ながら勉強だと頭に入らないのはなぜ?切り替えのコストと「使いにくい記憶」の研究

動画を流しながら、通知を見ながら、問題集を開く。それなりに進んだ気がするのに、あとで思い出そうとすると出てこない。ながら勉強が頭に入りにくいのは、意志が弱いからではありません。研究では、脳が2つの作業を同時にこなしているのではなく、すばやく切り替えていること、そしてその切り替えに毎回コストがかかることがわかっています。
3行でわかる
- 作業を切り替えた直後は反応が遅くなり、ミスも増えやすい。この「切り替えコスト」は準備をしても小さくなるだけで、なくならない。
- 音を数えながら学んだ実験では、正解率は同じでも、答えの理由を説明できる知識が少なかった。気をそらすと、応用しにくい形で覚えてしまう可能性がある。
- 「ふだんからながらが多い人は集中力が落ちる」という説は、再現の研究で関係がとても小さく、まだ決着していない。
01 悩みの正体ながら勉強は、2つを同時にやっている?
多くの場合、同時にはやっていません。注意を2つの作業のあいだで行ったり来たりさせています。切り替えるたびに、遅れとミスが生まれます。
心理学では、ある作業から別の作業へ移ることを「課題の切り替え」と呼び、長く研究されてきました。切り替えた直後の反応は、同じ作業を続けたときよりはっきり遅く、たいていミスも増えます[1]。
この遅れは「切り替えコスト」と呼ばれます。次に何をするかがわかっていて準備できても、小さくはなりますが、なくなりません[1]。頭の中で「今やるべきこと」の設定を入れ替える作業そのものに、時間がかかるためと考えられています。
切り替えコストは、作業のルールが複雑なほど大きくなりました[2]。慣れた作業から慣れない作業に移るときの方が、ルールを呼び出すのに時間がかかるという結果も出ています[2]。勉強はたいてい「慣れない作業」の側です。
02 科学的にわかっていること気をそらしながら覚えると、何が変わる?
気をそらしながら学ぶと、正解率は同じでも、理由を説明できる知識が少なくなった実験があります。一方、「ながらが多い人は集中力が低い」という説は、再現の研究で弱まっています。
Foerdeら(2006)[3]
カードの組み合わせから「晴れか雨か」を当てるルールを、手がかりを頼りに少しずつ学ぶ課題。一方の課題は高い音だけを数えながら学んだ。後のテストの正解率は、気をそらしたときも差がなかった。しかし、どのカードがどの答えにつながるかを選ぶテストでは、気をそらさずに学んだ方が成績がよかった。
対象: 米国UCLAで集めた成人14人(分析は13人、平均25.7歳)、脳の活動も測定 / 限界: 人数が少なく、勉強ではなく実験室の課題。気をそらす作業は音を数えることで、スマホや動画ではない。
脳の活動を見ると、集中して学んだときは、出来事を覚える働きにかかわる「海馬」の活動が成績と結びついていました。気をそらしたときは、くり返しで身につける習慣の学習にかかわる「線条体」の方が成績と結びついていました[3]。著者らは「気をそらしても学習の量は減らないとしても、新しい場面で柔軟に使いにくい知識になりうる」と述べています。
Ophirら(2009)[4]
米スタンフォード大学の学生262人に、ふだんどれだけ複数の媒体を同時に使うかを尋ね、とくに多い人と少ない人を比べた。多い人ほど、関係のない刺激に気をとられやすく、作業を切り替えたときの遅れが167ミリ秒大きかった。
対象: 実験は各グループ15〜22人の大学生 / 限界: ある時点の比較で、ながらの習慣が原因かどうかはわからない。著者ら自身も、能力の差ではなく注意の向け方の違いかもしれないとしている。
WiradhanyとNieuwenstein(2017)[5]
インドネシアとオランダの大学生で、Ophirらの実験を2回くり返した。14のテストのうち、ながらが多い人の方が気をとられやすい結果が出たのは5つ。より厳しい分析で残ったのは2つだった。他の研究とまとめたメタ分析(多くの研究を統計でまとめる方法)でも差はとても小さく(d=0.17)、小さな研究の偏りを補正すると統計的に意味のある差は残らなかった(d=0.07)。
対象: 2つの大学の学生と、既存の12論文 / 限界: 調べたのは実験室の注意の課題で、勉強の成果そのものではない。
2018年の総説も、ながらが多い人の方が成績が悪い研究がある一方で、差が見られない研究も多いとまとめています。作業記憶(覚えておきながら考える力)を調べた24のテストでは、約半分で差が出て、残りは差がありませんでした[6]。どちらが原因でどちらが結果なのかも、まだわかっていません[6]。
| よく言われること | 研究での判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 切り替えるたびに遅れとミスが出る | くり返し確認されている | 課題切り替えの研究[1][2] |
| 気をそらしながら覚えると、使いにくい知識になる | 実験で示唆(小規模) | 13人のfMRI実験[3] |
| ふだんながらが多い人は集中力が低い | まだ決着していない | 元の研究[4]と再現・メタ分析[5]・総説[6] |
ここで紹介した研究は、どれも実験室の短い課題です。何か月も続く社会人の独学で、ながら勉強がどれだけ成果を下げるかを直接測った研究ではありません。
03 今日からできる小さな一歩ながら勉強をやめるには、何から変える?
切り替えの回数を減らすことから始めます。勉強する時間とスマホを見る時間を分け、覚える作業のあいだは1つのことだけにします。
25分は勉強だけにする
タイマーを決めた時間にかけ、そのあいだは教材以外を開きません。休憩を決めておくと、途中で見たくなっても「あとで見る」と言いやすくなります(ポモドーロ・テクニックの研究)。
所要 25分
最後の3分で、何も見ずに思い出す
勉強の終わりに、今日の内容を何も見ずに書き出します。「わかったつもり」かどうかを確かめられ、理由まで言えるかも確認できます。
所要 3分
04 続けるためのコツどうしても他のことが気になるときは?
完全にやめようとするより、ながらを許す作業と許さない作業を分けます。新しい内容を覚えるときは1つにしぼり、単純な作業だけ他と組み合わせます。
- 覚える・理解する作業は1つにしぼる。切り替えコストはルールが複雑なほど大きくなります[2]。
- 音楽は歌詞のないものにする。BGMの影響は条件で変わります(BGMと勉強の研究)。
- 途中で気がそれたら、責めずに戻る。中断の後の戻り方は集中が切れたときの立て直し方にまとめています。
05よくある質問
ながら勉強でも、点数が同じなら問題ない?
同じ点数でも、身についた知識の形が違う可能性があります。気をそらしながら学んだ実験では、正解率は変わらなかったのに、どの手がかりが答えにつながるかを説明する知識は少なくなっていました[3]。ただし13人の小さな実験で、勉強そのものを調べたものではありません。
ふだんから「ながら」が多い人は、集中力が落ちている?
はっきりとは言えません。2009年の研究では、ふだん同時にいくつもの媒体を使う人ほど、作業の切り替えが遅く、関係ない刺激に気をとられやすい結果でした[4]。しかしその後の再現の試みとメタ分析では関係はとても小さく、偏りを補正すると統計的に意味のある差は残りませんでした[5]。
慣れれば、ながら勉強でも効率は落ちない?
切り替えの遅れは、準備の時間があると小さくなりますが、なくなりはしません[1]。慣れて速くなる面はあっても、切り替えるたびの損をゼロにする方法は研究では示されていません。勉強中は1つの作業にしぼる方が確実です。
出典
- Monsell, S. (2003). Task switching. Trends in Cognitive Sciences, 7(3), 134–140. https://doi.org/10.1016/S1364-6613(03)00028-7
- Rubinstein, J. S., Meyer, D. E., & Evans, J. E. (2001). Executive control of cognitive processes in task switching. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 27(4), 763–797. https://doi.org/10.1037/0096-1523.27.4.763
- Foerde, K., Knowlton, B. J., & Poldrack, R. A. (2006). Modulation of competing memory systems by distraction. Proceedings of the National Academy of Sciences, 103(31), 11778–11783. https://doi.org/10.1073/pnas.0602659103
- Ophir, E., Nass, C., & Wagner, A. D. (2009). Cognitive control in media multitaskers. Proceedings of the National Academy of Sciences, 106(37), 15583–15587. https://doi.org/10.1073/pnas.0903620106
- Wiradhany, W., & Nieuwenstein, M. R. (2017). Cognitive control in media multitaskers: Two replication studies and a meta-analysis. Attention, Perception, & Psychophysics, 79(8), 2620–2641. https://doi.org/10.3758/s13414-017-1408-4
- Uncapher, M. R., & Wagner, A. D. (2018). Minds and brains of media multitaskers: Current findings and future directions. Proceedings of the National Academy of Sciences, 115(40), 9889–9896. https://doi.org/10.1073/pnas.1611612115


