計画が遅れてから、記録や計画表を見るのが怖くなった。どう立て直す?見たくない進み具合と向き合う6つの手順(「ダチョウ問題」の研究)

計画より2週間遅れている。そうわかってから、計画表を開かなくなった。勉強の記録アプリも、通知を見ないようにしている。こうした「見たくない」反応は、珍しいことではありません。目標の研究では、進み具合の情報を避けることを「ダチョウ問題」と呼び、その理由と、確かめ直すことの効果が調べられています。
3行でわかる
- 進み具合を確かめるよう促した138の実験(19,951人)をまとめると、確かめる回数を増やす工夫をした組は、目標の達成が高まった(効果量d=0.40)。紙などに書いたときと、人に報告したときに効果が大きかった。
- 見ない理由で多かったのは「見たら行動を変えなければならない」「進み具合が悪い」「考えると気が沈む」。ただ、実際に見ないことを予測したのは「見ても役に立たない」と感じることだった。
- 立て直しは「見る前に次の一手を決める」「数で見る」「週1回10分だけ見る」「紙に書いて1人に報告する」など6つ。ただし、独学の勉強そのものを調べた研究は見当たらない。
01 悩みの正体遅れているとき、進み具合を見たくなくなるのはなぜ?
進み具合を見ると、遅れという悪い知らせを受け取り、計画や行動を変える必要に迫られるからです。見なければ、その不快さをいったん避けられます。
大事な目標なのに、進み具合の情報をわざと見ない。研究者はこれを、砂に頭を突っこむと言われるダチョウにたとえて「ダチョウ問題」と名づけました(Webbら、2013年の論文から)[2]。
家計が苦しいときに残高を見ない、体重が気になるときに体重計に乗らない。勉強でいえば、遅れた計画表を開かない、模試の結果を読まない、といった形で現れます。
困るのは、見ないあいだも遅れは小さくならないことです。そして、見ないままでは「どこから立て直すか」も決められません。
02 科学的にわかっていること進み具合を見ないと、目標は遠のく?
進み具合を確かめる回数を増やす工夫は、平均して目標の達成を高めていました。見ない理由は気持ちの問題が多く挙がりますが、実際に避けるかどうかは「見ても役に立つか」で分かれていました。
Harkinら(2016)[1]
進み具合を確かめるよう促す工夫をした組と、しない組をくじで分けた138の研究(合計19,951人)をまとめたメタ分析(多くの研究を統計でまとめる方法)。工夫によって確かめる回数ははっきり増え(d=1.98)、目標の達成も高まった(d=0.40)。確かめる回数の増え方が、達成の高まりを仲立ちしていた。結果を人に報告・公開したときと、紙などに記録したときに効果が大きかった。
対象: 進み具合を確かめる工夫をくじで割り当てた138の研究の参加者 / 限界: 論文の要旨で確認した内容。勉強の計画だけを取り出した結果ではない。
Changら(2017)[2]
研究1では、進み具合を確かめなかった場面を思い出してもらい、74の文から理由を答えてもらった。理由は10のまとまりに分かれ、強く当てはまったのは「見たら考えや行動を変えなければならない」「進み具合が悪い」「目標を考えると嫌な気持ちになる」だった。研究2では、減量中の人に「進み具合の計算ツール」を使う機会を出したところ、「情報が役に立たない」「当てにならない」と思う人、そして「自分で何とかできる」と感じている人ほど、ツールを使わなかった。
対象: 英国の大学の協力者名簿から集めた288人(研究1、18〜66歳)と、減量中の634人(研究2) / 限界: 研究2は相関の調査で、原因とまでは言えない。著者らは、本人が挙げる理由と、実際に避けることを予測する要因が一致しなかったと述べている。
Changら(2017)[3]
3つの研究で、人が自分の目標の進み具合をどう確かめているかを調べた。「〜を避けたい」という目標ほど確かめられにくかった。仕事や勉強の目標は、ほかの分野より進み具合を確かめるのが難しいと感じられていた。進み具合を数で考える人ほどよく確かめ、確かめるのも簡単だと感じていた。達成できる自信がある目標ほど、確かめやすかった。
対象: 面接40人と、オンライン調査492人・481人 / 限界: すべて相関の研究で、「数で考えれば確かめるようになる」という因果までは示していない。
Bennら(2016)[4]
「進み具合を見ると落ち込むのでは」という心配に関わる研究。体重計で体重を確かめることと心の状態との関係を調べた29の検証をまとめると、不安や落ち込みなどの気分、体への見方、食行動の乱れとの関係は見られなかった。自尊心などの心の働きとは、小さな負の関係があった。
対象: 体重を確かめる行動の研究 / 限界: 勉強の記録ではなく体重の研究。著者らは、年齢や体重の減り方などによって関係が変わる場合もあるとしている。
| 研究で挙がった「見ない理由」 | この記事での立て直し |
|---|---|
| 見たら、計画や行動を変えなければならない | 見る前に「遅れていたらやること」を1つだけ決めておく(手順1) |
| 進み具合が悪いとわかっている | 割合ではなく「今週あと何問」の数で見る(手順2) |
| 目標のことを考えると気持ちが沈む | 見る時間を週1回10分に区切り、終わりを決める(手順4) |
| 見ても役に立たない・当てにならない | 見たら必ず「次の1週間の量」を決め直す(手順3・6) |
| まだ自分で何とかできると思っている | 数字を紙に書き、1人に報告する(手順5) |
左の列は、Changら(2017)の研究で参加者が挙げた理由と、見ないことを予測した要因です[2]。右の列はそれを勉強に当てはめたこの記事の提案で、研究で直接確かめた組み合わせではありません。
03 今日からできる小さな一歩見たくない計画表と、どう向き合い直す?
見る前に「遅れていたらやること」を1つ決め、進み具合は数で、週1回10分だけ見ます。見たら次の1週間の量を決め直し、紙に書いて1人に報告します。
開く前に「遅れていたらやること」を1つ決める
「遅れていたら、今週は問題集の第3章だけにする」のように、見た後の行動を先に紙に書きます。見る怖さの中心は「行動を変えなければならない」ことでした[2]。変え方を小さく決めておけば、見ることの重さが下がります。
所要 2分
「何%遅れ」ではなく「あと何問・何ページ」で見る
「計画の60%しか進んでいない」より、「第4章が残り35ページ、問題が80問」と数で書きます。進み具合を数で考える人ほど、確かめるのが簡単だと感じていました[3]。
所要 5分
「評価」ではなく「次の1週間の量」を決める材料にする
見たら必ず「残りの量 ÷ 残りの週数」で1週間の量を出し直します。「見ても役に立たない」と感じる人ほど見ない傾向がありました[2]。見るたびに次の量が決まれば、見ることに意味が生まれます。
所要 5分
見る日時を「日曜の夜に10分」と決めて、終わりも決める
いつ見るかを決めずにいると、つらい情報ほど後回しになります。タイマーを10分にして、時間が来たら閉じます。毎日の記録は「今日やったこと1行」だけにして、計画全体と比べるのは週1回にします。
所要 週1回10分
数字を紙に書き、1人に送る
「今週: 問題40問、残り80問」と手で書き、家族や勉強仲間に1行で伝えます。138の実験の分析では、紙などに記録したときと、人に報告したときに効果が大きくなりました[1]。
所要 3分
「遅れないように」をやめ、「今週〇問解く」にする
「〜を避ける」形の目標は確かめられにくい傾向がありました[3]。「遅れを出さない」ではなく「今週は問題を40問解く」と、やることの形で書き直します。崩れた計画の作り直し方は勉強の計画が崩れたときの立て直しで詳しく紹介しています。
所要 3分
ここで紹介した研究は、減量や、参加者それぞれの個人的な目標を扱ったもので、何か月も一人で資格や語学を勉強する社会人を直接調べたものではありません。手順は、研究で見つかった傾向を勉強の計画に当てはめた提案です。
04 続けるためのコツ見てもつらいときは、どう続ける?
見る時間を短く区切り、見た後にすぐ小さな1問を解きます。数字を自分の価値の評価にせず、「次に何をするか」を決める道具として扱うのがコツです。
- 週1回の確認が終わったら、そのまま1問だけ解く。見ることと「動けた」がつながると、次も開きやすくなります。
- 遅れの原因が見積もりの甘さなら、勉強の計画が毎回倒れる理由(計画錯誤)を読んで、次の計画に余裕を足します。
- 記録をつけること自体の効果は勉強の記録をつけると続くのかにまとめています。1行で記録したいときは勉強の記録シートが使えます。
- 遅れた自分を責める気持ちが強いときは、失敗した自分を責めてしまうときの考え方も参考にしてください。
- 何日も勉強から離れてしまったら、勉強を何日も休んだ後の再開のしかたから始めます。
05よくある質問
進み具合を見たくないのは、意志が弱いから?
意志の弱さだけでは説明できません。研究では、進み具合の情報を避ける理由として「見たら考えや行動を変えなければならない」「進み具合が悪そう」「目標を考えると気持ちが沈む」が多く挙がりました。誰にでも起こりうる反応で、「ダチョウ問題」と呼ばれています。
遅れているのに記録を見ると、かえってやる気がなくなりませんか?
そうなる日もありえますが、進み具合を確かめるよう促した138の実験(19,951人)をまとめた分析では、確かめる回数を増やす工夫をした組で、目標の達成も高まっていました(効果量d=0.40)。見たあとにやることを先に決めておくと、数字が「責める材料」ではなく「次の一手を決める材料」になります。
毎日記録を見るべき?週1回でいい?
研究で最適な頻度は決まっていません。大事なのは、見る日時を決めて習慣にすることです。毎日の記録は1行で済ませ、計画全体と比べるのは週1回10分、のように分けると負担が小さくなります。
人に進み具合を報告するのは逆効果になりませんか?
138の実験の分析では、結果を人に報告したり公開したりした場合の方が、目標の達成への効果が大きくなっていました。ただし、どんな相手に報告するとよいかまでは、この分析の要旨からはわかりません。数字だけを淡々と伝えられる相手を1人選ぶのが無難です。
出典
- Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y., & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198-229. https://doi.org/10.1037/bul0000025
- Chang, B. P. I., Webb, T. L., & Benn, Y. (2017). Why do people act like the proverbial ostrich? Investigating the reasons that people provide for not monitoring their goal progress. Frontiers in Psychology, 8, 152. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.00152
- Chang, B. P. I., Webb, T. L., Benn, Y., & Stride, C. B. (2017). Which factors are associated with monitoring goal progress? Frontiers in Psychology, 8, 434. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.00434
- Benn, Y., Webb, T. L., Chang, B. P. I., & Harkin, B. (2016). What is the psychological impact of self-weighing? A meta-analysis. Health Psychology Review, 10(2), 187-203. https://doi.org/10.1080/17437199.2016.1138871


