人に教えるつもりで学ぶと覚えやすいのか。「教える効果(プロテジェ効果)」の研究

「人に教えると覚える」とよく言われます。でも独学だと、教える相手がいません。研究では、教えるつもりで学ぶだけでも理解が少し深まり、実際に説明するとさらに効果が大きくなることがわかっています。カギは、何も見ずに説明することです。
3行でわかる
- 28研究のまとめでは、教える準備をするだけでも、ふつうに勉強するより成績が上がった(効果は小〜中程度)。
- 実際に説明まですると効果はさらに大きい。聞き手がいない「ひとり講義」でも1週間後の成績が上がった。
- ノートを見ながら説明すると効果が消えた。教える効果の中身は「思い出す練習」の可能性が高い。
01「教えると覚える」は本当なのか
教える効果は、研究で繰り返し確かめられています。ただし「教えるつもりになるだけ」と「実際に説明する」では、効き方が違います。
人に教えることで、教える側の理解が深まる現象は「プロテジェ効果」と呼ばれることがあります。研究では「教えることによる学習」として調べられています。
研究は2つの段階を分けて見ています。1つは、あとで教えると思って勉強する段階。もう1つは、実際に誰かに向けて説明する段階です。
読み返すだけでわかった気になる仕組みは、「わかったつもり」の記事で紹介しています。教えることは、そのわかったつもりを崩すきっかけになります。
02科学的にわかっていること
教える準備だけでも効果はありますが、長く覚えておくには、実際に何も見ずに説明する方が確実です。
Nestojkoら(2014)[1]
文章を読むとき「あとで他の学生に教えてもらう」と伝えられた人は、「テストを受ける」と伝えられた人より、内容をより多く、より整理された形で思い出せました。特に要点を問う問題で差が出ました。
対象: 大学生(2つの実験) / 限界: 実際には誰も教えておらず、全員がテストを受けた。読んだ直後に近いテストで、長期の記憶は見ていない。
Kobayashi(2019)[2]
28研究をまとめた分析です。ふつうに勉強した場合と比べた効果の大きさは、教える準備だけでg=0.35、準備のあと実際に教えるとg=0.56でした。
暗記だけでなく深い理解にも効き、時間をおいたテストでも効果が見られました。質問に答えるなど、やりとりのある教え方の方が効果は大きくなりました。
対象: 28研究(場面・教材はさまざま) / 限界: 研究ごとに教材やテストが違い、どの独学にも同じ大きさで効くとは限らない。
Fiorella・Mayer(2013)[3]
ドップラー効果の教材を学んだあと、架空の生徒に向けてビデオで講義をした人と、しなかった人を比べました。すぐ後のテストでは、教える準備をした人が上回りました。
ところが1週間後のテストでは、準備だけの効果は消え、実際に講義をした人が上回りました。
対象: 大学生(4つの実験) / 限界: 物理の短い教材1つでの実験室の研究。
Kohら(2018)[4]
学習者を4グループに分けました。何も見ずに教える、ノートを見ながら教える、教えずに思い出すだけ、別の作業(計算問題)をする、の4つです。
1週間後のテストで成績が良かったのは、何も見ずに教えたグループと、思い出すだけのグループでした。ノートを見ながら教えたグループと、別の作業をしたグループは、この2つより成績が低くなりました。
対象: 学習者(教材はFiorellaらと同じドップラー効果) / 限界: 1つの教材の結果。著者らも「思い出す練習が原因の可能性がある」という表現にとどめている。
03今日からできる小さな一歩
読む前に「誰に教えるか」を決め、読み終えたら本を閉じて、声に出して説明します。相手は想像上の人で大丈夫です。
教える相手を1人決める
「この分野を知らない同僚」など、具体的な相手を想像します。読みながら「要点はどれか」を意識できます。
所要 1分
本を閉じて3分だけ説明する
ノートも見ずに、その相手に向けて声に出して説明します。スマホで録音すると、ひとり講義になります。
所要 3分
言えなかったところに印をつける
本を開いて照らし合わせ、説明で詰まった・抜けた箇所に印をつけます。次の復習はそこから始めます。
所要 5分
04続けるためのコツ
うまく説明できなくて当然です。詰まった箇所こそ、まだ覚えていない場所を教えてくれる目印です。
- 上手に話すことを目標にしない。目的は、何も見ずに思い出すこと。
- 人前で教えるのが負担なら、録音やひとり言で十分。不安が強いと効果が出にくいという研究もある。
- 説明の練習は1回で終わらせず、間をあけてもう一度やる。思い出す練習そのものの効果はテスト効果の記事で紹介しています。
- AIに説明してもらうだけでは、自分で思い出す練習になりません。AIの使い方はこちらの記事で紹介しています。
05よくある質問
プロテジェ効果とは何ですか?
人に教えることで、教える側の理解や記憶が深まる現象を指す呼び名です。研究では「教えることによる学習(learning by teaching)」と呼ばれ、教える準備をする段階と、実際に説明する段階に分けて調べられています。
聞いてくれる相手がいなくても効果はありますか?
あります。実在しない相手に向けてビデオで講義をする実験でも、1週間後のテストの成績が上がりました。ただし28研究のまとめでは、質問に答えるなどやりとりのある教え方の方が、効果が大きい傾向でした。
ノートを見ながら説明してもいいの?
効果が薄れる可能性があります。ある実験では、ノートを見ながら教えたグループは、1週間後のテストで、何も見ずに教えたグループや思い出すだけのグループより成績が低くなりました。
勉強法の早見表で「人に教えるつもりで学ぶ」の判定を見る
ほかの勉強法も22種類、研究で「効く・条件しだい・当てにならない」に分けています。
出典
- Nestojko, J. F., Bui, D. C., Kornell, N., & Bjork, E. L. (2014). Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages. Memory & Cognition, 42(7), 1038-1048. https://doi.org/10.3758/s13421-014-0416-z
- Kobayashi, K. (2019). Learning by preparing-to-teach and teaching: A meta-analysis. Japanese Psychological Research, 61(3), 192-203. https://doi.org/10.1111/jpr.12221
- Fiorella, L., & Mayer, R. E. (2013). The relative benefits of learning by teaching and teaching expectancy. Contemporary Educational Psychology, 38(4), 281-288. https://doi.org/10.1016/j.cedpsych.2013.06.001
- Koh, A. W. L., Lee, S. C., & Lim, S. W. H. (2018). The learning benefits of teaching: A retrieval practice hypothesis. Applied Cognitive Psychology, 32(3), 401-410. https://doi.org/10.1002/acp.3410
- Fiorella, L. (2023). Learning by teaching. In C. E. Overson et al. (Eds.), In Their Own Words: What Scholars and Teachers Want You to Know About Why and How to Apply the Science of Learning in Your Academic Setting. Division 2, American Psychological Association.(書籍の章。査読論文ではない) https://www.unh.edu/teaching-learning-resource-hub/sites/default/files/media/2023-06/itow-learning-by-teaching-fiorella.pdf


