では、写真やVR(仮想現実)で自然を見せたときの効果は、実際の散歩や動画より小さめでした。外に出られない日の代わりにはなりますが、同じ効果は期待しすぎないようにします。
休憩の散歩は何分くらいがいいですか?
研究で確かめられたのは、主に約50分の散歩です。勉強の合間の10〜15分の散歩で同じ効果が出るかは、今回の出典では確かめられていません。短い散歩は「試してみて、自分で比べる」ものと考えるのが正直なところです。
自然の中を歩くと勉強の成績も上がりますか?
今回の研究で測ったのは、数字を覚えて逆から言うような短い課題の成績です。試験の点数や長期の学習の成果が上がるかは調べられていません。散歩休憩は、勉強そのものの代わりではなく、集中を戻すための休み方の1つとして使います。
勉強法の早見表で「休憩に緑の中を歩く」の判定を見る
ほかの勉強法も52種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Berman, M. G., Jonides, J., & Kaplan, S. (2008). The cognitive benefits of interacting with nature. Psychological Science, 19(12), 1207–1212. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02225.x
- Ohly, H., White, M. P., Wheeler, B. W., Bethel, A., Ukoumunne, O. C., Nikolaou, V., & Garside, R. (2016). Attention Restoration Theory: A systematic review of the attention restoration potential of exposure to natural environments. Journal of Toxicology and Environmental Health, Part B, 19(7), 305–343. https://doi.org/10.1080/10937404.2016.1196155
- Stevenson, M. P., Schilhab, T., & Bentsen, P. (2018). Attention Restoration Theory II: A systematic review to clarify attention processes affected by exposure to natural environments. Journal of Toxicology and Environmental Health, Part B, 21, 227–268. https://doi.org/10.1080/10937404.2018.1505571
- Stenfors, C. U. D., Van Hedger, S. C., Schertz, K. E., Meyer, F. A. C., Smith, K. E. L., Norman, G. J., Bourrier, S. C., Enns, J. T., Kardan, O., Jonides, J., & Berman, M. G. (2019). Positive effects of nature on cognitive performance across multiple experiments: Test order but not affect modulates the cognitive effects. Frontiers in Psychology, 10, 1413. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2019.01413
- Koselka, E. P. D., Weidner, L. C., Minasov, A., Berman, M. G., Leonard, W. R., Santoso, M. V., de Brito, J. N., Pope, Z. C., Pereira, M. A., & Horton, T. H. (2019). Walking Green: Developing an evidence base for nature prescriptions. International Journal of Environmental Research and Public Health, 16(22), 4338. https://doi.org/10.3390/ijerph16224338


