わからない問題で悩む時間はムダか。先に解いてから教わる「生産的失敗」の研究

問題集で手が止まる。10分考えても解けず、結局すぐ解説を読んでしまう。悩んだ時間はムダだったのでしょうか。研究の答えは「条件しだいで、ムダにならない」です。先に自力で解こうとしてから教わる学び方は、理解を問うテストで中程度の効果が報告されています。ただし、悩む時間が短すぎる場合や小学生では、効果が出ない例もありました。
3行でわかる
- 先に自力で解いてから教わる「生産的失敗」は、53本の研究のメタ分析で中程度の効果(g = 0.36)。実験研究だけに絞ると g = 0.25と小さめ。
- 差が出るのは「理解」と「応用」。決まった手順の知識は、先に教わっても同じくらい身につく。
- 悩む時間が短すぎる場合や小学5年生では、効果が出なかった。悩んだあとは、解説と自分の答えを比べる。
01 悩みの正体わからない問題で悩むのは時間のムダ?
解けずに悩む時間は、そのあとの解説を深く理解するための準備になりえます。研究では、先に自力で解こうとした人の方が、同じ解説から多くを学ぶ傾向がありました。
ふつうの勉強の順番は「教わる→練習する」です。教科書を読み、例題を見て、問題を解きます。
これを逆にするのが「生産的失敗」です。習っていない問題に先に取り組み、うまく解けない経験をしてから、正しい解き方を教わります。教育研究者のKapurらが研究を重ねてきた学び方です。
ねらいは、失敗そのものではありません。自分なりの解き方をいくつも考えると、何がわかっていないかがはっきりします。そのあとの解説が「自分の疑問への答え」として入ってくる、と考えられています。
読む前に問題を解く事前テストや、思い出す練習とも近い考え方です。
02 科学的にわかっていること先に解いてから教わると成績は上がる?
理解や応用を問うテストでは、先に解いてから教わる方が成績がよいことが多く、効果は中程度です。ただし手順の知識には差が出にくく、悩む時間が短い場合や小学生では効果が見られませんでした。
Sinha・Kapur(2021)[1][2]
先に問題を解いてから教わる学習(生産的失敗など)と、先に教わってから解く学習を比べた53本の研究のメタ分析(多くの研究をまとめる分析)。先に解く方が成績がよく、効果量は g = 0.36で中程度だった。問題をグループで考えた場合は g = 0.49、解説が学習者の考えた解き方を材料にした場合は g = 0.56と大きくなった。
対象: 先に解く形と先に教わる形を比べた53本の研究 / 限界: 教材をそろえていない研究も多く含む。実験研究だけに絞ると g = 0.25と小さめだった(数値はGonzález-Cabañesら(2023)[2]の要約による)。
Kapur(2014)[3]
数学の新しい概念を、先に教わる組と、先に自力で解いてから教わる組に分けた2つのランダム化比較試験。手順の知識はどちらも高かった。一方、先に解いた組は、概念の理解と、新しい問題への応用で上回った。自分で考え出した解き方の数が多いほど、成績もよかった。
対象: 学校の数学の授業 / 限界: 数学での結果。他人の失敗例から学ぶ組は、先に教わる組より上だったが、自分で解いた組を上回りはしなかった。
Steenhofら(2019)[4]
薬学部1年生40人を、先に解く組と、教わるだけの組にランダムに分けた。覚えた知識と、それを使う問題には差がなかった。差が出たのは、その場で新しい内容を学ばないと解けない問題で、先に解いた組が上回った。
対象: トロント大学の薬学部1年生40人 / 限界: 人数が少なく、1つの概念だけで調べた。
Chowriraら(2019)[5]
大学の生物学の大人数の授業で、2つの単元を先に解く形で教えたクラス(295人)と、ふだんの能動的な授業のクラス(279人)を比べた。後の中間試験で、該当する単元の得点が約5ポイント高かった。期末試験での差は、成績下位の学生にだけ見られた。
対象: カナダの大学の入門生物学の受講生 / 限界: クラス単位の比較(準実験)で、学生を個別にランダムに分けてはいない。
Mazziottiら(2019)[6]
ドイツの小学5年生228人で、分数の単元を先に解く形と、先に教わる形で比べた。先に解く方が理解が深まるという仮説も、グループで解くと効果が上がるという仮説も、支持されなかった。
対象: 10〜12歳、9クラス / 限界: クラス単位の準実験で、1つの単元での結果。著者らは、年齢が効果の境目になる可能性を論じている。
DeCaroら(2026)[7]
化学の授業で、シミュレーションを講義の前に試す組と後に試す組を比べた。試す時間が15分の実験(168人)では、先に試した組の方が理解の得点が低かった。時間を20分にのばした実験(357人)では逆になり、先に試した組が理解と応用で上回った。
対象: 大学1年生向けの化学の授業 / 限界: 2つの実験では、時間以外の条件(問いかけの有無)も一部違っている。
関連して、Kornellら(2009)は記憶の実験で、答えられない問いでも、先に答えようとしてから正解を見た方が覚えていたと報告しています[8]。間違えること自体が害になるわけではない、という結果です。
場面ごとに、先に解く順番の結果をまとめます。効果量 g は差の大きさの目安で、0.5前後が中程度とされます。
| どんな場面か | 先に解く順番の結果 |
|---|---|
| 理解・応用を問うテスト | 先に解く方が上(g = 0.36) |
| 決まった手順の知識 | 差が出にくい |
| その場で新しく学ぶ問題 | 先に解く方が上(薬学部1年生40人) |
| 試す時間が短い(15分) | 先に教わる方が上 |
| 小学5年生 | 効果を確認できず |
ここで紹介した研究は、ほとんどが学校や大学の授業で、先生が解説の時間を用意したものです。一人で独学する社会人が、問題集と解説だけで同じ効果を得られるかは、確かめられていません。
03 今日からできる小さな一歩独学で「先に解く」を試すには?
新しい単元に入る前に、時間を決めて1問だけ自力で考えます。思いついた解き方を書き出し、そのあと解説と比べます。比べる作業がいちばん大事です。
新しい単元の最初の1問を、解説を読む前に解いてみる
正解しなくてかまいません。知っている知識で、とりあえずの答えを出します。
所要 15〜20分
考えた解き方を、2つ以上書き出す
「こうかもしれない」という案を、途中まででも書きます。Kapur(2014)では、考え出した解き方が多い人ほど成績がよかった。
所要 5分
解説を読み、自分の案のどこが足りなかったかを1行で書く
研究では、解説が学習者の考えた解き方を材料にすると効果が大きかった。独学では、自分で比べることでそれに近づけます。自分で説明する効果も重なります。
所要 5分
04 続けるためのコツ悩みすぎて挫折しないためには?
悩む時間には上限を決めます。全部の問題でやる必要はなく、新しい考え方が出てくる単元の最初に絞ります。決まった計算の練習は、解き方を見てからで十分です。
- タイマーで時間を区切る。短すぎると効果が出なかった研究がある。一方、長く悩むほど効果が増すかは確かめられていない。
- 使うのは「理解したい単元の入り口」だけ。手順の知識には差が出にくいことがわかっている。
- 解けなかった自分を責めない。この学び方は、最初は解けないことが前提。
- すぐAIに答えを聞きたくなったら、先に自分の案を1つ書いてから聞く(AIに答えを聞くと身につかないのか)。
05よくある質問
わからない問題は何分くらい考えてから答えを見ればいいですか?
研究で決まった最適な時間はありません。自力で解く時間は、Mazziottiら(2019)で約30分、DeCaroら(2026)で15分と20分でした。DeCaroらでは、試す時間が15分のときは先に講義を受けた組の方が理解の得点が高く、20分にのばすと逆転しました。短く切り上げすぎず、時間を決めて悩むのが無難です。
先に解かせると、間違ったやり方を覚えてしまいませんか?
正しい答えをすぐ確かめるなら、心配は小さいと考えられます。Kornellら(2009)の実験では、答えられなかった問いでも、先に答えようとしてから正解を見た方が、最初から問いと答えを一緒に見るより覚えていました。間違えたまま放っておかず、解説で自分の答えと正解を比べることが前提です。
生産的失敗は計算問題の練習にも効きますか?
手順を覚える力には差が出にくいことがわかっています。Kapur(2014)の実験では、手順の知識はどちらの順番でも同じくらい高く、差が出たのは理解と応用の問題でした。決まった解き方を練習したい段階では、解き方を教わってから練習しても十分です。
子どもの勉強にも使えますか?
小学生については結果がそろっていません。Mazziottiら(2019)がドイツの小学5年生228人で試したところ、先に解く順番の効果は確認されませんでした。この記事の内容は、主に中学生以上の研究をもとにしています。
出典
- Sinha, T., & Kapur, M. (2021). When problem solving followed by instruction works: Evidence for productive failure. Review of Educational Research, 91(5), 761–798. https://doi.org/10.3102/00346543211019105
- González-Cabañes, E., Garcia, T., Chase, C., & Núñez, J. C. (2023). PROTOCOL: Problem solving before instruction (PS-I) to promote learning and motivation in child and adult students. Campbell Systematic Reviews, 19(3), e1337. https://doi.org/10.1002/cl2.1337
- Kapur, M. (2014). Productive failure in learning math. Cognitive Science, 38(5), 1008–1022. https://doi.org/10.1111/cogs.12107
- Steenhof, N., Woods, N. N., Van Gerven, P. W. M., & Mylopoulos, M. (2019). Productive failure as an instructional approach to promote future learning. Advances in Health Sciences Education, 24(4), 739–749. https://doi.org/10.1007/s10459-019-09895-4
- Chowrira, S. G., Smith, K. M., Dubois, P. J., & Roll, I. (2019). DIY productive failure: boosting performance in a large undergraduate biology course. npj Science of Learning, 4, 1. https://doi.org/10.1038/s41539-019-0040-6
- Mazziotti, C., Rummel, N., Deiglmayr, A., & Loibl, K. (2019). Probing boundary conditions of Productive Failure and analyzing the role of young students' collaboration. npj Science of Learning, 4, 2. https://doi.org/10.1038/s41539-019-0041-5
- DeCaro, M. S., McClellan, D. K., Patrick, R., Powe, A. M., Franco, D., Chastain, R. J., Fuselier, L., & Hieb, J. L. (2026). Flipping a simulation before instruction can improve students' learning, interest and perceived competence. British Journal of Educational Psychology, 96(1), 172–192. https://doi.org/10.1111/bjep.70007
- Kornell, N., Hays, M. J., & Bjork, R. A. (2009). Unsuccessful retrieval attempts enhance subsequent learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 35(4), 989–998. https://doi.org/10.1037/a0015729


