教科書を読む前に、目次と見出しで全体をつかむやり方。見出しと予告文の研究からわかった5つの手順

教科書を1ページ目から読み始め、数ページ進んだところで「いま何の話をしているんだっけ」となる。そんな経験は珍しくありません。結論から言うと、本文に入る前に目次と見出しを数分ながめ、全体の地図を先に作っておくやり方には研究の裏づけがあります。見出しがあると、読む人は話題のまとまりをつかみやすくなり、話題とその並びをよく思い出せました。この記事では、読む前に全体をつかむ5つの手順と、見出しに頼りすぎたときの落とし穴を紹介します。
3行でわかる
- 見出しがある文章を読んだ大学生は、見出しのない同じ文章を読んだ大学生より、話題とその並び(構成)をよく覚えていた。
- 見出しが無くても、「頭の中で目次を作りながら読む」練習をした人は、同じように構成をよく覚えていた。
- 手順は、①目次を2分ながめる ②章の見出しを質問に変える ③1行の地図を書く ④読みながら地図に戻る ⑤見出しの無い部分も拾う、の5つ。
01 悩みの正体読んでも頭に入らないのは、全体が見えていないから?
原因の一つは、いま読んでいる段落が全体のどこに当たるかが見えていないことです。見出しは「ここから話題が変わる」という合図になり、読む人が文章の構成をつかむ手がかりになります。
文章の構成をはっきり示す工夫を、研究では「信号(シグナル)」と呼びます。見出し、章の初めの「この章では〜を扱う」という予告文、太字、図の矢印などがそうです。
教科書には、たいてい目次と見出しがついています。つまり、全体の地図はすでに本の中にあります。読む前にそれを使うかどうかが分かれ目です。
02 科学的にわかっていること目次や見出しを先に見ると、理解や記憶は良くなる?
見出しや予告文があると、大学生は文章の話題と構成をよく覚え、要約やアウトライン(骨組みのメモ)も上手に作れました。ただし効果は「構成をつかむ」部分が中心で、見出しの無い話題は逆に落としやすくなります。
Sanchezら(2001)[1]
12の話題を含む説明文を読み、あとで思い出してもらった。見出しつきの文章を読んだ人、または「頭の中で目次を作りながら読む」練習を受けた人は、どちらも無い人より、話題とその並びをよく覚えていた。著者らは、見出しが読み方そのものを変えると考えている。
対象: 米国の大学生 / 限界: 要旨で確認。1つの文章を使った実験で、数日後の記憶や試験の点までは調べていない。
Lorchら(2001)[2]
複数の話題を含む文章を、見出しが全部ある・半分だけある・無いの3通りで読んで要約してもらった。3つの実験すべてで、見出しのある話題ほど要約に入りやすかった。一方、見出しが半分だけのときは、見出しの無い話題が要約から落ちやすくなった。
対象: 米国の大学生(実験1〜3)と、小学6年生・中学2年生(実験3) / 限界: 要旨で確認。効果の大きさの数値は要旨に示されていない。
Lorchら(2012)[3]
説明文を読んでアウトラインを書いてもらう実験。章の初めに「これから〜と〜を説明する」という予告文がある条件では、信号が何も無い条件より、アウトラインの出来がずっと良かった。紙に印刷された文章でも、読み上げ音声で聞いた場合でも同じだった。
対象: 米国の大学生 / 限界: 要旨で確認。見出しは、読み上げ音声では見出しだと伝わらず、効果が出なかった。
Shiら(2020)[4]
1,200〜1,300字の説明文を画面で読んだとき、手がかりの無い文章の理解テストは8点満点で平均4.41点だった。要点を太字・下線にした文章では6.65点、キーワードの関係を示す図をつけた文章では6.11点に上がった。
対象: 中国の大学1年生75人 / 限界: 1つの大学の少人数の実験。テストは研究者が作ったもので、図は自分で作ったのではなく与えられたもの。
Xieら(2017)[5]
文章と図を使った教材で、重要な所を示す手がかりの効果を調べた研究をまとめたメタ分析(多くの研究を統合する方法)。手がかりがあると、覚えている量(効果量d=0.27)と、学んだことを応用する力(d=0.34)が、小さいながら向上していた。
対象: 記憶については25本の論文・2,910人 / 限界: 図と文章を組み合わせた教材だけが対象。著者ら自身が、文字だけの文章での効果は今後の課題としている。
ここで紹介した実験は、主に大学生が1回、短い文章を読んだ場面のものです。社会人が分厚いテキストを何週間もかけて読む場合に、同じ大きさの効果があるかはわかっていません。また、読む前に全体像を示す工夫(先行オーガナイザー)は1960年代から研究されていますが、1980年のメタ分析は「効果は小さい」と結論し、効果をほとんど支持しなかったレビューや、直後の学習は増えても長く覚えている量には差がなかった研究もあります[6]。
03 今日からできる小さな一歩教科書を読む前に、目次と見出しをどう使う?
本文に入る前に目次を2分ながめ、今日読む章の見出しを質問に変えて、1行の地図を書きます。読みながら地図に戻り、最後に見出しの無い部分を拾います。合計5分ほどで始められます。
目次を2分ながめ、今日の章の位置を確かめる
本全体の章立てを見て、「今日読む章は、前の章の何を受けて、次の章の何につながるか」を一言で言ってみます。言えなくても大丈夫です。位置を探すこと自体が目的です。
所要 2分
今日の章の見出しだけを、上から順に読む
本文は読まず、大見出し・小見出し・図表のタイトル、章の初めの予告文と章末のまとめだけを読みます。予告文はアウトラインづくりを助けた信号です[3]。
所要 2分
見出しを並べた「1行の地図」を書く
ノートの上に「A → B → C」のように、見出しを短い言葉で並べます。自分で目次を作る練習をした人は、見出しのある文章を読んだ人と同じように構成をよく覚えていました[1]。見出しの一つを「〜とは何か?」「なぜ〜?」と質問に変えておくと、読むときの目的になります。
所要 1〜2分
読みながら、いまどこにいるかを地図で確かめる
見出しが変わるたびに、地図の該当する所に印をつけます。迷子になったら本文を読み返す前に、地図に戻ります。
所要 読みながら
読み終えたら、見出しの無い部分を拾う
見出しに頼ると、見出しの無い話題を落としやすくなります[2]。見出しの下に隠れていた例・注・コラムを見返し、地図に足すべきものがあれば書き足します。
所要 2分
04 続けるためのコツ見出しで全体をつかむ方法を、勉強の流れにどう組み込む?
地図づくりは読む前の5分に限り、本文を読んだあとは本を閉じて思い出す練習につなげます。全体をつかむだけで覚えられるわけではないため、思い出す練習と組み合わせることが大切です。
- 地図は丁寧に作らない。5分を超えたら、そこで本文に入る。
- 読み終えたら本を閉じ、地図を見ながら各見出しの中身を思い出して書く。読む・思い出す・確かめる「3Rシート」がそのまま使える。
- 読む前に問題を解いておく方法は事前テストの記事、読みながら自分で問いを立てる方法は質問を作りながら読む記事にまとめている。
- 見出しの無い資料(論文、ネットの長い記事)では、段落の最初の1文に線を引くつもりで拾い読みし、自分で見出しをつける。
05よくある質問
目次を見てから読むと、かえって時間がかかりませんか?
地図づくりは5分以内に区切れば、読み直しの時間を減らせる可能性があります。見出しや予告文があると構成をよく覚えられたという実験はありますが、全体の勉強時間が短くなるかを直接調べた研究は見当たりません。5分を超えないことを目安にしてください。
見出しを見ておけば、本文は流し読みでいい?
いいえ。見出しのある話題は要約に入りやすくなる一方、見出しの無い話題は落としやすくなるという実験があります。見出しは本文を読むための地図で、本文の代わりにはなりません。読んだあとに見出しの無い部分を見返すと、取りこぼしを減らせます。
見出しのない本や資料では、どうすればいい?
自分で頭の中に目次を作りながら読む練習をした人は、見出しのある文章を読んだ人と同じように構成をよく覚えていました。段落ごとに「この段落は何の話か」を数語でメモし、それを並べると自分用の見出しになります。
出典
- Sanchez, R. P., Lorch, E. P., & Lorch, R. F. (2001). Effects of headings on text processing strategies. Contemporary Educational Psychology, 26(3), 418–428. https://doi.org/10.1006/ceps.2000.1056
- Lorch, R. F., Lorch, E. P., Ritchey, K., McGovern, L., & Coleman, D. (2001). Effects of headings on text summarization. Contemporary Educational Psychology, 26(2), 171–191. https://doi.org/10.1006/ceps.1999.1037
- Lorch, R. F., Chen, H.-T., & Lemarié, J. (2012). Communicating headings and preview sentences in text and speech. Journal of Experimental Psychology: Applied, 18(3), 265–276. https://doi.org/10.1037/a0029547
- Shi, Z., Tang, T., & Yin, L. (2020). Construction of cognitive maps to improve reading performance by text signaling: Reading text on paper compared to on screen. Frontiers in Psychology, 11, 571957. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.571957
- Xie, H., Wang, F., Hao, Y., Chen, J., An, J., Wang, Y., & Liu, H. (2017). The more total cognitive load is reduced by cues, the better retention and transfer of multimedia learning: A meta-analysis and two meta-regression analyses. PLoS ONE, 12(8), e0183884. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0183884
- Bryce, T. G. K., & Blown, E. J. (2023). Ausubel's meaningful learning re-visited. Current Psychology(先行オーガナイザー研究の評価の経緯を整理したレビュー). https://doi.org/10.1007/s12144-023-04440-4


