解けなかった問題が、寝たり歩いたりした後に解けるのはなぜ?いったん離れる「あたため効果」と睡眠の研究

夜に何十分考えても解けなかった問題が、朝になると、あっさり解ける。散歩の途中で、ふと解き方を思いつく。そんな経験はありませんか。研究では、行き詰まった問題からいったん離れると解けやすくなる「あたため効果(インキュベーション効果)」が、多くの実験で確かめられています。眠った後に隠れた規則に気づく人が増えた実験もあります。ただし、睡眠の効果が出なかった実験もあり、どんな問題でも効くわけではありません。
3行でわかる
- 行き詰まった問題からいったん離れると、解けやすくなる。多くの実験をまとめた分析で、この効果が確認された。離れる前に長く取り組んだ人ほど効果が大きかった。
- 離れている間は、頭を強く使う作業より、軽い作業のほうが効果が大きかった。眠った後に隠れた規則に気づく人が2倍以上になった実験や、寝入りばなの浅い眠りで83%が気づいた実験もある。
- ただし、77人で調べて、睡眠にも離れることにも効果が出なかった実験もある。難しい問題に本気で取り組んでから離れ、2回目で解けなければ答えを確かめる、という使い方が研究に合う。
01 悩みの正体解けない問題から離れると解けるのはなぜ?
考え続けている間は、最初に思いついた見方や解き方から抜け出しにくくなります。いったん離れると、その固まった見方がゆるみ、別の手がかりに目が向きやすくなると考えられています。
問題に行き詰まるとき、多くは「最初に選んだ見方」にとらわれています。同じ式を何度も見直したり、同じ方向で考え続けたりしてしまいます。
問題からいったん離れることを、研究では「あたため(インキュベーション)」と呼びます。卵をあたためるように、意識して考えていない間に答えが育つ、というたとえです[1]。
なぜ離れると解けるのかは、まだ1つに決まっていません。間違った見方を忘れて、新しく見直せるからという説があります。離れている間に、頭の中で関係する知識が広くつながるからという説もあります[1][3]。研究者たちは、問題の種類によって、働く仕組みが違うのではないかと考えています[1]。
02 科学的にわかっていること離れる・寝る・歩くで、本当に解けやすくなる?
いったん離れる効果は、多くの実験をまとめた分析で確認されています。睡眠や散歩で解けやすくなった実験もあります。ただし、睡眠に効果が出なかった実験もあり、問題の種類や難しさで結果が変わります。
SioとOrmerod(2009)[1]
あたため効果を調べた実験をまとめて分析した(メタ分析)。全体として、いったん離れると解けやすくなる効果が確認された。アイデアをたくさん出す課題で効果が大きく、ひらめきが要る言葉や図形の問題では小さめだった。離れる前に取り組んだ時間が長いほど効果が大きく、離れている間に頭を強く使う作業をすると効果は小さくなった。
対象: これまでに発表された実験のまとめ / 限界: 効果が出なかった実験も含まれ、条件によって大きさが変わる。実験室のパズルが中心で、勉強の問題ではない。
Wagnerら(2004)[2]
数字の並びを順に処理していく課題に、近道になる「隠れた規則」を仕込んだ。最初に練習した後、夜に8時間眠る、夜通し起きている、昼間起きている、のどれかを過ごした。眠った人では、起きていた人の2倍以上が隠れた規則に気づいた。最初の練習をしていない人では、眠っても効果はなかった。
対象: 実験の参加者(夜の睡眠と、夜・昼に起きていた条件を比較) / 限界: 1種類の課題での結果。眠る前に問題に取り組んでいたことが条件だった。
Sioら(2013)[3]
3つの言葉に共通してつながる1語を探す問題で、解けなかった問題にもう一度取り組んでもらった。間に睡眠をはさんだ人は、起きていた人やすぐに再挑戦した人より、難しい問題を多く解いた。易しい問題では差がなかった。
対象: 実験の参加者 / 限界: 言葉の連想の問題だけ。睡眠が効いたのは難しい問題に限られた。
Lacauxら(2021)[4]
健康な103人に、隠れた規則のある数字の問題を解いてもらった。途中で20分、目を閉じて休み、手にはボトルを持たせた(眠り込むと落ちる)。寝入りばなの浅い眠りに15秒以上入った人は、83%(24人中20人)が休憩後に規則に気づいた。起きていた人は31%(49人中15人)、深く眠った人は14%(14人中2人)だった。
対象: フランスの健康な成人103人(平均23歳)。寝つきのよい人を選び、前夜の睡眠を減らしてもらった / 限界: どの眠りに入るかは本人しだいで、くじで分けた比較ではない。休憩前に規則に気づいた16人は分析から除いた。
OppezzoとSchwartz(2014)[5]
4つの実験で、歩いているときと座っているときのアイデアの出方を比べた。ものの使い道をたくさん考える課題では、81%の人で歩いているときのほうが成績が上がった。1つの正解を探す言葉の問題では、上がったのは23%だった。歩いた後に座っても、しばらくアイデアが出やすい状態が続いた。
対象: 4つの実験の成人参加者 / 限界: 調べたのは主に「アイデアをたくさん出す力」で、正解が1つの問題への効果ははっきりしない。
Schönauerら(2018)[6]
77人に、手品の種明かしと、昔から知られるひらめきの問題(マッチ棒の計算など)を解いてもらった。3時間後に再挑戦する前に、昼寝をした人、起きていた人、すぐに再挑戦した人を比べた。睡眠にも、いったん離れることにも、解ける数を増やす効果は見られなかった。
対象: 健康な成人77人(平均24歳) / 限界: 1つのグループは20人ほどと少ない。間は3時間の昼間で、夜の睡眠ではない。
ここで紹介したのは、どれも実験室のパズルや言葉の問題です。資格試験の計算問題や、数学の証明を解く場面を直接調べたものではありません。また、離れても解けない問題はたくさんあります。下のやり方は、わかっていることを独学に当てはめたものです。
03 今日からできる小さな一歩行き詰まった問題は、どう離れればいい?
まず本気で取り組み、行き詰まったところを書き残してから離れます。離れている間は散歩などの軽いことをし、時間をおいて同じ問題にもう一度取り組みます。2回目で解けなければ、答えを確かめます。
行き詰まるまで本気で取り組む
離れる前に長く取り組んだ人ほど、離れた効果が大きいという分析があります[1]。少し考えただけで離れても、育つ材料がありません。眠った後の効果も、先に練習した人だけに出ました[2]。
所要 いつもの1問分
どこで詰まったかを1行メモする
「この式の次がわからない」「この条件の使い道がわからない」と書きます。戻ったときに、どこから考え直せばいいかがすぐにわかります。
所要 1分
離れている間は、軽いことをする
散歩、片付け、皿洗いなど、頭をあまり使わないことが向いています。頭を強く使う作業をすると、あたため効果は小さくなりました[1]。歩いた後はアイデアが出やすい状態がしばらく続きました[5]。
所要 10〜20分
夜なら、寝る前にメモを見直して、翌朝もう一度解く
眠った後に解ける人が増えた実験は、眠る前に問題に取り組んでいた場合でした[2][3]。翌朝、ほかの勉強の前にその問題から始めます。
所要 寝る前2分・翌朝1問分
2回目で解けなければ、答えと解説を読む
離れても解けないことはよくあります[6]。何日も同じ問題で止まらず、解説を読んで「どこで見方を変えればよかったか」をメモに書き足します。
所要 5〜10分
04 続けるためのコツ「離れる」をサボりにしないためには?
離れる時間を最初に決め、戻る問題をメモに残しておくことです。あたため効果は難しい問題で出やすいので、暗記や易しい問題には使わず、行き詰まった問題だけに使います。
- 難しい問題で使う。睡眠が効いたのは難しい問題だけで、易しい問題では差がなかった[3]。暗記ものは、睡眠中の記憶の整理や、間をあけた復習のほうが合っている。
- 昼に仮眠をとるなら、長くしすぎない。深い眠りに入った人では、規則に気づく人が増えなかった[4]。仮眠のとり方は勉強の合間の昼寝を参考にする。
- 長い勉強の途中で体を動かす休憩は、勉強中に体を動かす休憩でも紹介している。
- 夜ふけにアイデアが浮かびやすい理由は、眠い時間帯のほうがアイデアが浮かぶのはなぜ?で取り上げている。
05よくある質問
解けない問題は、すぐに答えを見たほうがいい?
本気で考えて行き詰まった問題なら、答えを見る前にいったん離れて、もう一度取り組む価値があります。離れる前に取り組んだ時間が長いほど、離れた効果が大きいという分析があります。ただし、離れても解けないことは多いので、2回目で解けなければ答えや解説を確かめます。
「寝れば解ける」は本当?
寝た後に隠れた規則に気づく人が2倍以上になった実験がある一方、77人で調べて睡眠の効果が出なかった実験もあります。睡眠は助けになることがある、くらいに考えるのが研究に合っています。眠る前に問題を見直しておくのは手軽に試せます。
離れている間は、別の科目を勉強してもいい?
頭を強く使う作業で離れる時間を埋めると、あたため効果が小さくなるという分析があります。散歩や片付けのような軽い作業のほうが向いています。別の科目を勉強するなら、暗記カードのめくり直しのような軽いものにします。
出典
- Sio, U. N., & Ormerod, T. C. (2009). Does incubation enhance problem solving? A meta-analytic review. Psychological Bulletin, 135(1), 94-120. https://doi.org/10.1037/a0014212
- Wagner, U., Gais, S., Haider, H., Verleger, R., & Born, J. (2004). Sleep inspires insight. Nature, 427, 352-355. https://doi.org/10.1038/nature02223
- Sio, U. N., Monaghan, P., & Ormerod, T. (2013). Sleep on it, but only if it is difficult: Effects of sleep on problem solving. Memory & Cognition, 41(2), 159-166. https://doi.org/10.3758/s13421-012-0256-7
- Lacaux, C., Andrillon, T., Bastoul, C., Idir, Y., Fonteix-Galet, A., Arnulf, I., & Oudiette, D. (2021). Sleep onset is a creative sweet spot. Science Advances, 7(50), eabj5866. https://doi.org/10.1126/sciadv.abj5866
- Oppezzo, M., & Schwartz, D. L. (2014). Give your ideas some legs: The positive effect of walking on creative thinking. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 40(4), 1142-1152. https://doi.org/10.1037/a0036577
- Schönauer, M., Brodt, S., Pöhlchen, D., Breßmer, A., Danek, A. H., & Gais, S. (2018). Sleep does not promote solving classical insight problems and magic tricks. Frontiers in Human Neuroscience, 12, 72. https://doi.org/10.3389/fnhum.2018.00072


