記憶・覚え方

ハングル・アラビア文字など、新しい文字を覚える練習表と記録表。最初は手で書き写し、単語の段階では書く・打つにこだわらない(手書きと文字の学習の研究から)

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アルファベットとかなが刻まれたキーボード
Photo: christoofar / Public domain / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究をAIが調べて整理しました(独自の実験ではありません。出典は末尾)。

韓国語のハングル、アラビア語、ロシア語のキリル文字。新しい言語を始めると、最初に立ちはだかるのが見慣れない文字です。画面で眺めるだけでいいのか、ノートに書くべきか、キーボードで打てば十分か。研究からいえるのは、文字の形そのものを覚える段階では、手で書き写す練習が少し有利ということです。ただし単語の意味を覚える段階では、書いても打っても思い出せる量に差は出ませんでした。この記事では、その違いに合わせた練習表と記録表を紹介します。

3行でわかる

  1. アラビア文字を初めて学ぶ大人36人の実験では、手で書き写した群が、見るだけ・打つだけの群より、文字の名前を言う・何も見ずに書く・単語をつづるテストでよい成績だった。
  2. 一方、日本人の大人33人がインドネシア語の単語を学んだ実験では、ペンで書いても打っても、思い出せた単語の数に差はなかった。
  3. 文字の形を覚える最初の数回は「見る→書き写す→名前を言う→見ずに書く」で練習し、単語の意味の段階では書く・打つにこだわらず思い出す練習をする。

01 この表でできること新しい文字は、書いて覚えるべき?

文字の形を覚える最初の段階では、手で書き写す練習を入れる価値があります。単語の意味を覚える段階では、書くか打つかより、思い出す練習をしたかのほうが大事です。

新しい文字を覚えるときは、2つのことを同時に学んでいます。1つは文字の形と、その音や名前の結びつき(この形は「ka」と読む、など)。もう1つは、その文字でできた単語の意味です。

研究を見ると、手で書く練習が有利だったのは、主に前者でした。そこでこの記事の表は、2つの段階を分けて、それぞれに合う練習を割り当てています。ノートをとるときの手書きとパソコンの違いは、ノートは手書きとパソコンどちらがいいかの記事で別に扱っています。

02 表の根拠になった研究手で書くと、新しい文字は覚えやすい?

大人がアラビア文字を学んだ実験では、手で書いた群が、名前を言う・書く・つづるテストで最もよい成績でした。ただし単語の意味の記憶では、書いても打っても差が出ない実験もあります。

Wiley・Rapp(2021)[1]

アラビア文字20字(34の字形)を、3つの方法で学んだ。打つ群は画面の文字をキーボードで探して押し、見る群は画面の文字が同じかどうかを判断し、書く群はペンで書き写した。3群とも同じ文字を同じ時間だけ見た。週2回、最大6回の練習のあと、文字を見分けるテストでは3群とも約95〜97%で差がなかった。しかし名前を言う(書く群93.4%・見る群82.8%)、何も見ずに書く(91.0%・64.5%)では書く群が見る群を上回り、単語のつづり(76.3%・打つ群62.3%)では書く群が打つ群を上回った。単語の読みは書く群が最も高かったが、はっきりした差ではなかった。

対象: アメリカの大学の学生・職員で、アラビア文字を学んだことのない大人。最後まで受けたのは36人(各群12人、平均約21歳) / 限界: 打つ群は字形ごとにキーが決まった特殊なキーボードを使った。各群12人と少なく、事前登録もされていない。子どもや年配の人で同じになるかは調べていない。

Iharaら(2021)[2]

日本語が母語の大人が、インドネシア語の単語20語ずつを、ペンで紙に書く・電子ペンでタブレットに書く・キーボードで打つ、の3通りで10分ずつ覚えた。打つほうがくり返した回数は多かった(1語あたり約11.3回、ペンは約9.2回)。しかし直後のテストで日本語訳を書けた単語の数には、3通りで差がなかった。脳波(N400という反応)では、手で書いた単語のほうが大きな反応が出た。

対象: 日本語が母語の右利きの大人33人(21〜48歳) / 限界: 測ったのは直後の記憶だけで、長く残るかはわからない。脳波の違いは、思い出せる量の違いには表れていない。

Longcampら(2008)[3]

大人が見たことのない文字を、ペンで書く方法とキーボードで打つ方法で覚えた。そのあと、文字が正しい向きか、鏡に映したように左右が反転しているかを見分けるテストをすると、手で書いて覚えた文字のほうが見分けやすく、その差は数週間続いた。

対象: 大人 / 限界: 調べたのは文字の向きを見分ける力で、読む・話す力ではない。人数などの細かい条件は、この記事では要旨の範囲でしか確認できていない。

Pinet・Longcamp(2024)[4]

「手書きは脳を広くつなぐので学習によい」とした脳波の研究について、その研究は記憶すること自体を測っておらず、学習への効果は言えないと指摘した論評。打つ条件も、右手の人差し指1本だけで打つという不自然なものだった。そのうえで、手書きが文字の見分けや単語の読み書きに役立つという研究はあるが、長い目で見た効果はまだはっきりしないとまとめている。

種類: 論評(新しい実験ではない) / 意味: 「手書きは脳に良い」という話の多くは、脳の反応を見ただけで、覚えた量を確かめていない。

まとめると、手で書く練習が有利だったのは、見慣れない文字の形と音を結びつける最初の段階です。単語の意味を覚える段階では、書いても打っても思い出せる量に差はありませんでした。どの実験も人数が少なく、何か月もかけて言語を学ぶ独学で同じ差が出るかは確かめられていません。そのため、表の効果は自分の記録で確かめます。

03 使える表新しい文字の練習表は、どう使う?

1回15〜20分、週2〜3回の練習で、表1のメニューを順に回します。毎回の終わりに表2の3つのテストをし、表3の目安に届いたら単語の段階に進みます。

1

覚える文字を、1回あたり5〜10字に区切る

ハングルなら母音から、キリル文字なら英語と形が同じで読みが違う文字から、などまとまりで区切ります。全部を一度に回さず、回ごとに新しい文字を足します。

所要 2分(初回だけ)

2

見て、音を聞いて、書き写す

1字ずつ、お手本を見ながら紙に書き写し、同時に音を声に出します。実験の書く群も、画面のお手本をペンで書き写していました[1]。きれいに書くことより、形の違いに気づくことを意識します。

所要 5〜8分

3

文字だけを見て、名前(音)を言う

お手本を隠し、ばらばらの順に並べた文字を見て音を言います。言えなかった文字に印をつけます。

所要 3分

4

音だけを聞いて、何も見ずに書く

音声や自分のメモの読みを見て、文字を書きます。書けたらお手本と見比べ、向きや点・線の数が違う文字に印をつけます。

所要 3分

5

表2に正解の割合を書き、次の回に回す文字を決める

印のついた文字を、次の回の最初に回します。1日あけて練習すると、思い出す練習の間があきます。実験でも、練習のあいだは1日以上あけていました[1]。

所要 1分

表1 段階ごとの練習メニュー。研究の結果をもとに、このサイトが練習の組み立てとしてまとめたものです。

段階何を覚える?中心にする練習書く・打つは?
1 文字の形形の違い(向き・点・線の数)書き写す→向きの違う文字と見比べる手で書く。書いた文字のほうが向きを見分けやすかった[3]
2 文字と音この形はこの音、の結びつき見て音を言う・音を聞いて書く手で書く練習を入れる。名前を言う・書くテストで差が出た[1]
3 文字の組み合わせ2〜3字の並び(音節・つづり)短い単語を見て読む・聞いてつづるつづる練習は手で書く群がよかった[1]。読む力でははっきりした差はなかった
4 単語の意味単語と意味の結びつき意味を見て単語を思い出す・単語を見て意味を言うどちらでもよい。書いても打っても思い出せた数に差はなかった[2]

表2 練習の記録表(1回1行)。3つのテストは、実験で差が出た「見分ける・名前を言う・何も見ずに書く」をまねたものです[1]。記入例は架空です。

回・日付今回の文字見分ける名前を言う見ずに書く次に回す文字
例 1回 10/1ㅏㅓㅗㅜㅡㅣ6/64/63/6ㅓㅗ・ㅜㅡ
例 2回 10/3前回の6字+ㄱㄴㄷㄹ10/108/107/10ㄷㄹ・ㅓ
例 3回 10/6前回の10字+ㅁㅂㅅㅇ14/1413/1412/14ㅂ
      

表3 次に進む目安。実験では「見分けるテストで90%を超え、それが2回続く」を練習終了の基準にしていました[1]。ここではそれを参考に、このサイトが目安を足しています。

記録に出ていること次にすること
見分けるは90%以上だが、名前を言う・見ずに書くが低い見るだけで覚えた気になっている。書き写しと「音を聞いて書く」を増やす
3つとも90%以上が2回続いたその文字は段階3(組み合わせ)へ。新しい文字を足す
いつも同じ2字を取り違えるその2字だけを並べて書き比べ、違う部分に色をつける。似たものが混ざる理由は似た単語が混ざる理由の記事で紹介している
6回練習しても届かない1回の文字数が多すぎる。半分に減らしてやり直す
文字はすらすら読める段階4へ。単語は暗記カードの使い方で、思い出す練習を中心にする

04 続けるためのコツ文字の練習を、飽きずに続けるには?

1回を短く区切り、きれいに書くことは目指しません。文字が読めるようになったら、早めに短い単語へ進みます。

  • ノート1冊を書き写しで埋めることを目標にしない。大事なのは書いた量より、そのあと見ずに言えるか・書けるかです。何回も書き写すだけの練習が効きにくい理由は、覚えようとしても残らない理由の記事にまとめています。
  • スマホやタブレットのペン入力でもよい。日本の実験では、電子ペンでタブレットに書いた場合も、紙にペンで書いた場合と思い出せた単語の数は同じくらいでした[2]。
  • 「手書きは脳を活性化する」という話をうのみにしない。脳の反応が大きいことと、たくさん覚えられることは別の話です[4]。自分の表2の数字で確かめます。
  • 単語の段階では、打つ練習に切り替えてもよい。単語の意味の記憶では書いても打っても差はなかったので[2]、移動中はスマホで、家では紙で、と続けやすい方を選びます。

05よくある質問

外国語の文字は、手で書いて覚えたほうがいいの?

文字の形と音を結びつける最初の段階では、手で書き写す練習を入れる価値があります。アラビア文字を学んだ大人36人の実験では、書き写した群が、見るだけ・打つだけの群より、名前を言う・何も見ずに書く・単語をつづるテストで上回りました。ただし文字を見分けるテストでは3群とも差がありませんでした。

英単語やインドネシア語の単語も、書いたほうが覚えられる?

単語の意味を覚える段階では、書くか打つかで差が出なかった実験があります。日本語が母語の大人33人がインドネシア語の単語を学んだ実験では、ペンで書いても、電子ペンでも、キーボードで打っても、直後に思い出せた単語の数は同じくらいでした。書く・打つより、意味を思い出す練習をするかどうかが大切です。

「手書きは脳を活性化するから記憶に良い」は本当?

脳の反応が大きくなることと、覚えた量が増えることは別です。手書きで脳が広くつながると報告した研究には、覚えた量を測っていないという批判があります。単語の実験でも、手書きのほうが脳波の反応は大きかったのに、思い出せた単語の数には差がありませんでした。

新しい文字は、何回くらい練習すれば読めるようになる?

研究で決まった回数はありません。アラビア文字20字の実験では、週2回の練習を最大6回とし、見分けるテストで90%を超える状態が2回続いたら終わりにしていました。書き写した群は、その基準に平均3.67回で届きました。文字の数や言語によって変わるので、記録表で自分の進み方を確かめてください。

出典

  1. Wiley, R. W., & Rapp, B. (2021). The effects of handwriting experience on literacy learning. Psychological Science, 32(7), 1086–1103. https://doi.org/10.1177/0956797621993111
  2. Ihara, A. S., Nakajima, K., Kake, A., Ishimaru, K., Osugi, K., & Naruse, Y. (2021). Advantage of handwriting over typing on learning words: Evidence from an N400 event-related potential index. Frontiers in Human Neuroscience, 15, 679191. https://doi.org/10.3389/fnhum.2021.679191
  3. Longcamp, M., Boucard, C., Gilhodes, J.-C., Anton, J.-L., Roth, M., Nazarian, B., & Velay, J.-L. (2008). Learning through hand- or typewriting influences visual recognition of new graphic shapes: Behavioral and functional imaging evidence. Journal of Cognitive Neuroscience, 20(5), 802–815. https://doi.org/10.1162/jocn.2008.20504
  4. Pinet, S., & Longcamp, M. (2024). Commentary: Handwriting but not typewriting leads to widespread brain connectivity: a high-density EEG study with implications for the classroom. Frontiers in Psychology, 15, 1517235. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1517235