「思い出す練習」が、数学の文章題のような解き方の勉強では効きにくいのはなぜ?教材の複雑さと「テスト効果」の研究

「読み返すより、思い出す練習(自分でテストする勉強)の方が身につく」。そう聞いて、数学の文章題や計算問題でも、例題を1回読んだらすぐ自力で解くようにした。なのに、思ったほど伸びない。それはやり方が下手だからとは限りません。研究では、新しい解き方を学び始めた段階では、思い出す練習の効果が出にくい場面があることがわかってきています。
3行でわかる
01 悩みの正体思い出す練習が効かない勉強はある?
あります。新しい種類の問題の解き方を、例題から学び始めた段階です。この場面では、例題の直後に自力で解いても、例題をもう1つ読むのと成績が変わらない実験がいくつも報告されています。
思い出す練習の効果は、勉強法の研究の中でも確かめられている方です。Chenらのレビュー[1]によれば、研究をまとめた2つのメタ分析では、全体の効果量が0.50と0.56でした。読み返しとの違いは、思い出す練習と読み返しの記事で紹介しています。
ただ、こうした研究の多くは、単語や文章の内容を覚える課題で行われてきました。一方、文章題の式を立てる、回路の故障を見つけるといった「解き方」を学ぶ課題では、結果が割れています[1]。
研究者が注目しているのは、教材の中で同時に頭に置いておかなければならない要素の数です(「要素の相互作用」と呼ばれます)。単語は1語ずつ覚えられます。でも文章題では、条件Aと条件Bと求めるものを、同時に関係づけないと先に進めません。
02 科学的にわかっていること例題の後にすぐ解くのと、もう1問例題を読むのでは、どちらが身につく?
新しい解き方を学ぶ実験では、差が出ないか、例題を読んだ方がよい結果が多く報告されています。一方、文章で学んだ考え方を新しい場面に当てはめる課題では、思い出す練習の方が成績がよくなりました。
Chenら(2018)[1]
思い出す練習などの「あえて難しくする勉強法」が、なぜ効かない場面があるのかをまとめたレビュー。例題の後に問題を解く群と、例題を続けて読む群を比べた実験では、教材が単純だとテスト効果が出たが、複雑だと差がないか、例題を読む群の方がよかった。小学生にバスの時刻表の読み方を教えた実験では、2つの実験で例題を読む群の方が成績がよく、1週間後のテストでもテスト効果は見られなかった。
対象: 過去の実験のまとめ(小学生〜大学生、時刻表・電気回路の故障診断・幾何など) / 限界: 説を提案した研究者自身によるレビューで、「複雑さ」の程度は数値で測られていない。
Huangら(2023)[2]
中国の大学生に、小学6年生向けの算数オリンピックの文章題(牛が草を食べる問題)の解き方を、例題から学んでもらった。例題を読み直す群と、例題の後に似た問題を解く群を比べたが、5分後でも1週間後でも、3つの実験すべてで成績に差は出なかった。1つ目の実験の1週間後のテストでは、問題を解いた群が平均3.35点、例題を読み直した群が3.94点だった(差は統計的に意味のある大きさではない)。
対象: 大学生(分析した人数は実験ごとに120人・111人・62人) / 限界: 著者ら自身が、教材の複雑さに決まった物差しがないこと、学ぶ時間が短かったことを限界に挙げ、「効果がないかもしれない」という控えめな結論にとどめている。
van Eerselら(2016)[3]
オランダの大学生に説明文を読ませ、読み返す群と、思い出す問題に答える群を比べた。1週間後、習った考え方を別の分野に当てはめる問題で、正答率は思い出す練習の群が59%、読み返しの群が41%だった(効果量d=0.97)。ただ、読み返した後に要点の文も読んだ群と比べると、差はかなり小さくなった(それでも思い出す練習の方が上だった)。
対象: 心理学を学ぶ大学生(56人と54人の2つの実験) / 限界: 実験室での短い課題。差の一部は「答え合わせで要点を目にしたこと」によると著者らは述べている。
Moreiraら(2019)[4]
実際の授業で行われた思い出す練習の研究23件をまとめたレビュー。全体としては授業でも効果が見られた。確率の計算を文章で学んだ高校生の研究では、1週間後、用語を問う問題でも、考え方を新しい場面に当てはめる問題でも、思い出す練習が読み返しより成績がよかった。
対象: 小学生から医学生までの授業研究23件 / 限界: 比べた相手の多くは読み返しか何もしない群で、ほかの工夫した勉強法より効くかはまだわからないと著者らは書いている。
4つをまとめると、次の表のようになります。
| 学ぶもの | 比べたもの | 結果 |
|---|---|---|
| 新しい解き方(例題から。時刻表・回路・文章題など) | 例題の後に解く/もう1つ例題を読む | 差なし、または例題を読む方がよい結果が多い[1][2] |
| 文章で学ぶ考え方(別の場面への当てはめ) | 思い出す/読み返す | 思い出す方がよい[3] |
| 文章で学ぶ確率の考え方(授業) | 思い出す/読み返す | 思い出す方がよい[4] |
| 単語・事実・文章の内容 | 思い出す/読み返す | 思い出す方がよい(多くの研究)[1][4] |
02 つづきなぜ複雑な解き方だと、思い出す練習が効きにくい?
有力な説は、頭の作業スペース(作業記憶)が足りなくなるからです。複雑な解き方は、1回読んだだけではまだ半分しか理解できていません。その状態で解こうとすると、思い出す以前に、手順を組み立てるだけで頭がいっぱいになります。
Chenらのレビュー[1]は、複雑な内容を理解するには教材に何度も目を通す必要があり、1回目の後はまだ一部しかわかっていない、と説明しています。だからこの段階では、テストよりも、例題をもう1つ見る方が役に立つというわけです。
大事なのは、「複雑さ」は教材だけで決まらない点です。同じ文章題でも、慣れた人にとっては同時に考える要素が少なくなります[1]。予備知識しだいで勉強法の向き不向きが入れ替わる話は、人に効いた勉強法が自分に合わない理由の記事でも紹介しました。
なお、紹介した実験の多くは、大学生や小中学生が短い時間で学ぶものです。何か月も続く社会人の独学で同じ結果になるかは、確かめられていません。
03 今日からできる小さな一歩数学や解き方の勉強では、思い出す練習をどう使う?
新しい種類の問題は、まず例題を2つ読んで流れをつかみ、それから例題を閉じて解きます。公式・用語・手順の名前は、最初から思い出す練習で覚えます。
初めての型は、例題を2つ続けて読む
1つ目を読んだら、すぐに自力で解かず、似た例題をもう1つ読みます。2つの例題で何が同じかを1行で書きます。
所要 10分
流れが追えたら、例題を閉じて1問解く
例題の各行が「なぜそうするのか」言えるようになったら、例題を閉じて似た問題を解きます。手が止まったら例題に戻ってかまいません。
所要 10〜15分
公式・用語・手順の順番は、カードで思い出す
1つずつ覚えられる内容は、思い出す練習が効きやすい種類です。表に問い、裏に答えを書いて、翌日に答えを隠して言ってみます。
所要 5分
04 続けるためのコツいつ例題を読むのをやめて、解く練習に切り替える?
例題を見なくても、解き方の流れを口で説明できるようになったときが目安です。慣れるほど、同じ問題でも頭の負担が軽くなり、自力で解く練習の方が向いてきます。
- 白紙で何も書けないなら、まだ例題の段階。思い出せなかった後の立て直し方は、思い出す練習で何も出てこないときの記事にまとめています。
- 例題の読み方にもコツがある。読むだけで終えず、1行ずつ理由を考えるやり方は、例題(解答例)で勉強するやり方の記事で紹介しています。
- 最後は必ず、例題なしで解く。例題だけで終えると、自分で解けるかは確かめられません。全部を自力で見つけようとするのも遠回りです(解き方を自分で見つける勉強の記事)。
05よくある質問
数学の勉強に、思い出す練習は使わない方がいい?
使わない方がいいわけではありません。公式や用語、解き方の手順を思い出す練習は役に立つと考えられます。差が出にくかったのは、新しい種類の問題を例題1つ読んだ直後に、すぐ自力で解く場面です。その段階では、先に例題をもう1つ読む方が無理がありません。
「複雑な教材」かどうかは、どう見分ける?
研究でも、はっきりした物差しはまだありません。目安は、いくつもの要素を同時に頭に置かないと1歩も進めないかどうかです。単語や年号のように1つずつ覚えられるものは単純、文章題の式を立てるように複数の条件を組み合わせるものは複雑と考えられています。同じ問題でも、慣れた人には単純になります。
例題ばかり読んでいると、わかったつもりにならない?
なりやすいので、順番が大切です。例題で解き方の流れが追えるようになったら、例題を閉じて似た問題を解きます。最初から最後まで例題を読むだけで終えると、本番で自分の手で解けるかどうかは確かめられません。
出典
- Chen, O., Castro-Alonso, J. C., Paas, F., & Sweller, J. (2018). Undesirable difficulty effects in the learning of high-element interactivity materials. Frontiers in Psychology, 9, 1483. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.01483
- Huang, X., Zheng, S., Yu, Z., & Chen, S. (2023). Retrieval practice may not benefit mathematical word-problem solving. Frontiers in Psychology, 14, 1093653. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1093653
- van Eersel, G. G., Verkoeijen, P. P. J. L., Povilenaite, M., & Rikers, R. (2016). The testing effect and far transfer: The role of exposure to key information. Frontiers in Psychology, 7, 1977. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2016.01977
- Moreira, B. F. T., Pinto, T. S. S., Starling, D. S. V., & Jaeger, A. (2019). Retrieval practice in classroom settings: A review of applied research. Frontiers in Education, 4, 5. https://doi.org/10.3389/feduc.2019.00005


