やる気が出ないとき「未来の自分」をどう思い描く?合格後の姿から、つまずきと今日の一歩までを書く5つの手順(未来の自分の研究と、成績に差が出なかった実験)

資格に合格した自分、英語で仕事をしている自分。そんな姿を思い浮かべてやる気を出そうとしても、翌日にはまた手が止まってしまう。そう感じる人は少なくありません。研究をまとめると、「最高の未来の自分」を書くと気分や楽観は上がります。ただ、成績まで変わったと確かめた実験は少なく、うまくいった姿を楽しく空想するだけの人ほど、その後の努力が少なかった研究もあります。未来の姿は、そこまでの道すじとつまずき、今日の一歩とセットで書くのが、研究に沿った使い方です。
3行でわかる
- 「最高の未来の自分」を書く方法は、29の研究(2,909人)のまとめで、気分(d=0.51)・楽観(d=0.33)・幸福感(d=0.33)を上げていた。ただし成績や勉強量は測っていない。
- うまくいった姿を楽しく空想するだけの人ほど、試験を控えた大学生などで、その後の努力と成果が低かった。一方、「うまくいきそうだ」という見込みは高い努力と成果につながっていた。
- オランダの大学1年生321人の実験では、未来の自分と向き合う3週間の介入で未来への意識は上がったが、成績に差はなく、6か月後には効果が薄れていた。未来の姿は「道すじ・つまずき・今日の一歩」まで書いて使う。
01 悩みの正体未来の自分を想像しても、やる気が続かないのはなぜ?
未来の姿を楽しく思い描くと、気分は上がっても、そこで満足してしまうことがあります。研究では、空想の楽しさと、実際に動けるかどうかは別物でした。
「合格した自分を思い浮かべよう」というアドバイスはよく聞きます。研究でも、未来の自分を思い描く方法には、気分や楽観を上げる効果が確かめられています[1][2]。
ところが、未来についての考え方には2種類あります。1つは「うまくいきそうだ」という見込み(期待)。もう1つは、うまくいった場面を楽しく思い描く空想です。研究者のOettingenらは、この2つが逆の方向に働くことを示しました[3]。
つまり、やる気が続かないのは意志が弱いからとは限りません。未来の姿の「描き方」が、行動につながる形になっていない可能性があります。
02 科学的にわかっていること未来の自分を書くと、勉強に効くの?
気分や楽観を上げる効果は、多くの研究で確かめられています。ただ、成績が上がったと示した実験は、未来の姿を具体的な行動と結びつけた介入に限られ、成績に差が出なかった実験もあります。
Carrilloら(2019)[1]
「すべてがうまくいった将来の自分」を書いたり思い描いたりする方法(ベスト・ポッシブル・セルフ)の29の研究、2,909人をメタ分析(多くの研究を統計でまとめる方法)した。比較の組と比べて、幸福感(d=0.33)、楽観(d=0.33)、良い気分(d=0.51)が上がった。悪い気分や落ち込みへの効果は小さかった。練習の合計時間が短い研究ほど効果が大きい傾向があったが、統計的にははっきりしなかった。
対象: 20の研究が大学生、参加者の平均年齢23.6歳 / 限界: すべての質の基準を満たした研究は1つもなく、3か月より後まで追った研究は3つだけ。成績や勉強量は測っていない。
Meevissenら(2011)[2]
私生活・人間関係・仕事の3つの面で「最高の未来の自分」を思い描く練習を、1日5分、2週間続けてもらった。ふだんの1日を思い描いた組と比べて、楽観がより大きく上がった。この効果は、気分がよくなったことでは説明できなかった。
対象: オランダの大学生51人 / 限界: すべて本人の回答で測っていて、行動や成績は測っていない。この記事では論文の要旨と上のメタ分析の表で確認した。
OettingenとMayer(2002)[3]
仕事を探す卒業生、試験を控えた大学生、手術を受ける患者などを対象にした4つの研究。「うまくいきそうだ」という見込みが高い人は、その後の努力と成果が高かった。反対に、うまくいった場面を楽しく空想していた人ほど、努力と成果が低かった。努力と成果は、数週間から最長2年後に測った。
対象: 4つの研究の参加者 / 限界: 考え方を測ってから後の結果を追った研究で、空想が原因で努力が減ったとまでは言い切れない。この記事では論文の要旨で確認した。
Oysermanら(2006)[4]
「なりたい自分(学業の目標)」を、そこへ近づくための具体的なやり方と結びつけ、「難しいのは大事なことだから」と難しさの意味をとらえ直す学校での短い介入を行った。介入を受けた生徒は、学習への自発性・標準テストの点・成績が上がり、落ち込みや欠席が減った。効果は2年後の追跡でも続いていた。
対象: 米国の低所得家庭の中学2年生(介入141人・比較123人) / 限界: 学校で集団で行う介入で、一人で独学する大人に同じ効果があるかは確かめられていない。
van Gelderら(2026)[5]
スマホのアプリか仮想現実(VR)で「10年後の自分」とやりとりする介入を3週間行い、目標を立てるだけの組と比べた。未来の自分をはっきり感じる度合いは両方の介入で上がり、VRの組では毎週の目標の達成が高かった(d=0.88)。しかし、成績には差がなく(η²=0.00)、未来への意識の効果は6か月後には薄れて、組の間で差がなくなった。
対象: オランダの大学1年生321人(3組に107人ずつ) / 限界: VRの組だけ、毎週の目標の立て方を実験者が手伝っていた。介入の性質上、どの組かを伏せる「目かくし」はできなかった。
| やり方 | 研究でわかったこと | 根拠 |
|---|---|---|
| 最高の未来の自分を書く・思い描く | 気分・楽観・幸福感が上がった | メタ分析[1]、実験[2] |
| うまくいった場面を楽しく空想する | その後の努力と成果が低かった | 追跡研究[3] |
| なりたい自分を、具体的なやり方と結びつける | 中学生の成績が上がり、2年続いた | 実験[4] |
| 未来の自分とやりとりする3週間の介入 | 成績に差はなく、6か月後には効果が薄れた | 実験[5] |
ここで紹介した研究は、大学生や中学生が対象のものがほとんどです。社会人が資格や語学を独学する場面で、未来の自分を書く方法が成績を上げるかを確かめた研究は、今回は見つかりませんでした。
03 今日からできる小さな一歩未来の自分は、どう書けば勉強につながる?
まず5〜15分で「うまくいった未来の自分」を書きます。そのあと、そこまでの道すじ、起きそうなつまずき、今日の一歩を書き足します。気分が上がるだけで終わらせないことが大切です。
「勉強がうまくいった1年後の自分」を書く
ノートに、合格した後や話せるようになった後の1日を書きます。どこで何をしているか、どんな気持ちかを具体的にします。29の研究のまとめでは、短い練習の方が効果が大きい傾向がありました[1]。長く書かなくてかまいません。
所要 5〜15分
「そこまでに何をしたか」を3つ書く
成績が上がった介入は、なりたい自分を具体的なやり方と結びつけていました[4]。「毎朝20分過去問を解いた」「週1回模試の復習をした」のように、未来の自分が振り返って言いそうな行動を書きます。
所要 5分
「難しい=大事だから」と1行書いておく
成績が上がった介入では、勉強の難しさを「自分には無理」ではなく「大事なことだから難しい」と読み替える練習をしていました[4]。中学に上がる時期の中国の生徒818人(平均12歳)の調査でも、こう考える生徒ほど、その後「なりたい自分になれる」という確信が強まっていました(因果ははっきりしない)[6]。
所要 1分
今日やる一歩を1つ決めて、すぐ始める
最後に、手順2の行動から今日できるものを1つ選び、時間を書いて始めます。未来の自分と向き合う介入だけでは成績に差が出なかった実験もあるので[5]、書いたことを今日の行動に落とすところまでを1セットにします。
所要 1分+勉強時間
04 続けるためのコツ未来の自分を書く方法を、どう続ければいい?
毎日書き直すより、書いたものを気分が落ちた日に読み返し、行動の欄だけを週1回更新します。効き目は「勉強した日数」で確かめます。
- 書いたノートは、勉強道具の近くに置く。やる気が出ない日に1分読み返し、手順5の一歩だけやる。
- 週1回、手順2と3(道すじとつまずき)だけを更新する。効果は時間とともに薄れることがあった[5]ので、ときどき書き直す。
- 「気分が上がったか」ではなく「その週に何日勉強したか」で効いたかを判断する。気分の改善と成績の改善は別物だった[1][5]。
- 「自分はできる」と唱える方法とは中身が違う。唱える方法の研究は自己暗示の記事、勉強と生活のつながりを書く方法は勉強の意味を書く記事で紹介している。
未来を考えるとかえって不安が強くなる、落ち込みが2週間以上続くといったときは、無理に続けず、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などに相談してください。
05よくある質問
合格した自分を想像すると、やる気は上がりますか?
気分や楽観が上がるという研究のまとめはあります。ただ、成績や勉強量まで上がったと確かめた実験は少なく、3週間の介入で成績に差が出なかった実験もあります。うまくいった姿を楽しく思い描くだけの人ほど、その後の努力や成果が低かったという研究もあるので、道すじとつまずきまでセットで考えます。
「最高の未来の自分」は毎日書いた方がいいですか?
毎日長く書くほど効くとは言えません。29の研究のまとめでは、練習の合計時間が短い方が効果が大きい傾向(統計的にははっきりしない)がありました。まずは1回5〜15分書き、気分が落ちたときに読み返す使い方から始めます。
未来の自分を想像すると、かえって焦ってしまいます。
無理に続ける必要はありません。遠い未来の姿ではなく、今週できた小さなことを書く方法や、次にやる手順だけを決める方法もあります。つらさや不安が長く続くときは、一人で抱えず相談窓口を使ってください。
出典
- Carrillo, A., Rubio-Aparicio, M., Molinari, G., Enrique, Á., Sánchez-Meca, J., & Baños, R. M. (2019). Effects of the Best Possible Self intervention: A systematic review and meta-analysis. PLoS ONE, 14(9), e0222386. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0222386
- Meevissen, Y. M. C., Peters, M. L., & Alberts, H. J. E. M. (2011). Become more optimistic by imagining a best possible self: Effects of a two week intervention. Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry, 42(3), 371–378. https://doi.org/10.1016/j.jbtep.2011.02.012
- Oettingen, G., & Mayer, D. (2002). The motivating function of thinking about the future: Expectations versus fantasies. Journal of Personality and Social Psychology, 83(5), 1198–1212. https://doi.org/10.1037/0022-3514.83.5.1198
- Oyserman, D., Bybee, D., & Terry, K. (2006). Possible selves and academic outcomes: How and when possible selves impel action. Journal of Personality and Social Psychology, 91(1), 188–204. https://doi.org/10.1037/0022-3514.91.1.188
- van Gelder, J.-L., Tettero, T., Siezenga, A., & Mertens, E. (2026). Stimulating future-oriented thinking and goal-achievement through the future self using virtual reality and a smartphone app: Randomized controlled trial. Journal of Medical Internet Research, 28, e84420. https://doi.org/10.2196/84420
- Burbidge, A., Zhu, S., Cheung, S. H., & Oyserman, D. (2024). Believing that difficulty signals importance improves school outcomes by bolstering academic possible identities, a recursive analysis. PLoS ONE, 19(10), e0308376. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0308376


