「何度も書き写すと覚えられる」は本当?書き写しと思い出す練習をくらべた研究(効く・効かないの判定)

漢字は10回、英単語はノート1行分。子どもの頃から「書いて覚える」と言われてきた人は多いはずです。研究を調べると、判定は「条件しだい」でした。見慣れない文字の形やつづりは、書くと残りやすいという結果があります。一方、単語や用語の中身を思い出す力は、書き写すより「隠して思い出す」練習のほうが伸びました。
3行でわかる
- 判定:「条件しだい」。くり返し書くと、図形や知らない文字の形は覚えやすくなった。ただし同じ実験で、漢字・単語・音節では効果が出なかった。
- 大人の英語のつづりでは、同じ時間なら「書き写す」と「テストして答えを見る」は同じくらい伸びた。けれど、単語そのものを思い出す力はテストのほうがはっきり上だった。
- 大学生の実験でも、用語や文章を覚えるのは、思い出す練習のほうが書き写しより成績が良かった。書くなら、最後に見本を隠して書けるかを確かめる。
01 通説の中身「書いて覚える」は、何を覚えるのに効く?
書き写しが効くのは、主に文字の形やつづりのような「書けること」そのものです。単語の意味や用語の説明のような中身は、書き写しより、見ないで思い出す練習のほうが身につきました。
「何度も書いて覚える」には、2つの目的が混ざっています。1つは形を書けるようにすること。知らない漢字や、英単語のつづりがそうです。もう1つは中身を思い出せるようにすること。単語の意味や、資格試験の用語の説明がそうです。
研究の結果は、この2つで違いました。手を動かすことは形の記憶を助けます。けれど、見本を見ながら写すだけでは、記憶から引き出す練習になりません。思い出す練習(テスト効果)が、読み直しより記憶に残ることは、多くの研究のまとめ(メタ分析)で確かめられています。とくに、選ぶより自分で答えを書き出す形のほうが効果が大きいという結果でした[5]。
02 科学的にわかっていること書き写しと思い出す練習、どちらが残る?
形やつづりは、書くと残りやすい結果があります。けれど単語や用語を思い出す力は、同じ時間なら、思い出す練習のほうが書き写しより伸びました。
仲と直井(1995)[1]
くり返し書いて覚える方法が効くかを、4つの実験で調べた。くり返し書くと、図形の記憶は良くなった。けれど漢字・単語・音節では良くならなかった。この結果は日本人でもアメリカ人でも同じで、漢字の文化だから効くわけではなかった。書いて思い出すテストでは効いたが、見て「見たかどうか」を答えるテストでは効かなかった。
対象: 日本人とアメリカ人の参加者 / 限界: 短い時間で覚える実験室の課題。何週間もかけて学ぶ独学とは違う。
仲(1998)[2]
日本の小学1・3・5年生が、本物ではない漢字のような文字や外国の文字を覚えた。どの学年でも、見るだけより書いて覚えたほうがよく思い出せた。なぞり書きや、書いた結果が見えない状態で書くと、書く利点は小さくなった。書き順を逆やでたらめにしても、利点は小さくならなかった。
対象: 日本の小学生 / 限界: 子どもの実験で、大人で同じ結果になるかはこの研究ではわからない。
Panら(2015)[3]
大人の英語のつづりの学習で、「テストして正解を見る」と「書き写す」を同じ時間でくらべた。3つの実験で、つづりの伸びは同じくらいだった。ところが、覚えた単語を何も見ずに書き出すテストでは、テストして学んだほうがはっきり良かった。4つ目の実験では、テストは「読むだけ」より、単語を書き出す力もつづりも大きく上回った。
対象: 大人 / 限界: つづりを覚える課題。著者らは、子どもではテストが書き写しより良かった先行研究と違う結果だと述べている。
QiangとMa(2026)[4]
大学生が、用語(96人)か文章(103人)を同じ時間で学んだ。「思い出す練習」と「わざと間違えてから正解を見る」は、どちらも書き写しより記憶に残った。ところが本人たちの評価では、わざと間違える方法が低く見られ、書き写しと思い出す練習が高く見られた。
対象: 大学生199人 / 限界: 2つの実験だけで、著者らも一部の結果はさらに追試が必要としている。
Sigayretら(2026)[6]
思い出す練習の効果は「いちばん確かな結果の1つ」とされる。ところが、ネットで参加者を集めた2つの実験では、思い出す練習と読み直しの差は、後日のテストで見られなかった。著者らは、効果そのものの限界ではなく、ネットの実験では学習に深く取り組んでもらいにくいためだろうとしている。
対象: オンラインの参加者 / 限界: 予備的な実験。思い出す練習も、集中して取り組まないと差が出にくいことを示している。
多くは実験室で、短い時間に覚えて数分〜数日後にテストした研究です。何か月もかけて資格や語学を学ぶ独学で、書き写しと思い出す練習をくらべた研究ではありません。
03 今日からできる小さな一歩書いて覚えるなら、どう変える?
まず「形を書けるようにしたいのか」「中身を思い出したいのか」を決めます。形なら見本を見て2〜3回書き、隠して書きます。中身なら写す回数を減らし、隠して思い出す練習にあてます。
覚えたいのが「形」か「中身」かを分ける
知らない漢字の形や英単語のつづりは「形」。単語の意味や用語の説明は「中身」。ノートの端に印をつける。
所要 1分
形は、なぞらずに自分の手で書く
見本を見ながら2〜3回書く。なぞり書きでは書く利点が小さくなった[2]。
所要 1語1分
見本を隠して、もう一度書く
書けたら見本と見くらべる。まちがえた所だけ写し直す。つづりでは、テストして正解を見るのと書き写すのは同じくらい伸びた[3]。
所要 1語30秒
中身は「10回写す」を「3回思い出す」に置きかえる
用語の名前だけ見て説明を書き出し、答え合わせをする。書き写しより記憶に残った[4]。
所要 10分
04 続けるためのコツ書き写しの手ごたえに、だまされないためには?
書き写しは手が動き、ノートも埋まるので、覚えた気になりやすい方法です。翌日に隠して書けるかで確かめると、本当に残ったかがわかります。
- 翌日に、隠して書けるかを試す。書けなかった語だけを次の日の練習に回します。
- カードにすると隠しやすい。表に用語、裏に説明を書きます。使い方は単語カードの使い方の記事にあります。
- 頭の中で思い出すか、書くかは目的で選ぶ。使い分けは思い出す練習は頭の中でいい?の記事を参考にしてください。
- ほかの手の動かし方も試す。用語の意味を絵に描くと、書き写すより残った実験があります(描いて覚える記事)。
05よくある質問
漢字や英単語は、何度も書いて覚えるべき?
目的によります。見慣れない形やつづりは、書くと残りやすい結果があります[1][2][3]。一方、漢字・単語・音節では、くり返し書いても覚えやすくならなかった実験があります[1]。意味まで覚えたいなら、書き写しの一部を「隠して思い出す」練習に置きかえます。
なぞり書きでも効果はある?
子どもの実験では、なぞり書きにすると、自分で書く場合の利点が小さくなりました[2]。見本をなぞるより、見本を見ながら自分の手で書くほうがよさそうです。ただし大人で確かめた研究ではありません。
書き写すと、覚えた手ごたえがあります。それでもだめ?
手ごたえは当てになりません。大学生の実験では、本人の評価と実際の成績が食い違い、本人たちは成績の良かった方法を低く見ていました[4]。書いた後に一度隠して書けるかを試すと、本当に覚えたかがわかります。
出典
- Naka, M., & Naoi, H. (1995). The effect of repeated writing on memory. Memory & Cognition, 23(2), 201–212. https://doi.org/10.3758/BF03197222
- Naka, M. (1998). Repeated writing facilitates children's memory for pseudocharacters and foreign letters. Memory & Cognition, 26(4), 804–809. https://doi.org/10.3758/BF03211399
- Pan, S. C., Rubin, B. R., & Rickard, T. C. (2015). Does testing with feedback improve adult spelling skills relative to copying and reading? Journal of Experimental Psychology: Applied, 21(4), 356–369. https://doi.org/10.1037/xap0000062
- Qiang, X., & Ma, X. (2026). The advantages of deliberate errors in promoting college students' memory retention and transfer. British Journal of Educational Psychology, 96(2), 922–944. https://doi.org/10.1111/bjep.70058
- Rowland, C. A. (2014). The effect of testing versus restudy on retention: A meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin, 140(6), 1432–1463. https://doi.org/10.1037/a0037559
- Sigayret, K., Parmentier, J. F., & Silvestre, F. (2026). Testing the testing effect on Prolific: when retrieval practice fails to boost learning. Frontiers in Psychology, 17, 1727423. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1727423


