講座のスライドを写真に撮っただけで、内容を覚えていない。どう立て直す?写真とメモの研究でわかった5つの手順

セミナーや講座で、スライドが変わるたびにスマホで撮った。あとで見ればいいと思っていたのに、数日たつと何の話だったか思い出せない。そんな経験は珍しくありません。研究では、講義を聞きながら手でメモを取った人の方が、撮るだけ・聞くだけの人より内容を覚えていました。立て直しは、写真を見る前に思い出して書き、抜けた所を写真で確かめて自分の言葉で埋めることから始めます。
3行でわかる
- アメリカの大学生の3つの実験のうち2つで、講義の内容はメモを取った方がよく覚えていた。対面を想定した実験では、写真に撮ったスライドの内容はかえって少し覚えていなかった。
- 45分の講義を聞いた172人の実験では、メモを取った人のテストは28問中平均19.1問正解で、聞くだけ(16.6問)や落書き(約15.7〜16.0問)より高かった。
- 立て直しは「写真を見ずに思い出して書く→写真で答え合わせ→自分の言葉で書き足す→問題を作って1週間後に解く」。次の講座からは、撮る前に一言メモを書く。
01 悩みの正体スライドを撮ったのに、覚えていないのはなぜ?
写真はスライドをそのまま残しますが、頭の中で内容をまとめる作業は起きません。「あとで見られる」と思うと、その場で注意を向けにくくなるとも考えられています。写真は記録であって、覚えたことの代わりにはなりません。
講義のメモが記憶を助けるのは、聞いた内容を選び、短くまとめ、自分の言葉で書く作業が入るからだと考えられています[1][2]。写真ではこの作業が起きません。
写真が記憶を下げる理由には、2つの説明があります。1つは「カメラに覚えさせたつもりで、頭に入れない」という説明です。もう1つは「撮った瞬間に、その場面から注意が離れる」という説明です[1]。どちらが正しいかは、まだはっきりしていません。
02 科学的にわかっていること講義は撮るより、メモを取る方が覚えられる?
覚えられる、という結果が複数の実験で出ています。ただし写真の影響は、対面の実験では少しマイナス、オンラインの実験ではプラスと割れています。はっきりしているのは「メモを取った方が覚えている」という点です。
Tregoら(2025)[1]
約5分のスライド講義の動画を見せ、スライドごとに「見るだけ」「撮る」「メモする」「撮ってメモもする」を割り当てた。対面の実験(216人)では、撮ったスライドの内容の正答率は20%で、撮らなかった内容(23%)より低かった。メモを取った講義は23%で、取らなかった講義(20%)より高かった。オンラインの実験(192人)では逆に、撮ったスライドの文字の内容の方がよく覚えていた(31%対26%)。メモの効果はオンラインでも見られた。
対象: カリフォルニア大学リバーサイド校の学部生。3つの実験で46人・216人・192人 / 限界: 写真もメモも見返さずに、講義の5分後にテストした。最初の実験で出た「撮りながらメモすると特に悪い」という結果は、2つ目の実験で再現されなかった。
Spencer-MuellerとFenske(2024)[2]
退屈になりやすい45分の講義の録音を、「聞くだけ」「図形を塗る落書き」「自由な落書き」「メモを取る」の4グループに分けて聞かせた。28問のテストの平均正答数は、メモが19.09問、聞くだけ16.63問、図形の落書き15.95問、自由な落書き15.69問。メモを取った人は、講義中に心がそれることも少なかった。落書きは、聞くだけの人より成績がよくならなかった。
対象: カナダのゲルフ大学の学部生172人(1グループ43人) / 限界: 「落書きが記憶を助ける」という以前の研究とは違う結果で、条件の違いもある。講義は1本だけ。
Hefter(2024)[3]
自宅などで12分のハウツー動画(配管の修理)を見る実験。実際にメモを取った24人は、取らなかった35人よりテストの成績がよかった(効果量d=0.70。中くらいの差)。メモを取った人は動画に深く取り組んだと答え、学ぶのに使った時間も長かった。ふだんのスマホの利用時間が長い人ほど、成績は低い傾向があった。
対象: ドイツの心理学部生59人 / 限界: メモを取るよう頼んだグループの中にも取らなかった人がいて、実際に取ったかどうかで比べた。そのため、取る人と取らない人のもともとの違いが混ざっている可能性がある。
Heitmannら(2018)[4]
オンライン講義を見た後の80分の学習で、「問題に答える」グループと「スライドにメモを取る」グループを比べた。1週間後のテストで、問題に答えたグループは、問題に出た内容をメモのグループより多く覚えていた。一方、問題に出なかった内容は、メモのグループの方がよく覚えていた。
対象: ドイツの大学生187人 / 限界: 講義のテーマは1つだけ。問題を一人ひとりの理解に合わせて出すかどうかでも、結果が変わった。
どの実験も、大学生が数分から45分の講義を見た後のテストです。社会人が何時間もの講座を受け、何週間も後に試験を受ける場面で、同じ大きさの差が出るかは確かめられていません。それでも「撮っただけでは足りない」「思い出して書く作業を足す」という方向は、複数の研究で一致しています。
03 今日からできる小さな一歩写真しか残っていないとき、どう覚え直す?
写真を開く前に、覚えていることを白紙に書き出すのが最初の一歩です。次に写真で答え合わせをし、抜けていた所を自分の言葉で短く書き足します。最後に問題を作り、1週間後に解きます。
写真を見る前に、覚えていることを白紙に書く
講座の名前だけを見て、話の流れ・キーワード・印象に残った例を思い出せるだけ書きます。少ししか出てこなくても大丈夫です。思い出そうとすること自体が、次に覚えるときの助けになります。やり方は思い出す練習の記事にまとめています。
所要 5分
写真を見て、思い出せた所と抜けた所に印をつける
スライドの写真を1枚ずつ見て、白紙に書けた内容には丸、書けなかった内容には四角をつけます。四角の多いスライドが、これから覚え直す場所です。
所要 10分
抜けた所を、スライドの文をまねずに1〜2行で書き足す
写真の文字を書き写すのではなく、「つまり何か」を自分の言葉で短く書きます。スライドに書かれていなかった講師の説明や例を覚えていれば、それも足します。メモが記憶を助けるのは、まとめて書く作業が入るからと考えられています[1]。
所要 15分
書き足した内容から、問題を3〜5問作る
「〇〇とは何か」「AとBの違いは」のように、答えが1〜2行で言える問題にします。講義の後に問題に答えた人は、1週間後に、問題になった内容をよく覚えていました[4]。
所要 10分
1週間後に、写真もメモも見ずに問題を解く
カレンダーに予定を入れておきます。答えられなかった問題だけ、手順3のメモを見て確かめます。問題にしなかった内容は、メモの方が残りやすいという結果もあるので[4]、メモも一度読み通します。
所要 10分
04 続けるためのコツ次の講座では、写真とメモをどう使い分ける?
写真は「あとで確かめる資料」と割り切り、記憶のためには手で短いメモを取ります。撮るなら、撮る前か後にスライドの要点を一言書きます。動画の講座なら、止めてメモを書く時間を取って大丈夫です。
- 撮る前に一言書く: 「このスライドの言いたいこと」を5〜10字で書いてから撮ります。撮影だけで終わらせないための小さな決まりです。
- スライドにない話を優先して書く: 文字は写真に残るので、メモは講師の口頭の説明や例に使います。
- 動画は止めて書く: 自宅で動画を見た実験では、メモを取った人は学ぶ時間が長くなりましたが、成績もよくなりました[3]。見方のコツは講義動画の見方の記事にあります。
- 手書きかパソコンかにこだわらない: 手書きの有利さは、再現の実験では小さくなっています。大切なのは言い換えて書くことです(手書きとパソコンの記事)。
- 見返すときは隠して思い出す: ノートを読み返すだけにしない見直し方は、ノート見直し表で使えます。
05よくある質問
講座のスライドは、写真に撮らない方がいい?
撮ること自体が悪いとまでは言えません。対面の講義を想定した実験では撮った内容の方がわずかに覚えていなかった一方、オンラインの実験では撮った内容の方が覚えていました。撮るなら、手で書くメモの代わりにしないことが大切です。
写真を見返せば、あとから覚え直せる?
見返すだけより、先に写真を見ずに思い出して書き、その後で写真と照らし合わせる方が記憶に残りやすいと考えられます。講義の後に問題に答えた人は、1週間後のテストで、問題になった内容をメモだけの人より多く覚えていました。
聞くだけで手が空くと落ち着かない。落書きならいい?
落書きは助けになりませんでした。45分の講義を聞いた実験では、落書きをした人のテストの点は聞くだけの人と変わらず、メモを取った人がいちばん高い点でした。手を動かすなら、内容のメモにします。
出典
- Trego, M. M., Soares, J. S., & Ditta, A. S. (2025). Snap & Write: Examining the effect of taking photos and notes on memory for lecture content. Behavioral Sciences, 15(5), 561. https://doi.org/10.3390/bs15050561
- Spencer-Mueller, E. K., & Fenske, M. J. (2024). Note-taking for the win: Doodling does not reduce boredom or mind-wandering, nor enhance attention or retention of lecture material. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 77(8), 1780–1796. https://doi.org/10.1177/17470218231222402
- Hefter, M. H. (2024). Note-taking fosters distance video learning: smartphones as risk and intellectual values as protective factors. Scientific Reports, 14, 16962. https://doi.org/10.1038/s41598-024-67898-7
- Heitmann, S., Grund, A., Berthold, K., Fries, S., & Roelle, J. (2018). Testing is more desirable when it is adaptive and still desirable when compared to note-taking. Frontiers in Psychology, 9, 2596. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.02596


