「勉強が続かないのは、やり抜く力(グリット)が足りないから」は本当?グリットの研究でわかったこと(効く・効かないの判定)

資格の勉強を始めても、2週間で止まってしまう。そんなとき「自分にはやり抜く力がない」と感じる人は多いはずです。「やり抜く力(グリット)」は本でも広く紹介され、「鍛えれば続く」と言われることもあります。研究を調べると、判定は「条件しだい」でした。グリットと成績の関係はありますが、期待されたより小さく、「まじめさ」という性格とほとんど重なります。続かない理由を性格だけに求めるより、続けやすい条件を整えるほうが研究に沿っています。
3行でわかる
- 判定:「条件しだい」。88の集団・66,807人分のメタ分析で、グリットと成績・続けることの関係は中くらいで、「まじめさ(誠実性)」とはとても強く重なっていた。
- イギリスの16歳4,642人では、性格の5つの特徴で成績のばらつきの5.6%を説明でき、グリットを加えても0.5%しか増えなかった。グリットの中で成績と関係が強いのは「努力を続ける」の方だった。
- その日に粘れるかは、勉強が目標に役立つと感じるか、難しすぎないか、雑念が少ないかにも左右された。性格を鍛えるより、こうした条件を整えるほうから始める。
01 通説の中身「やり抜く力」とは何で、何が言われている?
グリットは「長い目標への情熱と粘り強さ」と定義された性格の特徴です。「才能よりグリットが成功を決める」「鍛えれば続く」と広まりました。
グリットは、心理学者のダックワースらが2007年に名づけた考え方です。「興味が変わらないこと(情熱)」と「努力を続けること(粘り強さ)」の2つでできているとされ、質問紙で測ります。
ここから「勉強が続かないのはグリットが足りないから」「グリットを鍛えれば三日坊主が直る」という話が広まりました。研究で確かめられるのは、グリットはどれくらい成績や続けることと関係するか、グリットはほかの性格と別のものか、鍛えたり伸ばしたりできるかの3つです。
02 科学的にわかっていることグリットが高いと、勉強は続く?
関係はありますが中くらいで、まじめさとほとんど重なります。成績と関係が強いのは「努力を続ける」の方でした。その日に粘れるかは、勉強の条件にも左右されます。
Duckworthら(2007)[1]
学歴、大学の成績、陸軍士官学校に残れるか、スペリング大会の順位などで、グリットは成功のばらつきの平均4%を説明した。グリットはIQとは正の関係がなく、性格の「まじめさ(誠実性)」とは強く関係していたが、IQとまじめさを考えに入れても予測の力が残った。
対象: 大人2集団(1,545人・690人)、名門大学の学生138人、士官候補生1,218人・1,308人、スペリング大会の参加者175人 / 限界: 特別に選ばれた集団が多く、関係を見た研究で、グリットを伸ばす実験ではない。
Credéら(2017)[2]
グリットの研究の584の効果量をまとめたメタ分析。グリットと成績・続けることの関係は中くらいで、まじめさとはとても強く関係していた。「情熱と粘り強さが1つの上位の特徴になる」という構造も確かめられなかった。一方で「努力を続ける」の部分は、まじめさを考えに入れても学業成績と関係していた。
対象: 88の独立した集団・66,807人 / 限界: 関係を見た研究のまとめ。著者らは、グリットを高める取り組みは成績や成功への効果が弱い可能性があると結論している。
Rimfeldら(2016)[3]
イギリス全国の試験(GCSE)の成績を、性格の5つの特徴(外向性・開放性・協調性・誠実性・神経症傾向)で予測すると、ばらつきの5.6%を説明できた。グリットを加えても、説明できる分は0.5%しか増えなかった。グリットの「努力を続ける」と誠実性の相関は0.53だった。
対象: イギリスの代表的な双子の調査に参加した16歳4,642人(2,321組) / 限界: 1つの国の1つの試験。著者らは「遺伝の影響があることは、変えられないことを意味しない」とも書いている。
Jiangら(2023)[4]
日々の「粘り強さ」と「情熱」を、1日に何度も記録してもらう方法などで調べた。グリットが粘り強さにつながる道筋には、その活動が目標に役立つと感じること、難しさを低く感じること、余計な考えが浮かびにくいことが関わっていた。
対象: 研究1は116人・5,187回の記録、研究2は468人・1,872回の記録 / 限界: 関係を見た研究で、条件を変えて粘り強さが増えるかを実験したものではない。
Cheonら(2024)[5]
体育の先生を2群に分け(ランダム化比較試験)、一方に生徒の自主性を支える教え方の研修を受けてもらった。研修→生徒が「自主性を支えてもらえている」と感じる→心理的な欲求が満たされる→1年の間にその授業での粘り強さが伸びる、という流れのモデルがデータによく合った。
対象: 研究1は先生57人・生徒3,147人 / 限界: 体育の授業での粘り強さで、独学の大人ではない。性格としてのグリット全体ではなく、その授業に限った粘り強さを測った。
まとめると、グリットは「まったく関係ない」わけではありませんが、続かない理由の大部分を説明するものではありません。また、粘り強さはその日の条件や周りの支えで変わりうることがわかってきました。ここで紹介した研究は、学生や特定の集団が中心で、一人で何か月も独学する社会人を調べたものではありません。
03 今日からできる小さな一歩「やり抜く力」に頼らず続けるには?
性格を変えようとする前に、その日の勉強を「目標に役立つ」「難しすぎない」「雑念が少ない」形に整えます。研究で粘り強さと関係していた3つの条件です。
今日の勉強が「何の役に立つか」を1行で書く
「この章は試験の配点の2割」「この単語は来月の会議で使う」のように、目標とのつながりを書きます。目標に役立つと感じるほど、その日に粘れた研究[4]を当てはめたやり方です。書き方は 勉強する理由を書くやり方 にもあります。
所要 1分
「難しすぎる」と感じたら、1段やさしい教材に戻る
止まっている原因が難しさなら、根性ではなく教材の段を下げます。例題が半分以上わからない章は、1つ前の章か解説の多い本に戻ります。
所要 5分
気になっていることを紙に書き出してから始める
余計な考えが浮かびにくいほど粘れたという結果[4]から、始める前に頭の中の用事や心配を1行ずつ書き出します。
所要 2分
2週間、「止まった日」の理由を記録する
止まった日に「役に立つ感じがしない」「難しすぎた」「ほかのことが気になった」のどれに近いかを1つ選んで書きます。多い理由から手を打ちます。
所要 1日1分
04 続けるためのコツ「自分は根気がない」と思ってしまうときは?
続かないことを性格のせいにしすぎないことです。グリットで説明できる差は小さく、続くかどうかは条件の影響も受けます。
- 興味が別の分野に移っても、自分を責めない。研究で成績と関係が強かったのは「努力を続ける」の方で、「興味が変わらない」の方は関係が弱かった[2][3]。
- 止まった後の再開のしかたは 勉強を休んだ後の再開のしかた にまとめています。
- 意志の強さより、環境や習慣が頼りになる理由は 意志の力と勉強の環境 にあります。
- うまくいかない自分を責めてしまう人は つまずいた自分へのやさしさ もあわせて読む。
05よくある質問
グリットが低いと、独学は続かない?
そうとは限りません。グリットと成績・続けることの関係は中くらいで、66,807人分のメタ分析でも「まじめさ」とほとんど重なると報告されています。続くかどうかは、性格よりも、その日の勉強が目標に役立つと感じられるか、難しすぎないかなど、その日の条件にも左右されます。[2][4]
グリットは鍛えられる?
はっきりしていません。メタ分析の著者らは、グリットを高める取り組みは成績への効果が弱い可能性があると書いています。一方、先生が生徒の自主性を支える研修を受けたクラスで、その授業での粘り強さが伸びたという大規模な試験もあり、性格そのものより環境から変わる可能性があります。[2][5]
「情熱」と「粘り強さ」、どちらが大事?
研究では「粘り強さ(努力を続ける)」の方が、成績との関係が強く出ています。「興味が変わらない(情熱)」の方は、成績との関係が弱いか、見られない研究がありました。興味が移るのは悪いことではなく、努力を続ける仕組みを作る方が大切です。[2][3]
グリットの本に書いてあることは間違い?
すべてが間違いというわけではありません。最初の研究でもグリットは成功のばらつきの平均4%を説明しており、関係はあります。ただし、その後の大規模な研究で、関係の大きさは期待されたより小さく、まじめさとの重なりが大きいことがわかってきました。[1][2]
出典
- Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D. R. (2007). Grit: Perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92(6), 1087–1101. https://doi.org/10.1037/0022-3514.92.6.1087
- Credé, M., Tynan, M. C., & Harms, P. D. (2017). Much ado about grit: A meta-analytic synthesis of the grit literature. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 492–511. https://doi.org/10.1037/pspp0000102
- Rimfeld, K., Kovas, Y., Dale, P. S., & Plomin, R. (2016). True grit and genetics: Predicting academic achievement from personality. Journal of Personality and Social Psychology, 111(5), 780–789. https://doi.org/10.1037/pspp0000089
- Jiang, W., Tang, X., Ye, J., & Jiang, J. (2023). What drives daily perseverance and passion? Grit, conscientiousness, and goal pursuit experiences. Personality and Social Psychology Bulletin, 49(5), 727–743. https://doi.org/10.1177/01461672221076970
- Cheon, S. H., Reeve, J., Joo, W. Y., et al. (2024). Two randomized controlled trials to help teachers develop physical education students' course-specific grit-perseverance and mental toughness. Journal of Sport and Exercise Psychology, 46(5), 266–282. https://doi.org/10.1123/jsep.2024-0102


