教科書や問題集で練習した所は覚えたのに、練習しなかった関連の所を忘れていた。どう立て直す?全体を先に思い出し、つなげて覚える6つの手順(思い出す練習で起きる忘れの研究)

一部だけを何度も思い出す練習をすると、練習しなかった関連の所を思い出しにくくなることがあります。「一問一答で練習した所はばっちりなのに、すぐ隣の項目が出てこない」。勉強のしかたが悪かったわけではありません。研究では「検索誘導性忘却(思い出す練習で、関連する別の記憶が弱まる現象)」と呼ばれます。ただし、範囲全体を先に思い出す、つなげて覚えるといった工夫で防げた実験があります。立て直しの手順を紹介します。
3行でわかる
- 同じグループの一部だけを思い出す練習をすると、練習しなかった仲間の項目が思い出しにくくなる。多くの実験をまとめたメタ分析でも確かめられた現象。
- ハンガリーの大学生の実験では、一部を練習する前に全体を一度思い出しておくと、関連の項目は弱まらなかった。つながりのある文章では、若い大人の場合、逆に関連の項目まで覚えやすくなった実験もある。
- 60〜74歳の大人では、この忘れが1週間後も残っていた。抜けた所は、練習した問題の近くから探して問いを作り、つなげて覚え直す。
01 悩みの正体練習しなかった所だけ抜けるのはなぜ?
同じ手がかりにつながった記憶どうしが、思い出すときに競い合うからと考えられています。練習した答えを出しやすくする代わりに、近くにある別の答えが一時的に出にくくなります。
たとえば「果物」の仲間として「みかん・りんご・ぶどう」を覚え、「みかん」だけを何度も思い出す練習をしたとします。すると後で、練習しなかった「ぶどう」が、果物と関係ない項目より思い出しにくくなります。これが実験室での典型的な形です[2]。
原因については、邪魔な記憶を抑える働きが起きるという説と、練習した答えが強くなって割り込むだけという説があります。この現象を調べた研究をまとめた初の大きなメタ分析は、結果がおおむね「抑える働き」の説を支持したと結論しています[1]。
02 科学的にわかっていることこの忘れは、どんなときに起き、どうすれば防げる?
ばらばらの単語の一覧では起きやすく、つながりのある文章では起きにくいことがわかっています。先に全体を思い出すこと、つなげて覚えることが防ぐ方向に働きます。年齢が高いと長く残る実験もあります。
Murayamaら(2014)[1]
思い出す練習で関連の記憶が弱まる現象を調べた研究をまとめた、初の大きなメタ分析。結果はおおむね「邪魔な記憶を抑える働き」の説を支持したが、合わない結果もあり、測り方によって結果が変わることも多かった。目撃した出来事の記憶などでは、この忘れが長く続きやすいことも示された。
対象: 多数の実験のメタ分析 / 限界: 論文本文は確認できず、要旨と[2]の紹介で確認した。多くは単語の一覧を使った実験室の研究。
RacsmányとKeresztes(2015)[3]
単語のグループを覚えたあと、一部だけを思い出す練習をすると、練習しなかった仲間の単語の成績が下がった。ところが、一部の練習の前に「全部を思い出してみる」段階を入れると、練習した単語はよく覚えられたまま、練習しなかった単語も下がらなかった。この結果は、続く2つの実験でもくり返し確かめられた。
対象: ハンガリーの大学生(4つの実験、各29〜59人、19〜28歳) / 限界: 単語の一覧を使い、練習の数分後にテストした実験。教科書の内容や数日後の成績で確かめたものではない。
Liuら(2025)[2]
1日目に覚え、3・5・7日目に一部だけ練習し、8日目にテストした。単語では、18〜25歳の組は練習しなかった項目が弱まっていなかったが、60〜74歳の組は弱まっていた(思い出せた割合 26%、比べる項目は38%)。12の事実を含む短い科学の文章では、若い組は練習しなかった事実まで覚えやすくなり(57%対47%)、年齢の高い組は逆に弱まった(29%対39%)。
対象: 中国の若い大人44〜45人と、60〜74歳の大人45〜47人(2つの実験) / 限界: 実験は1件。年齢の高い組で、つなげて覚える工夫の度合いは結果と関係しなかった。直後のテストがなく、時間とともにどう変わるかは見ていない。
KuhbandnerとPekrun(2013)[4]
約1900語の教科書風の文章2本を読み、一部だけを小テストした。ふつうの気分や前向きな気分でテストしたときは、テストしなかった内容の忘れは起きなかった。嫌な気分になる映像を見せて気分を沈ませてからテストすると、テストしなかった内容の忘れが起きた。
対象: ドイツの大学生72人 / 限界: 気分は短い映像で作ったもので、最後のテストは10分後。実際の試験勉強での落ち込みと同じかはわからない。
Liuらは、Chan(2009)の実験も紹介しています。文の順番どおりに読んだ文章では、一部を思い出す練習で関連の内容まで覚えやすくなり、文の順番をばらばらにすると、その効果は消えました。また、その効果は20分後ではなく24時間後に出ました[2][5]。どの研究も実験室で短い材料を使ったもので、資格試験のように何か月もかけて大量に覚える独学で同じことが起きるかは確かめられていません。下の手順は、これらの研究を独学に当てはめたこの記事の提案です。
03 今日からできる小さな一歩練習しなかった所が抜けたら、どう立て直す?
練習した問題の近くから抜けを探し、範囲全体を一度思い出してから練習し直します。出なかった所に問いを作り、理由や流れでつなげて覚えます。思い出す練習そのものはやめません。
抜けた所を「練習した問題のすぐ隣」から探す
よく解いた問題を5つ選び、同じ章・同じ表・同じグループにある、練習しなかった項目を書き出します。この忘れは、練習した項目と同じ手がかりにつながった項目で起きやすいからです[2]。
所要 10分
一部を練習する前に、範囲全体を一度思い出す
次に一問一答を解く前に、その章の見出しだけを見て、覚えている項目を全部書きます。思い出せなくても構いません。全体を先に思い出しておくと、一部の練習で関連の項目が弱まらなかった実験があります[3]。
所要 5分
練習しなかった所に、自分で問いを作る
手順1で書いた項目に1問ずつ問いを作り、問題集の問いと混ぜて解きます。練習した項目ははっきりよく覚えられていたので[2][3]、抜けを残さないことが一番の対策になります。問いの作り方は自分で作る小テストの問題表が使えます。
所要 1章15分
ばらばらの項目を、理由や流れでつなげる
同じグループの項目を、「なぜそうなるか」「どの順番で起きるか」で1つの短い文章か図にまとめます。順番どおりのつながった文章では、一部の練習で関連の内容まで覚えやすくなった実験があります[2][5]。
所要 15分
気分が沈んでいる日は、全体を見渡す復習にする
落ち込んだ気分で一部だけの小テストをすると、テストしなかった内容の忘れが起きた実験があります[4]。そんな日は、章全体を思い出して書き出す復習に切り替えます。
所要 10分
60歳以上の学び直しでは、練習しない所を残さない
60〜74歳の大人では、一部の練習による忘れが1週間後も残っていました[2]。問題集の範囲の外にある関連の項目にも、手順3の問いを足しておきます。
所要 1章5分(追加分)
「抜けやすい所」早見表(この記事で研究を整理したもの)
| こんな練習をした | 抜けやすい所 | 立て直し |
|---|---|---|
| 一問一答・暗記カードの一部だけを何度も解いた | 同じ章・同じグループの、練習しなかった項目 | 練習する前に、その範囲を一度全部思い出す(手順2) |
| 過去問で出た所だけ覚えた | 過去問に出なかった、同じ表や同じ論点の残り | 出なかった所に自分で問いを作る(手順3) |
| 用語を1つずつばらばらに覚えた | 似た仲間の用語・同じ一覧の残り | 理由や流れでつなげ、1枚の図や文章にする(手順4) |
| 落ち込んだまま小テストをした | その日に解かなかった関連の所 | 気分が沈む日は、一部の小テストより全体を見渡す(手順5) |
| 60歳以上で、学び直し中 | 練習しなかった関連の項目 | 練習しない所を残さない(手順6) |
一度覚えた所を忘れたときの覚え直し方は勉強したことを忘れたときの覚え直しの記事にまとめています。
04 続けるためのコツ一問一答をやめた方がいい?
やめる必要はありません。思い出す練習は、練習した内容をはっきりよく覚えさせます。全体を先に思い出す5分と、出なかった所の問いを足すだけで十分です。
- 一問一答の前に「見出しだけ見て全部書く」5分を、毎回の決まりにする。
- 問題集や過去問を解き終えたら、章ごとに「出なかった項目」を1行ずつメモしておく。
- 似た項目が混ざってしまうときは、似た用語が混ざったときの立て直し方も役立つ。
- 思い出す練習の基本は思い出す練習と読み返しの記事を参考にする。
05よくある質問
一問一答や小テストで練習すると、ほかの所を忘れてしまうのですか?
単語の一覧のような覚え方では、練習しなかった関連の項目を思い出しにくくなる現象が、多くの実験で確かめられています。ただし、つながりのある文章では起きにくく、若い大人では1週間後には消えていた実験もあります。思い出す練習そのものをやめる理由にはなりません。
練習しなかった所を守るには、どうすればいいですか?
一部を練習する前に、範囲全体を一度何も見ずに思い出すと、その後の一部の練習で関連の項目が弱まらなかった実験があります。覚えることどうしを、理由や流れでつなげて覚えるのも、忘れを防ぐ方向に働きます。
年齢が高いと、この忘れは起きやすいのですか?
60〜74歳の大人では、一部だけ練習した後の忘れが1週間後も残り、18〜25歳では消えていた実験があります。年齢が高い人ほど、練習しない所を残さない工夫が役立つと考えられます。ただし実験は1件で、単語や短い文章を使ったものです。
出典
- Murayama, K., Miyatsu, T., Buchli, D., & Storm, B. C. (2014). Forgetting as a consequence of retrieval: A meta-analytic review of retrieval-induced forgetting. Psychological Bulletin, 140(5), 1383–1409. https://doi.org/10.1037/a0037505(要旨と[2]の紹介で確認)
- Liu, S., Kent, C., & Briscoe, J. (2025). Effects of selective retrieval practice on older adults: Lesser benefits, greater losses. Behavioral Sciences, 15(3), 308. https://doi.org/10.3390/bs15030308
- Racsmány, M., & Keresztes, A. (2015). Initial retrieval shields against retrieval-induced forgetting. Frontiers in Psychology, 6, 657. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2015.00657
- Kuhbandner, C., & Pekrun, R. (2013). Affective state influences retrieval-induced forgetting for integrated knowledge. PLoS ONE, 8(2), e56617. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0056617
- Chan, J. C. K. (2009). When does retrieval induce forgetting and when does it induce facilitation? Implications for retrieval inhibition, testing effect, and text processing. Journal of Memory and Language, 61(2), 153–170. https://doi.org/10.1016/j.jml.2009.04.004(内容は[2]の紹介で確認)


