計算問題の「間違った解答例」で学ぶには?正しい例題のあとに、誤りを探して理由を書き、直して比べる6つの手順(誤答例の研究と、効果がそろわない点)

簿記や統計、数学の計算問題。例題の解説を読むと「なるほど」と思えるのに、自分で解くと同じ所でつまずく。そんなとき、正しい解き方だけでなく、わざと間違えた解答を見て「どこが違うのか」を探す学び方が研究されています。効いた研究もあれば、正しい例題の方がよかった研究もあります。何がその差を分けたのかを確かめ、独学で使う手順にまとめました。
3行でわかる
- 誤りを含む解答例(誤答例)を見て、誤りを探し、理由を説明し、直す学び方の研究は、結果がそろっていない。子どもの算数・数学の55本の研究をまとめたメタ分析では、正しい例題の方が伸びが大きかったと紹介されている。
- 成績が上がった研究では、誤りの理由を説明する手助けや、理由つきの答え合わせがあった。医学生91人の研究では、誤答例の説明のしかたを教わった群の方が、中間と期末の試験の成績が高かった。
- 独学では「正しい例題で解き方をつかんでから」「誤りを探し、理由を1文で書き、直して、正しい解答と比べる」。研究は学生が中心で、社会人の資格試験で確かめた研究はまだない。
01 誤答例とは「間違った解答例」で学ぶとは?
途中のどこかに誤りがある解答を見て、誤りを見つけ、なぜ間違いかを説明し、正しく直す学び方です。正しい例題では目に入りにくい「やってはいけない所」に注意が向くと考えられています。
ふつうの例題(解き方を最後まで示した問題)は、正しい手順を1つずつ見せます。これに対して誤答例は、たとえば「割引率をかける順番を間違えた解答」のように、途中に誤りのある解答を見せます。学ぶ人はたいてい、誤りを見つけて直すよう求められます[4]。
研究者が期待しているのは、正しい例だけでは気づきにくい「これが欠けると間違いになる」という条件が、誤りによって浮かび上がることです[1]。一方で、誤答例を先に見ると、正しい例を先に見たときより頭の負担が大きくなったという実験もあります[3]。どちらが得になるかは、使い方しだいです。
02 科学的にわかっていること誤答例は、計算問題の勉強に効く?
条件しだいです。誤りの理由を説明する手助けや、理由つきの答え合わせがあった研究では成績が上がりました。一方で、正しい例題の方が伸びたというメタ分析もあり、研究どうしの結果はそろっていません。
CorralとCarpenter(2020)[1]
架空の研究計画を読んで「正しい実験かどうか」を判断する課題で、正しい例だけ、誤った例だけ、両方を見る、の3通りをくらべた。何らかの答え合わせ(フィードバック)があれば、両方を見た人が新しい例の見分けでいちばんよかった。「何が足りないか・どう直すか」を答える問題では、誤った例か両方を見た人の成績がよく、特に理由を説明する答え合わせがあったときに目立った。
対象: 2つの実験の参加者 / 限界: 研究計画の見分け方という課題で、計算問題ではない。
Wangら(2022)[2]
中国の医学部3年生91人が、医療統計の授業で10週間、週1回誤答例に取り組んだ。くじで分けた47人は、先生が誤答例の考え方(自分に問いかける、考えを声に出す)をやって見せる説明の訓練を受け、44人は受けなかった。訓練を受けた群は中間試験(偏η²=0.23)と期末試験(偏η²=0.30)の成績が高かった。
対象: 中国の医学部3年生91人 / 限界: 両方の群が誤答例を使っており、正しい例題とくらべた研究ではない。著者ら自身も、人数が少ないことを限界に挙げている。
Wesenbergら(2022)[3]
大学生83人が、なじみのない計算法をスライドで学んだ。正しい例と誤答例のどちらを先に見るかで、学習の成績に差はなかった。ただ、正しい例を先に見た人は頭の負担が小さく、負担が小さいほど成績がよいという間接的なつながりが見られた。誤答例を先に見た人は、自分の出来の見積もりがより正確だった。
対象: 大学生83人 / 限界: 短いスライド教材での1回の学習で、長く残るかは調べていない。
NarcissとAlemdag(2025)[4]
誤りや失敗から学ぶ研究の特集号11本を、これまでの研究とあわせて整理した論文。誤答例は、正しい例題や問題を解くことにくらべて学習への効果がそろわない(相反する結果がある)と述べている。自分で犯した誤りと、他人の誤りを見る場合とでは、学び方が違う可能性も挙げている。
対象: 特集号の研究と先行研究 / 限界: 研究を整理した論文で、新しいデータはない。
Stoneら(2026)が紹介したメタ分析[5]
学齢期の子どもの算数・数学で例題を使った55本の研究をまとめたメタ分析(Barbieriら、2023)では、正しい例題が、誤答例や正誤を混ぜた例よりも大きな成績の伸びにつながったと紹介されている。Stoneらは、正しい例題の方が、まだ基礎を学んでいる段階の学習者には確かな効果をもたらす可能性があると述べている。
対象: 学齢期の子どもの研究55本 / 限界: 子どもが中心で、大人の独学にそのまま当てはまるとは限らない。メタ分析の本文はこの記事では直接確かめられず、紹介論文による。
誤答例の研究は、学生や子どもを対象にしたものがほとんどで、社会人が資格試験の計算問題で使った研究は見つかりませんでした。また、正しい例題の方がよいという結果と、説明つきの誤答例で成績が上がったという結果の両方があります。次の手順は、「正しい例題が先」「理由の説明と答え合わせを必ずつける」という、研究で共通して見えた条件を独学に当てはめたものです。
03 今日からできる小さな一歩独学で誤答例を使うには、どうする?
正しい例題で解き方をつかんだあとに使います。誤りを1か所探し、理由を1文で書き、正しく直して、正しい解答と理由で答え合わせをします。数日後、似た新しい問題を何も見ずに解いて確かめます。
初めての単元は、正しい例題で解き方をつかむ
誤答例を先に見ると、正しい例を先に見たときより頭の負担が大きくなりました[3]。基礎を学んでいる段階では正しい例題の方が伸びが大きかったと紹介されています[5]。例題の使い方は例題学習のやり方で紹介しています。
所要 単元ごとに例題2〜3題
誤答例を1〜2題用意する
参考書の「よくある誤り」「注意」の解説、講義で示された誤答のほか、自分が前に間違えた答案も使えます。自分の答案は1週間ほどあけて、他人の答案のつもりで見ます。ただし、自分の誤りと他人の誤りで学び方が同じかは、まだはっきりしていません[4]。
所要 5分
「誤りが1か所ある」と決めて、どの行かを探す
答えの数字だけでなく、1行ずつ「この式は何をしているか」を確かめながら探します。誤答例の研究でも、学ぶ人はふつう誤りを見つけて直すよう求められます[4]。
所要 1題3〜5分
なぜ間違いかを1文で書く
「税抜きの金額に割引率をかけるべき所で、税込みにかけている」のように、どのルールに反しているかを書きます。誤答例の説明のしかたを教わった医学生の方が、試験の成績が高かった研究があります[2]。書けないときは、手順5の答え合わせで理由を確かめます。
所要 1題1分
正しく直し、正しい解答と理由で答え合わせをする
自分で直した解答を、正しい解答と解説と並べて比べます。誤った例と正しい例の両方を見て、答え合わせがあったときに成績がよく、理由まで示す答え合わせで特に目立った実験があります[1]。答え合わせなしで終わらせないことが大切です。
所要 1題3分
数日後、似た新しい問題を何も見ずに解く
誤りに気づけたことと、自分で正しく解けることは別です。2〜3日あけて、数字や条件が違う問題を解きます。誤答例を先に見ると自分の出来の見積もりが正確になった実験もあり[3]、ここで解けなければ、手順1の正しい例題に戻ります。
所要 1題5分
04 続けるためのコツ時間がかかりすぎるときは、どうする?
1回の勉強で使う誤答例は1〜2題に絞り、ふだんの問題演習に少し足す形にします。誤りが見つからず10分以上かかるときは、正しい例題に戻ります。
- 誤答例は「仕上げ」に使う。正しい例題と問題演習が中心で、誤答例は単元の最後に1〜2題足すくらいにする。
- 誤りが10分探しても見つからないときは、その単元の正しい例題をもう一度読む。負担が大きすぎると、かえって学びにくくなるおそれがあります[3]。
- 自分の誤答を集めるときは、間違えた問題の直し方で紹介した「なぜ間違えたか」の分け方が使えます。
- 先に自分で解いてから解説を読む学び方は、先に悩んでから教わる研究で紹介しています。
- 解説を読んで「わかった」と感じても、何も見ずに解けるとは限りません。わかったつもりの研究も参考になります。
05よくある質問
正しい例題だけで勉強するのと、どちらがいい?
研究の結果はそろっていません。子どもの算数・数学の55本の研究をまとめたメタ分析では、正しい例題の方が成績の伸びが大きかったと紹介されています。一方、誤りの理由を説明する手助けや、理由つきの答え合わせがあった研究では、誤答例で成績が上がった例もあります。初めての単元は正しい例題から始め、誤答例は仕上げに足すのが無難です。
誤答例は、どこで手に入れる?
問題集や参考書の「よくある誤り」「注意」の解説、講義で示される誤答のほか、自分が以前に間違えた答案も使えます。自分の誤答は、1週間ほどあけて、他人の答案のつもりで見直します。ただし、自分の誤りと他人の誤りで学び方が同じかは、研究でもまだはっきりしていません。
誤りを見ると、間違った解き方を覚えてしまわない?
答え合わせなしで誤答例だけを見るのは避けた方が安全です。研究では、誤答例のあとに正しい答えや理由を示すフィードバックがあるとき、成績がよくなりました。誤りを探したら、必ず正しく直して、正しい解答と理由で確かめます。
誤答例を使うと、わかったつもりを防げる?
防ぐ助けになる可能性があります。大学生83人の実験では、誤答例を先に見た人の方が、自分の出来の見積もりが実際の成績に近くなりました。ただし学習の成績そのものには、見る順番による差はありませんでした。
出典
- Corral, D., & Carpenter, S. K. (2020). Facilitating transfer through incorrect examples and explanatory feedback. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 73(9), 1340–1359. https://doi.org/10.1177/1747021820909454
- Wang, C., Li, J., Li, H., Xia, Y., Wang, X., Xie, Y., & Wu, J. (2022). Learning from errors? The impact of erroneous example elaboration on learning outcomes of medical statistics in Chinese medical students. BMC Medical Education, 22, 469. https://doi.org/10.1186/s12909-022-03460-1
- Wesenberg, L., Krieglstein, F., Jansen, S., Rey, G. D., Beege, M., & Schneider, S. (2022). The influence of the order and congruency of correct and erroneous worked examples on learning and (meta-)cognitive load. Frontiers in Psychology, 13, 1032003. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2022.1032003
- Narciss, S., & Alemdag, E. (2025). Learning from errors and failure in educational contexts: New insights and future directions for research and practice. British Journal of Educational Psychology, 95, 197–218. https://doi.org/10.1111/bjep.12716
- Stone, T., Fish, L. R., Chernyak, N., Guadalupe, G., & Cordes, S. (2026). The Role of Worked Examples in Supporting Early Math Learning. Journal of Intelligence, 14(9), 192. https://doi.org/10.3390/jintelligence14090192(Barbieri, C. A., Miller-Cotto, D., Clerjuste, S. N., & Chawla, K. (2023). A meta-analysis of the worked examples effect on mathematics performance. Educational Psychology Review, 35, 11. の紹介を含む)


