試験はまだ先だと思っていたら、手をつけないまま計画が崩れた。どう立て直す?締め切りを「近く」に引き寄せる研究

申し込んだときは「半年もあれば大丈夫」と思っていた。気づけば数か月たって、テキストはほとんど開いていない。そんな状態で自分を「だらしない」と責める必要はありません。研究からわかるのは、締め切りが遠いこと自体が、取りかかりを遅らせる大きな理由になるということと、締め切りを「近く」に感じさせる工夫があるということです。
3行でわかる
- 先延ばしの研究をまとめたメタ分析(691の相関)では、締め切りやごほうびが遠いことが、先延ばしの強く一貫した予測因子の1つだった。試験が近づくほど勉強は増えたが、増えたのは覚えるだけの浅い勉強が中心だった研究もある。
- 締め切りが「今と同じ区切り」(今月・今年)の中にあると、同じ長さの期間でも早く取りかかりやすかった。退職までを「30年」でなく「10,950日」と示すと、貯金を始めようと考える時期が4倍早かった。ただし、どちらも独立した追試は見つからなかった。
- 立て直しは、①残りを日数で数える ②今月中の締め切りを1つ置く ③近く小さな目標に分ける ④今日10分だけ始める ⑤理解する勉強を先にやる ⑥月の区切りで置き直す、の6つ。
01 悩みの正体試験が遠いと、なぜ勉強を始められない?
遠い締め切りは「今やること」と感じにくく、目の前の別の用事に負けやすいためです。意志の弱さというより、人の時間の感じ方のくせと考えられています。
試験日が先にあると、「まだ大丈夫」と感じます。その間にも、仕事や家のことなど、締め切りの近い用事は毎日やってきます。遠い試験の勉強は、そのたびに後ろへ回されがちです。
人には、ごほうびや締め切りが遠いほど、その価値を小さく感じる傾向があることが知られています。先延ばしの研究をまとめたSteel(2007)は、先延ばしの研究の結果が、この傾向を組みこんだ理論とよく合うとまとめています[1]。
勉強を後回しにする理由全体は勉強を後回しにしてしまうのはなぜ?で扱いました。計画そのものの立て方は試験日から逆算する勉強計画の立て方にあります。この記事では、遠い試験を前に手が止まったまま時間がたってしまったとき、どう再開するかに絞ります。
02 科学的にわかっていること締め切りを近く感じると、早く始められる?
締め切りが「今と同じ区切り」にある、時間を細かい単位で考える、近い小さな目標を置く、の3つで取りかかりが早まった研究があります。ただし多くは1つの研究室の結果で、追試は限られています。
Steel(2007)[1]
先延ばしの原因と結果を調べた研究の691の相関をまとめたメタ分析(多くの研究を統計でまとめる方法)。強く一貫して先延ばしと結びついていたのは、課題の嫌さ、締め切りやごほうびまでの遠さ、「自分にできる」という感覚(自己効力感)の低さ、衝動性、そして自制心や計画性などだった。
対象: 先延ばしを調べた多くの研究 / 限界: 相関をまとめたもので、遠さが先延ばしを生んだという因果を1つずつ確かめたものではない。
Capelleら(2023)[2]
ドイツの大学生96人に、期末試験の前の8週間、毎週同じ質問に答えてもらった研究。試験が近づくほど勉強時間は増えた。ただ、覚えるだけの浅い勉強のしかたは、理解を深める勉強のしかたより早いペースで増えていた。試験に向けた「うまくやれそう」という見込みは下がり、「失敗したくない」という気持ちで勉強する傾向が強まった。
対象: ドイツの1つの大学の教育学・心理学の学生(平均21.7歳) / 限界: 相関の研究で因果はわからない。1つの質問だけで測った項目も多い、と著者ら自身が書いている。
TuとSoman(2014)[3]
人は未来の時点を「今と同じ区切りの中」と「その外」に分けて感じる、と考えた研究。締め切りが今と同じ区切り(たとえば今月・今年)の中にあると、同じ長さの期間でも、区切りの外にあるときより早く取りかかりやすかった。インドの農家や、北米の大学生・ビジネススクールの学生を対象にした、現地での研究と実験室の実験を組み合わせている。
対象: インドの農家、北米の学生 / 限界: 貯金や仕事の課題で調べたもので、勉強で確かめたものではない。調べた範囲では、別の研究者による直接の追試は見つからなかった。
LewisとOyserman(2015)[4]
7つの研究で、未来までの時間を「年」で示すか「日」で示すかを変えた。まだ準備を始めていない場合、退職を「30年後」でなく「10,950日後」と示された人は、貯金を始めようと考える時期が4倍早かった。日数で示すと遠さや大事さの感じ方が変わったのではなく、今の自分と未来の自分のつながりを強く感じたことが効いていた。
対象: 7つの研究の参加者 / 限界: 測ったのは「いつ始めるつもりか」という予定で、実際に貯金や勉強を始めたかではない。調べた範囲では、直接の追試は見つからなかった。
BanduraとSchunk(1981)[5]
算数がとても苦手で、興味もなかった子どもたちが、自分のペースで進める学習を行った実験。「小さな区切りごとの近い目標」を決めた組は、早く進み、計算をしっかり身につけ、「自分はできる」という感覚と算数への興味も育った。「最後までに全部」という遠い目標だけを決めた組には、はっきりした効果がみられなかった。
対象: 算数が苦手な子ども / 限界: 1981年の子どもを対象にした実験で、大人の独学に同じ大きさで当てはまるかはわからない。
まとめると、遠い試験の勉強が始まらないのは、締め切りが「今の外」にあるからです。試験日そのものは変えられなくても、日数で数える、今月の中に小さな締め切りを置く、1回ごとの近い目標を決める、という形で「今の中」に引き寄せられます。
紹介した研究の多くは、学生や子ども、貯金の予定で調べたものです。資格や語学を一人で学ぶ社会人に、同じ大きさの効果があるかはわかっていません。
| 止まったままの考え方 | 引き寄せた考え方 | |
|---|---|---|
| 残り時間 | 「あと半年」 | 「あと約180日・26週」[4] |
| 締め切り | 試験日の1つだけ | 今月末までの小さな締め切り[3] |
| 目標 | 「試験までに全部」 | 「今週はこの10ページ」[5] |
| 始め方 | まとまった時間ができたら | 今日、10分だけ[1] |
03 今日からできる小さな一歩手つかずのまま崩れた計画を、どう立て直す?
遠い試験日はそのままに、「日数」「今月の締め切り」「今週の目標」「今日の10分」の4つで、勉強を今の中に引き寄せます。最初の再開は小さくてかまいません。
残り時間を「日」と「週」で数え直す
「あと半年」ではなく、カレンダーで試験日までの日数と週の数を数え、テキストの表紙や手帳に書きます。半年なら約180日、26週です。時間を細かい単位で示すと、準備を始めようと考える時期が早まった研究[4]を、勉強に当てはめた手順です。
所要 3分
今月の中に、小さな締め切りを1つ置く
「今月末までに過去問を1回分解いて、点数を記録する」「今月中に第1章を終える」のように、今の月の中で終わる締め切りを1つ決めます。締め切りが今と同じ区切りにあると取りかかりやすかった研究[3]にもとづきます。月末まで1週間もないときは、「今週中」にします。
所要 5分
「全部」を週ごとの近い目標に分ける
テキストのページ数や問題数を、残りの週の数で割り、「今週はこの10ページ」と決めます。予備の週を2〜3週残しておくと、崩れたときに戻しやすくなります。遠い目標だけの組より、近い目標を決めた組の方が早く進んだ実験[5]があります。
所要 10分
今日、嫌さの小さい作業を10分だけやる
いきなり難しい章から始めず、目次を眺めて気になる所を読む、例題を1問だけ解く、など取りかかりやすい作業を選びます。課題の嫌さは、先延ばしの強い予測因子の1つでした[1]。10分たったらやめてもかまいません。
所要 10分
時間のある今のうちに、理解する勉強を先にやる
試験が近づくと、覚えるだけの浅い勉強に偏りやすいことがわかっています[2]。遠い今のうちは、仕組みを人に説明できるか確かめる、問題を解いて間違えた理由を書く、など時間のかかる勉強を進めます。直前期は、その確認と暗記の仕上げに使います。
所要 1回20〜30分
月が変わるたびに、次の締め切りを置き直す
月末に、手順2の締め切りが守れたかを確かめ、翌月の締め切りを1つ決めます。守れなかったら、量を減らして置き直すだけで大丈夫です。新しい月の始まりは、仕切り直しの合図にできます。
所要 月1回10分
04 続けるためのコツまた「まだ先」と思って止まりそうなときは?
残りの日数を目に入る所に置き、毎週「今週の目標」だけを見ます。遠い試験日を毎日思い出すより、近い区切りを続けて置く方が動きやすくなります。
- 日数を毎週書き換える。「あと152日」のように、週に1回だけ日数を書き直すと、減っていく時間が見えます。
- 締め切りを人に伝えるかは、好みで決める。伝えると守りやすい人もいれば、負担に感じる人もいます。研究の結果は目標を人に話す研究にまとめました。
- 崩れた週は、量を減らして続ける。計画が崩れたときの組み直し方は勉強の計画が崩れたときの立て直しで扱っています。
- 本当に時間が足りなくなったら、優先順位を決める。試験直前で範囲が終わらないときは試験まで時間が足りないときを参考にしてください。
05よくある質問
試験まで半年以上あるのに、今から始めないとだめ?
だめではありませんが、遠いうちに少しでも始めておく方が有利です。ドイツの大学生を試験前の8週間追った研究では、試験が近づくほど勉強時間は増えた一方、覚えるだけの浅い勉強の方が早く増えていました。理解する勉強は、時間に余裕がある時期に進めておくと助けになります。
残りの日数を数えるだけで、本当に変わるの?
行動まで変わるかは、まだ確かめられていません。退職を「30年後」ではなく「10,950日後」と示すと、貯金を始めようと考える時期が4倍早かった実験はありますが、測ったのは予定で、実際の行動ではありません。手間はかからないので、試す価値はあります。
自分で決めた締め切りも、結局守れないのでは?
守れないこともあります。だから、締め切りは1つの大きなものより、今月中・今週中の小さなものを続けて置きます。守れなかったら罰を決めるより、次の区切りで置き直す方が続けやすいでしょう。自分で締め切りを決める研究は自分で締め切りを決めると勉強は続く?で扱っています。
直前にまとめて詰め込めば、間に合うのでは?
試験の点だけなら間に合うこともありますが、覚えた内容は早く抜けやすいことが知られています。詰め込みの研究は一夜漬けは本当に効かないのかにまとめました。遠い試験ほど、間をあけてくり返せる時間を使える方が得です。
出典
- Steel, P. (2007). The nature of procrastination: A meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin, 133(1), 65–94. https://doi.org/10.1037/0033-2909.133.1.65
- Capelle, J. D., Senker, K., Fries, S., & Grund, A. (2023). Deadlines make you productive, but what do they do to your motivation? Trajectories in quantity and quality of motivation and study activities among university students as exams approach. Frontiers in Psychology, 14, 1224533. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1224533
- Tu, Y., & Soman, D. (2014). The categorization of time and its impact on task initiation. Journal of Consumer Research, 41(3), 810–822. https://doi.org/10.1086/677840
- Lewis, N. A., Jr., & Oyserman, D. (2015). When does the future begin? Time metrics matter, connecting present and future selves. Psychological Science, 26(6), 816–825. https://doi.org/10.1177/0956797615572231
- Bandura, A., & Schunk, D. H. (1981). Cultivating competence, self-efficacy, and intrinsic interest through proximal self-motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 41(3), 586–598. https://doi.org/10.1037/0022-3514.41.3.586


