「なぜ?」と問いながら読むと覚えやすいのか。精緻化質問の研究

テキストを読んでも、書いてある事実がなかなか頭に残らない。そんなとき、事実の1つ1つに「なぜそうなる?」と問いかけて、自分で答えてみる方法があります。研究では「精緻化質問」と呼ばれ、ただ読むより覚えやすくなることが繰り返し確かめられています。ただし、もともと知識のある分野ほど効きやすいという条件つきです。
3行でわかる
- 書いてある事実に「なぜ本当なのか」と問い、自分で答える勉強法を「精緻化質問」と呼びます。
- 254の効果量をまとめたメタ分析では、効果はd = 0.56で中くらいでした。大規模なレビューの評価も「中程度に有用」です。
- 知識が少ない分野では効果が小さくなりやすいので、答えに詰まったら教科書で確かめながら使います。
01読んだ事実が残らないのは、つながりがないから
事実をばらばらのまま読むと、ほかの知識とつながらず、思い出す手がかりが残りにくくなります。「なぜ?」と問うのは、その事実を自分の知っていることに結びつける作業です。
研究で使われた教材には、「ニシマダラスカンクの巣穴は、作物の近くの砂地の農地にあることが多い」のような事実が並んでいます。読んだだけでは、すぐに忘れてしまいがちです。
そこで「なぜこのスカンクは、ほかの動物と違って作物の近くに巣穴を作るのか」と問いかけます。答えを考えるとき、あなたはすでに知っていることを引っぱり出しています。この結びつきが、あとで思い出す手がかりになると考えられています[1]。
よく似た方法に「自己説明」があります。こちらは、新しい内容が前に習ったこととどうつながるか、問題を解く手順がなぜそうなるかを自分に説明する方法です。違いは下の表のとおりです。自己説明については自己説明とAIの説明を比べた記事で詳しく紹介しています。
| 精緻化質問 | 自己説明 | |
|---|---|---|
| 何を説明する | 書いてある事実1つ1つが「なぜ本当か」 | 新しい内容と知っていることのつながり、問題を解く手順 |
| 向いている教材 | 事実が並ぶ文章(歴史・生物・制度など) | 例題・解き方・理屈を追う教材(数学・物理など) |
| 問いの形 | 「なぜこれはAに当てはまり、Bには当てはまらない?」 | 「この手順はなぜ必要?」「前に習ったこととどうつながる?」 |
| メタ分析の効果量 | d = 0.56(254の効果量) | d = 0.54(93の効果量) |
定義はDunloskyら(2013)[1]、効果量はDonoghue・Hattie(2021)[2]より。2つの研究は「関係は深いが、ほぼ別々に発展してきた」とされています。
02科学的にわかっていること
「なぜ?」と問いながら読むと、ただ読むより事実を覚えやすいことが、メタ分析とレビューで確かめられています。効果は中くらいで、知識のある分野ほど大きくなりやすい傾向があります。
Dunloskyら(2013)[1]
10種類の勉強法を評価した大規模なレビューで、精緻化質問は「中程度に有用」と評価されました。小学校高学年から大学生まで、幅広い題材で効果が確認されています。高い評価にならなかったのは、教室での研究や長期間の研究がまだ少ないためです。
対象: 既存研究のレビュー / 限界: ほとんどの研究は、学習の直後か数分後にテストをしています。理解や応用の力まで伸びるかは、まだはっきりしません。
Donoghue・Hattie(2021)[2]
Dunloskyらが挙げた10の勉強法の研究をまとめたメタ分析です。精緻化質問は254の効果量・2,138人で、効果はd = 0.56でした。学校段階別では、小学生0.38、中高生0.71、大学生0.58でした。
対象: 2014年までに出版された研究 / 限界: 研究どうしの結果のばらつきが大きく(I² = 78%)、2014年より後の研究は含まれていません。
Pressleyら(1987)[3]
「おなかのすいた男が車に乗った」のような文を大学生が覚える実験。「なぜその男はそうしたのか」を自分で考えたグループは、正答率がおよそ72%でした。説明を読んだだけのグループと、文を読んだだけのグループは、どちらもおよそ37%でした。
対象: 大学生(複数の実験をまとめた数値。Dunloskyら[1]の要約による) / 限界: 人工的な短い文を覚える課題で、実際の教科書とは違います。
Woloshynら(1992)[4]
カナダとドイツの学生が、カナダの州とドイツの州についての事実を学びました。精緻化質問による伸びは、よく知っている自国の州で24%、なじみの薄い他国の州で12%でした。知識がある分野ほど、効果が大きくなっていました。
対象: カナダとドイツの学生(Dunloskyら[1]の要約による) / 限界: レビューの著者は、知識の少ない人への効果は「はっきりしない」としています。
Smithら(2010)[5]
大学の生物学の授業で、教科書の消化の章を読む実験。約150語に1回「なぜこれは本当か」と問う21の質問を入れたグループは、105問の正誤テストで76%正解しました。質問なしで読んだグループは69%でした。かかった時間は32分と28分で、大きな差はありませんでした。
対象: 生物学の入門授業を受ける大学生(Dunloskyら[1]の要約による) / 限界: 1つの授業・1つの章での結果です。
これらの実験の多くは、学生が短い事実を覚えて、すぐにテストを受けたものです。何か月もかけて資格試験の範囲を学ぶ社会人の独学で、同じ大きさの効果が出るとは限りません。また、質問の間隔が1〜2ページに1回と少ないと、効果が薄れたり逆になったりした研究もあります[1]。
03今日からできる小さな一歩
次に読むテキストで、事実が出てくるたびに「なぜそうなる?」と問い、1文で答えます。ページの終わりにまとめて問うより、こまめに問う方が研究のやり方に近づきます。
事実を1つ読んだら、「なぜ?」と1文で答える
例:「この制度はなぜ必要だった?」と問い、「〜だから」と1文で答えます。実験では、1つの事実に15秒ほどを割り当てた例があります。長く考え込まなくて大丈夫です。
所要 1つにつき15〜30秒
「ほかのものとの違い」で問う
多くの研究で使われた問いは「なぜこれはAに当てはまり、ほかのBには当てはまらないのか」でした。似たものとの違いを考えると、事実どうしを見分けやすくなると考えられています。
所要 1分
答えに詰まったら、教科書で確かめる
知識が少ない分野では、自分で答えを作るのが難しく、効果も小さくなりやすいとされています。答えられない問いには印をつけ、あとで本文や解説で確かめます。
所要 5分
04続けるためのコツ
完璧な答えを目指さず、1文で済ませます。答えの出来ばえが効果をどれだけ左右するかは、まだ結論が出ていません。まず「問う習慣」を残すことを優先します。
- 問う対象は「覚えたい事実」に絞る。すべての文に問いかけると疲れてしまう。
- 見開き1ページに1回だけ、のように間隔をあけすぎない。段落ごとを目安にする。
- 読んで「わかった」と感じても、覚えた証拠にはならない。理由はわかったつもりの記事で紹介しています。
- 翌日は本を閉じて「なぜ?」に答え直す。思い出す練習と組み合わせると、復習も兼ねられる。
05よくある質問
精緻化質問とは何ですか?
書かれている事実について「なぜそれが本当なのか」を自分で説明しながら学ぶ勉強法です。Dunloskyら(2013)のレビューでは「中程度に有用」と評価され、Donoghue・Hattie(2021)のメタ分析では効果量d = 0.56でした。
精緻化質問と自己説明の違いは?
精緻化質問は、事実1つ1つが「なぜ本当か」を説明します。自己説明は、新しい内容と知っていることのつながりや、問題を解く手順を説明します。研究は別々に発展してきましたが、どちらも「自分で説明を作る」点は共通しています。
初心者でも効果はありますか?
効果が小さくなる可能性があります。Woloshynら(1992)では、よく知っている分野の伸びが24%、なじみの薄い分野は12%でした。初めての分野では、答えを教科書で確かめながら使うのがおすすめです。
数学や英文法にも使えますか?
研究の多くは、事実が並ぶ文章で行われています。手順や理屈を追う教材には、自己説明の方が合っています。複雑な仕組みのどこに「なぜ」を向けるべきかは、まだはっきりしていません。
勉強法の早見表で「「なぜ?」と問いながら読む(精緻化質問)」の判定を見る
ほかの勉強法も39種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students' learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4-58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- Donoghue, G. M., & Hattie, J. A. C. (2021). A meta-analysis of ten learning techniques. Frontiers in Education, 6, 581216. https://doi.org/10.3389/feduc.2021.581216
- Pressley, M., McDaniel, M. A., Turnure, J. E., Wood, E., & Ahmad, M. (1987). Generation and precision of elaboration: Effects on intentional and incidental learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 13(2), 291-300. https://doi.org/10.1037/0278-7393.13.2.291
- Woloshyn, V. E., Pressley, M., & Schneider, W. (1992). Elaborative-interrogation and prior-knowledge effects on learning of facts. Journal of Educational Psychology, 84(1), 115-124. https://doi.org/10.1037/0022-0663.84.1.115
- Smith, B. L., Holliday, W. G., & Austin, H. W. (2010). Students' comprehension of science textbooks using a question-based reading strategy. Journal of Research in Science Teaching, 47(4), 363-379. https://doi.org/10.1002/tea.20378


