学び直しはどこから始める?「スタート地点」チェック表。自己評価ではなく小テストで、飛ばす単元と戻る単元を決める(予備知識と自己評価の研究)

昔習ったことを学び直そうとして、テキストを開いたものの、最初の章から読むべきか、途中から始めてよいのか迷う。「このへんは覚えている気がする」という感覚だけで決めてよいのか不安になる。研究では、自分の力の自己評価は当たりにくく、短い小テストで確かめた方が、どこから始めるかを決めやすいことがわかっています。この記事は、その研究から作った「スタート地点」のチェック表です。
3行でわかる
- 医師の自己評価を調べた20の比較のうち13で、自己評価と実際の力の関係は弱いか、ないか、逆向きだった。「覚えている気がする」で始める場所を決めない。
- 学ぶ前の知識が多い人ほど、学んだ後の点も高い傾向がある。ただし、伸び幅まで決まるわけではない。だから、足りない所を見つけて埋める価値がある。
- 表1の手順で単元ごとに2問ずつ解き、表2の判定で「飛ばす・軽く読む・しっかり学ぶ・前に戻る」を決める。間違えた問題は、そのまま読むときの問いに使う。
01 悩みの正体「覚えている気がする」で始める場所を決めていい?
決めない方が安全です。医師の自己評価の研究では、20の比較のうち13で、自己評価は実際の力とほとんど一致しませんでした。自信がある人や力の低い人ほど、ずれが大きい傾向も見られました。
学び直しでつまずきやすいのは、2つの思い込みです。1つは「この単元は知っている」と思って飛ばし、後で前提が抜けていたと気づくこと。もう1つは「全部忘れた」と思って最初から読み直し、知っている所に時間を使ってしまうことです。
どちらも、自分の今の力を感覚で見積もることから起きます。この記事では、感覚の代わりに単元ごとの短い小テストで始める場所を決めます。仕組みの説明は短くし、03の表を中心に使ってください。
02 科学的にわかっていること自己評価と小テスト、どちらで決める?
小テストです。自己評価は当たりにくく、学ぶ前の知識は学んだ後の成績と強く結びつきます。また、学ぶ前に問題を解くと、その問題で問われた内容は覚えやすくなります。
Davisら(2006)[1]
医師などが自分の力を自己評価した結果と、外から測った力とを比べた研究をまとめた。725本の論文から17本が条件に合い、20の比較のうち13で関係は弱いか、ないか、逆向きだった。7つでは一致する方向の関係があった。力が低い人や自信が強い人ほど、自己評価が最も不正確だった研究もあった。
対象: 英米・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの医師や研修医など / 限界: 著者ら自身が、研究の質は十分ではないと述べている。資格の勉強の単元を自己評価する場面とは違う。
Simonsmeierら(2022)のメタ分析と、それを論じたBrod(2021)[2]
学ぶ前の知識(予備知識)は、学んだ後の成績の違いの大きな部分を説明した。最初に多く知っている人は、最後にも多く知っている傾向がある。一方で、どれだけ伸びるか(伸び幅)は、平均すると予備知識では説明できなかった。Brodは、予備知識は思い出して使わないと役立たず、新しい内容と食い違う知識は学びを難しくすると整理している。
対象: 多くの研究をまとめたメタ分析(多くの研究を統計でまとめる方法)と、その解説 / 限界: 解説は短い論考で、新しい実験ではない。年齢による違いなど、条件しだいの部分が残っている。
WitherbyとCarpenter(2022)[3]
学生がまずアメリカンフットボールと料理の知識テストを受け、その後、どちらの分野でも誰も知らない新しい情報を、問題に答えて正解を見る形で学んだ。3つの実験で、ある分野の予備知識が多い人ほど、その分野の新しい情報をよく覚えていた。もう一方の分野の情報には、この関係はなかった。
対象: 学生(3つの実験) / 限界: 新しさをそろえるため、学ぶ情報は作られた誤情報だった。実験3では、知識の多い人ほど答えを知りたいと感じていたことが、この関係を説明していた。
St Hilaireら(2024)[4]
学ぶ前に問題を出して答えを推測させる方法の研究をまとめた。事前に問われた内容を覚える効果は中くらい(効果量g = 0.54、97件)だった。問われなかった内容への効果はほぼゼロ(g = 0.04、91件)だった。
対象: 事前に計画を登録したメタ分析 / 限界: 多くは短い文章や動画を使った実験。著者らは、教室での効果を確かめる研究が必要だとしている。
ここで紹介した研究は、医師の自己評価や、学生の短い実験が中心です。社会人が何か月もかけて学び直す場面で、同じ大きさの効果が出るとは限りません。下の表は、研究の考え方を独学向けにこのサイトがまとめたものです。
03 使える表どこから学び直すか、どう決める?
表1の4つの手順で単元ごとに小テストをし、表2に1単元1行で記録します。結果は表3で「飛ばす・軽く読む・しっかり学ぶ・前に戻る」の4つに分けます。
表1 スタート地点チェックの手順。問題の数や時間は、このサイトの目安で、研究で決められた数字ではありません。
| 手順 | やること | 目安 | もとになった研究 |
|---|---|---|---|
| 1 単元の一覧を作る | テキストの目次から、章か節を10〜20行に書き出す。試験があるなら、出題範囲の一覧を使う | 15分 | どの単元の知識が多いかは分野ごとに違う[3] |
| 2 先に予想を書く | 各単元に「説明できる・少しわかる・自信がない」のどれかを書く。直さずに残しておく | 5分 | 自己評価と実際はずれやすい[1]。ずれを見るために残す |
| 3 1単元2問を何も見ずに解く | 章末問題や基本の練習問題から、その単元の要点を問う問題を2問選ぶ。1問5分まで。わからなければ推測で書く | 1単元10分 | 要点を問う問題を選ぶ。問われなかった内容への効果はほぼない[4] |
| 4 答え合わせをして判定する | 正解の数と予想を表2に書き、表3で次の行動を決める | 1単元3分 | 予備知識は学んだ後の成績と強く結びつく[2] |
表2 スタート地点の記録表。1単元につき1行書きます。紙に書き写すか、メモアプリに同じ列を作ります。
| 単元 | 予想(説明できる/少しわかる/自信がない) | 小テスト(正解/2問) | 予想とのずれ | 判定(表3) |
|---|---|---|---|---|
| 例 2章 損益計算書 | 例 説明できる | 例 0/2 | 例 自信があったのに誤り | 例 しっかり学ぶ(最優先) |
| 例 1章 簿記の基本 | 例 自信がない | 例 2/2 | 例 思ったより覚えていた | 例 飛ばす |
例の2行のように、予想と結果が逆になることは珍しくありません。このずれを見つけるのが、この表の一番の役目です。
表3 判定表。小テストの結果から、単元ごとに次の行動を1つ選びます。
| 小テストの結果 | 判定 | 次にやること |
|---|---|---|
| 2問とも正解し、理由も説明できた | 飛ばす | 読み直さず、練習問題から始める。間違えたときだけその節を読む |
| 1問だけ正解、または正解したが理由があいまい | 軽く読む | 間違えた問題の答えを探すつもりで、要点だけ読む。読んだら同じ問題をもう一度解く[4] |
| 0問、手が出なかった | しっかり学ぶ | その単元を最初から読む。前の単元も×なら、表の上にさかのぼって、正解できる単元から始める |
| 「説明できる」と予想したのに間違えた | しっかり学ぶ(最優先) | 自分の答えと正しい答えを並べて書き、どこが食い違うかを1行で書く。新しい内容と食い違う知識は、学びを難しくしやすい[2] |
表4 1か月後の見直し。同じ単元の問題を、前とは別の2問で解き直します。
| 見えたこと | 次の1か月に変えること |
|---|---|
| 「飛ばす」にした単元で間違えた | その単元を「軽く読む」に変える。飛ばした単元は、月に1回だけ2問で確かめる |
| 予想と結果のずれが多いままだった | 予想で決めるのをやめ、小テストの結果だけで決める[1] |
| 「しっかり学ぶ」の単元が2問とも解けた | 次の単元へ進む。進み具合は学び直し計画表に記録する |
04 続けるためのコツチェックを面倒にしないには?
全部の単元を1日でやらず、1日3〜5単元ずつで十分です。間違えた問題は失敗ではなく、これから読むときの問いとして使います。
- 問題は要点を問うものを選ぶ。事前の問題で覚えやすくなるのは、問われた内容が中心でした[4]。細かい数字だけを問う問題は避けます。
- 推測で書いてかまわない。白紙より、何か書いた方が答え合わせで違いがわかります。正しい答えは必ずその日のうちに確かめます。
- 得意な分野の知識を生かす。予備知識が役立つのは、それを思い出して使ったときです[2]。新しい単元を読む前に、関係しそうな知っていることを1行書きます。
- 勉強のやり方全体は、大人の学び直しのやり方にまとめています。年齢が気になるときは年齢と学習の研究も参考になります。
05よくある質問
「この単元は覚えている」という感覚で決めてはだめ?
決めない方が安全です。医師の自己評価を調べたレビューでは、20の比較のうち13で、自己評価と外から測った力の関係は弱いか、ないか、逆向きでした。単元ごとに2問ずつ解いて、結果で決める方が確かです。
小テストで全部の単元が解けなかったら?
表の上(最初の単元)にさかのぼり、2問とも解ける単元を探して、そこから始めます。学ぶ前の知識が少なくても、伸び幅まで決まるわけではないことがメタ分析で示されています。
わからない問題を解くのは時間のむだでは?
むだになりにくいとされています。学ぶ前に問題を解く研究のメタ分析では、事前に問われた内容を覚える効果は中くらい(g = 0.54)でした。ただし、問われなかった内容への効果はほぼゼロ(g = 0.04)なので、要点を問う問題を選びます。
勉強法の早見表で「学び直しのスタート地点を小テストで決める」の判定を見る
ほかの勉強法も57種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Davis, D. A., Mazmanian, P. E., Fordis, M., Van Harrison, R., Thorpe, K. E., & Perrier, L. (2006). Accuracy of physician self-assessment compared with observed measures of competence: A systematic review. JAMA, 296(9), 1094–1102. https://doi.org/10.1001/jama.296.9.1094
- Brod, G. (2021). Toward an understanding of when prior knowledge helps or hinders learning. npj Science of Learning, 6, 24.(Simonsmeier, B. A., Flaig, M., Deiglmayr, A., Schalk, L., & Schneider, M. (2022). Domain-specific prior knowledge and learning: A meta-analysis. Educational Psychologist, 57(1), 31–54 を論じた解説) https://doi.org/10.1038/s41539-021-00103-w
- Witherby, A. E., & Carpenter, S. K. (2022). The rich-get-richer effect: Prior knowledge predicts new learning of domain-relevant information. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 48(4), 483–498. https://doi.org/10.1037/xlm0000996
- St Hilaire, K. J., Chan, J. C. K., & Ahn, D. (2024). Guessing as a learning intervention: A meta-analytic review of the prequestion effect. Psychonomic Bulletin & Review, 31(2), 411–441. https://doi.org/10.3758/s13423-023-02353-8


