計算や数学が怖くて、勉強が止まってしまった。どう立て直す?数学不安の研究と、また手をつけるための6つの手順

簿記の計算問題、統計の式、資格試験の計算。ページを開いただけで気が重くなり、そのまま何日も止まってしまうことがあります。心理学では、こうした気持ちを数学不安と呼びます。研究では、不安と成績の関係は小〜中程度で、不安は「解く前」に強く、計算の練習を足すと不安も下がることがわかっています。止まった勉強を立て直す手順を、研究から6つにまとめます。
3行でわかる
- 数学不安と数学の成績には関係があるが、747の結果をまとめた分析で相関はr=−0.28と小〜中程度。不安が強いことは、解けないことと同じではない。
- 不安の強い大人は、計算を始める前の待ち時間に、痛みにかかわる脳の部位が強く働いた。計算の最中には見られなかった。計算の力をつける練習は、不安を下げ、成績も上げた(子どもの研究が中心)。
- 立て直しは、①不安と力を分けて考える ②易しい1問から再開 ③開くまでの時間を短く ④基礎の計算を毎日少し ⑤試験前の書き出しを試す ⑥つらさが強ければ相談、の6つ。
01 悩みの正体計算や数学が怖くて手が止まるのは、なぜ?
数学不安(計算や数学の場面で感じる緊張や恐れ)のためです。不安な人ほど数学を避けやすく、避けると練習が減り、さらに苦手になる、という悪循環が起きやすくなります。
数学不安は、数学の力そのものとは別のものです。「計算の問題を見ただけで緊張する」「時間制限があると頭が回らない」と感じる人は、子どもから大人まで少なくありません。
困るのは、不安から数学を避けるようになることです。子どもの数学不安の研究でも、不安の強い人は数学の場面を避けやすいと書かれています[4]。この記事では、仕組みの話は短くして、止まった勉強を再開する方法を中心に書きます。
02 科学的にわかっていること数学の不安は、どうすれば下がる?
計算の力をつける練習と、不安そのものを扱う方法の両方で、不安が下がった研究があります。ただし多くは子どもの研究で、試験前に不安を書き出す方法は、再現しなかった実験もあります。
Barrosoら(2021)[1]
1992〜2018年の研究から747の結果をまとめたメタ分析(複数の研究をまとめて分析する方法)。数学不安と数学の成績の相関はr=−0.28で、小〜中程度の負の関係だった。関係は子どもの頃から大人まで見られたが、小学3〜5年生と、大学など高校卒業後の学生では小さめだった。
対象: 子どもから大人までの研究 / 限界: 相関なので、不安が成績を下げるのか、成績が低いから不安になるのかは、この分析だけでは決められない。
LyonsとBeilock(2012)[2]
脳の働きを測る装置(fMRI)の中で、計算の課題が来る合図を見たときと、実際に計算しているときの脳の働きを調べた。数学不安の強い人ほど、計算が来ると知った待ち時間に、痛みや体の危険を感じるときに働く部位が強く働いた。計算している最中には、この関係は見られなかった。
対象: 大人28人(数学不安の強い14人と弱い14人) / 限界: 人数が少ない。脳の働きの研究で、勉強の成果を測ったものではない。
Coddingら(2023)[3]
学校で行われた数学不安への取り組みをまとめたメタ分析。不安そのものを扱う方法(心理療法の考え方を使うもの)は不安を下げ(g=−0.51)、計算などの力をつける練習も不安を下げた(g=−0.32)。成績は、力をつける練習で大きく上がった(g=0.76)。研究の質を考えに入れると、2つの方法の差ははっきりしなくなった。
対象: 17研究、小中高生1,786人 / 限界: 大人の研究は含まれていない。
Supekarら(2015)[4]
計算の力をつける8週間の1対1の個別指導を行った。数学不安の強かった子どもは、指導の後に不安がはっきり下がった。不安にかかわる脳の部位の反応が下がった子ほど、不安も大きく下がった。著者らは、数学にくり返し触れることで不安が下がった可能性を指摘している。
対象: 小学3年生46人 / 限界: 子どもの研究で、大人の独学で同じことが起きるかはわからない。
Parkら(2014)[5]
学生80人が、計算と言葉の問題を解く前に、静かに座って待つか、これから受けるテストへの気持ちを書き出した。待っただけの群では、数学不安の強い人は弱い人より数学の点が低かった。書き出した群では、その差が小さくなった。
対象: 学生80人 / 限界: 1回の実験室のテスト。次の研究のように、再現しなかった実験もある。
Scheibeら(2025)[6]
オンラインの2つの実験で、計算の前に不安を書き出す方法などを試した。書き出した人の成績は、対照群を上回らなかった。著者らは、書き出す方法が効くには条件がある可能性を指摘している。
対象: 168人と505人 / 限界: オンラインの短い実験で、実際の試験ではない。
まとめると、数学不安を下げる方法として根拠があるのは「数学の力をつける練習」と「不安そのものを扱う方法」です。ただし、確かめられているのは主に子どもと学生で、独学する大人で何か月も追った研究は見当たりません。試験前に書き出す方法は、効く場合と効かない場合があります。
03 今日からできる小さな一歩数学が怖くて止まった勉強を、どう再開する?
「怖い=できない」ではないと分けて考え、易しい1問から、考える時間を置かずに始めます。基礎の計算を毎日少しずつ続け、試験前の書き出しは試しに使います。
「怖い」と「できない」を分けて考える
不安と成績の関係は小〜中程度で、大学生などでは小さめでした[1]。「怖いと感じる自分は向いていない」と決めつけず、「怖いけれど、練習すれば解ける問題もある」と考えます。
所要 1分
確実に解ける易しい1問から再開する
止まる前にできていた単元の、いちばん易しい問題を1問だけ解きます。くり返し数学に触れることで不安が下がった研究があります[4]。最初の数日は、正解することを目標にします。
所要 5分
開くまでの時間を短くする
不安の強い人は、計算を始める前の待ち時間に、痛みにかかわる部位が強く働いていました[2]。「あとでやろう」と考える時間を減らすため、時刻を決めて、時刻が来たらすぐ1問目の式を書きます。
所要 意識するだけ
基礎の計算を、毎日少しだけ練習する
計算などの力をつける練習は、不安を下げ、成績も上げていました[3]。応用問題で止まったら、その前の段階の計算を1日10分練習します。解き方がわからないときは、解き方の例(例題)から学ぶ記事の手順が使えます。
所要 1日10分
模試や試験の前に、不安を書き出してみる
試験の直前に、気になっていることを10分ほど書き出します。点の差が縮んだ実験[5]と、効かなかった実験[6]があるので、何回か試して、自分に合わなければやめます。やり方は試験不安と書き出す研究の記事にあります。
所要 10分
つらさが強いときは、一人で抱えない
不安そのものを扱う方法でも、不安は下がっていました[3]。数学のことを考えるだけで眠れない、体調をくずす、という状態が続くときは、身近な人や専門家に相談します。
所要 相談の連絡に5分
止まり方ごとに、最初にすることをまとめると次のようになります。研究の結果をもとにした目安で、それぞれの状況を比べた研究があるわけではありません。
| 止まっている状況 | 最初にすること | 根拠 |
|---|---|---|
| 問題集を開くのがつらい | 時刻を決め、考える前に易しい1問を解く | 不安は解く前に強い[2] |
| 応用問題で何度もつまずいた | 1段階前の基礎の計算を1日10分 | 力をつける練習で不安も下がる[3][4] |
| 「自分は向いていない」と思う | 不安と力を分けて考え、解けた問題を記録する | 不安と成績の関係は小〜中程度[1] |
| 試験になると頭が回らない | 直前に不安を10分書き出してみる | 効いた実験と効かなかった実験がある[5][6] |
| 考えるだけで眠れない・体調をくずす | 身近な人や専門家に相談する | 不安を扱う方法でも不安は下がった[3] |
04 続けるためのコツ計算の勉強を、また怖くならずに続けるには?
難しい問題に挑む日と、易しい問題で手を慣らす日を分けます。解けなかった日があっても自分を責めず、次の日に易しい1問から戻ります。
- 1日の最初の1問は、確実に解ける問題にする。勉強を始めること自体をつらくしない。
- 解けた問題の数を、日付と一緒に記録する。不安の強さではなく、手を動かした量を見る。
- 解けなかった日は、自分を責めるより、次の一歩を決める。失敗した自分を責めてしまうときの記事にまとめた。
- 試験本番で頭が真っ白になった経験があるなら、試験で緊張して実力が出なかった後の記事もあわせて読む。
- 勉強の前に気持ちが落ち着かないときは、ゆっくりした呼吸の記事の方法を試す。
05よくある質問
数学が怖いのは、数学の才能がないから?
不安と成績には関係がありますが、強さは小〜中程度です。747の結果をまとめたメタ分析では、数学不安と数学の成績の相関はr=−0.28でした。大学生など高校卒業後の学生では、この関係はさらに小さめでした。不安が強いことは、解けないことと同じではありません。
数学の不安は、練習すると減る?
減ることを示した研究があります。小中高生を対象にした17研究のメタ分析では、計算などの力をつける練習で、不安が下がり(g=−0.32)、成績も上がりました(g=0.76)。小学3年生46人に8週間の個別指導をした研究でも、不安の強い子の不安が下がりました。大人を対象にした研究はまだ少数です。
試験の前に不安を書き出すと、数学の点は上がる?
効いた実験と、効かなかった実験があります。学生80人の実験では、試験前に不安を書き出すと、不安の強い人と弱い人の点の差が小さくなりました。一方、168人と505人のオンライン実験では、書き出した人の成績は対照群を上回りませんでした。試してみて、効かなければ別の方法に移ります。
数学が怖くて、問題集を開くのもつらい。どうすればいい?
開くまでの時間を短くし、易しい1問から始めます。数学不安の強い大人は、計算を始める前の待ち時間に、痛みにかかわる脳の部位が強く働いていました。計算している最中には、その関係は見られませんでした。考える前に、決めた時刻に1問目を解きます。
出典
- Barroso, C., Ganley, C. M., McGraw, A. L., Geer, E. A., Hart, S. A., & Daucourt, M. C. (2021). A meta-analysis of the relation between math anxiety and math achievement. Psychological Bulletin, 147(2), 134–168. https://doi.org/10.1037/bul0000307
- Lyons, I. M., & Beilock, S. L. (2012). When math hurts: Math anxiety predicts pain network activation in anticipation of doing math. PLoS ONE, 7(10), e48076. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0048076
- Codding, R. S., Goodridge, A. E., Hill, E., Kromminga, K. R., Chehayeb, R., Volpe, R. J., & Scheman, N. (2023). Meta-analysis of skill-based and therapeutic interventions to address math anxiety. Journal of School Psychology, 100, 101229. https://doi.org/10.1016/j.jsp.2023.101229
- Supekar, K., Iuculano, T., Chen, L., & Menon, V. (2015). Remediation of childhood math anxiety and associated neural circuits through cognitive tutoring. Journal of Neuroscience, 35(36), 12574–12583. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0786-15.2015
- Park, D., Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2014). The role of expressive writing in math anxiety. Journal of Experimental Psychology: Applied, 20(2), 103–111. https://doi.org/10.1037/xap0000013
- Scheibe, D. A., Was, C. A., Sidney, P. G., & Thompson, C. A. (2025). How does math anxiety affect math performance? An experimental online two-study investigation into the mechanism driving math anxiety interventions. Journal of Experimental Psychology: General, 154(10), 2800–2824. https://doi.org/10.1037/xge0001804


