勉強法

「学習スタイルに合わせる」「右脳・左脳」など、脳の話がついた勉強法を信じてしまうのはなぜ?神経神話の研究

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脳の模型
Photo: Unknown / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究をAIが調べて整理しました(独自の実験ではありません。出典は末尾)。

「あなたは目で覚える視覚タイプ」「右脳を使うと一気に覚えられる」。勉強法を探していると、脳の話がついた説明によく出会います。なんとなく説得力を感じるのは、あなたが特別だまされやすいからではありません。脳の話がつくと説明がもっともらしく見えることは、研究で確かめられています。教師や、脳について学んだ人でも、多くがこうした説を信じていました。

3行でわかる

  1. 脳と学習についての根拠のない思い込みを「神経神話」と呼ぶ。英国とオランダの教師242人は、神話の文の49%を正しいと答えた。
  2. 説明に関係のない脳の話を足すだけで、説明の評価が上がった。特に、中身のない説明ほど上がりやすかった。脳の画像を添える効果は、再現の実験ではほぼ見られなかった。
  3. 脳に詳しい人ほど神話を信じやすい、という調査もある。勉強法は「脳の話」ではなく「その勉強法で成績が上がったか」を調べた研究で選ぶ。

01 悩みの正体神経神話とは、どんな思い込み?

神経神話とは、脳の研究の結果を誤解したり大げさにしたりして広まった、脳と学習についての思い込みです。勉強法の宣伝や自己啓発の本で、よく根拠として使われます。

代表的なのは次のような説です。どれも、もとになった研究の話はありますが、そこから「だからこう勉強するとよい」という部分が飛躍しています。

  • 学習スタイル説: 人には「目で覚える」「耳で覚える」などの型があり、型に合わせて教わると覚えやすい(研究で支持されていない。詳しくは学習スタイルの記事)
  • 右脳・左脳: 右脳型・左脳型の違いで、学び方の向き不向きが説明できる
  • 脳の10%: 人は脳の10%しか使っていない

問題は、こうした説を信じると、効果の確かめられた勉強法より先に、自分の「型」探しに時間を使ってしまうことです。独学では、それを止めてくれる先生もいません。

02 科学的にわかっていることなぜ脳の話がつくと信じてしまう?

脳の話には、説明を「科学的でもっともらしく」見せる力があります。関係のない脳の話を足すだけで、中身のない説明の評価が上がりました。脳の知識があっても、神話を見抜けるとは限りません。

Weisbergら(2008)[4]

心理の現象について、よい説明と、言い換えただけの中身のない説明を読ませた。そこに「脳の〇〇という部位が関わる」という、説明には関係のない脳の話を足した。一般の参加者81人では、脳の話を足すと、中身のない説明の評価が−3〜+3の尺度で平均−0.73から0.16に上がった。よい説明の評価はほとんど変わらなかった。脳科学の授業を受けた学生22人も同じように評価を上げたが、専門家48人では上がらなかった。

対象: 一般の参加者81人、脳科学の授業の学生22人、専門家48人 / 限界: 短い説明文を読んで評価する実験。勉強法を選ぶ場面を調べたものではない。

Fernandez-Duqueら(2015)[5]

大学生385人の4つの実験。関係のない脳の話を足すと、よい説明も中身のない説明も評価が上がった。脳の話は、社会科学の話や、物理などの「硬い科学」の話を足すより効果が大きかった。考えてから答える傾向が強い人でも、この影響は防げなかった。脳の画像を添えても、文章以上に評価は上がらなかった。

対象: 大学生385人 / 限界: 要旨で確認。著者らは「脳こそ心の働きを最もよく説明する」という一般の思い込みが原因かもしれないと考えている。

Michaelら(2013)[6]

「脳の画像を添えると記事が信じられやすくなる」という有名な研究を、10の実験、約2,000人でくり返した。元の研究とあわせてまとめると、脳の画像の影響は「ほとんど、またはまったくない」という結果だった。

種類: 再現の実験とメタ分析 / 限界: 調べたのは画像の効果。脳の話を文章で足す効果[4][5]とは別。

Dekkerら(2012)[1]

英国とオランダの教師242人に、脳と学習についての32の文を見せた(うち15が神経神話)。教師は神話の文の49%を正しいと答えた。学習スタイル説を信じた教師は英国93%、オランダ96%、右脳・左脳の説は91%と86%だった。脳についての一般的な知識が多い教師ほど、神話も信じやすかった。

対象: 英国137人、オランダ105人の教師 / 限界: 脳の研究に関心のある教師が自分から答えた調査で、教師全体を代表するとは限らない。

Macdonaldら(2017)[2]

米国の3,877人のオンライン調査。7つの代表的な神話のうち正しいと答えた割合は、一般の人で平均68%、教育関係者で56%、神経科学の授業を多く受けた人で46%だった。学習スタイル説は、それぞれ93%、76%、78%が正しいと答えた。

対象: 一般3,045人、教育関係者598人、神経科学の授業を多く受けた234人 / 限界: 「わからない」を選べない○×式で、迷った人も○か×を選んでいる。

NewtonとSalvi(2020)[3]

18か国の教育者15,405人を調べた37の研究(2009〜2020年)のまとめ。「学習スタイルに合わせて教えるとよい」と考える人は、重みづけした平均で89.1%だった。年を追って減っている様子はなかった。研修を行った4つの研究では、信じる人が78.4%から37.1%に減った。

種類: システマティックレビュー / 限界: 多くは少人数の手近な対象への調査。質問の意味が正しく伝わっていたかはっきりしない、と著者ら自身が書いている。

神経神話を信じる割合(研究[1][2]の表から抜き出し)

説英国・オランダの教師[1]米国の一般の人[2]米国の神経科学を多く学んだ人[2]
学習スタイルに合わせると覚えやすい93%・96%93%78%
右脳・左脳で学び方の違いが説明できる91%・86%64%32%
人は脳の10%しか使っていない48%・46%36%14%

調査によって、文の言い回しや答え方(「わからない」を選べるか)が違うので、数字を直接くらべることはできません。それでも、学習スタイル説は、どの調査でも多くの人が信じていました。

03 今日からできる小さな一歩脳の話がついた勉強法は、どう見分ける?

脳の話を取り除いても、その勉強法を勧める根拠が残るかを確かめます。見るべきは「その勉強法で、あとのテストの成績が上がったか」を比べた研究です。

1

脳の話を消して読み直す

「前頭葉が」「右脳が」などの部分を指で隠して、残りの説明を読みます。それでも「なぜ効くのか」がわかるかを確かめます。何も残らなければ、脳の話が説得力を足しているだけかもしれません。

所要 2分

2

「成績を比べた研究」があるかを探す

脳が活動した、という話と、成績が上がった、という話は別です。その勉強法をした人としなかった人で、あとのテストの点を比べた研究があるかを見ます。主な勉強法は勉強法の効く・効かない早見表にまとめています。

所要 5分

3

迷ったら、確かめられた勉強法から始める

本を閉じて思い出す練習は、多くの研究で効果が確かめられています。型探しより先に、思い出す練習を1回の勉強に1つ入れてみます。

所要 10分

4

新しい勉強法は、数日後の結果で判断する

試した勉強法が合うかは、手応えではなく、2〜7日後にどれだけ思い出せたかで比べます。比べ方は勉強法を変えたのに手応えがないときの確かめ方にあります。

所要 10分

04 続けるためのコツ一度信じた神話は、あとから直せる?

直せます。正誤を教えてもらうだけで、1週間後も神話を見分けやすくなった実験があります。ただ、教師の実験では、理由の説明まで添えたときに効果がありました。

Lithanderら(2024)[7]

米国の大学生110人に神経神話の文の正誤を答えさせ、その直後に正誤を教えた。1週間後に神話を正しく見分けられた割合は、何も教えられなかった人で0.35、正誤だけ教えられた人で0.73、理由の説明も読んだ人で0.74だった(最初はどの組も約0.40)。教師の実験では、正誤だけでは差がなく、説明を添えたときに見分けやすくなった。

対象: 米国の大学生110人と、オンラインで集めた教師 / 限界: 著者らは、正しい知識に直したあとも、神話がその後の考え方に影響することがあると書いている。

  • 「なぜ違うのか」まで知っておく。正誤だけより、理由を知るほうが長く残りやすい人もいます。気になる説は、理由の書かれた記事で確かめます。
  • 信じていた自分を責めない。教師や、脳を学んだ人でも多くが信じていた説です[1][2]。気づいた時点で、やり方を変えれば十分です。
  • 脳トレなど、脳の話が売りの商品にも同じ見方を使う。くわしくは脳トレゲームは学び直しに効くかの記事にまとめています。

05よくある質問

神経神話とは何?

脳の研究の結果を誤解したり、大げさに広めたりして生まれた、脳と学習についての思い込みのことです。「人は脳の10%しか使っていない」「学習スタイルに合わせると覚えやすい」などが代表例です。

脳に詳しい人なら、神経神話にだまされない?

詳しいほど減りますが、なくなりはしません。米国の3,877人の調査では、神経科学の授業を多く受けた人でも、平均46%の神話を正しいと答えました。英国とオランダの教師242人の調査では、脳の知識が多い教師ほど神話を信じやすい結果でした。

一度信じた勉強法の神話は、あとから直せる?

直せます。米国の大学生110人の実験では、正誤を教えてもらった人は、1週間後に神話を正しく見分けられた割合が約4割から7割台に上がりました。教師の実験では、正誤だけでなく理由の説明も添えたときに効果がありました。

出典

  1. Dekker, S., Lee, N. C., Howard-Jones, P., & Jolles, J. (2012). Neuromyths in education: Prevalence and predictors of misconceptions among teachers. Frontiers in Psychology, 3, 429. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2012.00429
  2. Macdonald, K., Germine, L., Anderson, A., Christodoulou, J., & McGrath, L. M. (2017). Dispelling the myth: Training in education or neuroscience decreases but does not eliminate beliefs in neuromyths. Frontiers in Psychology, 8, 1314. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.01314
  3. Newton, P. M., & Salvi, A. (2020). How common is belief in the learning styles neuromyth, and does it matter? A pragmatic systematic review. Frontiers in Education, 5, 602451. https://doi.org/10.3389/feduc.2020.602451
  4. Weisberg, D. S., Keil, F. C., Goodstein, J., Rawson, E., & Gray, J. R. (2008). The seductive allure of neuroscience explanations. Journal of Cognitive Neuroscience, 20(3), 470–477. https://doi.org/10.1162/jocn.2008.20040
  5. Fernandez-Duque, D., Evans, J., Christian, C., & Hodges, S. D. (2015). Superfluous neuroscience information makes explanations of psychological phenomena more appealing. Journal of Cognitive Neuroscience, 27(5), 926–944. https://doi.org/10.1162/jocn_a_00750
  6. Michael, R. B., Newman, E. J., Vuorre, M., Cumming, G., & Garry, M. (2013). On the (non)persuasive power of a brain image. Psychonomic Bulletin & Review, 20(4), 720–725. https://doi.org/10.3758/s13423-013-0391-6
  7. Lithander, M. P. G., Geraci, L., Karaca, M., & Hunsberger, R. (2024). The effect of correcting neuromyths on students' and teachers' later reasoning. Journal of Intelligence, 12(10), 98. https://doi.org/10.3390/jintelligence12100098