英語の多読はどうやる?やさしい本をたくさん読む「多読」のやり方(研究でわかった本の選び方と量)

英語の独学で「たくさん読むといい」と聞いて洋書を開き、知らない単語だらけで閉じてしまった。そんな経験がある人は少なくありません。研究の答えは「多読は読む力をゆるやかに伸ばす。ただし、ほとんどの単語がわかるやさしい本を選び、何か月も続けて量を読んだときに限られる」です。この記事では、本の選び方・読む量・単語の補い方を、研究にそって手順にします。
3行でわかる
- 多読(やさしい本を辞書なしでたくさん読む学び方)は、49本の研究・5,919人をまとめた分析で、小〜中くらいの効果があった。大人では子ども・10代より効果が大きかった。
- ただし、くらべる2つのグループの英語力が最初からそろっていた研究にしぼると、効果は小さめ(d=0.37)だった。期間が1学期の研究より、1年を超える研究で効果が大きかった。
- 1冊読むだけでは新しい単語はほとんど残らない。知らない単語が50語に1語ほどの本を選び、量と期間を確保し、単語は別に覚えるのが研究に沿ったやり方。
01 悩みの正体洋書を読んでも続かないのはなぜ?
多くの場合、本が難しすぎるためです。知らない単語が多い本では、内容がつかめず、辞書を引く回数も増えて、読むこと自体がつらくなります。
多読で使うのは「辞書なしで、すらすら読める本」です。英語を学ぶ人向けに、使う単語の数をしぼって書かれた本(グレーデッド・リーダー、やさしい英語の読み物)がよく使われます。
ニュージーランドの大学で学ぶ66人を対象にした研究では、物語を辞書なしで十分に理解するには、文章の約98%の単語を知っている必要があると見積もられました[4]。98%とは、50語に1語だけ知らない単語がある状態です。
ただし、この98%という数字は、98%の文章を実際に読ませて確かめたものではなく、ほかの条件の結果から推定した値です。スリランカの大人104人で同じ実験をくり返した研究では、元の結果をすべては再現できませんでした[5]。「98%を超えれば読める、下回れば読めない」という境目があるわけではない、と考えておくのが安全です。
02 科学的にわかっていること多読で本当に英語は伸びる?
伸びます。ただし効果は小〜中くらいで、始める前の英語力をそろえた研究ほど小さめです。短期間では差が小さく、長く続けた研究で大きくなっています。
JeonとDay(2016)[1]
1980〜2014年に発表された49本の研究(71グループ、合計5,919人)をまとめたメタ分析(たくさんの研究を統計でまとめる方法)。多読には小〜中くらいの効果があった。大人では子ども・10代より効果が大きく、英語を外国語として学ぶ環境(日本など)の方が、英語圏で暮らしながら学ぶ環境より効果が大きかった。
対象: 英語を学ぶ子どもから大人まで / 限界: 本文は確認できず、要旨と、この分析を引用した論文[2]の表に基づく。
Hamada(2020)[2]
多読を行ったグループと行わなかったグループをくらべた研究のデータ33件(多読3,343人・比較3,463人)をまとめ直した。全体の効果は効果量d=0.55。ただし、始める前の英語力が2つのグループでそろっていた研究では0.37、始める前の英語力を示していない研究では0.94だった。期間が1学期の研究では0.25、1年を超える研究では0.92。著者は「これまでのメタ分析は多読の効果を大きく見積もりすぎていた」と結論づけた。
対象: 主に学校・大学で英語を学ぶ人 / 限界: 1年を超える8件は人数の多い研究が中心で、期間だけで差が決まったとは言い切れない。
Hamada(2020)の実践研究[2]
日本の大学1年生のうち、1学期のあいだ授業で多読をした109人と、話す・書く授業を受けた115人をくらべた。多読のグループは平均で約25,000語を読んだ。最初の英語力の差を統計で調整すると、読む力への効果はd=0.24〜0.44だった。
対象: 看護・理学療法・保育を学ぶ日本の大学生(読む力はCEFRのA1程度) / 限界: くじ引きでグループを分けた実験ではない。読んだのは本ではなく、英語の短い文章だった。
WaringとTakaki(2003)[6]
中級以上の日本人女性15人が、400語の単語で書かれたやさしい英語の本を1冊読んだ。本の中の25語を、だれも知らない作り物の単語に置きかえて調べると、多くの単語は覚えられていなかった。3か月後に意味を思い出せたのは平均で25語中1語ほどで、本の中に出てきた回数が8回より少ない単語は、1つも残らないと見積もられた。
対象: 日本人の大人15人 / 限界: 人数が少なく、読んだのは1冊だけ。著者らは、単語を増やすには大量に読む必要があるとしている。
もう1つ、8か国の661人を調べた研究では、知っている単語の割合が上がるほど、読んだ内容の理解も少しずつ上がる、なだらかな関係が見られました[3]。「ここを超えたら急にわかる」という境目は見つかっていません。やさしい本ほど理解しやすい、と考えればよいということです。
これらの研究の多くは、学校や大学の授業として多読をした学生が対象です。仕事をしながら一人で多読する社会人に同じ効果が出るかは、直接は確かめられていません。
03 今日からできる小さな一歩多読は何から始めればいい?
最初の1冊は「難しすぎない本」を選ぶことから始めます。数ページ読んで知らない単語を数え、多ければもう1段やさしい本に下げます。
1ページ試し読みして、知らない単語を数える
候補の本を1ページ(200語くらい)読み、意味がわからない単語に指を折ります。98%なら200語で4語です。5語を大きく超えるなら、その本は今はまだ難しいと考え、もう1段やさしい本を選びます。
所要 5分
辞書は引かずに、止まらずに読む
わからない単語は印をつけて先へ進みます。話の流れがわかっていれば十分です。読み終えたあとで、何度も出てきた単語だけを3語ほど調べます。話がわからなくなったら、本が難しすぎるサインです。
所要 1回15〜20分
「冊数」より「読んだ語数」を記録する
本の裏表紙や紹介文に書かれた語数を記録します。日本の大学生の研究では、1学期で平均約25,000語を読んでいました[2]。まずは1か月で1万語など、自分に届く目標を置きます。
所要 1日1分
楽に読めたら、1段だけ上げる
同じレベルを何冊か読み、知らない単語がほとんど出なくなったら、1つ上のレベルへ進みます。上げたら手順1の試し読みをもう一度行います。
所要 数週間ごと
単語は多読と別に、思い出す練習で覚える
本を読むだけで残る単語は多くありません[6]。気になった単語は単語カードに書き、答えを隠して思い出す練習をします。やり方は英単語の覚え方の記事にまとめています。
所要 1日5〜10分
04 続けるためのコツ多読はどれくらい続ければ効果が出る?
数週間で大きな変化を期待しないことです。研究では1学期より1年を超えて続けた方が効果が大きく、量と期間がものを言います。
| 読んでいるときの感じ | 次にすること |
|---|---|
| 止まらずに読めて、話もわかる | そのレベルで量を増やす。数冊読んだら1段上げる |
| ときどき止まるが、話はわかる | そのまま続ける。よく出る単語だけ後で調べる |
| 話がわからなくなる・辞書を引きたくなる | 1段やさしい本に下げる(下げるのは失敗ではない) |
- 読んだ語数を書き残すと、進み具合が目に見えて続けやすくなる。記録の効果は勉強の記録の記事で扱っています。
- 読む本は自分で選ぶ。JeonとDayの分析は、読む本を自分で選ぶ形の多読にしぼってまとめている(決められた文章を読ませる研究は外した)[2]。
- 昔学んだ英語を忘れている人は、まずやさしいレベルから読んで思い出す。覚え直しの研究は語学の覚え直しの記事にあります。
05よくある質問
英語の多読は本当に効果がありますか?
あります。49本の研究をまとめた分析で、読む力に小〜中くらいの効果が確かめられています。ただし、くらべるグループの英語力がそろっていた研究では効果が小さめで、短期間では差が出にくいことがわかっています。数か月以上、量を読むことが前提です。
多読だけで単語は増えますか?
少しずつは増えますが、多読だけに頼ると時間がかかります。やさしい本を1冊読んだ実験では、3か月後に意味を思い出せたのは25語中1語ほどでした。気になった単語はカードなどで別に覚えるのが現実的です。
多読で辞書を引いてはいけませんか?
禁止ではありません。ただ、何度も辞書を引かないと読めない本は、今の自分には難しすぎるサインです。読みながら引くより、印をつけて読み進め、読み終えてからよく出た単語だけ調べると、読む流れを止めずにすみます。
知らない単語は何%までなら読めますか?
物語を辞書なしで読むには約98%(50語に1語が知らない単語)が目安とされています。ただしこれは推定値で、別の国でくり返した研究では元の結果をすべては再現できませんでした。理解は知っている単語の割合に比例してなだらかに上がるため、やさしい本ほど読みやすいと考えます。
出典
- Jeon, E.-Y., & Day, R. R. (2016). The effectiveness of ER on reading proficiency: A meta-analysis. Reading in a Foreign Language, 28(2), 246–265. https://nflrc.hawaii.edu/rfl/item/354(本文は未確認。要旨と[2]の表に基づく)
- Hamada, A. (2020). Using meta-analysis and propensity score methods to assess treatment effects toward evidence-based practice in extensive reading. Frontiers in Psychology, 11, 617. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.00617
- Schmitt, N., Jiang, X., & Grabe, W. (2011). The percentage of words known in a text and reading comprehension. The Modern Language Journal, 95(1), 26–43. https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.2011.01146.x(要旨に基づく)
- Hu, M. H.-c., & Nation, I. S. P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403–430. https://nflrc.hawaii.edu/rfl/item/43(要旨と[5]の記述に基づく)
- Kremmel, B., Indrarathne, B., Kormos, J., & Suzuki, S. (2023). Unknown vocabulary density and reading comprehension: Replicating Hu and Nation (2000). Language Learning. https://doi.org/10.1111/lang.12622(要旨に基づく)
- Waring, R., & Takaki, M. (2003). At what rate do learners learn and retain new vocabulary from reading a graded reader? Reading in a Foreign Language, 15(2), 130–163. https://nflrc.hawaii.edu/rfl/item/78(要旨に基づく)


