PDFや画面で教材を読むときのチェック表と記録表。急いで読まない・太字と下線を手がかりに・閉じてから書いて確かめる(紙と画面の読解研究から)

資格のテキストがPDFで配られた。講座の資料はタブレットで読む。紙の本より頭に入っていない気がするけれど、全部を印刷するのも大変です。研究をたどると、画面で不利になりやすい場面はかなり絞られています。時間に追われて説明文を読むときです。この記事では、その場面を避けて画面のまま読むための「読む前・最中・後のチェック表」と、2週間の記録表を作りました。
3行でわかる
- 54の実験をまとめた分析では紙の方が理解がよく、差は時間に追われるときと説明文で大きかった。大学生132人の実験では、時間の短い画面の組だけ理解が下がった。
- 大事な語を太字にし、要点の文に下線を引いた文章では、紙と画面の差がなくなった実験がある(大学生75人)。読み終えて少し時間をおき、キーワードを書く方法でも差が消えた研究がある。
- 表1〜3で読む前・最中・後を確かめ、表4に2週間記録する。画面で要点を書けない教材だけ、紙に回す。
01 この表でできること画面で読むと何が不利になる?
平均すると紙の方が理解はよい傾向です。ただ差が目立つのは、時間に追われて説明文を読むときでした。この表は、その場面を見分け、画面のまま読むときの手順をそろえるためのものです。
画面と紙で理解がちがう理由は、画面で読むと頭に入りにくい理由の記事で紹介しました。この記事はその続きです。「では画面で読むとき、何をすればいいか」を、実験で差が小さくなった条件から表にしました。
表は3つの場面に分けています。読む前(画面で読んでいい場面か)、読んでいる間(手がかりを使えているか)、読んだ後(閉じて書けるか)です。最後の記録表で、自分の教材ではどうかを確かめます。
02 表の根拠になった研究どんなときに差が出て、何で差が消えた?
差が出たのは、時間が短いときや選択肢から選ぶ問題でした。差が消えたのは、太字や下線がある文章、読み終えて少し時間をおいてからキーワードを書いたとき、自分で答えを書く問題のときです。
Delgadoら(2018)[1]
2000〜2017年に行われた54の実験(参加者は合計171,055人)をまとめたメタ分析(多くの研究を統計でまとめる方法)。同じ文章を紙と画面で読んだとき、紙の方が理解がよかった(効果の大きさ g = −0.21)。紙の有利さは、自分のペースで読むときより時間に制限があるときに大きく、物語より説明文で目立った。
対象: 2000〜2017年の54の実験 / 限界: 平均すると小さめの差。物語だけの文章では、はっきりした差はなかった。
DelgadoとSalmerón(2021)[2]
約3,000語の科学雑誌の記事を、紙の雑誌か画面のPDFで読んだ。読む時間は「自由」か「16分30秒」(下見の実験で平均にかかった時間の75%)。時間が短いとき、紙の組は気がそれる回数を減らしたが、画面の組は減らせなかった。理解のテストでは、時間の短い画面の組だけが、ほかの3組より低かった。自由に読んだときは、紙と画面で差がなかった。
対象: スペインの大学生(分析は132人) / 限界: 長い説明文1本での結果。この実験では、点数の見積もりのずれに紙と画面の差はなかった。
Shiら(2020)[3]
中国の大学1年生が、説明文3本を紙か画面で読んだ。手を加えない文章では、理解の点(8点満点)が紙5.18点、画面4.41点で紙が上だった。大事な語を太字にし、要点の文に下線を引いた文章では、紙6.61点、画面6.65点で差がなかった。文章の最後に要点の図を付けた文章でも、差は見られなかった。
対象: 大学1年生75人(紙38人、画面37人) / 限界: 太字・下線と図は、経験のある講師2人が付けたもの。読む人が自分で付けたものではない。
LautermanとAckerman(2014)[4]
画面で学ぶと成績が下がり、自信だけが高くなりやすい、という差をなくす方法を2つ試した。1つは、読んでテストを受ける課題を何回か経験すること。もう1つは、読み終えて時間をおいてから、文章の要点を表すキーワードを書くこと。キーワードを書く方法では、最初の文章から画面の不利がなくなった。
対象: 大学生 / 限界: 課題の経験が効いたのは、主に画面で読むのを好む人だった。キーワードの方法でも、紙を好む人では練習を重ねるうちに画面の不利が戻った。著者らは、効き方は場面と好みで変わるとまとめている。
Wangら(2023)[5]
短い推理の問題を、紙と画面で解いた。選択肢から選ぶ形式では、画面の方が正答が少なく、自信の過大評価も大きかった。答えを自分で書く形式(メモ用紙あり)では、最初の答えの正答率と、自信の見積もりの正確さに差がなかった。ただし最終的な正答率は、どちらの形式でも紙が上だった。
対象: 中国の大学生(実験1は34人、実験2は35人) / 限界: 文章を読む課題ではなく、推理の問題での結果。
ここで紹介した研究の多くは、大学生が1回だけ文章を読む実験です。社会人が何か月もPDFの教材で独学するときに、どれだけ差が出るかを直接調べた研究ではありません。表はこの限界をふまえ、自分の教材で確かめる形にしています。
03 使える表画面で読む前に、何を確かめる?
確かめるのは「説明文か」「時間に追われていないか」「試験の範囲か」の3つです。3つともそろったら、時間を取って読むか、紙に回します。
表1 読む前のチェック。研究で差が大きかった条件を、読む前に見分けるための表です。判断の分け方は研究の結果をもとに、このサイトがまとめました。
| 確かめること | はい | いいえ |
|---|---|---|
| 1 説明文か(仕組み・定義・手順を説明する文章) | 2へ | 画面でよい。物語や読み物では差がはっきりしなかった[1] |
| 2 時間に追われているか(電車の残り5分、昼休みの終わり前など) | 見出しを見るだけにして、本読みは時間を取れるときに回す[1][2] | 3へ |
| 3 試験の範囲で、何度も行き来して読むか | 画面で表2・表3を使う。表4で要点が書けない章が続いたら紙に回す | 画面で表2・表3を使う |
03 つづき画面で読んでいる間は、何をする?
太字・下線・見出しを手がかりに読み、気がそれたら印をつけます。手がかりがない教材は、先に見出しで全体の地図を作ってから読みます。
表2 読んでいる間のチェック。1章ごとに○をつけます。
| やること | 根拠 | ○ |
|---|---|---|
| 読み始める前に、章の見出しと太字の語を1分で拾い読みする | 太字・下線のある文章で、紙との差が消えた[3] | |
| 太字や下線がない教材なら、見出しを書き出して順番の地図を作る | 文章の要点の図を付けた条件でも差がなかった[3] | |
| 「今、別のことを考えていた」と気づいたら、画面の外のメモに正の字で印をつける | 時間が短いとき、画面の組は気がそれる回数を減らせなかった[2] | |
| 同じ章で印が3つ以上ついたら、その段落の頭に戻る | 回数の目安は、このサイトが決めたもの |
見出しで全体をつかむやり方は、読む前に見出しで全体をつかむ記事でくわしく紹介しています。読書中の「心ここにあらず」は、読書中に気がそれる研究の記事も参考になります。
03 つづき読み終えたら、どう確かめる?
画面を閉じ、少し時間をおいてからキーワードを5つ書きます。次に、選択肢ではなく自分の言葉で答える問いを1つ作って答えます。最後に、予想した出来と実際を比べます。
画面を閉じ、別の章を読むか5分休んでから、キーワードを5つ書く
読み終えて時間をおいてからキーワードを書く方法で、画面の不利がなくなった研究があります[4]。すぐに書かず、少しあけるのがポイントです(あける長さは、このサイトの目安です)。
所要 3分
「なぜ」「どう違う」で始まる問いを1つ作り、何も見ずに書いて答える
答えを自分で書く形式では、自信の見積もりのずれに紙と画面の差がなかった実験があります[5]。選択肢の問題集だけで確かめるより、書く問いを1つ混ぜます。
所要 5分
「何割書けたと思うか」を先に書いてから、教材と照らし合わせる
画面では自信が高くなりやすいと報告されてきました[4]。差がなかった実験もありますが[2]、予想と実際の差を表4に残すと、自分の思い込みに気づけます。
所要 3分
03 つづき自分には紙が必要か、どう見分ける?
2週間、表4に教材ごとの結果を記録します。画面で読んだ章だけキーワードが書けない、予想と実際の差が大きい、という傾向が続く教材を紙に回します。
表4 2週間の記録表(1章1行)。記入例は架空のものです。用紙やノートに14行ほど作ります。
| 日付・教材・章 | 紙か画面か | 時間に追われた? | 気がそれた印 | 書けたキーワード(5つ中) | 予想→実際 |
|---|---|---|---|---|---|
| 例 10/1 簿記テキスト3章 | 画面 | はい(昼休み) | 正正 | 2 | 8割→4割 |
| 例 10/2 簿記テキスト3章(読み直し) | 画面 | いいえ | 正 | 4 | 7割→7割 |
| 例 10/3 簿記テキスト4章 | 紙 | いいえ | 丅 | 5 | 8割→8割 |
表5 2週間後の見直し表。研究の数字ではなく、このサイトが表の使い方としてまとめた目安です。
| 表4に出ていること | 次の2週間にすること |
|---|---|
| 「時間に追われた」行だけキーワードが少ない | スキマ時間は見出しの拾い読みと復習に回し、新しい章は時間を取れるときに読む |
| 時間があっても、画面の行だけキーワードが少ない | その教材の試験範囲の章を紙で読み、表4で比べる |
| 紙と画面で差がない | 画面のままでよい。表3の確かめだけは続ける |
| 予想と実際の差が、いつも大きい | 表3の手順3を毎回入れる。予想を書くまで教材を開かない |
| 気がそれた印が多い | 通知を切り、画面の分け方を見直す(画面の仕分け表) |
04 続けるためのコツ毎回すべての表を使わないといけない?
いいえ。表1と、表3の手順1だけでも十分に始められます。表4は最初の2週間だけつけ、紙に回す教材が決まったらやめてかまいません。
- まず1冊だけで試す。 一番よく使う教材1冊で表4をつけると、比べやすくなります。
- 印刷は章単位で。 表5で「画面だと書けない」とわかった章だけ紙にすると、手間も紙も少なくすみます。
- キーワードは教材の言葉でなくてもいい。 自分の言葉で書けたものも1つと数えます。
- 読み返しで終わらせない。 書けなかった所を読み直したら、翌日もう一度、閉じて書きます(読む・思い出す・見直すの3段の表)。
05よくある質問
PDFの教材は、全部印刷したほうがいいですか?
全部でなくてかまいません。紙との差が出やすかったのは、時間に追われて説明文を読むときでした[1]。自分のペースで読むときは、理解に差が出なかった実験もあります[2]。試験範囲の説明文で、画面だと表4のキーワードが書けない章から印刷するのが、むだの少ない順番です。
自分で引いたマーカーでも、太字や下線と同じ効果がありますか?
同じとは言えません。差が消えた実験の太字と下線は、経験のある講師が大事な語と文を選んで付けたものでした[3]。読む人が自分で線を引く場合は、線を引くだけでは理解は深まりにくいとされています(蛍光ペンの研究の記事)。
画面で読むときは、どうして時間に追われると不利なのですか?
大学生132人の実験では、紙で読んだ人は時間が短いと気がそれる回数を減らしていましたが、画面で読んだ人は減らせていませんでした。その結果、時間が短い画面の組だけ理解が低くなりました[2]。急いで読むときほど、画面だと集中を高めにくい可能性があります。
出典
- Delgado, P., Vargas, C., Ackerman, R., & Salmerón, L. (2018). Don't throw away your printed books: A meta-analysis on the effects of reading media on reading comprehension. Educational Research Review, 25, 23–38. https://doi.org/10.1016/j.edurev.2018.09.003
- Delgado, P., & Salmerón, L. (2021). The inattentive on-screen reading: Reading medium affects attention and reading comprehension under time pressure. Learning and Instruction, 71, 101396. https://doi.org/10.1016/j.learninstruc.2020.101396
- Shi, Z., Tang, T., & Yin, L. (2020). Construction of cognitive maps to improve reading performance by text signaling: Reading text on paper compared to on screen. Frontiers in Psychology, 11, 571957. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.571957
- Lauterman, T., & Ackerman, R. (2014). Overcoming screen inferiority in learning and calibration. Computers in Human Behavior, 35, 455–463. https://doi.org/10.1016/j.chb.2014.02.046
- Wang, X., Chen, L., Liu, X., Wang, C., Zhang, Z., & Ye, Q. (2023). The screen inferiority depends on test format in reasoning and meta-reasoning tasks. Frontiers in Psychology, 14, 1067577. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1067577


