練習ではできたのに本番で解けないのはなぜ?覚えたときと試されるときの「ずれ」の研究

問題集では何度も正解した。それなのに、模試や本番では手が止まる。努力が足りなかったわけでも、本番に弱い性格だからでもありません。研究では、練習中の出来は「どれだけ身についたか」の当てにならない目安で、練習で答えた問いと本番の問いのあいだに「ずれ」があると、力が出にくいことがわかっています。
3行でわかる
- 練習中の出来は、長く残る学びの当てにならない目安になりやすい。くり返した問題に強くなっただけのことがある。
- 覚えたときと試されるときの考え方が近いほど思い出しやすい。122の実験をまとめた分析では、問題で練習した効果は別の問いにも出たが、条件しだいだった。
- 本番で解くには、初めて見る問題で試す、答えの理由まで説明する、応用問題は応用問題で練習する。
01 悩みの正体練習で解けた問題が、本番で解けないのはなぜ?
練習で答えられたのは、その問題の形や言い回しが手がかりになっていたからかもしれません。本番で聞き方や考え方が変わると、その手がかりが使えず、思い出せなくなります。
心理学では、練習中の出来を「パフォーマンス」、長く残って新しい場面でも使える変化を「学習」と呼んで区別します。2015年の総説は、練習中に測れるのはパフォーマンスだけで、それは学習の当てにならない目安であることが多いとまとめました[1]。人は練習中の出来を、身についた証拠だと思い込みやすいことも指摘しています[1]。
同じ問題集を3周すると、問題文の最初の数語で答えが浮かぶようになります。このとき思い出しているのは、知識そのものより「この問題の答え」かもしれません。
記憶の研究では、覚えたときにどう受け取ったかが、後でどの手がかりで思い出せるかを決めると考えられています。TulvingとThomson(1973)は、これを「符号化特定性」と呼びました。何がどう記憶されるかが、どの手がかりで取り出せるかを決める、という考え方です[2]。
02 科学的にわかっていること練習と本番の「ずれ」は、どれくらい影響する?
覚えたときと試されるときの考え方がそろうほど、成績は上がりやすくなります。問題を解く練習の効果は別の問いにも届きますが、ただ答えを思い出すだけの練習では届きにくいことがわかっています。
Morrisら(1977)[3]
単語を覚えるとき、意味を考えるグループと、韻(音の響き)を考えるグループに分けた。ふつうの「見たことがあるか」のテストでは、意味を考えたグループの方が成績がよかった。しかし「見た単語と韻を踏む単語はどれか」を問うテストでは、韻を考えたグループの方がよかった。
対象: 大学生(単語の記憶の実験) / 限界: 単語を使った実験室の課題。資格試験のような長い学習ではない。
どちらの覚え方が「深い」かではなく、覚えたときの考え方が、試されるときの考え方に合っているかで成績が逆転しました。この考え方は「転移適切処理」と呼ばれます[3]。
PanとRickard(2018)[4]
問題を解いて学んだことが、別の問いにも生きるかを調べたメタ分析(多くの研究を統計でまとめる方法)。122の実験(1万382人)をまとめると、読み返しより効果があった(d=0.40)。形式の違う問題、応用・推論の問題には届きやすかった。一方、練習で問われなかった内容には届きにくかった。
対象: 40年以上の研究 / 限界: 研究の偏りを補正すると、答えの理由まで考える練習などの条件がそろわない場合、別の問いへの効果は見られないことが多かった。
Panら(2019)[5]
大学の授業で、専門用語の意味を問う10分の小テストを授業前に受けた。最大12週間後までの試験で、用語の意味を問う問題は、小テストを受けた用語の方が10〜13ポイント高かった。しかし、考え方を問う問題では、効果がはっきりしなかった。
対象: 米国の大学院生85人と大学生406人 / 限界: 2つの授業の結果。考え方を問う問題でも、少し上がった傾向が出た場面はあった。
1つ目の実験では、意味を問う問題の正答率が、小テストを受けた用語で53%、受けなかった用語で43%でした。考え方を問う問題は41%と37%で、統計的にはっきりした差ではありませんでした[5]。用語を言えるようになっても、それを使って考える力がついたとは限らないということです。
| 練習と本番のずれ | 練習の効果は届く? | 根拠 |
|---|---|---|
| 選択式で練習し、記述式で出る(形式の違い) | 届きやすい | [4][6] |
| 同じ内容を、言い回しを変えて聞かれる | 届く | [5] |
| 用語を覚え、考え方を問われる | 届きにくい | [5] |
| 練習で問われなかった内容が出る | 届きにくい | [4] |
意外なのは、選択式か記述式かという形式の違いは、それほど大きな壁ではないことです。米国の中学・高校の授業の研究では、小テストの形式が本番の試験と同じでなくても、小テストを受けた内容の方が試験の成績がよくなりました[6]。ずれが問題になるのは、形式より「何を考えさせる問題か」の方です。
また、「覚えたときと試されるときが似ていればいるほど思い出しやすい」と単純には言えない、という批判もあります。Nairne(2002)は、似ていることより、その手がかりが答えを1つに絞り込めるかが大事だと論じました[7]。試験に当てはめると、似た選択肢の多い問題では「見覚えがある」と感じるだけでは足りない、とも考えられます。
ここで紹介した研究の多くは、大学生の実験や学校の授業です。社会人が何か月もかけて資格試験に取り組む場合に、同じ大きさの効果が出るとは限りません。
03 今日からできる小さな一歩本番で解ける力に変えるには?
くり返した問題の正答率で安心せず、初めて見る問題で確かめます。正解した問題は理由まで言葉にし、応用問題は応用問題で練習します。
実力は「初めて見る問題」で測る
3周した問題集の正答率は、その問題に強くなった分も含みます。まだ解いていない年度の過去問や別の問題集から5問を選び、そこで正答率を確かめます。
所要 15分
正解した問題も、理由を一言で書く
「なぜこの答えか」「他の選択肢はなぜ違うか」を書きます。答えの理由まで考えて思い出す練習は、別の問いへの効果を大きくする条件の1つでした[4]。
所要 1問2分
問いを自分で言い換えてみる
「〇〇とは何か」を覚えたら、「〇〇が起きるとどうなるか」「〇〇と△△の違いは」と問いを変えて答えます。用語を覚えるだけでは、考え方を問う問題に届きにくかったためです[5]。
所要 5分
04 続けるためのコツ本番で頭が真っ白になるのも、ずれのせい?
本番で頭が真っ白になるのは、ずれとは別に、不安が関わっていることがあります。どちらが原因かを分けて考えると、手の打ち方が見えます。
- 初めて見る問題でも解けないなら、ずれの問題。上の3つの手順で、練習の中身を本番に近づけます。過去問の使い方は過去問の研究にまとめています。
- 家では初見の問題も解けるのに本番だけ崩れるなら、不安の問題かもしれません。対処は試験不安の記事で紹介しています。
- 「解説を読んでわかった」で終わらせない。わかった気になる理由はわかったつもりの記事へ。
- 種類の違う問題を混ぜて解く。本番は問題の種類がばらばらに出ます。理由は交互に練習する方法の記事で紹介しています。
05よくある質問
問題集を何周もすれば、本番でも解けるようになる?
同じ問題をくり返すと、その問題には強くなりますが、本番の問いに届くとは限りません。122の実験をまとめた分析では、練習で問われなかった内容には効果が届きにくく、答えの理由まで考える練習などの条件がないと、別の問いへの効果が見られないことが多いとされました。周回数より、初めて見る問題で確かめることを優先します。
選択式の試験なら、選択式の問題だけで練習すべき?
形式は必ずしもそろえなくてかまいません。中学・高校の授業の研究では、選択式の小テストでも記述式の小テストでも、小テストを受けた内容の方が試験の成績がよくなり、形式が本番と同じである必要はありませんでした。それより、本番と同じ種類の考え方を求める問題で練習することが大切です。
模試の点数が問題集の正答率より低いのはなぜ?
問題集の正答率には、同じ問題をくり返して覚えた分が含まれているからだと考えられます。研究では、練習中の出来は長く残る学びの当てにならない目安になりやすいとされています。模試のように初めて見る問題での成績の方が、本番の力に近い目安になります。
出典
- Soderstrom, N. C., & Bjork, R. A. (2015). Learning versus performance: An integrative review. Perspectives on Psychological Science, 10(2), 176–199. https://doi.org/10.1177/1745691615569000
- Tulving, E., & Thomson, D. M. (1973). Encoding specificity and retrieval processes in episodic memory. Psychological Review, 80(5), 352–373. https://doi.org/10.1037/h0020071
- Morris, C. D., Bransford, J. D., & Franks, J. J. (1977). Levels of processing versus transfer appropriate processing. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 16(5), 519–533. https://doi.org/10.1016/S0022-5371(77)80016-9
- Pan, S. C., & Rickard, T. C. (2018). Transfer of test-enhanced learning: Meta-analytic review and synthesis. Psychological Bulletin, 144(7), 710–756. https://doi.org/10.1037/bul0000151
- Pan, S. C., Cooke, J., Little, J. L., McDaniel, M. A., Foster, E. R., Connor, L. T., & Rickard, T. C. (2019). Online and clicker quizzing on jargon terms enhances definition-focused but not conceptually focused biology exam performance. CBE—Life Sciences Education, 18(4), ar54. https://doi.org/10.1187/cbe.18-12-0248
- McDermott, K. B., Agarwal, P. K., D'Antonio, L., Roediger, H. L., & McDaniel, M. A. (2014). Both multiple-choice and short-answer quizzes enhance later exam performance in middle and high school classes. Journal of Experimental Psychology: Applied, 20(1), 3–21. https://doi.org/10.1037/xap0000004
- Nairne, J. S. (2002). The myth of the encoding-retrieval match. Memory, 10(5–6), 389–395. https://doi.org/10.1080/09658210244000216


