教科書の面白い余談やイラストで、かえって頭に入らないのはなぜ?「おもしろい余談」の効果(誘惑的詳細)の研究

コラムの雑学や、楽しいイラストは覚えているのに、肝心の本題が思い出せない。そんな経験は珍しくありません。研究では、面白いけれど本題と関係の薄い話は、本題を思い出す成績を下げることがあるとわかっています。ただし、いつも起きるわけではありません。「これは余談だ」と分かって読むと、害が消えた実験もあります。
3行でわかる
- 面白いが本題と関係の薄い話や絵を「誘惑的詳細(おもしろい余談)」と呼ぶ。39研究のまとめでは、余談がある方が本題を思い出す成績も応用問題の成績も低い傾向だった。
- ただし同じまとめで、効果をはっきり支持した研究は11本だけで、15本は支持しなかった。実際の大学の授業754人では差が出なかった。
- 余談を本題と思い込むと、そこに時間と注意をとられる。「関係ない」と分かって読んだ人は、余談のない人とほぼ同じくらい本題を思い出せた。
01 悩みの正体面白い余談は、なぜ本題を邪魔する?
余談を「大事な部分」と思って読むと、そこに時間と注意を使い、余談を中心に理解を組み立ててしまうからだと考えられています。本題の筋道が後ろに押しやられます。
教科書や講座には、読者を飽きさせないためのコラムや雑学、写真がよく入っています。研究では、こうした「面白いが学ぶ目的には関係が薄い情報」を誘惑的詳細(seductive details)と呼びます。この記事では「おもしろい余談」と言い換えます。
なぜ邪魔になるのか。研究者は主に3つの説明を考えてきました。
- 気をそらす: 余談に目と注意が向き、本題の大事な所を拾い損ねる。
- 流れを切る: 余談が本題のあいだに割り込み、話のつながりが途切れる。
- まちがった軸を作る: 余談を大事な話だと思い込み、余談を中心に理解を組み立ててしまう。
最近の実験では、3つ目の「まちがった軸を作る」説明が最も支持されています[2]。つまり問題は、余談がそこにあること自体より、余談を本題として扱ってしまうことにありそうです。
02 科学的にわかっていること余談で本当に成績は下がる?
平均すると下がる傾向がありますが、研究によって結果がばらつきます。余談の扱い方しだいで、害がほぼ消えた実験もあります。
Rey(2012)のメタ分析(Tislarらの紹介より)[1][6]
39の研究をまとめた分析です。本題を思い出す成績では34研究・3,535人で効果量d=0.30、応用問題では21研究・1,634人でd=0.48と、余談がある方が成績が低い傾向でした。一方で、研究を1本ずつ数えると、効果を支持したのは11本、結果が混ざったものが13本、支持しなかったものが15本でした。
対象: 余談あり・なしの教材をくらべた39研究 / 限界: この記事は元の論文を直接読めず、数値はTislarとSteelman(2021)の紹介による。dは差の大きさの目安で、0.30は小さめ〜中くらい。Kienitzら(2023)は、学ぶ時間が限られた研究ほど余談の害が大きかったと紹介している[2]。
Kienitzら(2023)[2]
雷のでき方を説明する文章(537語と図4枚)を読ませる実験です。余談なしの人は本題を思い出すテスト(9点満点)で平均2.56点、余談つきで何の説明もない人は1.77点でした。「この部分は学習に関係ない」と伝えられた人は2.48点で、余談のない人とほぼ同じでした。この人たちは余談を読む時間の割合も小さくなっていました。
対象: ドイツでSNSと2大学の名簿から募集した学生など248人(オンライン実験) / 限界: 応用問題の成績では、余談の有無で有意な差は出なかった。1回きりの短い文章での結果。
Wesenbergら(2026)[3]
サンゴ礁のでき方の文章に、サンゴの利用法などの余談を入れました。印のない余談は、応用問題の成績を下げました(d=0.74)。余談を色つきの枠で囲み「本題とは別の話」と示すと、この害は和らぎ、余談なしと差がないとみられる結果でした。また余談があると学習内容への興味が上がり、興味を通じて成績を少し押し上げる道もありました。
対象: ドイツ在住の学生195人(オンライン実験) / 限界: 本題を思い出すテストでは、どの条件にも差がなかった。著者らも、この結果は再現が必要だと書いている。
TislarとSteelman(2021)[1]
地球のプレートの授業で、余談の字数や読みやすさをそろえて厳密にくらべた実験です。余談で成績が下がったのは、学習目標を先に示した条件だけでした。目標を示さない条件では差がありませんでした。著者らは、余談の効果は安定して出にくいと結論しています。
対象: 大学生132人 / 限界: 「目標を示すと余談の害が減る」という予想とは逆の結果で、理由ははっきりしない。
Maloyら(2019)[4]
実際の大学の遺伝学の授業で、予習動画に面白いが学習目標と関係ない短い動画を入れました。小テストの点は、余談なしが平均1.67点、余談ありが1.68点で差がなく、興味や「学べた感じ」も変わりませんでした。
対象: アメリカの大学の遺伝学の授業2つ、754人 / 限界: 余談は動画の中の短い2本程度。教科書を一人で読む場面とは違う。
SanchezとWiley(2006)[5]
理科の文章に、関係の薄い写真・説明に役立つ図・図なしの3種類を用意しました。一度に頭に置いておける量(作業記憶)が小さめの人ほど、関係の薄い写真の害を受けやすい結果でした。目の動きを測ると、こうした人は関係の薄い写真を何度も、長く見ていました。
対象: 実験室で文章を読む2つの実験 / 限界: この記事は要旨を確認した。人数や国は要旨に書かれていない。
研究の結果を、独学で教科書を読む場面に当てはめると次のようになります。右の列は研究の直接の結果ではなく、この記事による当てはめです。
| こんなとき | 研究でわかっていること | 読み方の当てはめ |
|---|---|---|
| コラムや雑学が多い教科書 | 余談を本題と思うと、本題を思い出しにくい[2] | 「余談」と分かる印をつけて読む |
| 試験前で時間がない | 時間が限られた研究ほど害が大きかった[2] | 1回目はコラムを飛ばす |
| 初めて学ぶ難しい分野 | 頭に置ける量が少ない人ほど害を受けやすい[5] | 本題の図を先に見る |
| 勉強がつまらなくて続かない | 余談は興味を高めることがある[3] | 本題を確かめた後のごほうびにする |
ここで紹介した実験の多くは、大学生が短い文章を1回読む課題です。社会人が何か月もかけて教科書を読む独学で、同じ大きさの差が出るとは限りません。
03 今日からできる小さな一歩余談が多い教科書は、どう読めばいい?
余談を消す必要はありません。「これは余談」と分かる印をつけ、本題を思い出せるか確かめてから余談を楽しむ順番にします。
読む前に、コラムや雑学の枠に「余談」と書く
章を開いたら、本題と関係の薄い囲み記事や写真の横に、鉛筆で小さく「余」と書きます。「関係ない」「本題とは別の話」と分かる形で読むと、余談の害が小さくなった実験があります[2][3]。
所要 1章で1〜2分
時間がない日は、1回目はコラムを飛ばす
本題の文章と、説明のための図だけを先に読みます。余談は章の終わりにまとめて読みます。
所要 いつもの読書時間のまま
本を閉じて、本題を3つ書き出す
章を読み終えたら、何も見ずに要点を3つ書きます。思い出せるのが余談ばかりなら、本題の段落を読み直す合図です。思い出す練習のやり方は読み返すより思い出す練習の記事にあります。
所要 3分
04 続けるためのコツ余談とは、どう付き合えばいい?
余談は「敵」ではなく、置く場所を変えるものと考えます。興味を保つ役には立つので、本題の後のごほうびとして残すのが研究に合っています。
- 余談をすべて避ける必要はありません。実際の授業では差が出なかった研究もあり[4]、興味を上げる働きもあります[3]。
- 蛍光ペンで線を引くときも、面白い所ではなく本題の筋に引きます。線の引き方は蛍光ペンの研究の記事を参考にしてください。
- 読み終えても頭に残っていない気がするときは、「読んだつもり」を見分ける理解度チェック表で、読み直す章を決められます。
- 余談に限らず、気づいたら字を追っていただけ、ということが多いなら、読書中の「心ここにあらず」からの立て直し方が使えます。
05よくある質問
教科書のコラムや余談は読まない方がいい?
読まなくていいとまでは言えません。害が出なかった研究も多く、実際の大学の授業754人の研究では、余談の動画を入れても小テストの点は変わりませんでした[4]。本題を思い出せるかを確かめてから、余談は後で楽しむ順番にすると安全です。
面白い話があった方が、やる気が出て覚えやすいのでは?
興味を高める働きはあります。195人の実験では、余談があると学習内容への興味が上がり、それを通じて成績を少し押し上げる道もありました[3]。ただ同じ実験で、印のない余談は応用問題の成績を下げていました。興味の分と、本題が埋もれる分の両方があると考えます。
なぜ「これは余談」と分かるだけで害が減るの?
余談を本題の一部だと思うと、そこに時間をかけ、余談を中心に理解を組み立ててしまうからだと考えられています。248人の実験では、「この部分は学習に関係ない」と伝えた人は余談を読む時間の割合が下がり、本題を思い出す成績が余談のない人とほぼ同じでした[2]。
出典
- Tislar, K. L., & Steelman, K. S. (2021). Inconsistent seduction: Addressing confounds and methodological issues in the study of the seductive detail effect. Brain and Behavior, 11(9), e2322. https://doi.org/10.1002/brb3.2322
- Kienitz, A., Krebs, M.-C., & Eitel, A. (2023). Seductive details hamper learning even when they do not disrupt. Instructional Science. https://doi.org/10.1007/s11251-023-09632-w
- Wesenberg, L., Krieglstein, F., Jansen, S., Schneider, S., & Rey, G. D. (2026). Mitigating the seductive details effect by topic and irrelevance signals. British Journal of Educational Psychology, 96(1), 382-400. https://doi.org/10.1111/bjep.70022
- Maloy, J., Fries, L., Laski, F., & Ramirez, G. (2019). Seductive details in the flipped classroom: The impact of interesting but educationally irrelevant information on student learning and motivation. CBE—Life Sciences Education, 18(3), ar42. https://doi.org/10.1187/cbe.19-01-0004
- Sanchez, C. A., & Wiley, J. (2006). An examination of the seductive details effect in terms of working memory capacity. Memory & Cognition, 34(2), 344-355. https://doi.org/10.3758/bf03193412
- Rey, G. D. (2012). A review of research and a meta-analysis of the seductive detail effect. Educational Research Review, 7(3), 216-237. https://doi.org/10.1016/j.edurev.2012.05.003(本文の数値は[1]の紹介による)


