勉強の計画が毎回倒れるのはなぜか。計画錯誤の研究でわかったこと

「今週で1章終わらせる」と決めたのに、気づけば半分も進んでいない。それはあなたの意志が弱いからではありません。人は自分の作業時間を短く見積もる傾向があり、心理学では「計画錯誤」と呼ばれています。過去の実績を基準にし、作業を細かく分けると、見積もりは現実に近づきます。
3行でわかる
- 人は自分の作業時間を短く見積もりがち。卒業論文の研究では、予測33.9日に対して実際は55.5日かかった。
- 原因の1つは、予測するとき目の前の計画だけを思い描き、過去の遅れを参考にしないこと。
- 過去に実際かかった時間を基準にする、作業を細かく書き出す。この2つで見積もりのずれは小さくできる。
01なぜ「今度こそ」の計画も倒れるのか
計画を立てるとき、人は「うまく進む流れ」を頭の中で描きます。前回も遅れたという記憶は、なぜか今回の予測に使われにくいのです。
自分の作業にかかる時間を短く見積もる傾向を「計画錯誤」と呼びます。英語では planning fallacy です。
ポイントは、過去の遅れを知らないわけではないことです。後で紹介する実験では、学生の多くが「いつも締め切りの約1日前に終える」と自覚していました。それでも予測は楽観的になりました。
Kahneman と Lovallo(1993)は、これを「内側からの見方」と説明しています。目の前の計画や筋書きを土台に予測すると、楽観的になりやすいということです。似た作業の過去の実績から見る「外側からの見方」は、つい後回しにされます。
02科学的にわかっていること
見積もりが短くなる傾向は、論文から日常の課題まで繰り返し確認されています。過去の経験を今回の予測に結びつけると、楽観的なずれは消えました。
Buehlerら(1994) 研究1[1]
卒業論文を書いている大学生に提出日を予測してもらった。予測は平均33.9日、実際は平均55.5日。予測どおりに終えたのは29.7%だった。
対象: カナダのウォータールー大学で心理学を学ぶ37人(分析は提出を確認できた33人) / 限界: 1つの大学・1種類の課題での結果。
この研究では、3種類の予測を聞いています。結果を表にまとめました。
| 聞き方 | 予測 | 予測までに終えた人 |
|---|---|---|
| すべてうまくいったら | 27.4日 | 10.8% |
| いちばん正確な予測 | 33.9日 | 29.7% |
| すべてうまくいかなかったら | 48.6日 | 48.7% |
実際にかかったのは平均55.5日。「最悪の場合」を想定した予測でも、期限内に終えたのは半分に届きませんでした[1]。
Buehlerら(1994) 研究4[1]
約1時間のパソコン課題で、過去の似た課題をいつ終えたかを思い出し、今回の予測に結びつけた組は、予測時間内に終えた人が60.0%。何も指示しない組は29.3%だった。思い出すだけの組は38.1%だった。
対象: カナダの大学生123人 / 限界: 予測の偏りは消えたが、予測と実際のずれの大きさ自体は組によって大きく変わらなかった。
Kruger と Evans(2004)[2]
年末の買い物や書類の整形などの作業で、やることを細かく書き出してから予測した人は、所要時間を長く見積もった。一部の実験では、その見積もりの方が実際に近かった。作業が複雑なほど効果が大きかった。
対象: 5つの実験の参加者 / 限界: 実際の時間に近づいたのは、5つのうち2つの実験だった。
Hadjichristidisら(2014)[4]
細かく分けて示す内容によっては、見積もりが逆に短くなることもあった。短く済みそうな一部の作業だけが目立つと、全体を短く見てしまう。
対象: イタリアとイギリスの大学で集めた参加者(3つの研究) / 限界: 研究者が分けた作業を示す方法で、自分で書き出す方法とは違う。
どれも大学生の短い課題が中心です。何か月も続く社会人の独学で、同じ大きさの効果が出るとは限りません。
03今日からできる小さな一歩
計画を立てる前に、まず過去の実績を確かめましょう。次に、やることを全部書き出します。気合いで予定を詰めるより、ずれは確実に小さくなります。
前回、同じ量にかかった時間を確かめる
「問題集10ページに実際何日かかったか」を記録やメモから探します。記録がなければ、今週から日付と進んだ量を1行メモします。
所要 5分
やることを、ひとつ残らず書き出す
「1章を終える」ではなく「読む・例題を解く・間違いを直す・復習する」と分けて、それぞれの時間を書きます。見落としやすい作業ほど書き出す意味があります。
所要 10分
締め切りは「過去の実績」に合わせて置く
頭の中の予想と過去の実績がずれたら、実績の方を採用します。前回1.5倍かかったなら、今回も1.5倍で予定を組みます。
所要 3分
04続けるためのコツ
見積もりの精度は、自分の記録がたまるほど上がります。計画が倒れたら、責めずに「次の見積もりの材料が増えた」と考えましょう。
- 毎回の勉強の終わりに、進んだ量と時間を1行だけ書く。
- 復習の時間も最初から計画に入れる。間をあけた復習や思い出す練習は、後から足すと予定があふれやすい。
- 計画が遅れたら、残りを細かく分け直して予定を引き直す。
05よくある質問
計画錯誤とは何ですか?
自分の作業にかかる時間を、実際より短く見積もってしまう傾向のことです。Buehlerら(1994)の研究では、卒業論文の提出日を予測した大学生が平均33.9日と答え、実際には平均55.5日かかりました。
最悪のケースを想定して計画すれば間に合いますか?
それだけでは足りないことがあります。同じ研究で「すべてがうまくいかなかった場合」の予測でも、期限内に終えた人は48.7%でした。最悪を想像するより、過去に実際どれだけかかったかを基準にする方が確実です。
計画が倒れるのは意志が弱いからですか?
意志の問題というより、見積もり方の問題です。人は予測するとき、目の前の計画の流れを思い描き、過去の遅れを参考にしにくいことが研究で示されています。見積もりの手順を変えれば、ずれは小さくできます。
勉強法の早見表で「過去の実績から勉強時間を見積もる」の判定を見る
ほかの勉強法も22種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (1994). Exploring the “planning fallacy”: Why people underestimate their task completion times. Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 366–381. https://doi.org/10.1037/0022-3514.67.3.366
- Kruger, J., & Evans, M. (2004). If you don’t want to be late, enumerate: Unpacking reduces the planning fallacy. Journal of Experimental Social Psychology, 40(5), 586–598. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2003.11.001
- Kahneman, D., & Lovallo, D. (1993). Timid choices and bold forecasts: A cognitive perspective on risk taking. Management Science, 39(1), 17–31. https://doi.org/10.1287/mnsc.39.1.17
- Hadjichristidis, C., Summers, B., & Thomas, K. (2014). Unpacking estimates of task duration: The role of typicality and temporality. Journal of Experimental Social Psychology, 51, 45–50. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2013.10.009


