「試験前にローズマリーの香りをかぐと記憶力が上がる」は本当?香りと記憶の研究でわかったこと(効く・効かないの判定)

試験の前にローズマリーの香りをかぐと、記憶力が上がる。そんな話を聞いて、試してみようか迷っている人もいるでしょう。研究を調べると、ローズマリーの香りで記憶の検査の成績が上がった実験は、ほぼ1つの研究グループのものに限られ、ほかの研究室での確認は見つかりませんでした。判定は「当てにならない(試験前にかぐだけなら)」です。ただし、においを「覚えたときと同じ合図」や「眠っているあいだの合図」として使う方法には、別の研究の裏づけがあります。
3行でわかる
- 判定:「試験前にローズマリーをかぐと記憶力が上がる」は当てにならない。よく引用される実験は144人の1回の検査で、記憶の正確さは上がったが、思い出す速さは遅くなった。
- においが記憶を助けるのは、覚えるときとテストのときに「同じにおい」があるときだった。テストのときだけでは、この効果は得られない。
- 覚えたあと眠っているあいだに同じにおいを流すと、記憶が残りやすいことはメタ分析でも確かめられている(効果は小さめ)。起きているあいだに流しても効果は見られなかった。
01 通説の中身ローズマリーで記憶力が上がる話の根拠は?
主な根拠は、イギリスのMossらが2003年に発表した144人の実験です。ローズマリーの香りの部屋で検査を受けた人は、記憶の正確さの得点が高くなりました。
この実験では、144人をくじで3つの組に分けました[1]。ローズマリーの香りの部屋、ラベンダーの香りの部屋、香りのない部屋です。それぞれの部屋で、コンピューターを使った記憶と注意の検査を受けてもらいました。
本当の目的は、検査が終わるまで伏せていました。「香りで頭がよくなるはず」という思い込みが結果に混ざらないようにするためです。
ここから「ローズマリーで記憶力アップ」と紹介されるようになりました。ところが論文を読むと、話はもう少し複雑です。
02 科学的にわかっていること香りをかぐと、試験で思い出しやすくなる?
試験の前にかぐだけで記憶が良くなる、とはっきり言える証拠はありません。効果が確かめられているのは、覚えるときと同じにおいを合図にする方法と、眠っているあいだににおいを使う方法です。
Mossら(2003)[1]
144人をローズマリー・ラベンダー・香りなしの3組に分けた。ローズマリーの組は、香りなしの組より記憶の正確さの得点が高かった。一方で、思い出す速さは遅くなった。ローズマリーの組は気分の「しゃっきり感」も高かった。ラベンダーの組は作業記憶(頭の中に一時的に情報を置く力)の成績が下がった。
対象: 健康な大人144人 / 限界: 実験室での1回の検査。試験本番や、覚えた内容を数日後に思い出す力を測ったものではない。
MossとOliver(2012)[2]
20人がローズマリーの香りの部屋に4〜10分いたあと、計算や注意の課題を受け、血液を調べた。香りの成分(1,8-シネオール)の血中濃度が高い人ほど、3ずつ引いていく計算の正答が多かった(相関係数0.47)。
対象: イギリスの若い大人20人 / 限界: 全員が香りをかいでおり、香りのない比較の組がない。相関なので、香りが成績を上げたとまでは言えない。課題は記憶テストではない。
Herz(1997)[3]
単語を覚える部屋と、48時間後に思い出すテストの部屋に、においを流した。覚えるときとテストのときの両方に同じにおいがあると、単語をよく思い出せた。なじみのない珍しいにおい(キンモクセイ)のとき、効果がいちばん大きかった。
対象: 実験室の参加者 / 限界: 単語リストを覚える短い実験。においがテストのときだけにある条件では、この効果は得られなかった。
Neumannら(2020)[4]
ドイツの6年生(11〜12歳)54人が、家で英単語を覚えるときにバラの香りのお香(火はつけない)を机に置いた。その後1週間、寝るときも枕元に置いた組は、香りを使わなかった組より単語テストの誤りが少なかった(誤りの割合の平均25%と36%、効果量0.61)。覚えるときとテストのときだけ置いた組では、はっきりした差はなかった(効果量0.19)。
対象: ドイツの11〜12歳54人(2クラス) / 限界: 比べた組にはお香を配っておらず、思い込みの影響を完全には除けていないと著者ら自身が書いている。睡眠は測っていない。
Huら(2020)[5]
覚えるときに使った音やにおいを、眠っているあいだにもう一度流す方法の91実験・2,004人をメタ分析(多くの研究を統計でまとめる方法)した。眠っているあいだに流すと記憶が残りやすくなった(効果量0.29)。においを合図にした場合も音と同じ程度だった。起きているあいだに流しても効果は見られなかった。
対象: 主に実験室の大人 / 限界: 出版の偏り(効果が出た研究ほど発表されやすい)を補正すると、効果量は0.13〜0.18まで小さくなった。
香りの効果には「思い込み」が混ざりやすいことも分かっています。女子大学生96人の実験では、ラベンダーの香りそのものは、緊張のあとのリラックス(皮膚の電気反応)を変えませんでした[6]。変えたのは、香りがどう効くと説明されたかでした。
香りの研究18件を詳しく調べたHerzのレビューも、香りの効果は成分の薬のような働きより、その人の経験や期待など心理の面で説明した方がよく合うとまとめています[7]。
ここで紹介した研究は、実験室の短い検査や、11〜12歳の1週間の単語学習です。何か月もかけて資格試験の勉強をする大人の、本番の点数を測ったものではありません。
03 今日からできる小さな一歩香りを勉強に使うなら、どう使う?
試験の直前にかぐより、覚えるときと寝るときに同じ香りを置く方が、研究の条件に近い使い方です。ただし効果は小さめで、勉強の中身の代わりにはなりません。
直前の「香り頼み」より、思い出す練習を優先する
試験前の時間は、問題を解いて答えを思い出す練習に使います。教科書を読み返すより、思い出す練習の方が記憶に残ることは多くの研究で確かめられています(思い出す練習の記事)。
所要 1回10〜15分
試すなら、覚えるときと寝るときに同じ香りを置く
単語や用語を覚えるときに、いつも同じ香りを机に置きます。その夜は枕元にも置きます。研究では火をつけないお香を使いました。寝るときは火を使うものを避けます。
所要 準備に2分
試験会場の決まりと周りの人を先に考える
試験中に香りを使えるとは限りません。強い香りは周りの受験者の迷惑にもなります。本番は香りがなくても思い出せるよう、場所や条件を変えて練習しておきます(場所と記憶の記事)。
所要 受験案内の確認に5分
04 続けるためのコツ試験前に記憶を確実にするには何が大事?
香りよりも、覚えたあとにしっかり眠ることと、間をあけて思い出す練習をくり返すことが先です。香りは、試したい人が足す「おまけ」と考えます。
- 前の晩は眠る。においの合図が働いたのは、眠っているあいだでした。徹夜では使えません(一夜漬けの記事)。
- 「効いた気がする」に注意する。香りの効果には思い込みが混ざりやすいと分かっています。模試の点や正答数で確かめます。
- 験担ぎの話は他にもある。試験前に音楽を聴く話はモーツァルト効果の記事で調べています。
- 香りが苦手なら使わない。気分が悪くなる香りは、集中の邪魔になります。
05よくある質問
ローズマリーの香りで本当に記憶力は上がる?
試験前にかぐだけで上がるとは言えません。よく引用される144人の実験では、記憶の正確さの得点は上がりましたが、思い出す速さは遅くなりました。ほかの研究室で同じ結果が確かめられた例は見つかりませんでした。
勉強中と試験中に同じ香りをかぐと思い出しやすい?
実験室の研究では、覚えるときとテストのときに同じにおいがあると、単語をよく思い出せました。ただし11〜12歳の単語学習の研究では、覚えるときとテストのときだけ香りを置いても、はっきりした差は出ませんでした。
寝ているあいだに香りを使うと記憶が残る?
覚えるときと同じにおいや音を眠っているあいだに流すと、記憶が残りやすくなることがメタ分析で確かめられています。効果量は0.29で、出版の偏りを補正すると0.13〜0.18と小さめです。
勉強法の早見表で「試験前にローズマリーの香りをかぐ」の判定を見る
ほかの勉強法も59種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Moss, M., Cook, J., Wesnes, K., & Duckett, P. (2003). Aromas of rosemary and lavender essential oils differentially affect cognition and mood in healthy adults. International Journal of Neuroscience, 113(1), 15–38. https://doi.org/10.1080/00207450390161903
- Moss, M., & Oliver, L. (2012). Plasma 1,8-cineole correlates with cognitive performance following exposure to rosemary essential oil aroma. Therapeutic Advances in Psychopharmacology, 2(3), 103–113. https://doi.org/10.1177/2045125312436573
- Herz, R. S. (1997). The effects of cue distinctiveness on odor-based context-dependent memory. Memory & Cognition, 25(3), 375–380. https://doi.org/10.3758/BF03211293
- Neumann, F., Oberhauser, V., & Kornmeier, J. (2020). How odor cues help to optimize learning during sleep in a real life-setting. Scientific Reports, 10, 1227. https://doi.org/10.1038/s41598-020-57613-7
- Hu, X., Cheng, L. Y., Chiu, M. H., & Paller, K. A. (2020). Promoting memory consolidation during sleep: A meta-analysis of targeted memory reactivation. Psychological Bulletin, 146(3), 218–244. https://doi.org/10.1037/bul0000223
- Howard, S., & Hughes, B. M. (2008). Expectancies, not aroma, explain impact of lavender aromatherapy on psychophysiological indices of relaxation in young healthy women. British Journal of Health Psychology, 13(4), 603–617. https://doi.org/10.1348/135910707X238734
- Herz, R. S. (2009). Aromatherapy facts and fictions: A scientific analysis of olfactory effects on mood, physiology and behavior. International Journal of Neuroscience, 119(2), 263–290. https://doi.org/10.1080/00207450802333953


