通勤や家事の時間に「耳で学ぶ」には?音声講座を聞き流しで終わらせないやり方(運転・運動中の実験とその限界)

仕事を持ちながら学び直していると、机に向かう時間はなかなか取れません。そこで通勤や家事の時間に、音声講座やポッドキャストを聞く人は多いはずです。研究では、運転や運動をしながら聞いても、座って聞くのと覚える量はほぼ変わりませんでした。ただし聞いただけでは1か月後に半分ほどしか残らず、聞くことは読むより気がそれやすいこともわかっています。何を耳で学ぶかを選び、聞いた後に思い出す時間を足すのがやり方の軸です。
3行でわかる
- アメリカの研修医の実験では、運転しながら(100人)や運動しながら(95人)医学の音声を聞いても、座って聞いた場合と直後・1か月後のテストの成績はほぼ同じだった。
- ただしどちらの聞き方でも、直後に7割台だった正答率は、1か月後には5割強に下がった。大学生の実験では、朗読を聞くと黙読より気がそれやすく、記憶テストの成績も低かった。
- 耳で学ぶのは「一度読んだ内容の復習」や「全体像」に向く。聞き終えたら要点を3つ思い出し、1週間後に問題で確かめる。運転中は操作せず、安全を最優先にする。
01 悩みの正体耳で学ぶと、なぜ頭に残りにくいの?
聞くことは読むより気がそれやすく、それたことにも気づきにくいからだと考えられています。もう一つは、聞いた後に思い出す作業がないまま次へ進みやすいことです。どちらも、やり方で補えます。
本を読むときは、自分のペースで目を動かし、わからなければ戻れます。音声は止めない限り先へ進みます。大学生の実験を行った研究者は、聞くだけでは目の動きなどの手がかりがなく、気がそれても気づかないまま長く続きやすいのではないかと推測しています[4]。
もう一つの理由は、忘れることそのものです。聞いた直後には答えられた内容も、何もしなければ時間とともに薄れていきます。これは座って聞いても、移動しながら聞いても同じでした[1][2]。
02 科学的にわかっていること何かをしながら聞いても、覚えられる?
運転や運動をしながら聞いても、座って聞くのと成績はほぼ同じでした。ただし聞き方に関係なく、1か月後には半分ほどしか残りませんでした。また、聞くことは読むことより気がそれやすく、記憶にも残りにくいという実験があります。
Gottliebら(2021)[1]
救急医学の研修医が、医学のポッドキャストを「運転しながら」と「部屋で座って」の両方で聞いた(順番はくじ引き)。直後の20問テストの正答率は、運転しながら74.2%、座って73.3%。1か月後の40問テストは52.2%と52.0%で、差はなかった。
対象: アメリカ4施設の研修医100人(1か月後のテストは96人) / 限界: 実際の通勤の運転で、道や混み具合はそろえていない。運転の安全は調べていない。
Gottliebら(2024)[2]
同じ研究グループが、30分間の有酸素運動をしながら聞く場合と、座って聞く場合を比べた。直後のテストは74.4%と76.3%、30日後は52.3%と52.5%で、意味のある差はなかった。
対象: アメリカ5施設の救急医学の研修医95人(30日後は92人) / 限界: 医学の専門家の卵が、自分の分野の内容を聞いた実験。初めて学ぶ分野では結果が違う可能性がある。
Jabbariら(2025)[3]
運転シミュレーターを使い、注意の多くいる市街地と、車も信号もない郊外の道を運転しながら聞く場合と、机で聞く場合を比べた。3つの条件で、覚えた量に意味のある差はなかった(直後のテストで、郊外が市街地をわずかに上回った場面はあった)。どの条件でも、1か月後には直後より成績が下がった。
対象: カナダの研修医19人と大学生22人 / 限界: 人数が少なく、シミュレーターでの運転。運転の誤りや安全は結果として調べていない。
Varao Sousaら(2013)[4]
約1,800語の文章を「黙読」「音読」「朗読を聞く」の3通りで読んだ。途中で「今、何を考えていたか」を尋ねると、気がそれていた割合は聞いたときが約51%で、黙読(約36%)より高かった。10問の記憶テストも、聞いた文章は黙読や音読より成績が低かった。2つの別々のグループで同じ結果が出た。
対象: カナダのウォータールー大学の学生235人(分析は211人) / 限界: 一般向けの読み物を、録音を流して聞く形だった。自分で止めたり戻したりしながら聞く場合は調べていない。
運転や運動の実験は、医学の研修医が自分の専門の音声を聞いたものです。一般の社会人が初めての分野を学ぶ場合に同じ結果になるかは、確かめられていません。また、どれも「聞き方」を比べた研究で、聞いた後に思い出す作業を足した場合は調べていません。その部分は、講義の後に問題に答えた実験[5]から考えています。
03 今日からできる小さな一歩通勤時間に耳で学ぶには、どうすればいい?
耳で学ぶ内容を「一度読んだ内容の復習」と「全体像をつかむ話」に絞ります。1回は30分以内にし、聞き終えたら要点を3つ思い出します。気がそれたら戻して聞き直し、1週間後に問題で確かめます。
耳で学ぶ内容を選ぶ
一度テキストで読んだ単元の解説、講座の要約、事例の話を耳に回します。図や式が多い内容と、初めて学ぶ難しい内容は、読んで学ぶ時間に残します。聞くことは読むより気がそれやすく、記憶にも残りにくいという実験があるためです[4]。
所要 計画を立てるとき5分
1回の音声は30分以内にする
運動中と運転シミュレーターの実験で使った音声は、どちらも30分でした[2][3]。長い講座は、話題の変わり目で区切って聞きます。区切りごとに「今の話は一言でいうと何か」を頭の中で言ってから次へ進みます。
所要 片道の通勤時間
気がそれたら、気づいた所から少し戻して聞く
聞いている間は、気がそれても気づきにくいと考えられています[4]。「話が見えなくなった」と感じたら、そこまで戻して聞き直します。運転中は操作をせず、止まってから戻します。
所要 その都度
聞き終えたら、要点を3つ思い出す
降りる駅に着いたとき、家事が終わったときに、音声を見返さずに要点を3つ思い出します。声に出すか、スマホのメモに1行ずつ書きます。講義の後に問題に答えた人は、1週間後に、問題になった内容をよく覚えていました[5]。
所要 1〜2分
1週間後に、メモの要点を問題にして確かめる
手順4のメモから「〇〇とは?」という問題を作り、1週間後に答えます。聞いただけの内容は、1か月で半分ほどに減っていました[1][2]。答えられなかった所だけ、もう一度聞くかテキストで読みます。
所要 5〜10分
04 続けるためのコツ耳で学ぶ習慣を、無理なく続けるには?
「通勤の行きは聞く、帰りは思い出す」のように、毎日の移動に決まった役割を持たせます。机の勉強と組み合わせ、耳だけに頼らないことが大切です。運転中の安全は、学習より常に優先します。
- 移動に役割を決める: 「行きの電車で聞く→会社に着いたら要点3つ」のように、場面と行動をセットにします。時間のつくり方は社会人が勉強時間をつくる記事にまとめています。
- 耳と机を組み合わせる: 週末に読んだ範囲を、平日の通勤で聞き直す流れにすると、耳で学ぶ時間が復習になります。短い時間の使い方はすきま時間の勉強メニュー表も参考になります。
- 思い出す練習を足す: 聞く・読むだけより、思い出す方が残ります(思い出す練習の記事)。
- 安全を最優先にする: 運転中に画面を見たり操作したりしません。紹介した実験は、運転の安全を調べたものではありません。歩きながら聞くときも、周りの音に注意できる音量にします。
- 聞くのがつらい日は読む: 疲れて話が入ってこない日は、無理に聞き続けず、短いテキストを読むか休みます。
05よくある質問
運転しながら音声講座を聞いても、勉強になる?
アメリカの研修医100人の実験では、運転しながら聞いた人と、部屋で座って聞いた人で、直後のテスト(74.2%と73.3%)も1か月後のテスト(52.2%と52.0%)もほぼ同じでした。ただし運転の安全は調べていません。運転中は操作をせず、安全を最優先にしてください。
音声で聞くのと、本で読むのはどちらが覚えられる?
大学生の実験では、朗読を聞いた文章は、自分で黙読・音読した文章より記憶テストの成績が低く、聞いている間に気がそれることも多くなりました。新しく難しい内容は読んで学び、音声は復習や全体像に使う方が向いていると考えられます。
聞き流しているだけで、だんだん覚えられる?
聞いただけでは、多くを忘れます。研修医の実験では、聞いた直後に7割以上答えられた内容も、1か月後には5割ほどに下がりました。聞いた後に要点を思い出す時間を足すと、残りやすくなると考えられます。
出典
- Gottlieb, M., Riddell, J., Cooney, R., King, A., Fung, C.-C., & Sherbino, J. (2021). Maximizing the morning commute: A randomized trial assessing the effect of driving on podcast knowledge acquisition and retention. Annals of Emergency Medicine, 78(3), 416–424. https://doi.org/10.1016/j.annemergmed.2021.02.030
- Gottlieb, M., Cooney, R., Haas, M. R. C., King, A., Fung, C.-C., & Riddell, J. (2024). A randomized trial assessing the effect of exercise on residents' podcast knowledge acquisition and retention. Academic Medicine, 99(5), 575–581. https://doi.org/10.1097/ACM.0000000000005592
- Jabbari, Y., Gottlieb, M., von Mohrenschildt, M., Lee, M., Arnold, K., Shedden, J. M., & Sherbino, J. (2025). The impact of driving versus undistracted listening on podcast knowledge acquisition and retention using a driving simulator: A randomized, cross-over trial. PLOS One, 20(9), e0331299. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0331299
- Varao Sousa, T. L., Carriere, J. S. A., & Smilek, D. (2013). The way we encounter reading material influences how frequently we mind wander. Frontiers in Psychology, 4, 892. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2013.00892
- Heitmann, S., Grund, A., Berthold, K., Fries, S., & Roelle, J. (2018). Testing is more desirable when it is adaptive and still desirable when compared to note-taking. Frontiers in Psychology, 9, 2596. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.02596


