昔勉強した英語をほとんど忘れた。ゼロからやり直し?語学の忘れ方と覚え直しの研究

学生時代に何年も勉強した英語や第二外国語が、久しぶりに開くと驚くほど出てこない。「ゼロからやり直しか」と思うと、気が重くなります。研究の答えは「ゼロではない」です。使わなくなった語学の知識は最初の数年で減った後、長く残ることが多く、覚え直しは新しく覚えるより速いとされています。
3行でわかる
- 学校で習ったスペイン語を調べた733人の研究では、知識は最初の3〜6年で減った後、最長30年ほどほとんど変わらなかった。多くは50年以上残っていた。
- 話す・書くといった「自分で出す力」は、読む・聞くといった「わかる力」より先に落ちやすい。思い出せない単語も、覚え直しは新しく覚えるより簡単で速いとされる。
- 立て直しは、①「わかる」と「出せる」を分けて棚卸し ②わからない単語だけを覚え直す ③声に出して使う ④間をあけて何度か覚え直す、の順で進める。
01 悩みの正体使わなかった語学は、全部消えてしまう?
全部が消えることは少ないと考えられています。忘れたように感じるのは、知識が消えたというより、思い出しにくくなっている状態であることが多いためです。
久しぶりに英語を話そうとして言葉が出てこないと、「全部忘れた」と感じます。けれど、語学の忘却を調べた研究をまとめた論文では、忘れることは「消えた」というより「取り出しにくくなった」状態として理解するのがよいとされています[3]。
また、忘れ方は力の種類によって違います。単語を自分で思い出して話す・書く力は早く落ちますが、見たり聞いたりしてわかる力は残りやすいとされています[3]。「話せない」と感じても、読めばわかる単語は意外と多いかもしれません。忘れた後の覚え直し全般については覚えたのに忘れてしまったときの記事で扱っています。
02 科学的にわかっていること何年もたった語学は、どれくらい残っている?
最初の数年で大きく減り、その後は長く残る傾向があります。残る量は最初にどれだけ学んだかで違い、覚え直すときは新しく覚えるより速いとされています。
Bahrick(1984)[1]
学校でスペイン語を習った733人に、読解・単語・文法のテストをした。知識は最初の3〜6年で急に減り、その後は最長30年ほどほとんど変わらず、最後にまた落ちた。多くの知識は、使わず復習もしていないのに50年以上残っていた。残る量は、最初にどれだけ長く学んだか、成績、テストの形(自分で思い出すか、選ぶか)によって違った。
対象: 学校でスペイン語を学んだ733人 / 限界: 同じ人を50年追ったのではなく、学んでから経った年数が違う人どうしを比べた研究。1つの言語の結果。
Bahrickら(1993)[2]
4人が9年をかけて、英語と外国語の単語の組み合わせ300組を覚え、覚え直しを13回か26回、14日・28日・56日のいずれかの間隔でくり返した。1〜5年後に調べると、間隔が長いほど覚え直しは少し手間がかかったが、記憶はかなりよく残った。56日おきに13回覚え直すと、14日おきに26回と同じくらい残った。
対象: 著者4人自身 / 限界: 人数がとても少ない。語学の単語を、決まった基準まで覚える形の研究。
Mickanら(2019)[3]
外国語の忘却についての研究をまとめた論文。使わなくなると忘れはすぐに始まるが、その後はゆるやかになる。話す・書く力は、わかる力より先に落ちやすい。忘れたように見える単語を覚え直すのは、新しい単語を一から覚えるよりずっと簡単で速いとする研究が複数ある。もともと高いレベルまで学んだ人ほど、よく残っていた。
対象: 研究のまとめ(総説) / 限界: 研究どうしで対象や言語が違い、忘れ方には個人差が大きいと著者らも述べている。
Bowersら(2009)[4]
子どもの頃にヒンディー語かズールー語に触れ、その言葉をまったく覚えていない英語を母語とする大人を調べた。40歳未満の人は、その言葉の細かな音の区別を覚え直せた。40歳以上の人では覚え直しが見られず、その言葉に触れたことのない人も学習が見られなかった。
対象: 英語が母語の少人数の大人 / 限界: 参加者が少ない。単語や文法ではなく、音の聞き分けについての研究。
昔の語学に戻るときによく浮かぶ考えと、研究から言えることを並べました。
| よく浮かぶ考え | 研究から言えること |
|---|---|
| もう全部忘れた | 数年で減った後、長く残る部分が多い[1] |
| 話せないから、何も残っていない | 話す・書く力が先に落ち、わかる力は残りやすい[3] |
| 新しく覚えるのと同じ手間がかかる | 覚え直しは新しく覚えるより速いとされる[3] |
| 取り戻すには毎日やるしかない | 56日おき13回で、14日おき26回と同じくらい残った[2] |
ここで紹介した研究は、スペイン語や実験用の単語、子どもの頃に触れた言葉の発音などを調べたものです。日本の社会人が学校で学んだ英語で、同じ大きさの結果が出るかは確かめられていません。
03 今日からできる小さな一歩忘れた語学は、何から覚え直せばいい?
最初の教科書に戻る前に、何が残っているかを「わかる」と「出せる」に分けて確かめます。わからない単語だけを覚え直し、声に出して使い、間をあけて何度か確かめます。
昔の教材の単語を「見てわかる」「自分で言える」に分ける
昔の単語帳や教科書の1ページを開き、英語を見て意味がわかるかに丸、日本語を見て英語が言えるかにもう1つ丸をつけます。どちらも丸なら飛ばし、片方だけの単語を覚え直しの中心にします。
所要 15分
わからなかった単語だけをカードにする
全部を最初からやり直さず、丸がつかなかった単語だけをカードやノートに書き出します。答えを見る前に、一度は思い出そうとしてから確かめます。カードの使い方は暗記カードの記事で扱っています。
所要 1回20分
「見てわかる」単語を、声に出して使う
わかるけれど言えない単語は、その単語を使った短い文を1つ声に出して言います。話す・書く力は、わかる力より先に落ちやすいためです。
所要 1日5分
覚え直しの日を、間をあけて予定に入れる
覚え直した単語は、数日後、2週間後、1か月後のように間をあけてもう一度確かめます。間をあけると、そのときは少し思い出しにくくても、長く残りやすくなります。間隔の決め方は分散学習の記事を参考にしてください。
所要 1回10分
2か月後に、最初の棚卸しをもう一度やる
手順1と同じページで、丸の数を比べます。気分ではなく、言えるようになった単語の数で進み具合を判断します。
所要 15分
04 続けるためのコツ覚え直した語学を、また忘れないためには?
一度にたくさん詰め込むより、間をあけて何度か覚え直す方が長く残ります。もともとのレベルが高いほど残りやすいので、覚え直しの最初の数か月が大切です。
- 毎日できなくてもいい。間をあけた覚え直しを数回くり返す方が、短い間隔で回数を重ねるより効率がよかった[2]。
- 「読める」で満足せず、言える・書けるかを確かめる。出す力の方が落ちやすい[3]。
- 最初に長く学んだ人ほど、知識が長く残った[1]。覚え直しの最初の時期に、しっかり学ぶ時間をとる。
- 年齢と学び直しの関係は大人の学び直しは不利なのかの記事、新しい単語の覚え方は英単語の覚え方の記事で扱っています。
05よくある質問
10年以上英語を使っていません。単語はもう全部消えていますか?
全部が消えている可能性は低いと考えられます。学校で習ったスペイン語を調べたBahrick(1984)では、最初の3〜6年で減った後、最長30年ほどほとんど変わらず、多くの知識が50年以上残っていました。ただし、どれだけ残るかは最初にどれだけ学んだかによって違いました。
思い出せない単語は、新しい単語と同じように覚え直すしかありませんか?
研究のまとめでは、忘れたように見える外国語の単語を覚え直すのは、新しい単語を一から覚えるより簡単で速いとされています(Mickanら 2019)。思い出せなくても、記憶の跡は残っていることが多いためです。
覚え直しは毎日やらないとだめですか?
毎日でなくてもかまいません。4人が9年かけて単語を覚え直した研究では、56日おきに13回覚え直した場合、14日おきに26回の場合と同じくらい記憶が残りました(Bahrickら 1993)。間をあけると覚え直しの最中は少し手間がかかりますが、長く残りやすくなります。
大人になってからでも、昔の語学は戻ってきますか?
単語や文法については、何十年たっても残っている部分が多いことがわかっています(Bahrick 1984)。一方、子どもの頃に聞いた言葉の発音の区別については、40歳未満の人は覚え直せたものの、40歳以上の人では覚え直しが見られなかったという研究があります(Bowersら 2009)。
出典
- Bahrick, H. P. (1984). Semantic memory content in permastore: Fifty years of memory for Spanish learned in school. Journal of Experimental Psychology: General, 113(1), 1–29. https://doi.org/10.1037/0096-3445.113.1.1
- Bahrick, H. P., Bahrick, L. E., Bahrick, A. S., & Bahrick, P. E. (1993). Maintenance of foreign language vocabulary and the spacing effect. Psychological Science, 4(5), 316–321. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.1993.tb00571.x
- Mickan, A., McQueen, J. M., & Lemhöfer, K. (2019). Bridging the gap between second language acquisition research and memory science: The case of foreign language attrition. Frontiers in Human Neuroscience, 13, 397. https://doi.org/10.3389/fnhum.2019.00397
- Bowers, J. S., Mattys, S. L., & Gage, S. H. (2009). Preserved implicit knowledge of a forgotten childhood language. Psychological Science, 20(9), 1064–1069. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2009.02407.x


