勉強に自信がないと、やる気が出ないのはなぜ?「できそう」という感覚(自己効力感)と成績の研究

「どうせ自分には無理」と思うと、テキストを開く気になれない。そんなとき、意志が弱いと自分を責めがちです。研究では、勉強への取りかかりや粘りには「自分にはできそう」という見込みが関わるとされています。そして見込みは、成績から育つ向きのほうが強いこともわかってきました。
3行でわかる
- 「この課題は自分にできそう」という見込みを、心理学では自己効力感と呼ぶ。大学生の研究をまとめたメタ分析で、成績への見込みは調べた50項目の中で成績と最も強く結びついていた。
- ただし時間を追った研究では、成績が見込みを育てる向き(0.205)が、見込みが成績を上げる向き(0.071)より強かった。自信は先に用意するより、小さな「できた」で育つ。
- 見込みを最も強く育てるのは、自分で課題をやりとげた経験。一方で、自信が高い時期ほど準備が減って点が下がった研究もあり、確かめながら育てるのがよい。
01 悩みの正体自信がないと、なぜ勉強に手がつかない?
人は「やってもできない」と見込むことには、取りかかりにくく、粘りにくくなります。やる気が出ないのは意志の弱さではなく、この見込みが低いせいかもしれません。
心理学者のバンデューラは、「ある課題を自分はやりとげられる」という見込みを自己効力感(じこうりょくかん)と名づけました。ここでは「できそう感」と呼びます。
できそう感は、性格のような固定したものではありません。課題ごとに違います。英単語なら自信があるのに、数学の文章題は無理だと感じる、ということがふつうに起こります。
この見込みは、何をもとに作られるのでしょうか。理論では、次の4つが挙げられています。研究でまとめると、その強さには大きな差がありました[3]。
表1 「できそう感」が育つもとと、研究での強さ
| 見込みが育つもと | 例(独学の場合) | 見込みとの結びつき |
|---|---|---|
| 自分でやりとげた経験 | 問題集の1ページを何も見ずに解けた | 最も強い |
| 人がやるのを見る経験 | 同じ立場の人の合格体験や勉強の記録を読む | やりとげた経験より弱い |
| 人からの言葉 | 「その調子」と言われる | やりとげた経験より弱い |
| 体と気持ちの状態 | 試験前の動悸を「だめな証拠」と受けとる | やりとげた経験より弱い |
61の研究(8965人)をまとめたメタ分析では、ほかの3つの影響を差し引いても、「自分でやりとげた経験」が見込みと飛びぬけて強く結びついていました[3]。自信がないのは、まだ「やりとげた」と感じた経験が少ないから、とも言えます。
02 科学的にわかっていること自信があるから成績が上がる?逆?
できそう感と成績は強く結びついています。ただ、時間を追うと「成績が自信を育てる」向きのほうが「自信が成績を上げる」向きより強く、両方向に回る関係でした。
Richardsonら(2012)[1]
1997〜2010年に発表された大学生の研究から241件のデータを集め、大学の成績(GPA)と50の要因との関係をまとめた。「自分はこのくらいの成績をとれる」という見込みは、50項目の中で成績と最も強く結びついていた。高校の成績や入試の点数よりも強かった。
対象: 大学生(英語の論文) / 限界: 相関のまとめで、見込みが成績を上げたのか、成績のよい人が高く見込んだのかは区別できない。
Talsmaら(2018)[2]
同じ人のできそう感と成績を2回測った11の研究(2688人)をまとめた。前の成績が後のできそう感を予測する力は0.205で、前のできそう感が後の成績を予測する力(0.071)より有意に大きかった。両方向に影響しあう関係は大人で見られ、子どもでは見られなかった。
対象: 子どもから大人まで / 限界: 研究は11本と少ない。数字は論文の要旨で確かめた。
VancouverとKendall(2006)[4]
大学生63人に、授業の5回の試験の前ごとに、できそう感と勉強のやる気を答えてもらった。人どうしを比べると、できそう感が高い人ほど点も高かった。ところが同じ人の中で比べると、できそう感が高い回ほど、やる気と試験の点は低かった。
対象: アメリカの大学生 / 限界: 1つの授業での結果。著者らは、自信が「もう十分」という判断につながり、準備が減る場合があると考えている。
Zakariya(2022)[5]
数学のできそう感を高める介入研究21本を読んだシステマティックレビュー。小学生向けで最も勧められたのは、目標の立て方・努力をほめるフィードバック・お手本となる仲間を組み合わせる研修を教師が受け、4週間授業をした実験だった(872人、効果量 d = 0.46)。一方、効果が長く続くかを報告した研究は4本だけだった。
対象: 小学生〜大学生 / 限界: 数学に限ったレビューで、一人で学ぶ大人の研究ではない。
表2 研究のまとめ
| 研究 | 対象 | わかったこと |
|---|---|---|
| Richardsonら(2012) | 大学生の研究241件分のデータ | 成績への見込みは、調べた50項目の中で大学の成績(GPA)と最も強く結びついていた |
| Talsmaら(2018) | 2時点を追った11研究、2688人 | 成績→自信の向き(0.205)が、自信→成績の向き(0.071)より強い |
| Byars-Winstonら(2017) | 61研究、8965人 | 自信と最も強く結びつくのは「自分でやりとげた経験」 |
| VancouverとKendall(2006) | 大学生63人、5回の試験 | 同じ人の中では、自信が高い回ほど準備のやる気と点が低かった |
| Zakariya(2022) | 数学の自信を高める介入研究21本 | 効果の報告はあるが、長く続くかを調べた研究は4本だけ |
ここで紹介した研究の多くは、学校や大学の授業を受ける学生が対象です。働きながら一人で学ぶ社会人を長く追った研究は見つかりませんでした。また、「自信が高いと準備が減る」というVancouverらの一連の研究(2001・2002年の先行研究を含む)には、バンデューラらが「9つのメタ分析などの多くの証拠と食い違う」と反論しており[6]、決着はついていません。
03 今日からできる小さな一歩勉強の「できそう感」を育てるには?
気持ちを奮い立たせるより、確実にやりとげられる小さな課題を選び、終えたことを記録して見返します。研究で見込みを最も強く育てたのは、この「やりとげた経験」でした。
「8割の確率でできる」大きさに課題を切る
「第3章を終える」ではなく「例題を2問、解説を見ずに解く」のように、終わりがはっきりした課題にします。できそうか迷う大きさなら、さらに半分にします。
所要 2分
何も見ずにできたかで「できた」を判定する
解説を読んでわかった気になるだけでは、やりとげた経験になりにくいです。テキストを閉じて解けたかで判定します。
所要 5〜15分
できたことを1行で書き残す
「10/24 例題2問、見ずに正解」のように、日付と中身を書きます。自信がなくなった日に、この記録を見返します。
所要 1分
週に1回、少しだけ課題を大きくする
記録が続いたら、課題を1割ほど増やします。いきなり大きくすると失敗が続き、見込みが下がりやすくなります。
所要 週1回5分
04 続けるためのコツ自信がついてきたら、何に気をつける?
自信が高まった時期ほど、準備を減らしてしまうことがあります。「もうできる」と感じたら、何も見ずに解けるかを確かめてから先に進みます。
- 言い聞かせより、やりとげた証拠を集める。「自分はできる」と唱える方法の研究は「私はできる」と言い聞かせる効果の記事にまとめています。
- 記録は「できたこと」が見える形にする。記録のつけ方は勉強の記録の研究が参考になります。
- 失敗した日を、見込みを下げる材料にしない。課題が大きすぎただけかもしれません。決めた量が守れなかったときの立て直し方のように、最低ラインを決め直します。
- 自信が高すぎるときは確かめる。学び始めの自信過剰については初心者ほど自信を持ちやすい理由の記事もあわせてどうぞ。
強い不安や落ち込みが続いてつらいときは、一人で抱えず、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談先も使ってください。
05よくある質問
自信がないのは、性格の問題ですか?
性格というより、これまでの経験から作られた「見込み」です。61の研究をまとめたメタ分析では、見込みと最も強く結びついていたのは、自分で課題をやりとげた経験でした。経験を積み直せば、見込みは変わりえます。
「自分はできる」と言い聞かせれば、自信はつきますか?
研究で見込みを育てる力がいちばん大きかったのは、言葉ではなく、実際に課題をやりとげた経験でした。言い聞かせるより、確実に終えられる小さな課題を1つ終えるほうが近道です。
自信が強すぎると、何か困りますか?
同じ人の中で見ると、自信が高い時期ほど準備が減り、試験の点が下がった研究があります(大学生63人)。「もう大丈夫」と感じたときこそ、何も見ずに解けるかを確かめてください。
出典
- Richardson, M., Abraham, C., & Bond, R. (2012). Psychological correlates of university students' academic performance: A systematic review and meta-analysis. Psychological Bulletin, 138(2), 353–387. https://doi.org/10.1037/a0026838
- Talsma, K., Schüz, B., Schwarzer, R., & Norris, K. (2018). I believe, therefore I achieve (and vice versa): A meta-analytic cross-lagged panel analysis of self-efficacy and academic performance. Learning and Individual Differences, 61, 136–150. https://doi.org/10.1016/j.lindif.2017.11.015
- Byars-Winston, A., Diestelmann, J., Savoy, J. N., & Hoyt, W. T. (2017). Unique effects and moderators of effects of sources on self-efficacy: A model-based meta-analysis. Journal of Counseling Psychology, 64(6), 645–658. https://doi.org/10.1037/cou0000219
- Vancouver, J. B., & Kendall, L. N. (2006). When self-efficacy negatively relates to motivation and performance in a learning context. Journal of Applied Psychology, 91(5), 1146–1153. https://doi.org/10.1037/0021-9010.91.5.1146
- Zakariya, Y. F. (2022). Improving students' mathematics self-efficacy: A systematic review of intervention studies. Frontiers in Psychology, 13, 986622. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2022.986622
- Bandura, A., & Locke, E. A. (2003). Negative self-efficacy and goal effects revisited. Journal of Applied Psychology, 88(1), 87–99. https://doi.org/10.1037/0021-9010.88.1.87


