覚えたのに忘れてしまった。最初からやり直し?忘れた後の覚え直し(再学習)の研究

先週あんなに覚えた単語が、今日はほとんど出てこない。「全部ムダだった」と、テキストを1ページ目から開き直したくなります。研究の答えは「忘れたように見えても、覚え直しは最初より速く進む。一度忘れてから覚え直した方が、かえって長く残る」です。最初からやり直すのではなく、忘れた分だけを覚え直す方法を手順にしました。
3行でわかる
- 忘れた後に覚え直すと、最初に覚えたときより少ない回数で済む。エビングハウスの実験を再現した研究では、1日後の覚え直しに必要な回数は最初の約3分の2だった。
- 思い出せずに失敗しても、その後に答えを見れば、ただ読むより身につく。一度忘れた項目は、覚え直したときの伸びがかえって大きかった。
- 立て直しは、①何も見ずに思い出せるだけ書く ②忘れた分だけ覚え直す ③日をあけて2〜3回くり返す、の3つ。最初から全部やり直さない。
01 悩みの正体忘れたら、覚えた時間はムダだった?
ムダではありません。思い出せなくなっても、記憶はゼロに戻っていないことが多く、覚え直すと最初より速く覚えられます。この「速さの差」が、残っていた記憶の量です。
勉強したことを忘れると、「また最初から」と感じます。けれど、思い出せないことと、記憶が消えたことは同じではありません。
心理学では19世紀から、覚え直しにかかる手間で記憶を測ってきました。最初に覚えるより覚え直しが速ければ、その分だけ記憶が残っていたと考えます。これを節約効果(セービング)と呼びます。
もう1つ大事なのは、忘れること自体が次の学習の材料になる点です。思い出そうとして思い出せない経験は、その後に答えを確かめたときの覚え方を強めます。忘れやすさの仕組みは間をあけた復習の記事でも紹介しています。
02 科学的にわかっていること忘れた後の覚え直しは、最初より楽になる?
楽になります。1日後なら覚え直しの回数は最初の約3分の2でした。ただし1か月何もしないと、その差はほぼ消えた実験もあります。覚え直しは、忘れきる前に始めるほど得です。
MurreとDros(2015)[1]
1885年のエビングハウスの忘却曲線の実験を再現した研究。意味のない音節の列を、1回正しく言えるまで覚え、20分後〜31日後に覚え直した。1日後の覚え直しでは、最初に約31回かかった練習が約21回で済んだ。一方31日後は、29.44回が28.23回とほとんど差がなかった。著者らは、エビングハウスの忘却曲線は再現されたと結論づけた。
対象: オランダの大学の22歳男性1人(著者本人) / 限界: 参加者は1人で、材料は意味のない音節。意味のある勉強の内容で同じ数字になるとは限らない。
Radvanskyら(2024)[2]
記憶の保持を調べた256本の論文・916のデータをまとめた分析。忘れ方の曲線は材料や測り方によって違った。予想に反して、時間がたっても覚えている量が変わらない、または増えるデータも少なくなかった。
対象: 意味のない音節から小説までの記憶研究 / 限界: 覚え直しの速さ(節約)で測った研究は少なく、著者らもその部分は割り引いて読むよう注意している。
Kornellら(2009)[3]
6つの実験で、答えられないような問題(架空の一般知識の問題や、連想しにくい単語の組み合わせ)を出した。先に答えようとして失敗してから正解を見た方が、問題と答えを一緒に読むだけより、後でよく覚えていた。
対象: 実験室の記憶課題 / 限界: 単語や短い知識の課題で、長い文章や数学の解き方で確かめた研究ではない。
Stormら(2008)[4]
単語の組み合わせを覚えた後、一部を忘れやすくなる手続きをはさんでから覚え直させた。一度忘れていた項目の方が、覚え直したときの効果が大きかった。著者らは「忘れることは、次の学習を妨げるのではなく助ける」とまとめた。
対象: 実験室の単語課題 / 限界: 短時間の実験で、何週間もたった後の忘れ方とは条件が違う。
RawsonとDunlosky(2011)[5]
学生533人が、3つの実験で用語の定義を思い出す練習で覚え、その後1〜5回、日をあけて覚え直した(1回正しく言えるまで)。覚え直しは1〜4か月後の記憶を大きく高め、追加の練習の手間は比較的少なかった。最初にたくさん練習した効果は、覚え直しを重ねると小さくなった。著者らは「最初は3回正しく思い出せるまで練習し、その後、間を大きくあけて3回覚え直す」ことを勧めている。
対象: 学生533人 / 限界: 用語の定義の暗記での結果で、要旨で確認した内容。
Vaughnら(2016)・Rawsonら(2018)[6][7]
スワヒリ語と英語の単語の組み合わせを、最初に1〜7回正しく思い出すまで練習し、その後1週間おきに4〜5回覚え直した。最初にたくさん練習した差は、覚え直しを重ねると残らなかった(2016年)。別の2つの実験では、何回かに分けて覚え直した方が1回で覚えるより記憶がずっと良かった(効果量1.52〜4.19、2018年)。
対象: 実験参加者(単語や用語の暗記) / 限界: 単語や用語の暗記での結果で、要旨で確認した内容。文章の理解や問題の解き方でも同じ大きさの効果が出るかは確かめられていない。
MurreとDros(2015)の表から、「1回正しく言えるまでに必要だった練習回数」を抜き出しました。忘れてから覚え直すまでの間が短いほど、覚え直しは楽になります。
| 覚え直すまでの間 | 最初に覚えた回数 | 覚え直しの回数 |
|---|---|---|
| 20分後 | 30.77回 | 16.26回 |
| 1日後 | 31.22回 | 21.33回 |
| 6日後 | 31.21回 | 25.97回 |
| 31日後 | 29.44回 | 28.23回 |
数字は1人の参加者が意味のない音節を覚えた実験のものです。忘れ方は材料や測り方によって違います[2]。社会人の独学でこの数字がそのまま当てはまるわけではありません。
03 今日からできる小さな一歩忘れてしまった範囲は、どう覚え直せばいい?
テキストを最初から読み直す前に、何も見ずに思い出せるだけ書き出します。答え合わせで忘れていた分だけを覚え直し、日をあけて2〜3回くり返します。
テキストを閉じて、思い出せるだけ書き出す
忘れた範囲の見出しだけを見て、覚えていることを紙に書きます。思い出せなくてもかまいません。思い出そうとして失敗した後に答えを見ると、ただ読むより身につきます[3]。
所要 5〜10分
答え合わせをして、忘れていたものに印をつける
書けたもの・書けなかったものを分けます。書けたものは、今日はもう覚え直しません。書けなかったものだけが、今日の覚え直しの範囲です。
所要 5分
印のついたものを、1回正しく言えるまで覚え直す
答えを見て確かめたら、もう一度何も見ずに言ってみます。1回言えたらその日は終わりにします。覚え直しの研究でも、各回は「1回正しく思い出せるまで」でした[5][6]。
所要 10〜20分
日をあけて、あと2〜3回同じことをくり返す
数日〜1週間おきに、手順1〜3をくり返します。研究では、間を大きくあけて3回覚え直すことが勧められています[5]。日付は復習日の計算機で、試験日から逆算して決めると迷いません。
所要 1回15〜30分を2〜3回
覚え直しにかかった時間を記録する
「前回より速く覚え直せた」ことは、記憶が残っていた証拠です。かかった時間や、書けなかった数をメモしておくと、忘れてもムダではなかったことが数字で見えます。
所要 1分
04 続けるためのコツまた忘れないために、何を変えればいい?
忘れるのは前提にして、忘れきる前に覚え直す予定を先に入れておきます。最初の1回で完璧にするより、覚え直しの回数に時間を回す方が効率的です。
- 最初に何回も練習して完璧にするより、その時間を後の覚え直しに回す。最初の練習量の差は、覚え直しを重ねると残らなかった[6]。
- 1か月何もしないと、覚え直しの楽さはほぼなくなった実験もある[1]。長く休むと決まったら、1週間に1回だけでも白紙テストをする。
- 思い出せないのは失敗ではなく、覚え直しを強める材料になる[3][4]。何も見ずに思い出す練習の効果はテスト効果の記事で、カードを使った回し方は暗記カードの記事で紹介している。
- 勉強そのものを何日も休んでしまった場合の再開のしかたは、勉強を休んだ後の再開の記事にまとめた。
05よくある質問
覚えたことを忘れたら、最初からやり直すべきですか?
最初から全部やり直す必要はありません。忘れたように見えても、覚え直しは最初より少ない回数で済むことが、エビングハウス以来の研究で確かめられています(MurreとDros 2015)。まず何も見ずに思い出せるだけ書き出し、書けなかった分だけを覚え直すのが効率的です。
覚えたのにすぐ忘れるのは、頭が悪いからですか?
違います。忘れることは誰にでも起きる、記憶のふつうの性質です。研究では、一度忘れた項目の方が、覚え直したときの伸びが大きいことも示されています(Stormら 2008)。大切なのは忘れないことより、忘れた後に覚え直す回数を確保することです。
何回くらい覚え直せば、忘れにくくなりますか?
RawsonとDunlosky(2011)は、学生533人の実験から「最初は3回正しく思い出せるまで練習し、その後、間を大きくあけて3回覚え直す」ことを勧めています。用語の定義を覚える実験での結果なので、内容によって必要な回数は変わります。
1か月以上放置してしまいました。もう手遅れですか?
手遅れではありません。意味のない音節の実験では31日後の覚え直しの楽さはほとんどありませんでしたが(MurreとDros 2015)、多くの記憶研究をまとめた分析では、時間がたっても覚えている量が変わらないデータも少なくありませんでした(Radvanskyら 2024)。まずは白紙テストで、どれだけ残っているかを確かめてください。
勉強法の早見表で「忘れた分だけ、日をあけて覚え直す(連続再学習)」の判定を見る
ほかの勉強法も43種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Murre, J. M. J., & Dros, J. (2015). Replication and analysis of Ebbinghaus' forgetting curve. PLoS ONE, 10(7), e0120644. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0120644
- Radvansky, G. A., Parra, D., & Doolen, A. C. (2024). Memory from nonsense syllables to novels: A survey of retention. Psychonomic Bulletin & Review, 31(6), 2437–2464. https://doi.org/10.3758/s13423-024-02514-3
- Kornell, N., Hays, M. J., & Bjork, R. A. (2009). Unsuccessful retrieval attempts enhance subsequent learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 35(4), 989–998. https://doi.org/10.1037/a0015729
- Storm, B. C., Bjork, E. L., & Bjork, R. A. (2008). Accelerated relearning after retrieval-induced forgetting: The benefit of being forgotten. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 34(1), 230–236. https://doi.org/10.1037/0278-7393.34.1.230
- Rawson, K. A., & Dunlosky, J. (2011). Optimizing schedules of retrieval practice for durable and efficient learning: How much is enough? Journal of Experimental Psychology: General, 140(3), 283–302. https://doi.org/10.1037/a0023956
- Vaughn, K. E., Dunlosky, J., & Rawson, K. A. (2016). Effects of successive relearning on recall: Does relearning override the effects of initial learning criterion? Memory & Cognition, 44(6), 897–909. https://doi.org/10.3758/s13421-016-0606-y
- Rawson, K. A., Vaughn, K. E., Walsh, M., & Dunlosky, J. (2018). Investigating and explaining the effects of successive relearning on long-term retention. Journal of Experimental Psychology: Applied, 24(1), 57–71. https://doi.org/10.1037/xap0000146


