「いちばん気が重い勉強を朝いちばんに片づけると進む」は本当?取りかかる順番と先延ばしの研究(効く・効かないの判定)

「いちばん嫌な課題を、朝いちばんに片づけよう」。時間術の本でよく見るアドバイスです。苦手な単元をいつも後回しにして、計画が崩れていく。そんな人ほど試したくなる方法かもしれません。研究を調べると、判定は「条件しだい」でした。理由として語られる「朝は意志の力が満タン」は支持されていません。ただ、嫌な課題を後回しにしない工夫としては筋が通っています。
3行でわかる
- 判定:「条件しだい」。「意志の力は使うと減るので、朝のうちに使う」という説明は、23の研究室・2,141人の追試で効果がほぼゼロ(d = 0.04)だった。
- 疲れの影響はある。デンマークの小中学生のテスト約200万回では、1時間遅いと点が少し下がり、20〜30分の休憩で戻った。ただし朝に頭が働くかは人によって違い、夜型の人は朝8時の成績が低かった。
- 嫌な課題ほど先延ばしされやすいことは、多くの研究で一貫している。「朝」にこだわらず、「その日の勉強の最初、疲れる前」に気が重い課題の最初の15分を置く。
01 通説の中身「気が重い課題を朝いちばんに」の根拠は?
よく挙がる理由は3つです。朝は意志の力が満タン、朝は疲れていない、嫌なことを先に済ませると後回しにしなくて済む。この3つを別々に確かめます。
このアドバイスは「カエルを食べる(eat the frog)」とも呼ばれ、時間術の本で広まりました。研究で確かめられる形に分けると、次の3つの主張になります。
1つ目は「意志の力は使うと減る。だから減る前の朝に使う」。2つ目は「朝は頭が疲れていない」。3つ目は「嫌な課題は後回しにされやすいので、最初に済ませれば先延ばしを防げる」です。
ただし、独学で「難しい課題を先にした人」と「後にした人」の成績を直接比べた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。以下は、3つの主張それぞれの研究を見ていく形になります。
02 科学的にわかっていること朝に気が重い課題をやると、本当に進む?
「意志の力が減る」は大規模な追試で支持されませんでした。疲れの影響は小さいながらあり、休憩で戻ります。朝に頭が働くかは人によって違い、嫌な課題ほど先延ばしされることは一貫しています。
Haggerら(2016)[1]
「意志の力は使うと減り、次の課題で我慢がきかなくなる」という説(自我消耗)を、23の研究室が同じ手順で確かめた。全体の効果はd = 0.04で、95%信頼区間(-0.07〜0.15)はゼロを含み、ほぼ効果なしだった。
対象: 23の研究室・合計2,141人 / 限界: 1つの決まった実験手順で確かめたもの。ほかの手順では結果が違う可能性は残る。
Vohsら(2021)[2]
36の研究室が、2種類の手順のどちらかを使って自我消耗の説を再び確かめた。事前に決めた分析では効果は有意でなく(d = 0.06)、データは「効果なし」のほうが約4倍当てはまりがよかった。疲れを強く感じた人ほど効果が大きい傾向は、探索的な分析で見られた。
対象: 36の研究室・3,531人 / 限界: 数分の実験課題。何時間も勉強した後の状態を調べたものではない。疲れとの関係は事前に決めた分析ではない。
Sievertsenら(2016)[3]
デンマークの公立学校のテスト記録を分析すると、テストが1時間遅いごとに点が標準偏差の0.9%下がった。一方、20〜30分の休憩の後は1.7%上がった。著者らは、1時間の遅れの影響は「学校に通う日数10日分」の差に当たり、小さいが無視できない大きさだとしている。
対象: 8〜15歳の児童・生徒570,376人、2,105校、テスト2,034,964回 / 限界: 子どもの学校のテスト。著者らは「テストを朝にすべきという証拠ではない」と書いている。
Facer-Childsら(2018)[4]
朝型の人と夜型の人に、14時・20時・翌朝8時に注意の課題や判断の課題をしてもらった。朝8時には、夜型の人の成績が朝型の人より、反応の速さで8.4%、判断の課題(実行機能)で5.9%低かった。
対象: 健康な56人(朝型25人・夜型31人、平均21.8歳、8割以上が運動をしている人) / 限界: 人数が少なく、勉強の成績ではなく短い課題で測った。
Steel(2007)[5]
先延ばしに関する691の相関をまとめたメタ分析で、先延ばしを強く一貫して予測したものの1つが「課題の嫌さ」だった。嫌な課題ほど後回しにされやすい。
対象: 先延ばしの研究の691の相関 / 限界: 主に相関の研究で、課題の順番を変えると先延ばしが減るかを実験したものではない。
まとめると、「朝だから意志の力が残っている」という理由は弱く、時間帯の向き不向きは人によって違います。一方で、疲れる前のほうが少し有利で、嫌な課題は放っておくと後回しにされやすい。だから「朝」ではなく「その日の勉強の最初」に置くほうが、多くの人に当てはまります。ここで紹介した研究は、実験室の短い課題か子どものテストで、何か月も独学する社会人を調べたものではありません。
03 今日からできる小さな一歩気が重い課題は、いつ・どう始める?
その日の勉強の最初に、気が重い課題を15分だけ置きます。時間帯は自分の調子のよい時間を選び、夜型なら朝にこだわりません。前の晩に最初の1問を決めておきます。
気が重い課題を「最初の15分でできること」に切る
「苦手な章を終わらせる」ではなく「例題を1問解く」「解説を1ページ読む」にします。課題の嫌さが先延ばしの大きな理由なので、嫌さが小さくなる大きさまで切ります。
所要 3分
前の晩に、明日の最初の1問を決めて教材を開いておく
ページに付箋を貼り、机に開いたまま置きます。座ったら選ばずに始められます。「机に座ったら、付箋のページを解く」と1文で決めておくやり方は 「もし〜したら」で決める方法 にまとめています。
所要 2分
時間帯は「自分の調子のよい時間」を選ぶ
朝に頭がぼんやりする人は、夜型の可能性があります。無理に朝にせず、昼や夜の勉強の最初に置きます。自分の型の見分け方は 朝型・夜型と勉強の時間帯 を見てください。
所要 決めるだけなら1分
長く勉強した後なら、休憩を挟んでから取りかかる
仕事の後や、何時間も勉強した後に気が重い課題が残ったら、20〜30分休んでから始めます。休憩の後に点が戻った研究[3]を、独学に当てはめたやり方です。休み方は 勉強の休憩プラン表 にまとめています。
所要 20〜30分
2週間、「気が重い課題に何分使えたか」を記録する
1週目は今までどおり、2週目は最初に置いて、1日1行で分数を書きます。増えなければ、課題の切り方(手順1)を小さくし直します。
所要 1日1分
04 続けるためのコツ最初に置いても、つい簡単な問題に逃げてしまうときは?
簡単な問題から始めてもかまいません。その直後に、気が重い課題の最初の1問を置いて、後回しが続かないようにします。
- 簡単な問題を5分解いてから、気が重い課題の1問に移る順番でもよい。大事なのは、その日のうちに一度は手をつけること。
- メールや片付けなど、すぐ終わる用事を先にしてしまう人は すぐ終わる用事を先にしてしまう理由 もあわせて読む。
- 手をつけられなかった日は、責めずに翌日の最初の15分に回す。始めるきっかけの作り方は 「5分だけ始める」は効く? にまとめています。
- 「意志が弱いから」と考えすぎない。意志の力より、机と教材の準備のほうが頼りになる理由は 意志の力と勉強の環境 にあります。
05よくある質問
夜型でも、気が重い勉強は朝にやるべき?
朝にこだわる必要はありません。夜型の人は、朝8時の注意の課題や判断の課題で朝型の人より成績が低かったという研究があります[4]。大事なのは時間帯より「その日の勉強の最初、疲れる前」に置くことです。
「朝は意志の力が満タン」というのは本当?
はっきりとは支持されていません。「意志の力は使うと減る」という説を23の研究室・2,141人で確かめた追試では、効果はほぼゼロでした(d = 0.04)[1]。36の研究室・3,531人の追試でも、事前に決めた分析では効果が確認されませんでした[2]。
簡単な問題から始めて勢いをつけるのは悪い?
悪いと決める研究はありません。ただ、嫌な課題ほど先延ばしされやすいことは多くの研究で一貫しています[5]。簡単な問題から始めるなら、気が重い課題の「最初の1問」をその直後に置いて、後回しが続かないようにします。
勉強の順番そのものを比べた研究はある?
独学で「難しい課題を先にした人」と「後にした人」の成績を比べた研究は、見つけられませんでした。この記事の判定は、意志の力・疲れ・時間帯・先延ばしの研究を組み合わせたものです。
出典
- Hagger, M. S., Chatzisarantis, N. L. D., Alberts, H., et al. (2016). A multilab preregistered replication of the ego-depletion effect. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 546–573. https://doi.org/10.1177/1745691616652873
- Vohs, K. D., Schmeichel, B. J., Lohmann, S., et al. (2021). A multisite preregistered paradigmatic test of the ego-depletion effect. Psychological Science, 32(10), 1566–1581. https://doi.org/10.1177/0956797621989733
- Sievertsen, H. H., Gino, F., & Piovesan, M. (2016). Cognitive fatigue influences students' performance on standardized tests. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113(10), 2621–2624. https://doi.org/10.1073/pnas.1516947113
- Facer-Childs, E. R., Boiling, S., & Balanos, G. M. (2018). The effects of time of day and chronotype on cognitive and physical performance in healthy volunteers. Sports Medicine - Open, 4(1), 47. https://doi.org/10.1186/s40798-018-0162-z
- Steel, P. (2007). The nature of procrastination: A meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin, 133(1), 65–94. https://doi.org/10.1037/0033-2909.133.1.65


