勉強する場所を変えると覚えやすいのか。場所と記憶(文脈依存記憶)の研究

「家では覚えていたのに、試験会場では出てこない」。そんな経験から、勉強する場所が気になる人は多いはずです。研究では、覚えた場所と思い出す場所の結びつきは確かにありますが、その効果は平均すると小さめです。思い出すときに勉強した場所を頭に浮かべるだけで、差はさらに縮みます。
3行でわかる
- 覚えた場所と同じ場所の方が思い出しやすい、という効果は実在する。ただし多くの研究をまとめると効果は小さめ。
- 同じ内容を2つの違う部屋で覚えた学生は、同じ部屋で2回覚えた学生より多くの単語を思い出した実験がある。
- 勉強した場所を頭に思い浮かべると、場所の差は小さくなる。有名なダイバーの実験は、再現実験で同じ結果が出なかった。
01なぜ「場所」で思い出しやすさが変わるのか
覚えるとき、内容と一緒に周りの景色や音も記憶に入るからです。同じ場所に戻ると、その景色が思い出す手がかりになります。
心理学では、これを「文脈依存記憶」と呼びます。文脈とは、覚えたときの周りの状況のことです。
単語を覚えるとき、私たちは部屋の雰囲気や窓の外の景色まで、気づかないうちに一緒に覚えています。同じ部屋に戻ると、それらが「あのとき覚えたもの」を引き出すきっかけになります。
ここから、2つの疑問が出てきます。試験会場と勉強場所が違うと不利なのか。そして、わざと勉強場所を変えるとどうなるのか。
02科学的にわかっていること
場所の効果は確かにありますが、平均すると小さめです。場所を変えて復習すると得をした実験もありますが、条件によって結果が分かれています。
Smith、Glenberg、Bjork(1978)[1]
40語の単語リストを3時間あけて2回覚え、さらに3時間後、どちらとも違う3つ目の部屋で思い出しました。同じ部屋で2回覚えた学生は平均15.9語、違う2つの部屋で覚えた学生は平均24.4語を思い出しました。
同じ論文の別の実験では、80語を覚えた翌日に、同じ部屋で思い出すと平均48.9語、別の部屋だと34.7語でした。一方、見た単語を選ぶ形式(再認)のテストでは、場所の効果は見られませんでした。
対象: 米国の大学生(最初の実験は16人) / 限界: 2つの部屋では、単語の見せ方(音声とスライド)や実験者の服装も違っていた。人数が少ない。
SmithとVela(2001)[2]
場所と記憶の研究をまとめた分析(メタ分析)です。場所の効果は全体として確かにありましたが、平均の効果量(差の大きさ)はd=0.28程度と小さめでした[5]。
さらに、思い出すときに覚えた場所を頭の中で思い浮かべると、場所の効果は小さくなりました。場所以外の手がかりが多いときも、同じく小さくなりました。
限界: 単語リストを覚える実験室の研究が中心。数か月かける独学で同じ差が出るかは確かめられていない。
GoddenとBaddeley(1975)[3]、Murre(2021)[4]
有名なダイバーの実験です。陸上か水中で単語を聞いて覚え、4分後に陸上か水中で思い出しました。1975年の実験では、覚えた環境と同じ環境の方がよく思い出せました。
ところが2021年、16人のダイバーで行われた再現実験では、同じ環境の方が思い出せるという結果は出ませんでした。
限界: 再現実験は4条件を約1.5時間で続けて行うなど、元の実験と手順に違いがある。どちらか一方だけで結論は出せない。
SmithとHandy(2014)[5]、Imundoら(2021)[6]
SmithとHandyは、顔と名前の組み合わせを、背景の映像を毎回変えながら思い出す練習をさせました。2日後、背景を変えて練習した組み合わせはほとんど忘れられず(3%減)、同じ背景で練習した組み合わせは47%減りました。ただし、思い出す練習ではなく読み直すだけの場合は差がありませんでした。
一方、Imundoらの実験(106人と203人)では逆の結果でした。新しい環境で読み直すと成績は下がらず、2つ目の実験では上がりました。新しい環境で思い出す練習をすると、成績は下がりました。
対象: SmithとHandyは米国の大学生(最初の実験は45人)、Imundoらは106人と203人 / 限界: 2つの研究で「場所を変えて得をする条件」が食い違っており、まだ決着していない。
どの研究も、単語や名前を短期間で覚える実験です。社会人が数か月かけて資格の勉強をする場面で、同じ差が出るかはまだわかっていません。
03今日からできる小さな一歩
場所に頼りすぎない覚え方にしておくのが安全です。思い出すときに勉強した場所を思い浮かべる、ときどき別の場所で復習をはさむ、の2つから始めます。
試験の前に、勉強した場所を1分思い浮かべる
試験開始前や、答えが出てこないときに、いつもの机や部屋の様子を目を閉じて思い出します。メタ分析で、場所の差を小さくした方法です。
所要 1分
週に1回、別の場所で読み返しをする
図書館、カフェ、別の部屋など、いつもと違う場所で前の週の範囲を読み返します。読み直しを新しい環境でしても成績が下がらなかった実験があり、試しやすい方法です。
所要 20分
本番に近い条件で、1回は思い出す練習をする
模試や問題集を、自宅以外の机や時間制限つきで解きます。場所が変わっても思い出せるか、自分で確かめておきます。
所要 30〜60分
04続けるためのコツ
場所はあくまで補助です。記憶を強くする中心は、思い出す練習と間をあけた復習で、場所の工夫はその上に足すくらいがちょうどよい使い方です。
- 勉強の中心は、思い出す練習にする。効果の大きさは思い出す練習(テスト効果)の記事で紹介しています。
- 復習は日をあけて行う。理由は分散学習の記事にまとめています。
- いつもの机は「始めるきっかけ」として残す。誘惑を減らす場所づくりは自制心と環境づくりの記事が参考になります。
- 試験会場で頭が真っ白になりやすい人は、試験不安の記事もあわせて読んでみてください。
05よくある質問
試験会場と勉強場所が違うと、点数は下がるの?
下がる可能性はありますが、差は小さめです。研究をまとめた分析では、場所の効果は平均すると小さく、思い出すときに勉強した場所を頭に思い浮かべると差はさらに縮みました。選択式の問題(再認)では、場所の効果が見られなかった実験もあります。
毎日同じ机で勉強するのはよくないの?
よくないわけではありません。決まった場所は勉強を始めるきっかけになります。ときどき別の場所で読み返しや復習をはさむと、場所に頼らない記憶にしやすい可能性がある、という程度に考えるのが研究に沿った見方です。
水中と陸上で記憶が変わるダイバーの実験は本当?
1975年の実験では、覚えた場所と同じ環境で思い出す方がよく思い出せました。ただし2021年に16人のダイバーで行われた再現実験では、同じ結果は得られませんでした。有名な実験ですが、結果は確定していません。
勉強法の早見表で「勉強する場所を変える」の判定を見る
ほかの勉強法も30種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Smith, S. M., Glenberg, A., & Bjork, R. A. (1978). Environmental context and human memory. Memory & Cognition, 6(4), 342-353. https://doi.org/10.3758/BF03197465
- Smith, S. M., & Vela, E. (2001). Environmental context-dependent memory: A review and meta-analysis. Psychonomic Bulletin & Review, 8(2), 203-220. https://doi.org/10.3758/BF03196157
- Godden, D. R., & Baddeley, A. D. (1975). Context-dependent memory in two natural environments: On land and underwater. British Journal of Psychology, 66(3), 325-331. https://doi.org/10.1111/j.2044-8295.1975.tb01468.x
- Murre, J. M. J. (2021). The Godden and Baddeley (1975) experiment on context-dependent memory on land and underwater: a replication. Royal Society Open Science, 8, 200724. https://doi.org/10.1098/rsos.200724
- Smith, S. M., & Handy, J. D. (2014). Effects of varied and constant environmental contexts on acquisition and retention. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 40(6), 1582-1593. https://doi.org/10.1037/xlm0000019
- Imundo, M. N., Pan, S. C., Bjork, E. L., & Bjork, R. A. (2021). Where and how to learn: The interactive benefits of contextual variation, restudying, and retrieval practice for learning. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 74(3), 413-424. https://doi.org/10.1177/1747021820968483


