やる気はあるのに、勉強に手がつかないのはなぜ?「やろうと思ったのにやらない」意図と行動のギャップの研究

「今日こそ勉強する」と朝に決めたのに、夜になっても机に向かえなかった。やる気はあるのに、なぜか手がつかない。これは意志が弱い人だけに起きることではありません。研究では、やろうと思ったことの多くが実行されないことが、くり返し確かめられています。「意図と行動のギャップ」と呼ばれる現象です。
3行でわかる
- 運動の研究10本(3,899人)をまとめると、やろうと思っていた人の46%が実行できていなかった。思っていなかった人が実行したのは2%だけで、ずれのほとんどは「やる気はあったのにやらなかった」人だった。
- 47の実験をまとめた研究では、やる気を中〜大きく強めても、行動の変化は小〜中くらいにとどまった。やる気だけでは、行動は半分ほどしか動かない。
- 目標が難しいほど、やる気は行動を予測しにくくなる。「勉強する」という大きな決意を、今日できる小さな行動に言い換えることが出発点になる。
01 悩みの正体やる気があっても勉強しないのはなぜ?
「やろう」という気持ち(意図)と、実際の行動の間には、もともと大きなずれがあるからです。やる気は行動の出発点ですが、それだけで行動が決まるわけではありません。
心理学では、「〇〇しよう」という気持ちを「意図」と呼びます。多くの理論は、意図が行動を生むと考えてきました。
ところが、意図があっても行動しない人がとても多いことがわかってきました。研究者はこのずれを「意図と行動のギャップ」と呼んでいます[3]。
大事なのは、ずれの中身です。ずれのほとんどは、「やる気はあったのに、やらなかった」人から生まれていました。反対に、やる気がなかったのに行動した人は、ごくわずかでした[2][3]。
02 科学的にわかっていることやろうと思ったことは、どのくらい実行されない?
運動の研究では、やろうと思っていた人のおよそ半分が実行できていませんでした。実験でやる気を強めても、行動の変化はその半分ほどでした。勉強そのものを調べた研究は少ないものの、オンライン講座でも同じずれが見られます。
RhodesとDe Bruijn(2013)[2]
運動についての研究10本(合計3,899人)をまとめた。やろうと思っていて実行した人は42%、思っていたのに実行しなかった人は36%だった。思っていなかった人が実行したのは2%だけ。やろうと思っていた人のうち46%が実行できていなかった。
対象: 10本の研究の3,899人 / 限界: 運動(国の推奨量)についての研究で、勉強ではない。
WebbとSheeran(2006)[1]
やる気(意図)を実験で強めて、その後の行動を比べた47の実験をまとめた。意図の変化は中〜大(効果量d=0.66)だったのに、行動の変化は小〜中(d=0.36)だった。やる気を変えると行動も変わるが、やる気の変化の約半分しか行動に表れなかった。
対象: 健康や社会的な行動の47の実験 / 限界: 勉強に絞った分析ではない。効果量は研究ごとの条件で変わる。
ConnerとNorman(2022)[3]
ずれの大きさを左右する条件をまとめたレビュー。目標が難しいほど、意図は行動を予測しにくくなる。より現実的な意図ほど、行動をよく予測した。時間がたっても揺らがない意図も、行動につながりやすかった。
対象: これまでの研究のまとめ(運動が中心) / 限界: 新しいデータを集めた研究ではない。
Kizilcecら(2020)[4]
ハーバード大学・MIT・スタンフォード大学のオンライン講座247コース、約27万人(269,169人)で、続けるための工夫を試した。論文の冒頭では、修了するつもりの受講者でも修了率は約20%と紹介されている。「いつ・どう取り組むか」を書いてもらう工夫で、修了率はほとんど上がらなかった。自分を管理する工夫は、最初の数週間の取り組みを増やしたが、最後の修了率は上げなかった。
対象: 世界中のオンライン講座の受講者 / 限界: 1回のアンケートの中の短い工夫で、受講者が自分で続けた工夫ではない。
ここで紹介した数字の多くは運動の研究です。勉強は運動と違い、内容が難しくなる・試験日が決まっているなどの事情もあります。そのまま当てはまるとは限りませんが、オンライン講座の研究からも、勉強で同じずれが起きていることがうかがえます。
03 今日からできる小さな一歩意図と行動のずれを小さくするには?
「勉強する」という大きな決意を、今日できる小さな行動の1文に言い換えます。難しい目標ほど行動につながりにくいので、最初は確実にできる量に下げます。
「勉強する」を、行動の1文に書き直す
「英語をがんばる」ではなく、「夕食のあと、机で単語カードを20枚めくる」のように、いつ・どこで・何をするかを書きます。「もし〜したら、〜する」と決めておく方法も使えます。
所要 2分
量を「確実にできる」ところまで下げる
難しい目標ほど、やる気が行動につながりにくくなります[3]。疲れた日でもできる量(10分、1ページなど)を最低ラインにします。目標を高くするか小さく刻むかの記事も参考になります。
所要 1分
できなかった日は「どこで止まったか」を1行書く
「始められなかった」「始めたけれどスマホに流れた」など、止まった場所を書きます。原因が「やる気」ではなく、時間・場所・量のどれかに見えてくることがあります。
所要 1分
04 続けるためのコツ「やろうと思ったのにやらない」日が続いたら?
自分を責めるより、目標の大きさと始めるきっかけを見直します。やろうと思った人のおよそ半分が実行できないのは、多くの人に起きることです。
- やる気を高める工夫(動画を見る、目標を眺める)だけに時間を使わない。やる気が上がっても、行動はその約半分しか動かない[1]。
- 決めた行動が3日続けてできなかったら、量を半分にする。
- 何日も止まってしまったときは、勉強を再開する方法を見る。
- 意志の力に頼らない環境づくりは、自制心と環境づくりの記事にまとめています。
05よくある質問
「やる気」を高めれば、勉強は続くようになる?
少しは動きますが、やる気の分ほどは動きません。47の実験をまとめた研究では、やる気(意図)を中〜大きく変えても、行動の変化は小〜中くらいにとどまりました。やる気に加えて、「いつ・どこで・何を」を決める工夫が要ります。
勉強の計画を書くだけで、オンライン講座を最後までやり切れる?
書くだけでは足りないことがあります。約27万人のオンライン講座の実験では、いつ・どう取り組むかを書いてもらう工夫で、修了率はほとんど上がりませんでした。始めた後も、記録や見直しで支えることが大切です。
勉強しようと思っていたのにできなかった自分は、意志が弱い?
そうとは限りません。運動の研究では、やろうと思っていた人のおよそ半分が実行できていませんでした。多くの人に起きることなので、自分を責めるより、目標の大きさや始めるきっかけを見直す方が役に立ちます。
出典
- Webb, T. L., & Sheeran, P. (2006). Does changing behavioral intentions engender behavior change? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 132(2), 249-268. https://doi.org/10.1037/0033-2909.132.2.249
- Rhodes, R. E., & de Bruijn, G.-J. (2013). How big is the physical activity intention-behaviour gap? A meta-analysis using the action control framework. British Journal of Health Psychology, 18(2), 296-309. https://doi.org/10.1111/bjhp.12032
- Conner, M., & Norman, P. (2022). Understanding the intention-behavior gap: The role of intention strength. Frontiers in Psychology, 13, 923464. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2022.923464
- Kizilcec, R. F., Reich, J., Yeomans, M., Dann, C., Brunskill, E., Lopez, G., Turkay, S., Williams, J. J., & Tingley, D. (2020). Scaling up behavioral science interventions in online education. Proceedings of the National Academy of Sciences, 117(26), 14900-14905. https://doi.org/10.1073/pnas.1921417117


