「読みにくい字体で読むと記憶に残る」は本当?わざと読みにくくしたフォントの研究(効く・効かないの判定)

わざと読みにくい字体で教材を読むと、頭がよく働いて記憶に残る。そんな話を聞いて、試したくなった人もいるかもしれません。研究を調べた結論は「当てにならない」でした。記憶のために作られたフォントは、複数の研究グループの追試で効果が出ませんでした。25本の論文をまとめた分析でも、思い出す成績の差はほぼゼロでした。
3行でわかる
- 判定:「当てにならない」。読みにくいフォントで読んでも、ふつうのフォントより覚えやすくはならなかった研究が大半です。
- 記憶用に作られたフォント「Sans Forgetica」は、別々の研究グループが試しても、はっきりした効果が確認されず、かえって覚えた量が減った実験もあった。
- 難しさを入れるなら、字体ではなく作業に入れる。同じ実験で、文字を一部抜いて自分で補う方法ははっきり効いた。
この記事の判定
当てにならない
読みにくい字体で読むことで、覚える量は増えない
- 25本の論文・3135人の分析で、思い出す成績の差は効果量−0.01[8]
- 記憶用フォントは、追試の4つの論文ではっきりした効果が確認されず、逆効果の結果も出た[2][3][4][5]
- 効果が出たのは「テストがあると知らされていない」など、限られた条件だけ[6][9]
01 通説の中身読みにくい字で読むと、なぜ覚えやすいと言われる?
「読みにくいと、ていねいに読もうとして深く考えるので、記憶に残る」という説です。少し苦労する学び方が記憶を強める「望ましい困難」の考え方を、字体に当てはめたものです。
もとになったのは、2011年に発表された研究です。読みにくいフォントで書かれた情報のほうが、実験室でよく覚えられていました。高校の授業でも同じ傾向が出たと報告されました[1]。
その後、オーストラリアのRMIT大学のチームが、記憶のためのフォント「Sans Forgetica」を作りました。文字が後ろに傾き、線の一部が欠けているフォントです。開発チームのデータでは、ふつうのフォントより1%、別のデータでは7%よく覚えられたとされました。ただしこれは論文として発表された結果ではありません[2][4]。
少し苦労して学ぶと身につく、という考え方自体には裏づけがあります。本を閉じて思い出す練習や、日をあけた復習がその例です。問題は、「字が読みにくい」という苦労も同じように効くのか、という点でした。
02 科学的にわかっていること読みにくいフォントの追試では、どんな結果が出た?
記憶用フォントは、別々の研究グループが試しても、ふつうのフォントより覚えやすくなりませんでした。読みにくさを使った研究全体をまとめた分析でも、差はほぼゼロでした。
Taylorら(2020)[2]
開発チームの未発表の結果を確かめる4つの実験。参加者は、Sans ForgeticaをArial(ふつうのフォント)より読みにくいと評価した。それでも覚えた量は同じで、単語の組み合わせを覚える課題ではかえって成績が下がった。
対象: 4つの実験の参加者(1つ目は読みにくさの評価だけ) / 限界: 1回の学習で、テストは同じ日。著者らは「読みにくさは感じさせるが、望ましい困難にはならない」と結論づけた。
Gellerら(2020)[3]
事前に計画を登録した3つの実験。地下水についての説明文を読む実験では、一部の文をSans Forgeticaにしても、ふつうに読むより成績は上がらなかった。一方、あらかじめ大事な文に黄色い色がついた文章では成績が上がった。単語の文字を一部抜いて自分で補う方法も、はっきり効いた。
対象: 事前に計画を登録した3つの実験の参加者 / 限界: 1回の実験室の学習。論文の題名は「Sans Forgeticaは学習に望ましくない」。
Huffら(2022)[4]
4つの実験で、合わせて300人近くが関連する単語のリストを覚えた。Sans ForgeticaとArialで、正しく思い出せた単語の割合も、見ていない単語を「見た」と思い込む誤りも、差がなかった。思い出して書くテストでも、見たかどうかを答えるテストでも同じだった。
対象: アメリカ・南ミシシッピ大学の学生(主にオンラインで参加) / 限界: 覚えたのは単語のリストで、教科書の文章ではない。
CuiとLiu(2022)[5]
見た単語かどうかを答えるテストで、Sans Forgeticaの単語は「見た」と正しく答えた割合がわずかに高かった(0.78と0.75)。ただし、何でも「見た」と答えやすくなる偏りが混ざっていた可能性があった。2つ目の実験では、覚えるときのフォントによる差は出なかった。
対象: アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校の学生66人と58人 / 限界: 単語を1秒ずつ見る課題。著者らは「役に立つとしても、ごく限られた役割」と結論づけた。
Xieら(2018)の研究のまとめ[8]
文章の教材で、読みにくい字体とふつうの字体を比べた25本の論文(3135人)をまとめると、思い出す成績への効果量(差の大きさの目安)は−0.01で、効果はほぼゼロだった。
数値は、CuiとLiu(2022)[5]の論文での紹介による。字体以外の読みにくくする方法(ぼかしなど)を含めた結果もまちまちとされている[4]。
Meyerら(2015)[7]
「読みにくいフォントで出すと、ひっかけのある算数の問題に正解しやすくなる」という有名な実験があった。元の実験と16回の追試のデータを合わせると、正解率に差はなかった。読みにくいフォントは、答えるまでの時間をわずかに延ばしただけだった。
限界: 記憶ではなく、考えて解く問題についての研究。読みにくさで「じっくり考えるようになる」という説も支持されなかった。
効果が出たのはどんなとき?
効果が出た研究もあります。GellerとPeterson(2021)の3つの実験(それぞれ約230人)では、後でテストがあると知らされていない条件でだけ、Sans Forgeticaの単語がよく思い出されました[6]。ただし著者ら自身が、効果は中くらいで、テストを意識しない状態は実際の勉強では作りにくいと書いています。そして「ほかの裏づけのある方法を使うべきだ」と結んでいます。
文字をぼかす実験でも、強くぼかした単語のほうが後で見分けやすかった報告があります[9]。これも、テストを予告せず、1語ずつ判断する実験室の課題でした。
どの研究も、大学生が1回だけ学び、数分〜同じ日のうちにテストした実験です。何週間もかけて資格の教科書を読む独学で、字体が成績を変えるかを確かめた研究はありません。それでも、短い実験でさえ効果がほぼ出ないものを、長い勉強に持ち込む理由は乏しいと言えます。
03 今日からできる小さな一歩「少し苦労する勉強」は、どこに入れればいい?
教材の字は読みやすいままにして、苦労は思い出す・補う作業に入れます。読みにくさで時間を使うより、本を閉じて思い出すほうが、研究の裏づけがはっきりしています。
大事な用語は、文字を一部隠して自分で補う
「光○成」のように一部を隠したカードを作り、補いながら読みます。同じ実験で、字体を変えるより、文字を抜いて補う方法がはっきり効きました[3]。
所要 10語で5分
「読むのが大変だった=覚えた」と思わない
読みにくさを感じても、覚えた量は増えませんでした[2]。効いたかどうかは手ごたえではなく、翌日の小テストで確かめます。
所要 翌日5分
04 続けるためのコツ手ごたえにだまされない勉強にするには?
「大変だった」「すらすら読めた」という感覚と、実際に覚えた量はずれることがあります。判断の材料は、時間をあけたテストの点数にします。
- すらすら読めても安心しない。読みやすさが「わかったつもり」を生む仕組みはわかったつもりの記事で扱っています。
- 大事な所の印は、自分で引くより使い方が大事。線を引く勉強法の研究はマーカーの記事にあります。
- 画面で読むときは、急がない。画面で読むときのチェック表で、閉じてから確かめる手順を決められます。
- 読みながら問題を作るのも、難しさを作業に入れる方法。問題づくりの記事を参考にしてください。
05よくある質問
読みにくいフォントで勉強すると、記憶に残りやすくなる?
当てにならない、が研究の結論です。記憶のために作られたフォント「Sans Forgetica」は、複数の研究グループの追試で、ふつうのフォントより覚えやすくはなりませんでした。25本の論文をまとめた分析でも、思い出す成績の差はほぼゼロ(効果量−0.01)でした。
読みにくいと感じるなら、頭はしっかり働いているのでは?
読みにくさは感じても、それが記憶につながるとは限りません。ある研究では、参加者はそのフォントを読みにくいと評価したのに、覚えた量は同じか、かえって少ないこともありました。手ごたえではなく、翌日の小テストの結果で判断するのが確実です。
効果が出た研究もあるのでは?
あります。高校の授業で効果が出たという2011年の報告や、テストがあると知らされていない条件でだけ効果が出た実験です。ただ、後者の著者自身も、テストを意識しない状態は実際の勉強では作りにくいと書き、ほかの裏づけのある方法をすすめています。
小さい字や手書きの崩れた字も同じ?
文字を小さくする、ぼかすなど、ほかの読みにくくする方法も結果はまちまちです。ぼかした単語が後で見分けやすくなった実験もありますが、テストを予告しない1語ずつの実験室の課題でした。教材の字は読みやすいままにし、難しさは思い出す練習に入れるほうが確実です。
出典
- Diemand-Yauman, C., Oppenheimer, D. M., & Vaughan, E. B. (2011). Fortune favors the bold (and the italicized): Effects of disfluency on educational outcomes. Cognition, 118(1), 111–115. https://doi.org/10.1016/j.cognition.2010.09.012
- Taylor, A., Sanson, M., Burnell, R., Wade, K. A., & Garry, M. (2020). Disfluent difficulties are not desirable difficulties: The (lack of) effect of Sans Forgetica on memory. Memory, 28(7), 850–857. https://doi.org/10.1080/09658211.2020.1758726
- Geller, J., Davis, S. D., & Peterson, D. J. (2020). Sans Forgetica is not desirable for learning. Memory, 28(8), 957–967. https://doi.org/10.1080/09658211.2020.1797096
- Huff, M. J., Maxwell, N. P., & Mitchell, A. (2022). Distinctive Sans Forgetica font does not benefit memory accuracy in the DRM paradigm. Cognitive Research: Principles and Implications, 7, 102. https://doi.org/10.1186/s41235-022-00448-9
- Cui, L., & Liu, J. (2022). Recognition of studied words in perceptual disfluent Sans Forgetica font. Vision, 6(3), 52. https://doi.org/10.3390/vision6030052
- Geller, J., & Peterson, D. (2021). Is this going to be on the test? Test expectancy moderates the disfluency effect with Sans Forgetica. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 47(12), 1924–1938. https://doi.org/10.1037/xlm0001042
- Meyer, A., Frederick, S., Burnham, T. C., et al. (2015). Disfluent fonts don't help people solve math problems. Journal of Experimental Psychology: General, 144(2), e16–e30. https://doi.org/10.1037/xge0000049
- Xie, H., Zhou, Z., & Liu, Q. (2018). Null effects of perceptual disfluency on learning outcomes in a text-based educational context: A meta-analysis. Educational Psychology Review, 30, 745–771. https://doi.org/10.1007/s10648-018-9442-x(数値は出典5での紹介による)
- Geller, J., Gomez, P., Buchanan, E., & Makowski, D. (2025). A distributional response time analysis of the perceptual disfluency effect. Journal of Cognition, 8(1), 50. https://doi.org/10.5334/joc.469


