仕事のあと夜に勉強しても、疲れて頭に入らない。どう立て直す?夜の疲れと休憩・時間帯の組み直し(認知疲労の研究)

仕事から帰って机に向かったのに、同じ行を何度も読んでいる。問題を開いても頭が動かない。そんな夜が続くと「やる気がないのかも」と思いがちです。研究から言えるのは、夜に頭が働きにくいのは1日の疲れの影響と考えられ、意志の弱さの証拠ではないということです。立て直しは、夜の勉強の「中身」と「時間帯」を組み直すことから始めます。
3行でわかる
- デンマークの約200万回分のテストでは、1日の遅い時刻に受けるほど点が少し下がり(1時間あたり標準偏差の0.9%)、20〜30分の休憩の後は少し戻った(1.7%)。
- 10分以下の短い休憩は疲れを減らしたが、頭を使う作業の成績ははっきり上げなかった(22サンプル・2,335人のメタ分析)。「意志は使うと減る」説は、大規模な追試で支持されていない。
- 立て直しは、①帰宅後に20〜30分の区切りをはさむ ②夜は思い出す練習など軽い勉強に回す ③新しい単元は疲れていない時間に移す ④2週間記録してくらべる、の順に進める。
01 悩みの正体夜に勉強が頭に入らないのは、意志が弱いから?
意志の弱さとは言えません。頭を使い続けた1日の終わりには、同じ人でも考える作業の成績が少し下がることがわかっています。夜の勉強が進まないのは、多くの人に起きることです。
仕事では、メールを読み、判断し、人に合わせて話し、ミスに気をつけています。体はあまり動かしていなくても、頭は1日じゅう働いています。
こうして頭を使い続けたあとの疲れを、研究では認知疲労(考える作業を続けたことによる疲れ)と呼びます。夜の勉強は、この疲れが一番たまった時間に重なりやすいのです。
勉強する時間帯そのものの向き不向き(朝型・夜型)は朝と夜、勉強に向いている時間はあるのかの記事で扱いました。この記事では、仕事のあとの疲れた夜をどう組み直すかに絞ります。
02 科学的にわかっていること1日の疲れは、勉強の成果にどのくらい響く?
影響はありますが、大きくはありません。時刻が遅いほどテストの点は少し下がり、長めの休憩の後は少し戻りました。短い休憩だけでは、頭を使う作業の成績は戻りにくいようです。
Sievertsenら(2016)[1]
デンマークの公立学校で2009/10〜2012/13年度に受けられた全国テスト約200万回分(2,105校・57万376人)を調べた。テストの時刻は時間割とパソコン室の空きで決まっていた。時刻が1時間遅くなるごとに点は標準偏差の0.9%下がり、20〜30分の休憩の直後には1.7%上がった。同じ子どもの年ごとの違いだけを見ても、同じ傾向だった。
対象: 8〜15歳の子ども(テストは8時〜13時台) / 限界: 1つひとつの差はとても小さい。大人が仕事のあと夜に勉強する場面を測ったものではない。
Albulescuら(2022)[2]
10分以下の短い休憩の効果を調べた19の報告(22サンプル・2,335人)をまとめたメタ分析。短い休憩で活力は上がり(d=0.36)、疲れは減った(d=0.35)。ところが成績全体へのはっきりした効果はなく(d=0.16)、効果が見られたのは事務作業や創造的な作業で、頭を使う課題では見られなかった。休憩が長いほど成績は上がりやすかった。
対象: 職場と実験室の大人・学生 / 限界: 研究の数が少なく、職場の結果を勉強に当てはめるのは慎重にと著者ら自身が書いている。
Haggerら(2016)[4]、Vohsら(2021)[3]
「意志は使うと減る(自我消耗)」という有名な説を、事前に方法を登録して大規模に追試した。23の研究室・2,141人では効果はほぼゼロ(d=0.04)。36の研究室・3,531人でも、事前に決めた分析では効果は確認されなかった(d=0.06)。ただし後から行った分析では、「疲れた」と答えた人ほど効果が大きい傾向があった。
対象: 各国の研究室の参加者 / 限界: 2つの課題を続けて行う実験室の実験で、長い1日の仕事のあとの疲れを測ったものではない。疲れとの関係は後から行った分析で、確かめられた結果ではない。
Wiehlerら(2022)[5]
実験室でおよそ1日分の作業をしてもらった研究。頭を強く使う作業を続けた組は、軽い作業の組にくらべて、1日の終わりに「すぐ手に入る・手間の少ない」選択を選びやすくなった。考える働きを担う脳の部位(外側前頭前野)では、グルタミン酸という物質の濃度が高くなっていた。
対象: 2つの組に分けた大人の参加者 / 限界: 勉強の成果を測った研究ではない。疲れのしくみについての1つの説明で、確定した結論ではない。
まとめると、1日の疲れで考える力が少し落ちること、長めの休憩で少し戻ることは、大規模なデータで確認されています。一方で、子どもの学校のテストや実験室の結果が中心で、社会人が仕事のあと何か月も夜に勉強する場面で同じ大きさになるかはわかっていません。
03 今日からできる小さな一歩疲れた夜の勉強を、どう組み直す?
帰宅後すぐ机に向かわず、20〜30分の区切りをはさみます。夜は思い出す練習など軽い勉強に回し、新しい単元は疲れていない時間に移します。2週間記録して、自分に合う形を決めます。
「進まなかった夜」を1週間メモする
勉強を始めた時刻、疲れ具合(元気・ふつう・へとへと)、何をやったか、進んだかを1行で書きます。進まない夜に共通すること(残業の日、会議の多い日など)が見えてきます。
所要 1日30秒
帰宅後に20〜30分の区切りをはさむ
食事・入浴・短い散歩など、画面から離れる時間を置いてから始めます。10分以下の休憩では、頭を使う作業の成績は戻りにくいという分析がありました。休憩のとり方は緑の中を歩く休憩の記事も参考になります。
所要 20〜30分
「とりあえず10分」だけ始めてみる
疲れていると感じても、10分だけ手をつけます。「意志は使うと減る」説は大規模な追試で支持されていません。10分たって進まなければ、その日は手順4の軽い勉強だけにして終えます。
所要 10分
疲れた夜は、軽い勉強に回す
新しい単元を読むより、前に学んだことを何も見ずに思い出して書く、間違えた問題を解き直す、などに回します。思い出す練習が読み返すより残りやすいことは思い出す練習の記事で紹介しています。
所要 15〜20分
重い勉強は、疲れていない時間に移す
新しい単元や長い問題演習は、朝・昼休み・休日の午前など、頭を使う仕事の前に置けないか試します。ただし睡眠を削って早起きはしません。時間のつくり方は社会人が勉強時間をつくるにはの記事にまとめています。
所要 週1〜2回
夜の疲れ具合に合わせて、やる勉強を先に決めておくと迷いが減ります。下の表は研究の結果をもとにした目安で、研究で決まった組み合わせではありません。
| 夜の状態 | やる勉強の例 | 長さの目安 |
|---|---|---|
| 元気 | 新しい単元、長めの問題演習 | 45〜60分 |
| ふつう | 前回の続きの問題、解き直し | 30分 |
| へとへと | 何も見ずに思い出して書く、数問だけ解く | 10〜15分 |
| 眠くて目が閉じる | 勉強せずに寝る(翌朝に回す) | 0分 |
04 続けるためのコツ疲れた夜が続いても、勉強を止めないには?
「毎晩同じ量」を目標にせず、疲れた夜は軽い勉強でつなぐ前提で計画を組みます。進まない夜を失敗と数えないことが、続けるための土台になります。
- 平日の計画は「へとへとの日」を基準に小さく組み、元気な日に上乗せする。
- 重い勉強の日を週に1〜2回だけ、疲れていない時間に固定する。
- 「意志が弱い」と考えて自分を責めない。意志と環境の研究は独学が続かないのは意志が弱いからかの記事にまとめている。
- 寝不足の日は無理をしない。寝不足の後の戻し方は徹夜・寝不足で勉強してしまった後の記事で扱っている。
この記事は勉強の時間の使い方についての情報で、病気の診断や治療についての情報ではありません。休んでも疲れが取れない状態が何週間も続くときや、気分の落ち込みが続くときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)に相談してください。
05よくある質問
仕事のあとの夜に勉強しても頭に入らないのは、意志が弱いからですか?
そうとは言えません。デンマークの200万回分のテストを調べたSievertsenら(2016)では、同じ子どもでも1日の遅い時刻に受けたテストほど点が少し下がっていました。1日の疲れの影響と考えられます。一方で「意志は使うと減る」という説は、大規模な追試では支持されていません。
疲れた夜は、勉強を休んだ方がいいですか?
休むか決める前に、10分だけ軽い勉強を試す方法があります。36の研究室・3,531人の追試(Vohsら、2021)では、事前に決めた分析で「前の作業で意志が減る」効果は確認されませんでした。10分やって進まなければ、その日は思い出す練習を数問だけにして寝る、と決めておくと迷いません。
帰宅後、どのくらい休憩してから勉強すればいいですか?
研究から言える正確な長さはありませんが、10分以下の休憩では足りない可能性があります。10分以下の短い休憩をまとめたAlbulescuら(2022)では、疲れは減ったものの、頭を使う作業の成績ははっきり上がりませんでした。デンマークの学校の研究では、20〜30分の休憩の後にテストの点が少し上がっていました。
朝に勉強した方がいいのでしょうか?
誰にとっても朝がよいとは言えません。朝型・夜型には個人差があります。夜に疲れて進まない日が続くなら、重い勉強を朝・昼休み・休日など、疲れていない時間に移して2週間くらべてみるのが確実です。睡眠を削って早起きすることはすすめません。
出典
- Sievertsen, H. H., Gino, F., & Piovesan, M. (2016). Cognitive fatigue influences students' performance on standardized tests. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113(10), 2621–2624. https://doi.org/10.1073/pnas.1516947113
- Albulescu, P., Macsinga, I., Rusu, A., Sulea, C., Bodnaru, A., & Tulbure, B. T. (2022). "Give me a break!" A systematic review and meta-analysis on the efficacy of micro-breaks for increasing well-being and performance. PLOS ONE, 17(8), e0272460. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0272460
- Vohs, K. D., Schmeichel, B. J., Lohmann, S., Gronau, Q. F., Finley, A. J., Ainsworth, S. E., ... Albarracín, D. (2021). A multisite preregistered paradigmatic test of the ego-depletion effect. Psychological Science, 32(10), 1566–1581. https://doi.org/10.1177/0956797621989733
- Hagger, M. S., Chatzisarantis, N. L. D., Alberts, H., Anggono, C. O., Batailler, C., Birt, A. R., ... Zwienenberg, M. (2016). A multilab preregistered replication of the ego-depletion effect. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 546–573. https://doi.org/10.1177/1745691616652873
- Wiehler, A., Branzoli, F., Adanyeguh, I., Mochel, F., & Pessiglione, M. (2022). A neuro-metabolic account of why daylong cognitive work alters the control of economic decisions. Current Biology, 32(16), 3564–3575.e5. https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.07.010


