興味のあることだけすぐ覚えられるのはなぜ?好奇心と記憶の研究(「ついでに覚える」効果が勉強では逆になった実験も)

好きなゲームやドラマのことは一度で覚えられるのに、テキストの用語は何度読んでも残らない。そう感じるのは、記憶力が悪いからではありません。研究では、「答えを知りたい」と強く感じた問いの答えは、そうでない問いより覚えやすく、1日たっても差が残っていました。ただし、その好奇心は、近くにある関係のない勉強の内容までは助けてくれませんでした。
3行でわかる
- 知りたいと感じた問いの答えは覚えやすい。ある実験では、すぐ後のテストで70.6%と54.1%、1日後で45.9%と28.1%の差が出た。
- 好奇心がわいているとき、脳では「ごほうび」を待つときと同じ回路と、記憶をつくる海馬が働いていた。ただし仕組みには推測の部分もある。
- 好奇心の「おこぼれ」は当てにならない。面白い問いの近くに置いた別の勉強の事実は、かえって覚えにくくなった実験がある。
01 悩みの正体興味のあることだけすぐ覚えられるのはなぜ?
興味のあることを覚えやすいのは、答えを知りたいという気持ち(好奇心)が、覚える働きそのものを強めるからです。好奇心の強さによって、同じ人でも覚えられる量が変わることが、実験で繰り返し確かめられています。
研究者は、好奇心を「知らないことを知りたいという気持ち」として扱います。実験ではよく、雑学クイズを使います。たとえば「宇宙飛行士によると、月はどんなにおい?」のような問いです。
参加者は、問いを見るたびに「どれくらい答えを知りたいか」を6段階で付けます。その後に答えを見て、あとで覚えているかをテストします。同じ人の中で、知りたい問いとそうでない問いを比べられるのがこの方法のよいところです。
ですから「自分は覚えられない人だ」と考える前に、覚えようとしている内容に「知りたい」という気持ちが向いているかを見直す価値があります。
02 科学的にわかっていること好奇心があると、どれくらい覚えやすい?
知りたいと感じた問いの答えは、そうでない問いより1日後でもよく思い出せました。一方で、好奇心がわいた問いの近くに出てきた別の勉強の事実は、かえって覚えにくくなりました。
Kangら(2009)[1]
雑学の問いを読んでいるとき、好奇心が強いほど、ごほうびを待つときに働く脳の部位(尾状核)がよく働いていた。好奇心が強い問いほど、参加者は答えを知るために限られたトークンや待ち時間を多く使った。別の実験では、好奇心が強かった問いほど、意外な答えを1〜2週間後によく思い出せた。
対象: 脳の画像を撮る実験と、行動の実験を組み合わせた研究 / 限界: 好奇心と思い出しやすさの関係は「相関」として示されたもので、問いの中身の違いなど別の理由も入りうる。
Gruberら(2014)[2]
知りたい度合いが高い問いの答えは、すぐ後のテストで70.6%思い出せ、低い問いは54.1%だった。約22.5時間後のテストでも45.9%と28.1%で、差は残った。答えを待つ間に見せた関係のない顔写真も、好奇心が高いときの方がわずかに覚えていた(42.4%と38.2%)。
対象: 脳の画像を撮った実験と、1日後にテストした追加の実験 / 限界: 顔写真への効果は小さく、1日後は自信をもって覚えていた顔に限られた。著者らは、ドーパミン(やる気に関わる脳内の物質)は直接測っていないと書いている。
GruberとRanganath(2019)[3]
好奇心と記憶の研究をまとめたレビュー。好奇心が高い問いの答えを覚えやすいという結果は多くの研究で見られ、すぐ後のテストでも、1日〜数週間後のテストでも出ていた。若い大人だけでなく、健康な高齢者や子ども・10代でも報告されていた。
対象: 好奇心と記憶の研究全体 / 限界: 著者ら自身が、実験室の結果が教室で通用するかはまだ確かめるべき問いだと書いている。
Murphyら(2021)[4]
答えを待つ間に関係のない顔写真を見せた2つの実験。好奇心が高いと顔写真をよく覚えていたのは、問いを見た直後に写真が出たときだけだった。答えを待つ時間の後半(問いから6〜8秒後)に出したときは、はっきりした差がなかった。
対象: 実験1は61人、実験2は32人 / 限界: 覚えたのは顔写真で、勉強の内容ではない。
Kellerら(2024)[5]
雑学の問いの近くに、科学・歴史・英語など勉強の事実を1つずつはさんだ。抜き打ちの選択式テストをすると、知りたい度合いが高い問いの近くに置いた事実の方が、どの方法(3通り)でも覚えていなかった。好奇心の「おこぼれ」で、別の勉強の内容まで覚えられるわけではなかった。
対象: アメリカに住む18〜50歳の成人239人(オンライン実験、平均33.9歳) / 限界: 差は数ポイントと小さい。3通りとも同じ研究チームの1本の論文で、はさんだ事実は問いと無関係だった。
ここで紹介した実験の多くは、数十〜数百人が雑学クイズを1回見て、数分〜数週間後にテストしたものです。資格試験のように何か月も学ぶ独学で、同じ大きさの差が出るとは限りません。
02 つづき好奇心が記憶を強めるのは、どんな仕組み?
好奇心がわくと、ごほうびを待つときに働く脳の回路が活発になり、それが記憶をつくる海馬の働きを高める、と研究者は考えています。ただし、この説明の一部はまだ推測です。
- 答えを待つ間に回路が働く。Gruberら(2014)では、好奇心が高い問いを見て答えを待つ間、中脳と側坐核(ごほうびに関わる部位)の働きが強まっていた。
- 「知っていることと知らないことのすき間」で好奇心がわく。レビュー[3]は、予想と違うことに気づいたとき(予測のずれ)に好奇心が生まれる、という枠組みを示している。Kangら(2009)でも、予想を外したときに記憶に関わる部位が働いていた。
- 効果は問いの答えに強く、周りには弱い。同じ時間に見た別のものへの効果は小さく、勉強の事実ではむしろ逆になった[2][4][5]。
わかったつもりと実際の記憶のずれについては、覚えたつもりなのに書けない理由の記事で紹介しています。
03 今日からできる小さな一歩勉強の内容に好奇心を向けるには?
読む前に、見出しを「知りたい問い」に書き換えて、答えを予想してから読みます。研究の実験と同じ形を、自分のテキストで作るやり方です。効果の大きさは独学では確かめられていないので、記録しながら試します。
見出しを問いに書き換える
「消費税の仕組み」なら「なぜ消費税は店ではなく客が払うように見えるの?」のように、答えを知りたくなる形にします。
所要 1問30秒、1回に5問まで
知りたい度を1〜6で付ける
実験と同じく、問いの横に数字を書きます。低い問いは、身近な例に言い換えてみます。
所要 1分
04 続けるためのコツ興味がわかない科目は、どう覚える?
面白い話題の「ついで」に覚えようとせず、覚えたい内容そのものを問いの答えにします。それでも興味がわかないときは、好奇心に頼らず、思い出す練習と間をあけた復習で覚えます。
- 面白い雑談と、覚えたい事実を交互に並べない。Kellerら(2024)では、面白い問いの近くに置いた勉強の事実の方が覚えにくかった。
- 覚えたいことを「問いの答え」の位置に置く。好奇心の効果がはっきりしているのは、知りたいと思った問いの答えだった。
- 興味は、詳しくなると後から育つこともある。興味と成績の研究は興味のあることから勉強する話の記事で紹介しています。
- 「思い出せそうで出てこない」ときも好奇心が動く。ど忘れの記事では、その状態の研究を紹介しています。
05よくある質問
興味のないことは覚えられないの?
覚えられます。好奇心は覚えやすさを高めますが、興味の低い問いの答えも、1日後に28.1%は思い出せていました(Gruberら、2014)。興味がわかない内容は、思い出す練習と、間をあけた復習で補います。
面白い話と一緒に勉強すれば、ついでに覚えられる?
当てにしない方がよい、というのが今の研究です。答えを待つ間の顔写真はわずかに覚えやすくなりましたが、239人の実験では、面白い問いの近くに置いた勉強の事実がかえって覚えにくくなりました(Kellerら、2024)。
好奇心と記憶の関係は、大人でも同じ?
研究をまとめたレビューでは、若い大人だけでなく、健康な高齢者や子ども・10代でも、好奇心が高い問いの答えを覚えやすいという結果が報告されています。ただし多くは雑学クイズを使った実験室の研究です。
出典
- Kang, M. J., Hsu, M., Krajbich, I. M., Loewenstein, G., McClure, S. M., Wang, J. T., & Camerer, C. F. (2009). The wick in the candle of learning: Epistemic curiosity activates reward circuitry and enhances memory. Psychological Science, 20(8), 963–973. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2009.02402.x
- Gruber, M. J., Gelman, B. D., & Ranganath, C. (2014). States of curiosity modulate hippocampus-dependent learning via the dopaminergic circuit. Neuron, 84(2), 486–496. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2014.08.060
- Gruber, M. J., & Ranganath, C. (2019). How curiosity enhances hippocampus-dependent memory: The prediction, appraisal, curiosity, and exploration (PACE) framework. Trends in Cognitive Sciences, 23(12), 1014–1025. https://doi.org/10.1016/j.tics.2019.10.003
- Murphy, C., Dehmelt, V., Yonelinas, A. P., Ranganath, C., & Gruber, M. J. (2021). Temporal proximity to the elicitation of curiosity is key for enhancing memory for incidental information. Learning & Memory, 28(2), 34–39. https://doi.org/10.1101/lm.052241.120
- Keller, N. E., Salvi, C., Leiker, E. K., Gruber, M. J., & Dunsmoor, J. E. (2024). States of epistemic curiosity interfere with memory for incidental scholastic facts. npj Science of Learning, 9, 22. https://doi.org/10.1038/s41539-024-00234-w


