大人になってから楽器やスポーツなど「体で覚える技能」を練習するには?同じ動きのくり返しより「混ぜて練習」する6つの手順(練習の順番の研究と、現場では差がはっきりしない点)

ギター、ピアノ、ゴルフ、水泳、タイピング。大人になってから始めた技能は、練習のその日はできたのに、次の週にはまた崩れている。「年だから体が覚えないのかな」と感じることもありますよね。体で覚える技能の研究には、練習の「量」ではなく「順番」を変えるだけで、後に残りやすくなるという結果があります。一方で、現場に近い研究では差がはっきりしないこともわかっています。両方をふまえた練習のしかたを紹介します。
3行でわかる
- 似た動きを1種類ずつまとめて練習するより、混ぜて練習する方が、1日以上あとのテストで成績がよかった。54本の研究をまとめた分析では中くらいの効果(0.63)で、60歳以上の人では大きかった(1.45)。
- ただし、この差の多くは実験室の研究から出ている。スポーツの現場に近い研究では効果が小さく(0.23)、統計的にははっきりしなかった。「神話」と呼んだ別のメタ分析もある。
- 練習のしかたは「似た動きを2〜3種類選ぶ」「形がわかったら混ぜる」「練習中のでき具合で判断しない」「次の日の1回目で確かめる」。寝ている間に上達するという説は、分析では支持されなかった。
01 悩みの正体練習でできたのに、次の週に崩れるのはなぜ?
練習中の「できた」は、その場の調子を映しているだけで、身についた量とは一致しないことがあるためです。同じ動きを続けると、その場ではうまくなりやすい一方、後に残りにくいことがあります。
研究では、練習している最中の出来を「パフォーマンス」、時間がたっても残る力を「学習」と呼んで分けます。この2つは一致しないことがあり、人は練習中の出来を、身についた量の目安だと思い込みやすいと指摘されています[5]。
同じ動きを何十回も続ける練習は、その場ではどんどんうまくなります。ところが、翌日以降にテストすると、似た動きを混ぜて練習した人の方が成績がよいことがある。この現象は「文脈干渉効果」(似た動きが互いに邪魔をする練習が、後で効くこと)と呼ばれ、1979年の運動の実験から多くの研究で調べられてきました[1]。
02 科学的にわかっていること混ぜて練習すると、本当に身につく?
実験室の研究をまとめると、混ぜた練習は後に残りやすく、大人や高齢の人で差が大きく出ました。一方、スポーツの現場に近い研究では差が小さく、はっきりしません。
Czyżら(2024)[1]
似た動きを1種類ずつまとめて練習する方法と、順番を混ぜて練習する方法をくらべた54本の研究をまとめた分析。練習から24時間以上あとのテストでは、混ぜた練習の方が成績がよく、効果量は0.63(中くらい)だった。実験室の研究では0.92と大きかったが、スポーツの現場に近い研究では0.23と小さく、統計的に差があるとはいえなかった。年齢別では、18〜59歳で0.63、60歳以上で1.45、18歳未満では0.02だった。
対象: 6〜82歳を含む研究。大人の参加者の多くは学生 / 限界: 年齢による違いは統計的な検定でははっきりしなかった。60歳以上の研究はほとんどが実験室で行われていた。
Czyżら(2024)[2]
練習した動きを、少し違う条件で使えるか(応用)を調べた34本の研究をまとめた分析。混ぜた練習の方が成績がよく、効果量は0.55だった。実験室では0.75、現場に近い研究では0.34で、現場の方は統計的に差があるとはいえなかった。大人では0.54、60歳以上では1.28、18歳未満では0.12だった。
対象: 34本の研究 / 限界: 著者ら自身が、含めた研究の多くは質が低かったと述べている。この論文によると、スポーツの現場の研究をまとめた別のチームの2023年のメタ分析は、効果が小さく統計的に差がなかったとして、この効果を「神話」と呼んだ。
Pauwelsら(2015)[3]
18〜27歳の48人と60〜80歳の48人が、両手で2つのつまみを同時に回し、画面の線をなぞる課題を、1週間のうちに3日練習した。混ぜた練習の人は、練習中の出来は低かったが、1週間後には、やさしい方の課題でまとめて練習した人より成績がよかった。難しい方の課題では、1週間後の成績に差はなかった。ただし、練習の終わりから1週間後までに落ちた幅は、どちらの課題でも混ぜた練習の方が小さかった。こうした違いは、若い人と年上の人で変わらなかった。
対象: ベルギー(ルーヴェン・カトリック大学)の実験の参加者96人 / 限界: 実験室の課題で、楽器やスポーツそのものではない。
PanとRickard(2015)[4]
指で決まった順番を打つ課題など(運動の順序の学習)で「寝ると技能が上達する」とした研究を、34本・88グループ・1,296人分まとめて分析した。眠った後に成績が大きく上がる、という見かけの結果は確認された。しかし、成績の計算のしかたや、練習の終わりの疲れ、テストの時刻などの影響を除くと、睡眠が技能を上達させる証拠はなかった。睡眠が記憶を安定させる可能性は残るが、研究の作り方によって結果がそろわなかった。
対象: 指で順番を打つ運動の学習の研究 / 限界: 睡眠が大事でないという意味ではない。楽器やスポーツの長期の練習を調べた分析ではない。
「混ぜる練習」の効果ははっきり出る研究と出ない研究があり、研究者の間でも議論が続いています。楽器やスポーツを長く練習する大人を追った研究は少ないので、次の手順は「やってみて、自分で確かめる」前提で使ってください。
03 今日からできる小さな一歩体で覚える技能は、どう混ぜて練習する?
似た動きを2〜3種類選び、それぞれの形がわかったら順番を混ぜます。練習中に崩れても気にせず、次の日の1回目で上達を確かめます。
似た動きを2〜3種類選ぶ
ギターなら3つのコードの切り替え、ゴルフなら3つの距離のパット、タイピングなら苦手な3つの単語など、同じ技能の中の「違い」を選びます。研究で混ぜていたのも、距離や順番、形が少しずつ違う、同じ種類の動きでした[1][3]。
所要 5分
まだ形がわからない動きは、まず1つずつ
どう動かすかもわからない段階では、混ぜる前に、手本を見て数回ずつ形を確かめます。難しい方の課題では、混ぜた練習の利点が1週間後の成績に出なかった実験もあるためです[3]。
所要 1種類5分ほど
「A・B・C・B・A・C」のように混ぜる
形がわかったら、同じ動きを続けて何回もやらず、1〜2回ごとに次の動きへ移ります。順番を紙に書いておくと迷いません。練習の合計回数は、まとめて練習するときと同じで大丈夫です。
所要 15〜20分
練習中に崩れても、やり方を戻さない
混ぜた練習は、練習中の出来がまとめて練習するより悪くなるのがふつうです[3]。練習中の出来は身についた量の目安になりにくいので[5]、「今日はうまくいかなかった」で判断しないようにします。
所要 0分(気持ちの準備)
次の日の「最初の1回」を記録する
ウォームアップの前に、選んだ動きを1回ずつやってみて、できた・できなかったをメモします。研究でも、効果は練習から1日以上たってからのテストでくらべていました[1]。
所要 3分
2週間で、まとめる練習とくらべる
1週目はまとめて、2週目は混ぜて練習し、次の日の1回目の記録をくらべます。現場に近い研究では差がはっきりしなかったため[1][2]、自分の技能で差が出るかを確かめてから続けます。練習していない曲や距離を1回試すと、応用がきくかもわかります。
所要 1日3分の記録×2週間
04 続けるためのコツ大人が技能の練習を続けるには、どうする?
練習中のつらさを「失敗」と見ないこと、記録で上達を確かめること、睡眠に過度な期待をしないことです。年齢を理由にあきらめる必要はありません。
- 混ぜる練習は「うまくいかない感じ」が強く出ます。練習の終わりに、まとめて数回やって気持ちよく終えてもかまいません。その日の記録には入れず、次の日の1回目で上達を見ます。
- 60歳以上の人で効果が大きく出た分析もありますが[1][2]、年齢による違いははっきりとは確かめられていません。「年だから覚えられない」と決めつけず、記録で自分の変化を見ます。年齢と学びについては大人の学び直しと年齢の研究も参考になります。
- 「寝る前に練習すれば寝ている間に上手くなる」とは、分析では言えませんでした[4]。睡眠はいつもどおりとり、練習の時刻は続けやすい時間で選びます。
- 暗記や問題演習でも、似た問題を混ぜて解く練習が研究されています。勉強に使うときは交互練習(インターリービング)の研究を見てください。
05よくある質問
楽器やスポーツの練習は、同じ動きを何回もくり返す方がいいのでは?
練習中の上達は、同じ動きをくり返す方が速いことが多いです。ただ、54本の研究をまとめた分析では、1日以上あとのテストでは似た動きを混ぜて練習した方が成績がよく、効果量は0.63でした。一方、スポーツの現場に近い研究では差が小さく、はっきりしませんでした。両方を試し、次の日の最初の1回でくらべるのが確実です。
大人や高齢になってからでも、混ぜる練習は効く?
研究をまとめた分析では、混ぜた練習の利点は18〜59歳で0.63、60歳以上で1.45と、大人で大きく出ました。18〜27歳と60〜80歳をくらべた実験でも、混ぜた練習の効果は年齢で変わりませんでした。ただし、年齢による違いは統計的にははっきりせず、60歳以上の研究はほとんどが実験室のものです。
寝る前に練習すると、寝ている間に上達する?
指で決まった順番を打つ課題などの研究を1,296人分まとめた分析では、寝た後に成績が上がって見える結果の多くは、成績の計算のしかたや練習の疲れなどで説明でき、睡眠が技能を上達させる証拠はなかったと結論づけています。睡眠が記憶を安定させる可能性は残りますが、練習の時刻を寝る前に合わせる根拠は弱いです。
どれくらいの期間、試せばいい?
研究では、1週間ほどの練習のあとに1日〜1週間たってテストしたものが多くあります。目安として、まとめる練習と混ぜる練習を1週間ずつ試し、それぞれ次の日の最初の1回を記録してくらべると、自分の技能で差が出るかがわかります。
出典
- Czyż, S. H., Wójcik, A. M., Solarská, P., & Kiper, P. (2024). High contextual interference improves retention in motor learning: systematic review and meta-analysis. Scientific Reports, 14, 15974. https://doi.org/10.1038/s41598-024-65753-3
- Czyż, S. H., Wójcik, A. M., & Solarská, P. (2024). The effect of contextual interference on transfer in motor learning - a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Psychology, 15, 1377122. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1377122
- Pauwels, L., Vancleef, K., Swinnen, S. P., & Beets, I. A. (2015). Challenge to promote change: both young and older adults benefit from contextual interference. Frontiers in Aging Neuroscience, 7, 157. https://doi.org/10.3389/fnagi.2015.00157
- Pan, S. C., & Rickard, T. C. (2015). Sleep and motor learning: Is there room for consolidation? Psychological Bulletin, 141(4), 812–834. https://doi.org/10.1037/bul0000009
- Soderstrom, N. C., & Bjork, R. A. (2015). Learning versus performance: an integrative review. Perspectives on Psychological Science, 10(2), 176–199. https://doi.org/10.1177/1745691615569000


